【社長のための役員報酬・決定版】あなたの年収、どう決める?生活費・利益・銀行評価から導き出す、会社の未来を創る給与設定術

役員賞与・役員報酬

「社長である、自分の給料は、一体いくらにするのが正解なんだろうか?」
「会社にお金を残すべきか、それとも個人で受け取るべきか…」
「役員報酬の額が、銀行融-資の審査に影響するって本当?」

会社の経営者にとって、 「役員報酬をいくらに設定するか」 という問題は、毎年必ず向き合わなければならない、最も重要で、そして最も頭を悩ませる経営判断の一つです。

この決定は、単に「社長の年収を決める」という個人的な問題ではありません。
それは、

  • 会社の成長を支える「内部留保」
  • 社長個人の「生活設計」と「資産形成」
  • 金融機関からの「信用力」
  • そして、支払うべき「税金」と「社会保険料」

といった、会社の未来と社長の人生を左右する、あらゆる要素が複雑に絡み合った、高度な経営戦略そのものなのです。

感覚や、どんぶり勘定で決めてしまえば、会社の資金繰りを悪化させ、成長の機会を逃し、いざという時に銀行から相手にされず、そして、本来払う必要のない多額の税金を納めることになりかねません。

この記事では、そんな重大な決断を前に、経営者が絶対に知っておくべき、 役員報酬を決定するための「3つの視点」 と、そこから導き出される、あなたの会社にとっての「最適解」の見つけ方を、徹底的に解説していきます。

第1章:大原則|「会社に残す」か「個人に残す」か?~あなたの経営哲学が問われる最初の選択~

役員報酬の設定を考える上で、全ての議論の出発点となるのが、この問いです。

「会社の利益を、会社と個人の間で、どのようなバランスで分配しますか?」

この問いに、唯一絶対の正解はありません。それは、経営者であるあなたの「価値観」や「経営哲学」、そして会社の「成長ステージ」によって、答えが変わってくるからです。

「会社にお金を残す」を選択すべきケース

  • 目的: 事業の成長と、財務基盤の強化を最優先する。
  • 具体的なアクション: 役員報酬を低めに抑え、利益を「内部留保」として、会社の純資産に蓄積していく。
  • メリット:
    • 財務体質の強化: 自己資本比率が高まり、盤石な財務基盤を築ける。
    • 投資余力の確保: 新規事業や、大規模な設備投資など、大きな成長機会が訪れた際に、即座に動けるだけの資金力を確保できる。
    • 銀行からの信用力向上: 自己資本が厚い会社は、銀行からの評価が極めて高くなり、有利な条件での融資を引き出しやすくなる。

「個人にお金を残す」を選択すべきケース

  • 目的: 社長個人や、その家族の生活の安定と、将来設計を優先する。
  • 具体的なアクション: 役員報酬を高めに設定し、利益を積極的に個人へ移転させる。
  • メリット:
    • 個人の資産形成: 住宅ローン、子供の教育費、親の介護費用、そして自身の老後資金など、人生の様々な局面で必要となる資金を、確実に準備できる。
    • モチベーションの向上: 経営者自身の頑張りが、直接的な報酬として返ってくるため、事業への高いモチベーションを維持できる。
    • 将来の相続税対策: 会社の株価の高騰を抑え、将来の事業承継時における、相続税・贈与税の負担を軽減する効果も期待できる。(ただし、個人の資産が増えすぎると、今度は個人の相続税が問題になります)

あなたの会社は今、どちらを優先すべきステージにいるのか。そして、あなた自身は、どのような未来を描いているのか。
この根本的な問いに対する、自分なりの答えを持つことが、最適な役員報酬設計の、第一歩となります。

第2章:役員報酬を決定するための「3つのアプローチ」

この「会社 vs 個人」のバランスを、具体的に、そして論理的に決定していくための、3つの実践的なアプローチをご紹介します。これらを組み合わせて考えることで、あなたの会社にとっての「最適報酬額」が見えてきます。

アプローチ①:個人の「生活費」からの逆算

これは、まず 「社長個人の、最低限必要な生活水準を確保する」 という、ボトムアップのアプローチです。

  1. 月々の必要手取り額を算出する:
    家賃、食費、光熱費、保険料、教育費、ローン返済など、社長個人と家族が、安心して生活するために、毎月「手取り」でいくら必要なのかを、正確に洗い出します。
  2. 税金・社会保険料を考慮し、額面給与を逆算する:
    手取り額から、所得税、住民税、社会保険料などを逆算し、その手取り額を実現するために必要な「額面」の役員報酬額を算出します。
    (例:「手取り35万円」を確保するためには、社会保険料や税金を考慮すると、「額面50万円」程度の報酬が必要、といった計算です)

この方法で算出された金額が、あなたが受け取るべき、 役員報酬の「最低ライン」 となります。まずは、このラインを確保した上で、会社の利益状況に応じて、どこまで上乗せできるかを検討していくのが、現実的な進め方です。

アプローチ②:会社の「利益」からの逆算

次に、会社の財務を圧迫しない、持続可能な報酬額の上限を見極める、トップダウンのアプローチです。

  1. 「役員報酬控除前」の利益を予測する:
    過去3期分程度の決算書を元に、来期の売上と、役員報酬以外の経費を予測し、「もし役員報酬がゼロだったら、会社にどれくらいの利益が残るか」を算出します。
  2. 会社の成長に必要な「目標利益」を設定する:
    来期、会社として、どれくらいの利益(内部留保)を確保したいのか、という目標を設定します。これは、将来の投資計画や、不測の事態への備えとなります。
  3. 支払可能な「役員報酬の原資」を算出する:
    予測利益 - 目標利益 = 支払可能な役員報酬の総額

この計算により、会社の成長を阻害することなく、支払うことのできる、 役員報酬の「上限ライン」 が見えてきます。

アプローチ①で算出した「最低ライン」と、このアプローチ②で算出した「上限ライン」の間で、最終的な報酬額を決定していくのが、個人と会社のバランスを取るための、王道の考え方です。

アプローチ③:「銀行の目線」を意識した戦略的設定

もし、あなたの会社が、近い将来、銀行からの融-資を計画しているのであれば、もう一つ、極めて重要な視点を加える必要があります。それが、 「銀行は、あなたの会社をどう評価するか」 という視点です。

銀行が、会社の 「本当の収益力」 を評価する際に見る、重要な指標があります。
それは、決算書上の「営業利益」だけではありません。

会社の収益力 = 営業利益 + 役員報酬

銀行は、この合計額を見て、「この会社は、役員報酬を支払った上で、これだけの利益を出せる、本質的な稼ぐ力がある」と判断するのです。
役員報酬を極端に低く設定して、見かけ上の利益を大きくしても、銀行はそのカラクリをお見通しです。

また、銀行は、 「交際費」 などの経費の使い方にも、注目します。
過度な交際費は、社長の公私混同を疑わせ、経営姿勢に対する評価を下げる要因となります。

融資を成功させるためには、

  • 役員報酬を、不当に低くしすぎない。
  • 会社の利益と役員報酬の合計額が、返済能力を十分に上回っていることを示す。
  • 決算書の見栄えとして、経費の使い方にも、規律を持たせる。

といった、 「銀行に、どう見られるか」 という、戦略的な視点を持って、報酬額や経費をコントロールすることが、不可欠なのです。

第3章:会社の「利益」そのものを向上させる、3つの基本戦略

役員報酬の原資は、当然ながら、会社の「利益」です。報酬額のバランスに悩む前に、その原資である利益そのものを、どうやって増やしていくか。経営の基本に、今一度立ち返ってみましょう。

戦略①:聖域なき「経費」の見直し

利益向上の、最も手軽で、即効性のある方法が、無駄な経費の削減です。

  • 原価管理の徹底:
    仕入先との価格交渉や、より安価な代替品の検討など、売上原価の削減に、改善の余地はないか。
  • 在庫管理の徹底:
    過剰な在庫は、資金を寝かせ、保管コストを生む、経営の癌です。社長自らが、定期的に在庫チェックを行い、不良在庫の処分や、適正在庫の維持に、目を光らせましょう。
  • 固定費の削減:
    家賃、通信費、保険料など、毎月固定で出ていく費用の中に、見直せるものはないか。聖域なく、全ての経費にメスを入れます。

戦略②:多角的な「売上増加」の方策

経費削減には限界があります。会社の飛躍的な成長には、やはり売上の向上が不可欠です。

  • 価格戦略:
    安易な値下げに走っていませんか?自社の製品やサービスの価値を、正しく顧客に伝え、勇気を持って「値上げ」を検討することも、重要な戦略です。
  • 商品・サービスラインの拡充:
    既存顧客に、アップセルやクロスセルできる、新たな商品やサービスを追加できないか。
  • 新たな集客チャネルの開拓:
    SNS(Instagram, X, TikTokなど)や、YouTube、オンライン広告など、これまで手を出してこなかった、新しい集客チャネルに、テスト的に挑戦してみる。

戦略③:「ビジネスモデル」の再考

時には、今ある事業の延長線上ではなく、全く新しい視点から、ビジネスモデルそのものを見直すことも必要です。
市場のニーズは、常に変化しています。既存のモデルに固執せず、

  • 「顧客の、本当の悩みは何か?」
  • 「自社の強みを、別の形で活かせないか?」
  • 「新しい技術を使えば、何ができるか?」

といった問いを、常に自問自答し、新たな事業の種を探し続ける。その姿勢が、会社を、陳腐化の危機から救い、持続的な成長へと導きます。

第4章:「緊急事態」への備え~役員報酬の変更と、決算期変更という裏ワザ~

どんなに緻密な計画を立てても、予期せぬ事態は起こります。急激な業績悪化や、逆に、予想外の巨額な利益。そんな「緊急事態」に、経営者はどう備えるべきでしょうか。

業績悪化時の「役員報酬の引き下げ」

期首に設定した役員報酬は、原則として期中に変更できませんが、 「業績が著しく悪化し、役員報酬を支払うと、会社の資金繰りが立ち行かなくなる」 といった、やむを得ない事情がある場合に限り、 株主総会の決議を経て、報酬を「減額」 することが認められています。
銀行からの借入金の返済条件を変更(リスケジュール)する際にも、経営姿勢を示すために、役員報酬の減額は、ほぼ必須の対応となります。

急な利益発生時の「決算期変更」という裏ワザ

逆に、期末間際に、予想外の大きな利益が出てしまい、今からでは節税対策が間に合わない、というケース。
こんな時に使える、最後の裏ワザが、 「決算期の変更」 です。

例えば、3月決算の会社が、2月に大きな利益を計上してしまった場合。
株主総会の決議と、税務署への届出を行うことで、決算期を、例えば6月に変更することができます。
これにより、節税対策を検討し、実行するための時間を、3ヶ月間、新たに確保することができるのです。
ただし、これはあくまで緊急避難的な措置であり、頻繁に行うと、税務署から不審に思われる可能性もあるため、実行の際は、必ず税理士と相談してください。

第5章:節税と社会貢献のバランス~経営者の「最終的な役割」とは~

最後に、経営者としての、最も根源的な役割について、考えてみたいと思います。

「節税」は、確かに重要です。会社のキャッシュを守り、経営を安定させるための、不可欠なテクニックです。
しかし、その節税が、目的化してはいけません。

極端に低い役員報酬を設定し、会社の利益を不自然に操作する。
それは、従業員や取引先、そして金融機関からの 「信頼」 を、損なう行為かもしれません。

会社が、適正な利益を上げ、それに見合った税金や社会保険料を、きちんと社会に納めること。
それは、 社会の一員としての、企業の「責任」 であり、巡り巡って、経済全体の発展に貢献し、自社の事業環境を、より良くしていくことに繋がります。

節税という「守り」と、事業成長という「攻め」。
そして、会社としての「社会的責任」

この3つのバランスを、常に意識し、自らの哲学に基づいて、最適な舵取りを行っていくこと。
それこそが、単なる「儲ける社長」を超えた、社会から尊敬され、永続していく、 真の「経営者」 に求められる、最終的な役割なのではないでしょうか。

まとめ:役員報酬の決定は、あなたの「経営哲学」の集大成である

役員報酬の決定は、単なる数字の計算ではありません。
それは、

  • 会社の未来と、個人の人生を、どう天秤にかけるかという「価値観の選択」。
  • 事業計画と、財務状況を、どうリンクさせるかという「戦略的思考」。
  • そして、自社の利益と、社会への貢献を、どう両立させるかという「経営哲学」。

これら、 経営者としての、あなたの「すべて」 が、その一つの数字に、集約されるのです。

この、重く、そしてやりがいのある決断を、決して一人で抱え込まないでください。
あなたの会社の数字を誰よりも深く理解し、あなたのビジョンに共感し、そして、時には厳しい視点で、あなたに客観的なアドバイスを与えてくれる。
そんな、信頼できる税理士という「パートナー」と共に、あなたの会社にとっての、そして、あなた自身の人生にとっての、「最適解」を、見つけ出してください。

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。