「売上が10%減ったら、利益も同じように10%減るんじゃないの?」
「売上を倍にするには、死ぬ気で働いて今の倍の売上を上げなければならない…」
「会社の利益がどういう仕組みで決まっているのか、実はよく分かっていない…」
会社の経営者であれば、日々の売上の増減に一喜一憂している方も多いのではないでしょうか。しかし、この 「売上」と、最終的に手元に残る「利益」の関係性 について、その仕組みを正しく理解できている経営者は、実はそれほど多くありません。
もしあなたが、冒頭の質問のように 「売上と利益は、同じ割合で増減する」と考えているとしたら、それは経営における非常に危険な誤解 です。
結論から言うと、売上が10%減少した時、あなたの会社の利益は、30%、50%、場合によっては70%以上も減少してしまう可能性があります。逆に、売上が10%増加すれば、利益は2倍、3倍にもなり得るのです。
この記事では、この一見不思議に見える「売上と利益の非対称な関係性」のカラクリを、会社のコスト構造の根幹をなす 「変動費」と「固定費」 という2つのキーワードを用いて、専門家の視点から徹底的に、そして世界一わかりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と、経営戦略を立てる上での新たな視点を得ることができます。
- 会社の経費が「変動費」と「固定費」に分けられることを、具体例とともに深く理解できます。
- なぜ「売上10%減で利益70%減」という恐ろしい現象が起こるのか、そのメカニズムが明確になります。
- 「利益を倍にするには、売上も倍にしなければならない」という大きな誤解を解き、効率的に利益を伸ばす方法を学べます。
- 原価率が会社の利益構造にどれほど大きな影響を与えるか、その重要性を再認識できます。
- 「年商」という数字だけでは、会社の本当の規模や実力は測れない、という本質に気づくことができます。
この「損益の仕組み」を理解することは、難しい会計知識を学ぶことではありません。それは、自社のビジネスの“体質”を知り、より少ない力で、より大きな成果を出すための「レバレッジ」の掛け方を学ぶことなのです。この記事が、あなたの会社の利益を最大化するための一助となれば幸いです。
すべてはここから!会社の経費を「変動費」と「固定費」に分解しよう
売上と利益の関係性を理解するための最初の、そして最も重要なステップは、あなたの会社のすべての経費を、以下の2種類に正しく分解することです。
① 変動費(へんどうひ):売上に比例して動くコスト
変動費とは、その名の通り、売上の増減に比例して、同じように増減する費用のことです。
例えば、ラーメン屋を想像してみてください。
- ラーメンが1杯売れれば、麺やスープ、チャーシューといった 材料費(原価) が1杯分かかります。
- ラーメンが100杯売れれば、材料費も100杯分かかります。
- 売上がゼロなら、材料費もゼロです。
このように、売上と完全に連動して動くコストが「変動費」です。小売業の「仕入原価」や、製造業の「材料費」、運送業の「燃料費」などがこれにあたります。
② 固定費(こていひ):売上に関係なくかかるコスト
一方、固定費とは、売上があってもなくても、ゼロでも1億円でも、毎月ほぼ一定にかかり続ける費用のことです。
先ほどのラーメン屋で言えば、
- たとえラーメンが1杯も売れない日でも、お店の家賃は発生します。
- 正社員を雇っていれば、その給料も支払わなければなりません。
- その他、水道光熱費の基本料金や、厨房機器のリース料なども、売上に関わらずかかってきます。
このように、会社の経営を維持するために、売上に関係なく固定的に発生するコストが「固定費」です。人件費、地代家賃、広告宣伝費、減価償却費など、変動費以外のほとんどの経費は、この固定費に分類されると考えてよいでしょう。
この 「変動費」と「固定費」という2種類の性質の異なるコストが、会社の損益計算書の中に混在している こと。これが、売上と利益が単純な比例関係にならない、すべての謎を解く鍵となります。
【シミュレーション】「売上10%減」で利益はどうなるのか?
それでは、この仕組みを具体的な数字を使ってシミュレーションしてみましょう。
【モデルケース:とあるラーメン店の損益計算書】
項目 | 金額 |
売上高 | 5,000万円 |
変動費(原価率30%) | 1,500万円 |
粗利益 | 3,500万円 |
固定費(人件費、家賃など) | 3,000万円 |
経常利益 | 500万円 |
この会社は、年商5,000万円で、500万円の利益を出している、健全な状態です。
では、もし不況などの影響で、売上が10%減少してしまったら、利益はどうなるでしょうか。
ステップ①:売上高と変動費の計算
- 売上高:5,000万円 × 10%減 = 4,500万円
- 変動費:売上に比例するため、こちらも10%減少します。
1,500万円 × 10%減 = 1,350万円
ステップ②:粗利益の計算
- 粗利益:4,500万円(売上) – 1,350万円(変動費) = 3,150万円
(元の3,500万円から、こちらも10%減少しています)
ここまでは、すべてが10%ずつ減少しており、直感と一致します。
ステップ③:固定費と経常利益の計算
ここからが重要です。
- 固定費:売上が減っても、家賃や人件費は変わりません。3,000万円のままです。
その結果、最終的な利益は…
- 経常利益:3,150万円(粗利益) – 3,000万円(固定費) = 150万円
結論:利益は70%も減少する!
元の利益は500万円でした。それが、150万円にまで減少してしまいました。
減少額は350万円。減少率で言うと…
(350万円 ÷ 500万円) × 100 = 70%
衝撃の結果です。売上はたった10%しか減っていないのに、利益はなんと70%も吹き飛んでしまったのです。
さらに、もし売上が20%減少して4,000万円になった場合、粗利益は2,800万円になります。そこから固定費3,000万円を引くと、利益はマイナス200万円。会社は赤字に転落してしまいます。
これが、経営者が知っておかなければならない「損益のレバレッジ」の恐ろしさです。固定費という“重り”があるために、売上のわずかな減少が、利益の壊滅的な減少を引き起こすのです。
逆もまた真なり!「売上10%増」で利益は爆発的に増える
このレバレッジ効果は、もちろん良い方向にも働きます。
先ほどのラーメン店で、今度は売上が10%増加した場合を考えてみましょう。
- 売上高:5,000万円 × 10%増 = 5,500万円
- 粗利益:こちらも10%増加し、3,850万円
- 固定費:変わらず3,000万円
- 経常利益:3,850万円 – 3,000万円 = 850万円
元の利益500万円から、850万円へと増加しました。増加率はなんと 70% です。
売上は1.1倍になっただけなのに、利益は1.7倍にもなったのです。
一度、固定費というハードルを越えてしまえば、そこから先の売上増加分は、非常に高い利益率で会社の利益に貢献してくれます。
「利益を倍にするには、売上も倍に?」という大きな誤解を解く
この仕組みを理解すると、多くの経営者が抱いている「利益を倍にするのは、とてつもなく大変だ」という思い込みを払拭することができます。
先ほどのラーメン店(利益500万円)が、利益を倍の1,000万円にしたいと考えたとします。売上も倍の1億円にする必要があるのでしょうか?
【目標利益1,000万円を達成するために必要な売上高】
- 必要な粗利益を計算する
利益1,000万円を出すためには、固定費3,000万円を支払った上で、さらに1,000万円が残る必要があります。
つまり、必要な粗利益は、
3,000万円(固定費) + 1,000万円(目標利益) = 4,000万円 - 必要な売上高を逆算する
この会社の粗利益率は70%でした。4,000万円の粗利益を稼ぐために必要な売上高は、
4,000万円 ÷ 70% = 約5,714万円
驚くべきことに、売上を倍の1億円にしなくても、わずか5,714万円(約1.14倍)の売上で、利益を倍にすることができたのです。
この「固定費のレバレッジ効果」を理解し、具体的な目標売上高を設定することが、効率的な利益拡大戦略の第一歩となります。
会社の体質を決める「原価率」の重要性
この利益構造において、もう一つ極めて重要な要素が 「原価率(変動費率)」 です。
もし、先ほどのラーメン店が、お客様に喜んでほしいからと、チャーシューを豪華にし、原価率が30%から 40% に上がってしまったとします。
粗利益率は、60%に低下します。この状態で、先ほどと同じ1,000万円の利益を目指すとどうなるでしょうか。
- 必要な粗利益:固定費3,000万円 + 目標利益1,000万円 = 4,000万円(ここは変わらない)
- 必要な売上高:4,000万円 ÷ 60% = 約6,666万円
原価率がたった10%上がっただけで、同じ1,000万円の利益を出すために必要な売上高が、5,714万円から6,666万円へと、約1,000万円も増加してしまいました。
有料な企業ほど、この原価率のコントロールを徹底しています。お客様に提供する価値を損なわない範囲で、いかに原価率を安定させ、低く抑えるか。この企業努力が、会社の収益性を根底から支えているのです。
「年商」という数字に惑わされるな
最後に、この利益構造を理解すると、「年商〇〇億円の会社」という言葉の見え方が変わってきます。
例えば、
- A社(おろし売り業):年商3億5,000万円、原価率90%
- B社(ラーメン屋):年商5,000万円、原価率30%
どちらが「大きな会社」に見えるでしょうか。多くの人はA社と答えるでしょう。
しかし、それぞれの粗利益を計算してみると…
- A社の粗利益:3億5,000万円 × 10% = 3,500万円
- B社の粗利益:5,000万円 × 70% = 3,500万円
驚くべきことに、両社が稼ぎ出す利益の源泉(粗利益)は、全く同じなのです。
会社の本当の規模や収益力は、売上高(年商)という表面的な数字だけでは測れません。その裏にある 「粗利益」 を見て初めて、その会社の実力が見えてくるのです。
まとめ:利益構造の理解が、経営戦略の解像度を上げる
今回は、多くの経営者が誤解しがちな「売上」と「利益」の関係性について、その根本的な仕組みを解説しました。
- 会社の経費は、売上に比例する「変動費」と、売上に関係なくかかる「固定費」に分けられます。
- 「固定費」の存在により、売上のわずかな増減が、利益の大きな増減(レバレッジ効果)を引き起こします。売上10%減で利益が70%減ることも、売上10%増で利益が70%増えることも、現実に起こり得ます。
- 利益を倍にするために、売上を倍にする必要はありません。自社の利益構造を理解し、適切な目標売上高を設定することが、効率的な経営の鍵です。
- 「原価率」のコントロールは、会社の収益性を決める極めて重要な要素です。
- 会社の本当の実力は、「年商」ではなく「粗利益」で見る癖をつけましょう。
自社の損益計算書を、「変動費」と「固定費」に分解し、自社の利益構造がどうなっているのかを分析してみてください。
「あといくら売上を伸ばせば、目標利益に到達するのか?」
「固定費をあといくら削減すれば、会社は黒字化するのか?」
その答えが数字として明確に見えてきたとき、あなたの経営戦略の解像度は劇的に向上し、漠然とした不安は、達成可能な具体的な目標へと変わっていくはずです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。