「毎月がんばって売上を上げているのに、なぜか会社にお金が残らない…」
「赤字から抜け出したいけど、具体的に何をすればいいのか分からない…」
「『損益分岐点』という言葉は聞くけど、それが経営にどう役立つのかいまいちピンとこない…」
会社の経営者であれば、誰しもが安定した黒字経営を目指しているはずです。しかし、現実には多くの企業が赤字という厳しい状況に苦しんでいます。一体、なぜ会社は赤字に陥ってしまうのでしょうか。
その根本的な原因は、多くの場合 「売上不足」にあるのではなく、「会社の利益構造を正しく理解できていない」 ことにあります。
自社のビジネスが「いくら売り上げたら利益が出るのか」という、損益の“分岐点”を知らないまま、ただ闇雲に走り続けても、いつまで経ってもゴールにたどり着くことはできません。
この記事では、あなたの会社の “体質”を数字で可視化し、赤字から脱却して黒字化を達成するための最強のツール「損益分岐点」 について、その基本的な考え方から具体的な計算方法、そして経営改善への活かし方まで、専門家の視点から徹底的に、そして世界一わかりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。
- 会社の経費が「変動費」と「固定費」に分けられることを理解できます。
- 「損益分岐点売上高」が何を意味し、どうすれば簡単に計算できるのかがわかります。
- 赤字の会社が黒字化するために取るべき、具体的な2つのアクション(固定費削減と粗利率改善)を学べます。
- すでに黒字の会社が、さらに利益を伸ばすための「目標利益達成売上高」の考え方を知ることができます。
- 「利益を倍にするには、売上も倍にしなければならない」という大きな誤解を解き、効率的に利益を伸ばす方法を理解できます。
損益分岐点の分析は、難しい会計知識は必要ありません。必要なのは、自社の数字と向き合う覚悟だけです。この記事を羅針盤として、あなたの会社を安定した黒字経営へと導く、明確なロードマップを描いていきましょう。
すべてはここから!会社の経費を「変動費」と「固定費」に分解する
損益分岐点を理解するための最初のステップは、会社のすべての経費を、以下の2種類に分解することです。
- 変動費(へんどうひ)
売上の増減に比例して変動する費用のこと。ラーメン屋で言えば、売れるラーメンの杯数が増えれば増えるほど、費用も増えていく 「材料費(麺、スープ、チャーシューなど)」 が代表例です。仕入原価や外注費などもこれにあたります。 - 固定費(こていひ)
売上の増減に関係なく、毎月ほぼ一定にかかる費用のこと。ラーメン屋が1杯も売れなくても発生する 「家賃」や「正社員の人件費(給料)」 などが代表例です。水道光熱費や通信費、減価償却費なども、基本的には固定費として扱われます。
赤字経営の根本原因は、この「固定費」にあります。 売上がゼロでも発生し続けるこの固定費を、売上から得られる利益で賄いきれていない状態が「赤字」なのです。
「損益分岐点」とは?利益ゼロになる売上高を計算しよう
経費を2つに分解できたら、いよいよ「損益分岐点」の計算です。
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じ金額になり、利益がプラスマイナス「ゼロ」になる点のことを指します。そして、その時の売上高を 「損益分岐点売上高」 と呼びます。
この損益分岐点売上高を超えれば会社は黒字になり、下回れば赤字になる。まさに、会社の運命を分けるボーダーラインです。
では、具体例を使って計算してみましょう。
【例:とあるラーメン店のケース】
- 変動費率:40%(売上に対して、材料費が40%かかる)
- 粗利益率:60%(売上から変動費を引いた残り。100% – 40% = 60%)
- 固定費:月間600万円(家賃、人件費など)
このラーメン店が、利益ゼロ(損益トントン)になるためには、いくらの売上が必要でしょうか?
【ステップ1:利益ゼロに必要な「粗利益」を考える】
利益がゼロということは、「粗利益」と「固定費」が同額である状態です。
固定費は600万円なので、利益をゼロにするためには、粗利益も600万円稼ぐ必要があります。
粗利益 600万円 − 固定費 600万円 = 利益 0円
【ステップ2:必要な粗利益から、必要な「売上高」を逆算する】
このラーメン店の粗利益率は60%でした。つまり、「売上高 × 60% = 粗利益」という関係が成り立ちます。
ということは、600万円の粗利益を稼ぐために必要な売上高は…
必要な売上高 = 600万円 ÷ 60% = 1,000万円
出ました!このラーメン店の損益分岐点売上高は、月間1,000万円です。
月間の売上が1,000万円を超えれば黒字、1,000万円に満たなければ赤字、ということになります。
便利な公式を覚えよう!
この計算は、以下の便利な公式で一発で求めることができます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利益率
今回の例に当てはめると、
600万円 ÷ 60% = 1,000万円
となります。この公式は非常に重要なので、ぜひ覚えてください。
赤字会社が黒字化するための「2つの処方箋」
さて、もしあなたの会社の売上が、この損益分岐点売上高に届いていない場合、どうすればよいのでしょうか。赤字から脱却するための処方箋は、大きく分けて2つあります。
それは、 「損益分岐点売上高そのものを引き下げる」 というアプローチです。
処方箋①:固定費を削減する
最も直接的で効果的な方法が、固定費の削減です。
先ほどのラーメン店の例で、もし様々な無駄を徹底的に見直し、月間の固定費を600万円から500万円に削減できたとします。
すると、損益分岐点売上高はどうなるでしょうか?
損益分岐点売上高 = 500万円 ÷ 60% = 約833万円
いかがでしょうか。固定費をたった100万円削減しただけで、損益分岐点が1,000万円から833万円へと、約167万円も引き下がりました。
これまで売上900万円では大赤字だった会社が、固定費を削減するだけで、立派な黒字会社へと生まれ変わることができるのです。赤字に悩む経営者がまず最初に取り組むべきは、売上を上げること以上に、聖域なき固定費の削減なのです。
処方箋②:粗利益率を改善する(変動費を削減する)
固定費の削減と並行して取り組みたいのが、粗利益率の改善です。粗利益率を上げるということは、すなわち変動費率を下げることを意味します。
先ほどのラーメン店の例で、固定費を500万円に削減した上で、さらに仕入先の見直しや調理法の工夫によって、変動費率を40%から 35% に改善できたとします。
すると、粗利益率は60%から 65% にアップします。この状態で損益分岐点売上高を計算すると…
損益分岐点売上高 = 500万円 ÷ 65% = 約769万円
損益分岐点が、さらに下がりました。
固定費の削減と粗利益率の改善、この両輪を回すことで、会社はより少ない売上でも利益を出せる、筋肉質で収益性の高い体質へと変わっていくことができるのです。
黒字会社がさらに利益を伸ばすための「目標利益達成売上高」
「うちはすでに黒字だから、損益分岐点は関係ない」
そう思った経営者の方、お待ちください。損益分岐点の考え方は、黒字の会社がさらに高みを目指すための、強力な目標設定ツールにもなるのです。
それが、 「目標利益達成売上高」 という考え方です。
これは、「〇〇円の利益を出すためには、いくらの売上が必要なのか?」を計算するものです。
【例:月間400万円の経常利益を目指す場合】
(固定費600万円、粗利率60%のラーメン店のケース)
【ステップ1:必要な「粗利益」を考える】
400万円の利益を出すためには、固定費600万円を支払った上で、さらに400万円の利益が手元に残る必要があります。
つまり、必要な粗利益は、
必要な粗利益 = 固定費 600万円 + 目標利益 400万円 = 1,000万円
【ステップ2:必要な粗利益から、必要な「売上高」を逆算する】
1,000万円の粗利益を、粗利率60%で稼ぐために必要な売上高は…
必要な売上高 = 1,000万円 ÷ 60% = 約1,666万円
このラーメン店が月間400万円の利益を出すためには、約1,666万円の売上が必要だ、という具体的な目標が設定できました。
これも便利な公式で!
この計算も、以下の公式で簡単に求めることができます。
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 粗利益率
この公式を使えば、あなたの会社が次のステージに進むための、明確な売上目標を、誰でも簡単に設定することができるのです。
「利益を倍にしたければ、売上も倍に?」という大きな誤解
ここで、多くの経営者が陥りがちな、ある大きな誤解についてお話しします。
それは、 「利益を倍にしたければ、売上も倍にしなければならない」 という思い込みです。
先ほどの例で、目標利益を400万円から、その倍の800万円にしたいと考えたとします。売上も倍の約3,332万円(1,666万円×2)が必要になるのでしょうか?
答えは、NOです。
実際に計算してみましょう。
【目標利益800万円を達成するために必要な売上高】
- 必要な粗利益 = 固定費 600万円 + 目標利益 800万円 = 1,400万円
- 必要な売上高 = 1,400万円 ÷ 60% = 約2,333万円
驚くべきことに、売上を倍(約3,332万円)にしなくても、わずか2,333万円の売上で、利益を倍にすることができたのです。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。
その秘密は、 「固定費」 にあります。
売上がどれだけ増えても、家賃や人件費といった固定費は、基本的には一定です。そのため、損益分岐点を超えてからの売上増加分は、非常に高い利益率で会社の利益に貢献してくれるのです。
この「レバレッジ効果」を理解しているかどうかで、経営戦略は大きく変わってきます。無理に売上を倍増させようとしなくても、自社の利益構造を正しく理解し、適切な売上目標を設定することで、効率的に利益を伸ばしていくことが可能なのです。
損益分岐点分析を経営に活かすための注意点
最後に、この損益分岐点分析を正しく経営に活かすために、注意すべき点を2つお伝えします。
- 自社の「粗利益率」を安定させること
この分析のすべての土台となるのが「粗利益率」です。この率が毎月ブレブレでは、正確な損益分岐点を計算することはできません。自社の原価管理を徹底し、安定した粗利益率を維持する努力が必要です。 - 毎月の「固定費」を管理・把握すること
同様に、毎月どれくらいの固定費がかかっているのかを、正確に把握することも不可欠です。どんぶり勘定ではなく、毎月の試算表などで、経費の内訳をしっかりと管理する習慣をつけましょう。
これらの数字の管理ができて初めて、損益分岐点分析は、あなたの会社を導く強力な羅針盤として機能するのです。
まとめ:数字で未来を描き、赤字からの脱却を
今回は、会社の赤字の原因を解き明かし、黒字化への道を照らす「損益分岐点」という考え方について、その基本から応用までを詳しく解説しました。
- 赤字の原因は、売上から得られる「粗利益」で、「固定費」をカバーしきれていないことにあります。
- 「損益分岐点売上高(=固定費 ÷ 粗利益率)」を計算することで、自社が利益を出すために最低限必要な売上高を知ることができます。
- 赤字から脱却するには、闇雲に売上を追うのではなく、「固定費を削減する」「粗利益率を改善する」ことで、損益分岐点そのものを引き下げることが最も効果的です。
- 黒字企業は、「目標利益達成売上高」を計算することで、次の成長ステージに向けた具体的な売上目標を設定できます。
- 利益を倍にするために、売上を倍にする必要はありません。固定費が一定であることによる「レバレッジ効果」を理解し、効率的な利益拡大を目指しましょう。
経営とは、未来という暗闇の中を手探りで進んでいくようなものです。しかし、損益分岐点という強力なヘッドライトがあれば、進むべき道を明確に照らし、どこに落とし穴があるのかを予測しながら、安全かつスピーディに目的地へとたどり着くことができます。
しかし、これらの施策をすべて自力で実行するのは、特に経営に関わる数字の分析や、節税対策など専門知識が必要な部分では、難しい場合もあります。プロの力を借りるのが賢明です。そんな時に頼りになるのが税理士です。
税理士は、会社の現状を数字で正確に把握し、最適な経営戦略や節税方法をアドバイスしてくれます。固定費のどの部分に削減の余地があるのか、粗利益率を改善するための業界のベンチマークはどのくらいか、といった具体的な助言をもらうことで、あなたの黒字化への道のりは、より確実なものになるでしょう。
ぜひ一度、信頼できる税理士に相談し、自社の「損益分岐点分析」を行ってみてはいかがでしょうか。その数字と向き合うことが、あなたの会社を力強い黒字体質へと変える、記念すべき第一歩となるはずです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。