銀行員は決算書のココを見ている!融資を引き出す経営者の「数字力」養成講座

法人設立

「会社の数字のことは、税理士に任せきりで、自分はよく分かっていない…」
「銀行の担当者から決算書について質問されても、うまく答えられずに気まずい思いをした…」
「経営者として、もっと数字に強くなって、自信を持って会社を経営したい!」

会社の経営者であれば、誰もが一度は「数字」という大きな壁に直面したことがあるのではないでしょうか。日々の業務に追われ、売上を上げることには熱心でも、貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)といった決算書の数字と向き合うのは、つい後回しにしてしまいがちです。

しかし、断言します。経営者が「数字に弱い」ということは、会社の未来にとって、極めて深刻なリスクです。

なぜなら、経営とは、最終的にすべてが「数字」で評価される世界だからです。そして、あなたの会社に資金を供給してくれる銀行は、その「数字」を通じてしか、あなたの会社の実力と将来性を判断することができないのです。

この記事では、数多くの企業の財務改善を支援してきた専門家の視点から、なぜ経営者にとって「数字力」が不可欠なのかという本質から、銀行融資の審査で必ず見られる決算書の重要項目、そして数字を武器に、銀行との信頼関係を築き、会社の成長を加速させるための具体的な方法まで、徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と考え方を手に入れることができます。

  • 「経営=数字」である、という経営の根本原理を深く理解できます。
  • 銀行が決算書のどこを、どのような視点でチェックしているのか、その評価基準が明確になります。
  • 貸借対照表(BS)の3つの要注意科目(売掛金、在庫、貸付金)について、銀行に鋭く質問された際の、模範的な回答方法を学べます。
  • 損益計算書(PL)で最も重要な3つの数字(売上高、粗利益率、人件費)の変動理由を、自信を持って説明できるようになります。
  • 銀行とのコミュニケーションを円滑にし、信頼を勝ち取るための具体的なアクションプランを知ることができます。

数字は、決して難しいだけの存在ではありません。それは、あなたの会社の健康状態を教えてくれる「診断書」であり、未来への航路を照らす「羅針盤」です。この記事をきっかけに、「数字アレルギー」を克服し、自信と確信を持って経営のかじ取りができる、真の経営者へと進化していきましょう。

なぜ、経営者は「数字」に強くならなければならないのか?

まず、なぜ経営者にとって「数字に強いこと」が、これほどまでに重要なのでしょうか。その理由は、大きく分けて3つあります。

  1. 経営の結果は、すべて数字で示されるから
    どんなに素晴らしい理念を掲げ、どんなに優れた商品やサービスを提供していても、最終的に会社が存続できるかどうかは、「利益が出ているか」「お金が回っているか」という数字にかかっています。決算書は、1年間の経営活動の成果を、客観的な「数字」という形で示した、唯一無二の成績表なのです。
  2. 戦略立案の土台となるから
    「どこに問題があるのか」「どこに成長の可能性があるのか」といった、経営戦略を立てる上での重要な意思決定は、すべて数字の分析から始まります。数字を読めなければ、闇雲に努力するだけで、効果的な一手は打てません。
  3. 銀行からの「評価」が、数字で決まるから
    これが、中小企業にとって最も重要な理由かもしれません。会社の成長に不可欠な「資金調達(融資)」の可否は、銀行があなたの会社の決算書をどう評価するか、にかかっています。銀行は、あなたの情熱や人柄ではなく、 決算書という「数字のファクト」 を元に、融資のリスクを判断します。経営者が自社の数字を理解し、説明できることは、銀行からの信頼を得るための絶対条件なのです。

銀行は決算書のココを見ている!貸借対照表(BS)の3大チェックポイント

それでは、銀行員が決算書をチェックする際、具体的にどの項目に注目しているのでしょうか。まずは、会社の財産状況を示す 「貸借対照表(BS)」 から見ていきましょう。

貸借対照表は、会社の「資産」「負債」「純資産」のバランスを示したものであり、会社の 「財政状態(健康状態)」 を表す、いわばレントゲン写真のようなものです。

銀行は、この中から、特に会社の「実態」が表れやすい、以下の3つの資産科目を厳しくチェックします。

チェックポイント①:売掛金 ― その増加は「成長」の証か、「危険」の兆候か?

売掛金とは、商品を販売したものの、まだ代金が回収できていない金額のことです。売上が増加すれば、売掛金も増加するのが自然な流れです。しかし、銀行員は、売掛金が増加しているのを見ると、必ずその 「理由」 を尋ねてきます。

【銀行員からの質問例】
「前期に比べて、売掛金が〇〇円増加していますが、これはなぜですか?」

この質問に対して、あなたは的確に答えられるでしょうか。

  • 良い回答例◎
    「はい、それは新規の大口顧客であるA社との取引が始まり、売上全体が20%増加したことに伴う、健全な増加です。A社からの入金サイトは翌月末となっており、回収も滞りなく進んでいます。」
  • 悪い回答例×
    「えーっと、そうですね…売上が増えたからだと思いますが、詳しくは税理士に聞かないと…」
    「実は、取引先のB社の経営状況が悪化しており、支払いが数ヶ月遅延しているものが含まれています…」

銀行が知りたいのは、売掛金の増加が、事業の成長に伴うポジティブなものなのか、それとも回収不能な債権(不良債権)が増えているネガティブなものなのか、という点です。経営者自身が、その内訳をきちんと把握し、自信を持って説明できることが、信頼を得るための第一歩です。

チェックポイント②:在庫(商品) ― その在庫は「宝の山」か、「ゴミの山」か?

在庫は、販売するために仕入れた商品や製品のことです。これも、売上が伸びれば、ある程度在庫を増やす必要があります。しかし、銀行は在庫の増加にも鋭い視線を向けます。

【銀行員からの質問例】
「売上は前期と横ばいなのに、在庫が〇〇円も増えていますね。これはどうしてですか?」

過剰な在庫は、銀行から 「死んだお金(デッドストック)」 と見なされます。

  • 良い回答例◎
    「来たる繁忙期に備えて、売れ筋商品であるCの在庫を戦略的に積み増しているためです。過去の販売データから、需要予測は十分に立っております。」
  • 悪い回答例×
    「発注ミスで、売れない商品を大量に仕入れてしまいまして…」
    「実は、不良品や型落ち品が多く、売れる見込みのないものがほとんどです…」

在庫は、売れれば利益を生む「宝の山」ですが、売れなければ会社の資金を圧迫し続ける「ゴミの山」になりかねません。あなたの会社が、適切な在庫管理ができているかどうかを、銀行は厳しく見ています。

チェックポイント③:貸付金 ― そのお金は、どこへ消えたのか?

銀行が最も嫌う勘定科目の一つが 「貸付金」です。特に、その貸付先が社長個人である「役員貸付金」 は、会社の評価を著しく下げる要因となります。

【銀行員からの質問例】
「この貸付金1,000万円の内訳を教えてください。どなたに貸しているのですか?」

この科目が存在すること自体が、会社の資金が不透明な形で外部に流出していることを意味します。

  • 最悪のケース
    「はい、それは私が生活費のために、会社から借りているお金です」

これは、会社の資金を社長が私的に流用している「公私混同」の典型例であり、銀行からの信頼は完全に失墜します。銀行は、事業の発展のためにお金を貸すのであり、社長の生活費のために貸すのではありません。

貸付金、特に役員貸付金は、決算書に計上すべきではない、最も注意すべき科目です。

銀行は決算書のココを見ている!損益計算書(PL)の3大チェックポイント

次に、会社の1年間の経営成績を示す 「損益計算書(PL)」です。損益計算書は、会社がどれだけ「儲ける力」 があるかを示す、いわば体力測定の結果です。

銀行は、この中から、会社の収益性を判断する上で特に重要な、以下の3つの数字に注目します。

チェックポイント①:売上高 ― 会社の「成長性」を示す最重要指標

銀行が損益計算書で、まず最初に、そして最も重視するのが 「売上高」 です。売上高は、事業の規模や成長性を示す、最も分かりやすい指標だからです。

【銀行員からの質問例】
「今期の売上高は、前期比で15%減少していますが、主な要因は何でしょうか?」
「来期の売上目標は、今期比20%増と非常に意欲的ですが、その達成に向けた具体的な戦略を教えてください。」

経営者は、自社の売上高の増減の理由を、外部環境(市場の変化など)と内部環境(自社の取り組みなど)の両面から、論理的に説明できる必要があります。

「景気が悪いので…」「なんとなく…」といった、曖昧な答えでは通用しません。なぜ売上が伸びたのか、あるいはなぜ落ち込んだのか、その原因を分析し、次の一手を考えているか。その姿勢が、経営者としての資質を問われるポイントです。

チェックポイント②:粗利益率 ― 会社の「稼ぐ力」の本質

売上高と並んで重要なのが、 「粗利益率」 です。これは、売上高から売上原価を差し引いた「粗利益」が、売上高に占める割合を示す指標で、 ビジネスの基本的な「稼ぐ力(収益性)」 を表します。

【銀行員からの質問例】
「前期に比べて、粗利益率が5ポイントも低下していますが、これはなぜですか?原価が上がったのでしょうか?」

粗利益率の変動は、会社の利益構造に大きな影響を与えます。

  • 良い説明例◎
    「主要な原材料の価格が高騰したため、一時的に原価率が上昇し、粗利益率が低下しました。しかし、すでにより安価な代替の仕入先を開拓しており、来期には元の水準に戻る見込みです。」
  • 悪い説明例×
    「そういえば、下がっていますね…なぜでしょう?」

経営者は、自社の粗利益率がなぜその水準にあるのか、そしてその変動要因が何であるかを常に把握し、原価率をコントロールするための具体的な対策を語れる必要があります。

チェックポイント③:人件費 ― 最大の固定費をどう管理しているか?

人件費は、多くの中小企業にとって、固定費の中で最も大きな割合を占める経費です。そのため、銀行はその変動を注意深く見ています。

【銀行員からの質問例】
「今期、人件費が大幅に増加していますが、これは新規採用によるものでしょうか?それとも、既存社員への賞与の支払いでしょうか?」

人件費の増加は、それが 将来の成長に向けた「投資(新規採用など)」 であればポジティブに評価されますが、業績に見合わない過度な報酬であればネガティブに評価されます。

経営者は、自社の人件費の内訳を正確に把握し、その増減の理由を、会社の成長戦略と関連付けて説明できることが、銀行からの信頼を得るために不可欠です。

銀行との信頼関係を築くための、2つのコミュニケーション術

決算書の数字を理解するだけでなく、その内容を銀行に正しく伝え、信頼関係を築いていくためのコミュニケーションも非常に重要です。

1. 質問には「具体的な数字」で答える準備を

銀行の担当者との面談は、「試験」のようなものです。質問されるであろう項目を予測し、事前に回答を準備しておきましょう。そして、その回答には、必ず 「具体的な数字」 を盛り込むことを意識してください。

「売上は、順調に伸びています」
ではなく、
「売上は、新規顧客A社の獲得により、前期比で1,200万円、率にして15%増加しました」
というように、数字で語ることで、あなたの説明の説得力と信頼性は、飛躍的に向上します。

2. 定期的な業績報告で、透明性をアピール

銀行との関係は、融資を申し込む時だけのものではありません。何もなくても、四半期に一度など、定期的に自社の業績を報告しに行くことをお勧めします。

「今期は、このような計画で進めており、現在の進捗はこうです。少し課題もありますが、このように対策を打っています。」

このように、日頃から会社の状況をオープンに情報提供することで、銀行との間に強固な信頼関係が築かれます。銀行は、良い時も悪い時も、正直に状況を報告してくれる経営者を、最も信頼できるパートナーと見なすのです。

まとめ:数字力は、経営者を自由にする「武器」である

今回は、経営者が「数字」に強くなることが、いかに重要であるか、そして銀行が決算書のどこを、どのように見ているのかについて、詳しく解説しました。

  • 経営とは、結果を「数字」で示す世界。そして銀行は、その「数字」でしかあなたの会社を評価できません。
  • 貸借対照表では、「売掛金」「在庫」「貸付金」といった、会社の「実態」が表れやすい科目が厳しくチェックされます。
  • 損益計算書では、「売上高(成長性)」「粗利益率(収益性)」「人件費(コスト管理)」の3つの数字の変動理由を、論理的に説明できるかが問われます。
  • 銀行からの質問には、必ず「具体的な数字」を用いて答える準備をし、日頃から定期的な業績報告を行うことで、強固な信頼関係を築きましょう。

数字と向き合うことは、決して難しいことばかりではありません。むしろ、自社の現状を客観的に把握し、未来への明確な道筋を描くための、最も強力な「武器」を手に入れることなのです。

その武器があれば、あなたは、漠然とした不安から解放され、自信を持って、より大胆な経営判断を下すことができるようになります。

ぜひ、この記事をきっかけに、自社の決算書と改めて向き合ってみてください。その数字の中に、あなたの会社を次のステージへと導く、貴重なヒントが必ず隠されているはずです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。