【経営者必読】役員報酬・賞与の最適戦略:税務メリットを活かし、会社と個人の成長を両立させる方法

役員賞与・役員報酬

企業経営において、役員報酬や役員賞与の金額設定及び支払い方法は、経営者のモチベーション、会社の財務状況、そして税負担に大きな影響を与える重要な意思決定です。多くの経営者が、「いくらに設定すべきか」「経費として認められるのか」といった疑問を抱えています。

巷には様々な情報が溢れていますが、役員報酬の基本的な考え方は「経営者が得たいと思う額を得る」ことであり、そのためには相応の業績を上げることが前提となります。しかし、税法上のルールを理解し、適切に活用することで、より柔軟かつ有利な形で役員への報酬支払いを実現できる可能性があります。

本記事では、役員報酬の目安や決定時期、業績変動時の対応といった基本事項に加え、多くの経営者が見落としがちな「役員賞与を経費として処理できる方法」について、その仕組みと具体的な活用法、さらには関連する税務上の論点までを深掘りして解説いたします。正しい知識を身につけ、会社と経営者双方にとって最適な報酬戦略を構築するための一助となれば幸いです。

役員報酬の基本的な考え方と目安

役員報酬の額を決定する上で、最も根幹にあるべきは「経営者がいくら得たいか」という意思です。1,000万円を目指すのか、1億円を目指すのか、その目標設定が事業戦略や個人のモチベーションに大きく関わってきます。当然ながら、その目標額に見合うだけの収益を会社が生み出していなければ、絵に描いた餅に過ぎません。

業績と連動した報酬設定の目安

現実的な役員報酬額を検討する上では、会社の業績とのバランスが不可欠です。売上が1,000万円しかない会社で1億円の役員報酬を設定することは不可能です。そこで、一つの目安として「役員報酬を控除する前の経常利益(役員報酬額を利益に足し戻した金額)の20%程度」という考え方があります。

例えば、役員報酬支払前の経常利益が1億円見込めるのであれば、その20%である2,000万円程度を役員報酬の上限の目安として考えることができます。もし1億円の報酬を得たいのであれば、会社として5億円程度の経常利益(役員報酬支払前)を稼ぎ出す必要がある、という逆算も成り立ちます。

この「20%」という数字は絶対的なものではありませんが、会社に十分な内部留保を確保し、将来の成長のための再投資資金を捻出するという観点からも、一つの参考指標となり得ます。重要なのは、まず経営計画を策定し、当期の目標利益を明確にした上で、その範囲内で役員報酬額を決定するというプロセスです。

もちろん、会社が赤字であるからといって、役員報酬を一切受け取ってはならないということではありません。経営者の生活費も考慮する必要があります。しかし、目指すべきは、健全な利益を確保し、その中から適切な報酬を得られるような企業体質を構築することです。

役員報酬の決定時期と変更の可否

役員報酬の額は、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内に決定し、その事業年度中は毎月同額を支払う必要があります(定期同額給与)。期中に自由に金額を変更することは、税務上、損金算入が認められないリスクを生じさせます。これは、役員報酬が利益調整の手段として恣意的に利用されることを防ぐための措置です。

しかし、事業年度の途中で予期せぬ事態(例えば、新型コロナウイルス感染症のような外的要因による急激な業績悪化など)が発生し、当初設定した役員報酬の支払いが困難になるケースも考えられます。このような「経営状況の著しい悪化」といったやむを得ない事情がある場合には、役員報酬を減額することが認められています。ただし、この減額の要件は厳格であり、安易な適用はできません。また、一度減額した場合は、その事業年度中は減額後の金額で支払い続ける必要があります。業績が回復したからといって、期中に増額することは原則として認められません。

このような厳格なルールがあるため、期初の役員報酬設定は慎重に行う必要がありますが、後述する「事前確定届出給与」の制度を活用することで、より柔軟な対応が可能になります。

役員賞与を経費で落とす究極の方法:「事前確定届出給与」の活用

多くの経営者は、「役員賞与は税務上、損金(経費)として認められない」と考えているかもしれません。確かに、従業員に対する賞与とは異なり、役員賞与を自由に支払い、それを損金として処理することは、利益調整とみなされるため原則として認められていません。

しかし、**「事前確定届出給与」**という制度を利用することで、役員賞与を税務上、適法に損金算入することが可能です。この制度は、多くの経営者や、場合によっては税理士でさえ十分に活用しきれていない、非常に有効な手段となり得ます。

事前確定届出給与とは?

事前確定届出給与とは、**「誰に」「いつ」「いくら」**支払うかを事前に具体的に定め、その内容を所定の期限までに税務署に届け出ることにより、その届け出通りに支払われた給与(賞与を含む)を損金として認める制度です。

届け出の期限は、原則として以下のいずれか早い日です。

  • 株主総会等の決議によりその定めをした日から1ヶ月を経過する日
  • その事業年度開始の日から4ヶ月を経過する日(多くの会社では期首から3ヶ月以内が目安となります)

この届け出のポイントは、**「届け出た通りに支払う」**ことが絶対条件であるという点です。支払日が1日でもずれたり、支払額が1円でも異なったりすると、その全額が損金として認められなくなります。非常に厳格なルールですが、これを逆手に取ることで、実質的な利益調整や業績連動型の報酬支払いが可能になるのです。

事前確定届出給与の戦略的活用法:業績に応じた柔軟な報酬設定

事前確定届出給与の最大のメリットは、「届け出はしたが、実際には支払わない」という選択が可能である点です。

例えば、12月決算の会社が、期首(あるいは3ヶ月以内)に「12月末に役員Aに対して1,000万円の賞与を支払う」という事前確定届出給与の届け出を行ったとします。
期末が近づき、業績が好調で1,000万円の賞与を支払う余裕があれば、届け出通りに支払います。この場合、1,000万円は損金として認められます。
一方、業績が芳しくなく、1,000万円の支払いが困難であると判断した場合は、支払わないという選択をすることができます。この場合、当然ながら損金は発生しませんが、ペナルティもありません。支払わないことを決定した場合は、その旨を取締役会や株主総会で決議し、議事録を残しておくことが望ましいです。

この仕組みを利用すれば、以下のような柔軟な報酬設定が可能になります。

  • 業績目標達成時のインセンティブとして:
    毎月の役員報酬は最低限の生活費を賄える程度に抑えておき、期末に大きな利益が見込める場合にのみ、事前確定届出給与として高額な賞与を支払う。例えば、月額報酬100万円(年間1,200万円)とし、期末に業績が良ければ800万円の賞与を支払う(合計2,000万円の報酬)という届け出をしておく。業績が悪ければ賞与は支払わず、年間1,200万円の報酬に留める。
  • 複数役員への配分の調整弁として:
    社長と奥様(役員)それぞれに、例えば400万円ずつの事前確定届出給与を届け出ておく。業績が非常に良ければ両方に支払い、そこそこ良ければ社長にのみ支払い、悪ければどちらにも支払わない、といった段階的な対応が可能になります。金額を分けて届け出ることで、より細やかな調整ができます(例:社長に300万円と500万円の2本を届け出るなど)。

このように、事前確定届出給与は、期初の段階では業績が不透明な中で、期末の状況に応じて役員報酬(賞与)の総額を実質的に調整できる、非常に有効なツールとなります。これは、毎月同額を支払い続けなければならない定期同額給与にはない大きなメリットです。

事前確定届出給与の注意点と税理士との連携

事前確定届出給与は非常に有用な制度ですが、いくつかの注意点があります。

  • 厳格な期日・金額の遵守: 支払日や金額が届け出内容と少しでも異なると、全額損金不算入となります。資金繰りには十分な注意が必要です。
  • 税理士の理解と協力: この制度の戦略的活用について、顧問税理士が十分に理解していない、あるいはリスクを懸念して消極的な場合があります。制度の趣旨やメリットを丁寧に説明し、協力を得ることが重要です。その際、他の税理士の意見として伝えるよりも、国税庁のホームページ情報などを基に相談する方が、スムーズなコミュニケーションに繋がる可能性があります。

役員報酬・賞与と税収に関する一考察(余談)

税法が役員報酬や役員賞与の損金算入に厳格なルールを設けている背景には、「利益調整による不当な租税回避を防ぐ」という目的があります。つまり、企業が自由に役員への支払額を操作し、法人税の支払額を意図的に減らすことを防止しようとしているわけです。

しかし、役員報酬や役員賞与として個人に支払われた金銭は、法人税の対象からは外れるものの、個人の所得税・住民税の課税対象となります。ここで、法人税率と個人の所得税・住民税の税率を比較してみると、興味深い点が見えてきます。

  • 法人税の実効税率: 企業の規模や所得額によって異なりますが、概ね20%台前半から30%台半ば程度です。
  • 個人の所得税・住民税の合計税率: 累進課税であり、所得が増えるほど税率が上がります。高額所得者の場合、最高税率は55%(所得税45%+住民税10%)に達します。

この税率構造を考慮すると、役員報酬や役員賞与を増やし、法人所得を圧縮して個人の所得を増やした場合、必ずしも国全体の税収が減るとは限りません。むしろ、役員の所得がある一定水準(例えば、所得税・住民税の合計税率が法人税の実効税率を上回るポイント)を超えている場合には、法人税は減少するものの、所得税・住民税が増加し、結果として国全体の税収は増えるというケースも十分に考えられます。

例えば、役員報酬が既に高く、個人の限界税率が43%(所得税33%+住民税10%)に達している役員が、さらに賞与を受け取ったとします。この賞与分に対応する法人税(仮に34%)は減少しますが、個人では43%の税金が課されるため、差し引きで国全体の税収は増加する計算になります。

もちろん、役員の所得が低い段階では、法人税から所得税へのシフトによって税収が減少する可能性もあります。しかし、多くの企業経営者は、ある程度の所得水準に達しているケースが多いと考えられます。

そう考えると、役員賞与の損金算入ルールを過度に厳格化することが、必ずしも国全体の税収増に繋がっているのか、という疑問も生じます。むしろ、企業が業績に応じて役員に適切に報いることを奨励し、その結果として個人の所得が増え、消費が拡大し、さらには所得税収も増加するという好循環を目指す方が、経済全体にとって望ましいのではないでしょうか。

税務当局の個々の担当者は、自身の管轄する税目(例えば法人税)の税収を最大化することにインセンティブが働きがちですが、国全体としての最適化という視点も重要であると思われます。

結論:役員報酬・賞与は「取りたいだけ取る」ために「稼ぐ」戦略を

役員報酬や役員賞与の最適な設定方法は、税法上のルールを理解した上で、経営者自身の目標と会社の成長戦略を両輪として考える必要があります。

本日の黒字学園:「役員報酬は取りたいだけ取れ!がっつり取りたいのであれば、がっつり稼ぎましょう!」

この言葉に集約されるように、まずは経営者が「いくら得たいのか」という明確な目標を持つことが出発点です。そして、その目標を達成するために、会社としてどれだけの利益を上げる必要があるのかを逆算し、具体的な事業戦略に落とし込んでいく。このプロセスこそが、健全な企業経営の根幹です。

業績が芳しくないから報酬を諦めるのではなく、「その報酬を得るためにはどうすればよいか」を常に考え、行動し続ける姿勢が、会社を成長へと導きます。そして、その過程で「事前確定届出給与」のような制度を賢く活用することで、より柔軟で戦略的な報酬設計が可能になります。

知らないことは選択肢を狭めます。本記事で得た知識を活かし、自社にとって最適な役員報酬・賞与戦略を構築し、会社と経営者個人の両方が豊かになれる道を歩んでいただきたいと思います。成功している経営者は、例外なく行動しています。成功への第一歩は、正しい知識を身につけ、それを実践に移すことから始まるのです。