「長年会社のために尽くしてきたのだから、最後はまとまった退職金を受け取りたい」
「役員退職金は税金が安いと聞くけど、具体的にどれくらいお得なの?」
「退職金で1億円を目指したいけど、どうすれば実現できるのだろうか?」
会社の経営者であれば、いつかは迎える「引退」の時。その集大成として、 「役員退職金」 を受け取ることは、多くの経営者にとって大きな目標の一つではないでしょうか。
しかし、ただ漠然と「退職金が欲しい」と考えているだけでは、その恩恵を最大限に受けることはできません。特に、「退職金で1億円」という大きな目標を達成するためには、今この瞬間から、計画的に準備を進めていく必要があります。
この記事では、数多くの企業の財務戦略をサポートしてきた専門家の視点から、役員退職金がなぜこれほどまでに税制上優遇されているのかという基本的な仕組みから、目標である「1億円」を、合法的に、そして確実に受け取るための超具体的な戦略まで、シミュレーションを交えながら徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。
- 役員退職金が持つ「2大メリット」(税金の優遇と社会保険料の対象外)を深く理解できます。
- 退職金にかかる税金を劇的に安くする3つの優遇措置(退職所得控除、1/2課税、分離課税)の仕組みがわかります。
- 1億円の退職金を受け取った場合、実際に支払う税金がいくらになり、手取りがいくらになるのかを具体的に知ることができます。
- 1億円の退職金を受け取るために必要な、役員報酬と勤続年数の「黄金比率」の計算方法を学べます。
- 退職金戦略を成功させるために、今から計画的に準備しておくべきことが明確になります。
役員退職金は、長年会社を支えてきた経営者への、国が認めた最大の「ご褒美」です。その仕組みを正しく理解し、戦略的に活用することで、あなたの引退後の人生をより豊かで安心なものにすることができます。夢の1億円は、決して手の届かない目標ではありません。
なぜ役員退職金はこれほど「お得」なのか?2つの絶大なメリット
まず、なぜ役員退職金がこれほどまでに注目されるのか、その根底にある2つの大きなメリットから解説します。
メリット①:税金が劇的に安くなる「3つの優遇措置」
役員退職金は、通常の給与(役員報酬)とは全く異なる、非常に優遇された税金の計算方法が適用されます。その優遇措置は、主に以下の3つです。
- 退職所得控除:長年の功労に報いるため、勤続年数に応じた非常に大きな非課税枠が設けられています。
- 1/2課税:退職所得控除を引いた後の金額を、さらに「半分(1/2)」にしてから税額を計算できます。これが最もインパクトの大きい優遇措置です。
- 分離課税:他の所得(給与所得や不動産所得など)とは合算せず、退職金だけで独立して税額を計算します。これにより、所得が多くなると税率が上がる「累進課税」の影響を抑えることができます。
これらの優遇措置が組み合わさることで、同じ金額を給与で受け取る場合に比べて、支払う税金の額が劇的に安くなるのです。
メリット②:社会保険料が一切かからない
もう一つの非常に大きなメリットが、退職金には健康保険料や厚生年金保険料といった「社会保険料」が一切かからないという点です。
毎月の役員報酬からは、約15%もの社会保険料が天引きされ、さらに会社も同額を負担しています。つまり、合計で約30%もの金額が社会保険料として徴収されているのです。
しかし、退職金にはこの負担が全くありません。1億円を退職金として受け取れば、社会保険料は1円も引かれることなく、まるまるその金額が税金計算の対象となるのです。これは、手取り額を最大化する上で、計り知れないメリットと言えます。
【シミュレーション】退職金1億円の手取りは、一体いくらになるのか?
では、これらの優遇措置を適用した場合、実際に1億円の退職金を受け取ると、手取り額はいくらになるのでしょうか。具体的な計算プロセスを見ていきましょう。
ここでは、勤続年数25年の社長が、1億円の退職金を受け取るケースでシミュレーションします。
ステップ1:「退職所得控除」を計算する
まず、非課税枠である「退職所得控除」の額を計算します。この計算方法は、勤続年数が20年を超えるかどうかで変わります。
- 勤続20年以下の部分:40万円 × 勤続年数
- 勤続20年超の部分:70万円 × (勤続年数 − 20年)
勤続25年の場合は、
- (40万円 × 20年)+{70万円 ×(25年 − 20年)}
- = 800万円 +(70万円 × 5年)
- = 800万円 + 350万円
- = 1,150万円
となり、1,150万円もの金額が非課税となります。
※この勤続年数に応じた控除額の計算方法は、今後の税制改正で見直される可能性が議論されています。より長く勤めることの優位性がなくなる可能性もありますが、現行制度ではこのようになっています。
ステップ2:「課税退職所得金額」を計算する(1/2課税の適用)
次に、税金の計算対象となる「課税退職所得金額」を求めます。ここで、最強の優遇措置である 「1/2課税」 が登場します。
課税退職所得金額 =(退職金収入 − 退職所得控除)× 1/2
今回のケースに当てはめると、
- (1億円 − 1,150万円)× 1/2
- = 8,850万円 × 1/2
- = 4,425万円
となります。本来であれば8,850万円に対して税金がかかるところを、その半分の4,425万円をベースに税金計算ができるのです。この効果は絶大です。
ステップ3:所得税・住民税を計算する
最後に、算出した課税退職所得金額4,425万円に対して、所得税と住民税を計算します。
(計算過程は複雑なため、ここでは結果のみを記載します)
- 所得税・住民税の合計額:約1,984万円
結論:1億円の手取り額は…
- 退職金収入:1億円
- 税金(所得税・住民税):約1,984万円
- 手取り額:1億円 − 1,984万円 = 約8,016万円
いかがでしょうか。1億円の退職金を受け取っても、手取りで8,000万円以上が残るのです。
もし、同じ1億円を給与(役員報酬)で受け取った場合、所得税・住民税の最高税率(合計55%)が適用されると、税金だけで5,500万円、さらに社会保険料もかかります。手取り額は4,000万円程度になってしまうでしょう。
退職金という形で受け取ることが、いかに有利であるかがお分かりいただけるかと思います。
【本題】退職金1億円を「合法的」に受け取るための具体的な戦略
さて、ここからが本題です。税務署から「不当に高額な退職金だ」と否認されることなく、合法的に1億円の退職金を受け取るためには、どうすればよいのでしょうか。
その鍵を握るのが、役員退職金の妥当性を判断するための、税務上の一般的な計算式である 「功績倍率法」 です。
【役員退職金の適正額の計算式】
役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率
この計算式で算出した金額の範囲内であれば、その退職金は税務上、損金(経費)として認められやすい、とされています。
この計算式の3つの要素を、1億円という目標から逆算して考えていきましょう。
要素①:役員在任年数
これは、あなたがその会社の役員として何年勤めたか、という年数です。長ければ長いほど、受け取れる退職金の額は大きくなります。
今回は、 「25年」 と設定します。
要素②:功績倍率
これは、役員の役職に応じて、その功績を評価するための倍率です。明確な法律の定めはありませんが、過去の裁判例などから、一般的に以下の倍率が妥当とされています。
- 社長(代表取締役):3.0倍
- 専務・常務:2.0倍~2.5倍
- 平取締役:1.5倍~2.0倍
今回は、社長の退職金を想定するので、 「3.0倍」 とします。
※過去には、この功績倍率にさらに「功労加算」として倍率を上乗せするケースもありましたが、近年の税務調査では認められない傾向が強いです。この3.0倍という数字が、事実上の上限と考えておくのが安全です。
要素③:最終報酬月額
これが、1億円を達成するための最も重要なコントロール要素です。これは、退職する直前の、あなたの役員報酬の月額を指します。
では、逆算してみましょう。
- 目標退職金額:1億円
- 役員在任年数:25年
- 功績倍率:3.0倍
1億円 = 最終報酬月額 × 25年 × 3.0倍
↓
最終報酬月額 = 1億円 ÷(25年 × 3.0倍)
↓
最終報酬月額 = 約133万円
答えが出ました。
勤続25年の社長が1億円の退職金を受け取るためには、退職する直前の役員報酬の月額を「約133万円」に設定しておけばよいのです。
月収133万円というと高額に聞こえるかもしれませんが、25年間、会社を経営し成長させてきた社長の報酬としては、決して非現実的な数字ではありません。
1億円達成に向けた、今から始めるべき計画
この計算式が意味することは、 「退職金は、行き当たりばったりでもらえるものではない」 ということです。1億円という目標を達成するためには、退職するその日に向けて、計画的に役員報酬をコントロールしていく必要があるのです。
- 目標から逆算する:まず、「自分は何年後に、いくらの退職金が欲しいのか」というゴールを設定します。
- 必要な報酬額を把握する:功績倍率法の計算式に当てはめて、退職時に必要となる「最終報酬月額」を算出します。
- 会社を成長させる:その報酬額を、会社が無理なく支払えるだけの利益体質へと、会社を成長させていきます。
もし、退職予定の年に業績が悪化し、目標の役員報酬額を設定できない場合はどうすればよいでしょうか?その場合は、退職を数年先延ばしにするという選択肢もあります。
例えば、勤続年数を25年から30年に延ばせば、
最終報酬月額 = 1億円 ÷(30年 × 3.0倍) = 約111万円
となり、必要な役員報酬のハードルを下げることができます。
このように、在任年数と最終報酬月額のバランスを取りながら、戦略的にゴールを目指していくことが可能なのです。
退職金の原資はどう準備するか?
もちろん、退職金を支払うためには、会社にその原資となる現金が必要です。
- 生命保険(逓増定期保険など)を活用し、計画的に積み立てておく。
- 退職のタイミングで、銀行から「役員退職金支払い」を目的とした融資を受ける。
といった方法で、資金を手当てすることになります。退職金は、分割で支払うことも認められていますので、会社の資金繰りに合わせて柔軟に対応することも可能です。
まとめ:退職金1億円は、計画的な戦略の先にあるゴール
今回は、多くの経営者が夢見る「役員退職金1億円」を、合法的に、そして確実に実現するための具体的な戦略について解説しました。
- 役員退職金は、「税金の優遇」と「社会保険料がかからない」という2大メリットを持つ、最強の報酬受け取り方法です。
- 1億円の退職金を受け取っても、税負担は約20%に抑えられ、手取りで8,000万円以上を確保することが可能です。
- 1億円を達成するための鍵は、「功績倍率法」の計算式を理解し、退職時の「最終報酬月額」を計画的にコントロールすることです。
- 例えば、勤続25年であれば最終報酬月額133万円、勤続30年であれば111万円、というように、在任年数と報酬額のバランスで目標達成を目指します。
役員退職金は、長年、身を粉にして会社を成長させてきた経営者だけに許された、特別な権利です。その権利を最大限に活用するためには、 「自分はいつ、いくらの退職金を受け取りたいのか」 という明確なゴール設定と、そこから逆算した長期的な計画が不可欠です。
ぜひ、この記事のシミュレーションを参考に、ご自身の引退プランを一度具体的に描いてみてください。夢の1億円は、決して手の届かない目標ではありません。それは、あなたのこれからの経営戦略の先にある、輝かしいゴールなのです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。