【社長必見】従業員の給与・賞与、どう決める?会社の成長と社員満足度を両立する、データに基づいた報酬設計術

役員賞与・役員報酬

「従業員の給与、どうやって決めればいいのだろう?」
「利益が出たから賞与を出したいけど、いくら出すのが適正なのか分からない…」
「頑張ってくれている社員に、もっと報いたいが、会社の財務を圧迫しないか不安だ…」

従業員の給与や賞与の決定は、経営者が直面する最も重要で、かつ最も難しい課題の一つです。給与は従業員の生活を支え、モチベーションを左右する重要な要素であると同時に、会社にとっては最大のコスト項目の一つでもあります。

経営者の感覚や、場当たり的な判断で給与を決めてしまうと、人件費が利益を圧迫して会社の成長を阻害したり、逆に不公平な処遇が従業員の不満を招き、優秀な人材の流出に繋がったりする可能性があります。

この記事では、会社の持続的な成長と、従業員満足度の向上を両立させるための、データに基づいた給与・賞与の適切な決定方法について、重要な経営指標である「労働分配率」や「一人当たり粗利益」の考え方から、具体的な評価と還元方法まで、分かりやすく徹底的に解説していきます。

なぜ「感覚」での給与決定は危険なのか?指標の重要性

多くの経営者が、日々の業務に追われる中で、従業員の給与や賞与を自身の「感覚」や「相場観」で決定してしまいがちです。しかし、この感覚的なアプローチには、いくつかの大きなリスクが潜んでいます。

  • 人件費の過大化: 会社の収益力に見合わない給与を支払ってしまい、利益を圧迫し、資金繰りを悪化させる。
  • 不公平感の醸成: 明確な基準がないため、従業員間に「なぜあの人の方が給料が高いのか」といった不公平感や不満が生じやすい。
  • モチベーションの低下: 自身の頑張りや成果が、どのように評価され給与に反映されているのかが不透明なため、従業員の働く意欲が低下する。
  • 経営計画の欠如: 人件費という最大のコスト項目に計画性がないため、会社全体の利益計画や成長戦略も描きにくい。

これらのリスクを避け、会社と従業員の双方にとってWin-Winとなる報酬体系を築くためには、客観的な「経営指標」を羅針盤として活用することが不可欠です。

重要な経営指標(1):一人当たり粗利益「最低でも年間1,000万円」の壁

まず、自社の人件費水準が適正かどうかを判断するための、最も基本的で重要な指標が「一人当たり粗利益(あらりえき)」です。

粗利益(売上総利益)とは?

粗利益とは、売上高から売上原価(商品の仕入原価や製品の製造原価など)を差し引いた、事業の根源的な儲けのことです。
粗利益 = 売上高 - 売上原価

一人当たり粗利益の計算と目安

この粗利益を、役員と従業員の合計人数で割ったものが「一人当たり粗利益」です。
一人当たり粗利益 = 粗利益 ÷ (役員数 + 従業員数)

(※パート・アルバイト従業員については、労働時間に応じて人数を調整します。例:パート3人で正社員1人分と換算するなど)

この一人当たり粗利益は、「従業員一人が、会社にどれだけの付加価値(儲けの元手)をもたらしているか」を示す指標であり、一般的に最低でも年間1,000万円(月間約80万円強) を目指すべきだとされています。

  • なぜ1,000万円が目安なのか?
    従業員一人を雇用するには、給与だけでなく、社会保険料の会社負担分、福利厚生費、事務所の家賃や光熱費の一部、その他管理部門のコストなど、給与額面以上の様々な経費がかかります。一人当たり粗利益が1,000万円あれば、これらの諸経費を賄い、会社に必要な利益を残した上で、従業員に適正な給与を支払うことが可能になる、という一つの基準点です。
  • 1,000万円を下回っている場合の問題点:
    もし、一人当たり粗利益が1,000万円を大幅に下回っている場合、それは「従業員を増やすほど、会社の利益が圧迫される」危険な状態と言えます。この状態で安易に人員を増やすと、会社の収益性はますます悪化してしまいます。まずは、既存の従業員で生産性を向上させ、一人当たり粗利益を高める努力が最優先となります。

重要な経営指標(2):労働分配率「40%~50%」の黄金比率

次に、稼いだ粗利益を、どれだけ人件費として分配しているかを示す指標が「労働分配率」です。

労働分配率の計算方法

労働分配率は、以下の計算式で求められます。
労働分配率 (%) = 人件費 ÷ 粗利益 × 100

ここで重要なのは、計算に用いる「人件費」の範囲です。
多くの経営者が「給与」だけを人件費と考えがちですが、会計上・経営上の人件費には、以下のものが含まれます。

  • 給与・賞与: 従業員および役員に支払う給与、賞与、各種手当。
  • 法定福利費: 会社が負担する社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険など)。これは給与額のおおよそ15%に相当する大きなコストです。
  • 福利厚生費: 社員旅行、慶弔見舞金、健康診断費用など、従業員の福利厚生のために支出する費用。

これらの人件費総額を、粗利益で割ることで、正しい労働分配率が算出できます。

労働分配率の適正水準

労働分配率の適正水準は、業種によって異なりますが、一般的に40%~50%の範囲内に収めるのが理想的とされています。

  • 40%~50%の場合:
    稼いだ粗利益の半分弱を人件費として従業員に還元し、残りの半分強でその他の経費(家賃、広告宣伝費など)を支払い、最終的な会社の利益を確保するという、バランスの取れた状態です。
  • 50%を超える場合(特に60%以上):
    人件費の負担が重く、会社の利益を圧迫している状態です。このままでは、事業への再投資や、不測の事態への備えとなる内部留保を十分に確保することが難しくなります。
  • 40%を下回る場合:
    人件費を低く抑えられており、会社の利益は出やすい状態ですが、一方で、従業員への還元が不十分である可能性があります。これが従業員の不満やモチベーション低下に繋がっていないか、注意が必要です。

会社の利益目標:粗利益の「10%~20%」を確保する

人件費やその他の経費を支払った後、最終的に会社に残る利益(経常利益)は、どれくらいを目指すべきなのでしょうか。これも一つの目安として、粗利益の10%~20%を確保することが望ましいとされています。

  • 経常利益が粗利益の10%を下回る場合: 利益が少なく、財務体質が脆弱になる可能性があります。
  • 経常利益が粗利益の20%を超える場合: 非常に収益性が高い状態ですが、従業員への還元(賞与など)や、将来への投資に、より多くの資金を回せる余地があるかもしれません。

指標を活用した総合的な給与・賞与の決定プロセス

これらの経営指標を組み合わせることで、より客観的で戦略的な給与・賞与の決定が可能になります。

【総合的な決定プロセスの例】

  1. 会社全体の目標設定:
    • まず、経営計画に基づき、年間の目標粗利益と、確保したい経常利益(粗利益の10%~20%)を決定します。
    • これにより、人件費として分配できるおおよその「総額のパイ」が見えてきます。(粗利益 - その他経費 - 目標経常利益 ≒ 人件費総額の原資)
  2. 月次給与の決定:
    • 毎月の給与(基本給、役職手当など)は、個々の従業員の役割、責任、経験、スキルなどに基づいて、ある程度固定的に決定します。
    • この際、月次の労働分配率が過度に高くならないようにコントロールします。例えば、労働分配率を40%程度に抑えるように給与体系を設計します。
  3. 決算時の利益確定と賞与原資の算出:
    • 決算を迎え、年間の最終的な利益が確定したら、目標経常利益(例:800万円など)を確保した上で、残りの「余剰利益」を決算賞与の原資とします。
  4. 個別の賞与額の決定(定性評価の導入):
    • 算出された賞与原資を、どのように個々の従業員に分配するかを決定します。ここでは、単に基本給に連動させるだけでなく、その期の個人の業績、貢献度、成長度合いといった「定性的な評価」を加味することが重要です。
    • 例えば、複数の役員や管理職が各従業員について評価を持ち寄り、それぞれの評価理由をプレゼンテーションし、議論を交わした上で、最終的な賞与額を決定するという方法があります。これにより、評価の客観性と納得感を高めることができます。
      • 例:Aさんの年間給与目標を900万円と設定。月々の給与支払実績が660万円だった場合、差額の240万円を決算賞与として支給する。
  5. フィードバック面談の実施:
    • 賞与額を伝える際には、なぜその評価になったのか、会社として何を期待しているのか、来期に向けてどのような成長を望むのかといった点を、本人に直接フィードバックします。これが、従業員の成長とモチベーション向上に繋がります。

このプロセスのメリット

  • 経営の安定性: 会社に必要な利益を確実に確保した上で、余剰分を賞与として還元するため、人件費が経営を圧迫するリスクを低減できます。
  • 従業員の納得感: 会社の業績と個人の頑張りが、賞与という形で明確に連動するため、従業員は評価に対する納得感を持ちやすくなります。
  • 柔軟な人件費コントロール: 業績が良い時には多く還元し、厳しい時には賞与で調整することで、経営環境の変化に柔軟に対応できます。

中小企業における評価制度の難しさと、定性評価の有効性

中小企業では、大企業のような精緻な人事評価制度を導入・運用するのは難しいのが実情です。会社の規模が小さく、事業内容や組織体制も頻繁に変化するため、一度決めた評価基準がすぐに陳腐化してしまうからです。

このような状況においては、厳格な数値目標だけで評価するよりも、役員や上司が日常の業務姿勢、チームへの貢献、新たな挑戦への意欲といった「定性的な要素」を多角的に評価し、それを賞与に反映させるアプローチの方が、実態に即しており、かつ従業員の納得感も得やすい場合があります。

重要なのは、その評価プロセスが透明であり、評価者からの具体的なフィードバックがあることです。

賞与決定時の注意点:残業代との関係

基本給を低めに設定し、賞与での還元を厚くする報酬体系の場合、残業代の扱いにも注意が必要です。もし、基本給が低いために、特定の従業員の残業代が多くなり、結果として年収が他の従業員よりも高くなってしまうといった事態が起こると、不公平感が生じます。

これを防ぐためには、賞与額を決定する際に、その年の給与支払総額(残業代も含む)を考慮に入れることが有効です。例えば、年間の目標年収をあらかじめ設定しておき、「目標年収 -(月々の給与+残業代)= 賞与額」という形で調整すれば、残業の有無によって年収総額が大きく変動することを防ぎ、公平性を保つことができます。

決算賞与の税務上のメリット

決算賞与は、経営戦略上のメリットだけでなく、税務上のメリットもあります。

  • 決算賞与の損金算入: 支給した決算賞与は、全額法人の経費(損金)として計上できるため、法人税の負担を軽減できます。
  • 特別損失としての計上: 決算賞与を、販管費ではなく「特別損失」として計上することで、銀行などが融資審査で重視する「経常利益」を高く見せることができる場合があります。これにより、銀行評価を維持しつつ、従業員への還元も実現できる可能性があります。
    (※この会計処理については、顧問税理士と相談の上、適切な判断が必要です。)

まとめ:データと対話で築く、持続可能な報酬体系

従業員の給与・賞与の決定は、経営者の感覚だけに頼るべきではありません。「一人当たり粗利益」「労働分配率」といった客観的な経営指標を羅針盤とし、会社として確保すべき利益を明確にした上で、その範囲内で従業員への最適な分配方法を考えるという、データに基づいたアプローチが不可欠です。

給与・賞与決定の成功へのステップ

  1. 自社の「一人当たり粗利益」と「労働分配率」を把握し、適正水準を目指す。
  2. 会社として確保すべき「目標経常利益」を設定する。
  3. 毎月の固定的な給与は、労働分配率を意識してコントロールする。
  4. 決算で確定した余剰利益を原資として、「決算賞与」で従業員に還元する。
  5. 賞与額の決定には、客観的なデータだけでなく、個人の頑張りや貢献度を評価する「定性的な視点」と「対話」を取り入れる。
  6. 評価結果は、必ず本人にフィードバックし、次なる成長への動機づけとする。

このような報酬体系を構築し、透明性を持って運用することで、会社は持続的な成長に必要な利益を確保できると同時に、従業員は会社の成長と自身の貢献が正当に評価され、報われるという実感を持つことができます。これこそが、会社の成長と従業員満足度を両立させる、真に「強い会社」の姿と言えるでしょう。

給与・賞与の決定に悩んだ際には、ぜひこの記事で解説した指標や考え方を参考に、自社にとって最適な報酬体系の構築に取り組んでみてください。不明な点があれば、顧問税理士や社会保険労務士といった専門家のアドバイスを求めることも忘れないようにしましょう。