「役員は社宅に住むのがお得と聞くけど、すでに一軒家を持っている場合はどうすれば…?」多くの経営者が抱えるこの悩み。実は、諦める必要はありません。
現在お持ちの一軒家を「役員社宅」として活用し、大幅な節税を実現する方法があるのです。本記事では、役員社宅の基本的なメリットから、持ち家を役員社宅にするための具体的な手順、そして注意点まで、分かりやすく解説します。
なぜ役員社宅はこれほどお得なのか?
役員社宅制度の最大の魅力は、家賃の大部分を会社の経費として計上できる点にあります。個人で家賃を全額負担する場合と比べ、会社経由で支払うことで、個人の可処分所得を増やす効果が期待できるのです。
具体的にどれくらいお得になるのか、一般的な賃貸マンションを社宅にするケースで見てみましょう。役員が会社に支払うべき「賃料相当額」は、物件の床面積によって計算方法が異なります。
ケース1:小規模な社宅(床面積99平米以下)の場合
このケースでは、以下の3つの合計額を役員が会社に支払えば、残りの家賃は会社の経費として認められます。
- 建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × (建物の総床面積 ÷ 3.3平米)
- ※3.3平米 ≒ 1坪
- 敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
【具体例】
- 建物の固定資産税の課税標準額:1,500万円(建築価格3,000万円の約50%と仮定)
- 建物の総床面積:99平米(約30坪)
- 敷地の固定資産税の課税標準額:1,200万円(時価2,000万円の約60%と仮定)
- 1,500万円 × 0.2% = 30,000円
- 12円 × (99平米 ÷ 3.3平米) = 12円 × 30坪 = 360円
- 1,200万円 × 0.22% = 26,400円
合計:30,000円 + 360円 + 26,400円 = 56,760円
この場合、役員は月額56,760円を会社に支払えば良いことになります。仮に実際の家賃が20万円だとしたら、差額の約14万円は会社の経費として計上できるのです。一般的に、実際の家賃の1割~3割程度の負担で済むケースが多いと言われています。
【注意点】マンションの共有部分の床面積
マンションの場合、専有部分の床面積だけでなく、エントランスや廊下、ジムなどの共有部分の面積も按分して加算する必要があります。これにより、専有部分が99平米以下でも、合計床面積が99平米を超えてしまうケースがあるので注意が必要です。
ケース2:小規模以外の社宅(床面積99平米超)の場合
床面積が99平米を超える場合は、計算方法が異なります。
- 会社が所有する物件(自社所有)の場合:
- (建物の固定資産税の課税標準額 × 12%) + (敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%)
- 上記1.の合計額の1/12
- 会社が他から借りている物件の場合:
- 実際に支払っている家賃の50%
- 上記「自社所有の場合」で計算した金額
- 上記2つのうち、いずれか多い方の金額
実務上は、「実際に支払っている家賃の50%」となるケースがほとんどです。つまり、家賃の半分を会社が負担してくれる形になります。
持ち家を「役員社宅」にするステップ
さて、本題の「持ち家を役員社宅にする方法」です。これは、現在個人名義で所有しているご自宅を、一度会社に売却し、会社名義にした上で、会社から役員が借りるという形を取ります。
これにより、実質的に住む場所を変えることなく、役員社宅のメリットを享受できるのです。
具体的な手順
- 個人から会社へ不動産を売却する
- 売買契約書を作成します。契約自体は当事者間で行えます。
- 売買価格を決定します。著しく低い価格での売買は税務上の問題が生じる可能性があるため、適正な時価を参考に決定する必要があります。
- 所有権移転登記の手続きを司法書士に依頼します。
- 会社と役員の間で賃貸借契約を締結する
- 会社を貸主、役員を借主として賃貸借契約を結びます。
- 賃料(役員負担額)は、前述の「小規模な社宅」または「小規模以外の社宅(自社所有の場合)」の計算方法に基づいて算出します。
持ち家を社宅化するメリット
- 役員の家賃負担軽減:上記の計算方法により、役員が負担する家賃は市場価格よりも大幅に低くなります。
- 会社の経費計上:会社は、建物の減価償却費、固定資産税、修繕費、火災保険料など、不動産維持にかかる様々な費用を経費として計上できるようになります。これらは個人所有の場合、経費にできませんでした。
- 所得税・住民税の節税効果:役員の給与から社宅家賃が天引きされる形になるため、役員の課税所得が減り、所得税・住民税が軽減されます。
- 社会保険料の節減効果:役員報酬の額面が下がれば、社会保険料の負担も軽減される可能性があります。
持ち家を社宅化する際の注意点
メリットの大きい持ち家の社宅化ですが、いくつか注意すべき点があります。
- 不動産売却益に対する税金:
個人が会社に不動産を売却する際、購入時よりも高く売れた場合は「譲渡所得」として所得税・住民税が課税されます。- 所有期間5年以内(短期譲渡所得):税率 約40%
- 所有期間5年超(長期譲渡所得):税率 約20%
住宅ローン控除の適用期間(通常10年または13年)を考慮すると、少なくとも所有期間が5年を超えてから売却する方が税負担は軽くなります。
また、建物の価値は経年劣化するため、売却価格を算定する際は、購入価格から減価償却費を差し引いた帳簿価額を基準に考える必要があります。
- 住宅ローン控除の適用終了:
会社に売却し、個人所有でなくなると、住宅ローン控除の適用は受けられなくなります。住宅ローン控除の残存期間と、社宅化による節税メリットを比較検討する必要があります。 - 不動産取得税・登録免許税:
会社が不動産を取得する際には、不動産取得税と登録免許税(所有権移転登記)がかかります。 - 適正な賃料設定:
税務署から否認されないよう、国税庁の通達に基づいた適切な賃料相当額を計算し、徴収する必要があります。 - 手続きの煩雑さ:
売買契約、登記手続き、賃貸借契約など、一連の手続きが必要となります。税理士や司法書士などの専門家への相談が不可欠です。
まとめ:賢い選択で節税メリットを最大限に!
すでに一軒家をお持ちの経営者の方でも、そのご自宅を会社に売却し、役員社宅として活用することで、大きな節税メリットを享受できる可能性があります。
ただし、不動産売却時の税金や住宅ローン控除の兼ね合いなど、考慮すべき点も多いため、安易な判断は禁物です。
まずは、税理士などの専門家に相談し、ご自身の状況(不動産の取得時期、住宅ローンの残高、会社の財務状況など)を詳細に伝え、社宅化した場合の具体的なシミュレーションを行ってもらうことをお勧めします。
正しい知識と専門家のアドバイスに基づいた賢い選択で、役員社宅制度のメリットを最大限に活用し、会社の財務体質強化と経営者の手取り収入アップを実現しましょう。