【社長必見】役員退職金の落とし穴!事業承継時に注意すべき5つのポイントと金額の目安

法人設立

事業承継を考える上で、多くの経営者が直面するのが「役員退職金」の問題です。

株価対策として有効な手段である一方、その取り扱いを誤ると会社を危険に晒したり、後々後悔したりするケースも少なくありません。

本記事では、役員退職金の基本的な考え方から、支給額の目安、そして事業承継時に特に注意すべき5つの落とし穴について、詳しく解説していきます。

役員退職金とは?~事業承継における役割~

役員退職金とは、その名の通り、役員が退任する際に支給される退職金のことです。社長が引退する際に長年の功労に報いるという意味合いもありますが、事業承継の場面では、多額の退職金を費用として計上することで会社の利益を圧縮し、結果として株価を引き下げるという株価対策の手段として用いられることがよくあります。

例えば、通常1,000万円の利益が出ている会社が、役員退職金として1億円を支給した場合、その期は9,000万円の赤字となります。これにより、会社の内部留保が減少し、株価が下がるため、後継者への株式移転(贈与や相続)にかかる税負担を軽減できる可能性があるのです。

支給手続きの注意点

役員退職金の支給は、従業員の退職金とは異なり、定款の定めや株主総会の決議といった正式な手続きが必要です。これらの手続きを怠ると、税務上、損金として認められないリスクがあるため注意が必要です。

役員退職金はもらうべきか?

「会社のお金が減ってしまうなら、もらわない方が良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、結論としては、会社の財務状況に問題がなければ、もらう方がメリットが大きいと言えます。

なぜなら、役員退職金は、通常の役員報酬として受け取るよりも、税制面で非常に優遇されているからです。退職所得控除という大きな控除があり、さらに他の所得とは分離して課税されるため、手取り額が多くなる傾向にあります。

もちろん、退職金を支払うことで会社の資金繰りが悪化し、事業継続に支障が出るような場合はもらうべきではありません。しかし、これまで十分に利益を積み上げ、財務的に余裕のある会社であれば、経営者の長年の功績に対する正当な報酬として、また節税の観点からも、役員退職金を受け取ることを検討すべきでしょう。

特に、後継者に事業を承継する場合や、会社を売却(バイアウト)する場合には、退職金の有無や金額が、全体のスキームや税負担に大きく影響するため、専門家と相談しながら慎重に検討する必要があります。

役員退職金の金額の目安は?~功績倍率法とは~

「では、役員退職金はいくらぐらいもらうのが適切なのか?」これは非常に重要なポイントです。結論から言うと、会社が支払える範囲で、かつ税法上認められる範囲内であれば、金額は自由に設定できます。

ただし、税法上、不相当に高額な役員退職金は損金として認められず、結果として多額の税金を支払うことになるリスクがあります。そのため、一般的には税法上認められやすいとされる計算方法で金額を算定します。その代表的な方法が**「功績倍率法」**です。

功績倍率法の計算式: 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

  • 最終報酬月額:退職時の報酬月額とは限りません。最も高かった時期の報酬月額を基準にすることが一般的です。ただし、退職金を引き上げるために直前だけ報酬を不当に吊り上げるのは認められません。
  • 勤続年数:役員として会社に勤務した年数。
  • 功績倍率:役職によって異なり、社長の場合は概ね3.0倍前後とされることが多いです。

【例】

  • 最終報酬月額:100万円
  • 勤続年数:30年
  • 功績倍率:3.0倍
  • 役員退職金:100万円 × 30年 × 3.0倍 = 9,000万円

この功績倍率法はあくまで一つの目安であり、必ずしもこの金額が税務署に認められるとは限りません。個別の状況に応じて、顧問税理士と十分に相談し、適切な金額を決定することが重要です。

役員退職金の落とし穴:注意すべき5つのポイント

役員退職金の支給はメリットが大きい一方で、いくつかの落とし穴も存在します。これを知らずに進めてしまうと、思わぬトラブルや税務上の問題を招く可能性があります。

1. 金額が不適切である

功績倍率法などの一般的な算定方法を無視し、明らかに過大または過少な金額を設定してしまうケースです。

  • 高すぎる場合:税務署から「不相当に高額」と判断され、損金算入が否認されるリスクがあります。
  • 低すぎる場合:本来受け取れるはずの退職金が少なくなり、経営者自身が損をすることになります。
    適切な金額設定は、税務リスクを回避し、経営者の権利を守る上で非常に重要です。

2. 実質的に退職していない

役員退職金は、その名の通り「退職」するからこそ支給されるものです。しかし、社長を退任して会長になったものの、実質的な業務内容や権限が以前と変わっていない、あるいは毎日出社して経営に口出ししているような場合は、「退職したとは言えない」と税務署に判断されるリスクがあります。
この場合、支給した退職金は損金として認められず、追徴課税が発生する可能性があります。肩書を変えるだけでなく、実質的な役割や業務内容を明確に変更し、経営から一線を退くことが求められます。

3. 未払いでの支給(損金計上のみ)

株価対策として、退職金を費用計上(損金算入)したいが、実際に現金を支払うと資金繰りが悪化するため、「未払金」として処理しようと考えるケースがあります。つまり、帳簿上は費用として計上し、負債として未払退職金を計上するものの、実際には支払わない(あるいは後日支払う)という方法です。
しかし、これは税務リスクが非常に高い行為です。特に役員退職金については、実際に支払われていないものを損金として認めることは難しいとされています。株主総会で支給が決議されていても、実際に支払いが伴わなければ否認される可能性が高いでしょう。株価対策を行うのであれば、実際に資金を準備し、期末までに確実に支給する必要があります。

4. 会社の財務を圧迫してしまう

退職金を支払った結果、会社の資金繰りが極端に悪化し、事業継続に支障をきたしてしまうケースです。これは、経営者として長年会社を経営してきた成果が、結果的に会社を苦しめることになるという本末転倒な事態です。
そもそも、債務超過のような財務状況の悪い会社が、役員退職金を支払うこと自体が問題です。そのような会社は、本来退職金を支払う原資がないはずです。後継者が将来稼ぐであろう利益を当てにして退職金を受け取るようなことは、決してあってはなりません。
経営者の功績は、最終的には会社の財務状況という数字で評価されます。健全な財務基盤を築けていないのであれば、退職金を受け取る資格はないと心得るべきでしょう。

5. 自社株対策としての効果が逆効果になることも

役員退職金を支給して赤字を計上することで株価を引き下げるという対策は一般的ですが、場合によっては逆に株価が上がってしまうという稀なケースも存在します。
これは、自社株の評価方法が非常に複雑であることに起因します。特に、会社の業績が赤字になったり、配当を出していなかったりする場合、「比準要素数」という評価要素が変動し、結果として株価評価額が意図せず上昇してしまうことがあるのです。
このような事態を避けるためには、事業承継や株価評価に精通した専門家のアドバイスを受けながら、慎重に対策を進める必要があります。

まとめ:役員退職金は計画的に、専門家と共に

役員退職金は、事業承継における有効な株価対策であり、経営者の長年の功労に報いるための重要な制度です。税制面での優遇も大きく、適切に活用すれば大きなメリットを享受できます。

しかし、その一方で、金額設定の難しさ、実質的な退職の要件、資金繰りへの影響、そして複雑な株価評価との関連など、多くの注意点が存在します。これらの落とし穴を理解せずに安易に進めてしまうと、かえって会社や後継者に負担を強いることになりかねません。

役員退職金の検討・実行は、必ず事業承継や税務に詳しい専門家(税理士など)と相談しながら、計画的に行うことが不可欠です。

最終的に最も重要なのは、役員退職金を支払っても揺らがないだけの強固な財務基盤を築き上げることです。日々の経営努力によって会社に利益を残し、キャッシュを蓄積していくことが、円滑な事業承継と経営者自身の豊かなリタイアメントライフを実現するための王道と言えるでしょう。

この記事が貴社の事業の一助になれば幸いです。