【社長・人事担当者必見】決算賞与は4月支給でも社会保険料は上がらない?算定基礎届の仕組みと、賢い賞与戦略を徹底解説!

節税・経費

「決算で利益が出たから、従業員に賞与を支給したい」
「でも、4月や5月に賞与を出すと、社会保険料の算定基礎届に影響して、結局保険料が上がってしまうのでは…?」

多くの経営者や人事・経理担当者の方が、このような疑問や懸念を抱えているのではないでしょうか。特に3月決算の企業にとって、決算賞与の支給タイミングは、従業員のモチベーション向上だけでなく、会社の財務戦略や社会保険料負担にも関わる重要なテーマです。

一般的に、社会保険料は毎年4月・5月・6月の給与を基に決定される(定時決定・算定基礎届)という認識が広まっているため、「この時期に賞与を支給すると社会保険料が上がる」と考えられがちです。しかし、実は決算賞与の支給が、必ずしもこの算定基礎届に影響し、社会保険料を増加させるとは限らないのです。

この記事では、社会保険料の算定基礎となる「標準報酬月額」の決定方法、特に「算定基礎届」の仕組みと、賞与(ボーナス)の取り扱いについて詳しく解説します。さらに、決算賞与を効果的に活用し、従業員満足度と会社の資金繰り、そして社会保険料負担のバランスを取るための戦略的な考え方についても、分かりやすく徹底的に解説していきます。

社会保険料はどうやって決まる?「標準報酬月額」と「算定基礎届」の基本

まず、毎月の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料)がどのように決定されるのか、その基本的な仕組みを理解しておきましょう。

1. 標準報酬月額とは?

社会保険料は、被保険者(従業員や役員)が受け取る給与や手当などの「報酬」を、一定の区分(等級)に当てはめて決定される 「標準報酬月額」 に基づいて計算されます。この標準報酬月額に、保険料率を乗じることで、毎月の社会保険料額が算出されます。

「報酬」には、基本給だけでなく、役職手当、残業手当、家族手当、住宅手当、そして通勤手当など、労働の対償として事業所から経常的かつ実質的に受けるものの多くが含まれます。

2. 標準報酬月額の決定方法(主なもの)

標準報酬月額は、主に以下の3つのタイミングで決定・改定されます。

  • (a) 資格取得時決定: 従業員が入社し、新たに社会保険の被保険者資格を取得した際に、その時点での報酬月額に基づいて決定されます。
  • (b) 定時決定(算定基礎届): 年に一度、原則として毎年7月1日現在の全被保険者について、その年の4月・5月・6月に支払われた報酬の平均額を基に、新たな標準報酬月額を決定します。 この手続きを「算定基礎届の提出」と呼び、この決定された標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月まで適用されます。
  • (c) 随時改定: 昇給や降給などにより、固定的賃金に大幅な変動があり、一定の条件を満たした場合に、定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されます。

今回のテーマである「4月・5月・6月の給与が社会保険料に影響する」というのは、この (b) 定時決定(算定基礎届) のことを指しています。

なぜ「決算賞与の4月支給」が社会保険料を上げると誤解されるのか?

多くの企業、特に3月決算の企業では、決算で確定した利益を原資として、4月や5月に決算賞与を支給するケースがあります。このタイミングが、ちょうど算定基礎届の対象となる報酬支払月(4月・5月・6月)と重なるため、「4月に賞与を支給すると、その分も算定基礎届の計算に含まれてしまい、9月からの社会保険料が上がってしまうのではないか」という懸念が生じるのです。

この懸念は、一見するともっともらしいように思えます。しかし、算定基礎届の計算対象となる「報酬」と、いわゆる「賞与」の取り扱いには違いがあることを理解する必要があります。

算定基礎届の対象となる「報酬」と「賞与」の違い:ここがポイント!

社会保険制度において、「報酬」と「賞与」は以下のように区別され、標準報酬月額の算定における取り扱いも異なります。

  • 報酬(月々の給料):
    • 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、臨時に受けるものや、年3回以下の支給回数の賞与を除いたものを指します。
    • 算定基礎届では、この「報酬」の4月・5月・6月の支払額の平均を基に標準報酬月額を決定します。
  • 賞与(ボーナス):
    • 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、年3回以下の回数で支給されるものを指します。
    • 賞与には、基本給とは別に、賞与そのものに対して社会保険料がかかります(標準賞与額に保険料率を乗じる)。
    • しかし、年3回以下の支給である賞与は、原則として算定基礎届の計算対象となる「報酬(月々の給料)」には含まれません。

つまり、一般的に「決算賞与」として年1回(あるいは夏・冬と合わせて年2~3回)支給されるものは、算定基礎届の対象となる4月・5月・6月の「報酬」には算入されず、その支給額が9月からの月々の社会保険料を直接的に引き上げることはないのです。

【結論】3月決算企業が4月に決算賞与を支給しても、原則として9月からの月々の社会保険料は上がらない!

ただし、賞与そのものには社会保険料がかかるため、賞与支給月の社会保険料負担(従業員負担・会社負担ともに)は、その分増加します。月々の社会保険料の「等級」が上がるわけではない、という点が重要です。

例外:賞与が「報酬」と見なされるケース(年4回以上の支給)

注意が必要なのは、賞与の支給回数が年4回以上になる場合です。この場合は、その賞与は社会保険制度上「賞与」ではなく「報酬(月々の給料)」と見なされ、算定基礎届の計算対象に含まれることになります。
例えば、春・夏・秋・冬と年4回賞与を支給しているような場合は、4月・5月・6月に支払われた賞与額も、月々の給与と合算して標準報酬月額の算定基礎となります。

したがって、「決算賞与」「夏季賞与」「冬季賞与」といった形で、年3回以下の支給であれば、算定基礎届への影響は心配する必要はありません。

決算賞与の支給タイミング:なぜ「決算月」ではなく「決算月の翌月」が良いのか?

では、決算賞与を支給するタイミングとして、なぜ決算月の末日(例:3月決算なら3月25日など)ではなく、決算月の翌月(例:4月25日など)に支給することが推奨されるのでしょうか。これには、主に以下の2つの理由があります。

1. 決算書の「見栄え」を良くし、銀行評価を高めるため

  • 決算書は、会社の成績表であり、特に銀行などの金融機関が融資審査を行う際の重要な判断材料となります。
  • もし決算賞与を決算月(例:3月)に支給すると、その分支給時点の現金預金が減少し、決算日時点での貸借対照表(BS)上の現金預金残高が少なくなります。
  • 一方、決算月の翌月(例:4月)に支給する場合、決算日(3月31日)時点ではまだ現金が会社に残っているため、BS上の現金預金残高が多く見え、資金繰りに余裕があるという印象を金融機関に与えやすくなります。
  • 経費計上のタイミング: 重要なのは、決算月の末日までに全従業員に対して賞与の支給額を個別に通知し、かつ決算日後1ヶ月以内に実際に支払えば、その賞与額は当期の費用(損金)として計上できるという税務上のルール(未払賞与の損金算入)がある点です。
    • つまり、3月決算の会社が、3月末までに従業員に「4月25日に〇〇円の賞与を支給します」と通知し、実際に4月25日に支払えば、その賞与は3月期の費用として認められ、3月期の利益を圧縮し節税効果も得られます。
    • 結果として、節税効果を享受しつつ、決算書上の現金預金残高を多く見せることができるのです。これは、銀行からの評価を高め、融資を有利に進める上で有効な戦略となり得ます。

2. 利益確定後の正確な賞与原資の確保

  • 決算賞与は、その期の利益に応じて支給額を決定するのが一般的です。
  • 決算月の末日時点では、まだ最終的な利益額が完全に確定していない場合があります。
  • 決算月の翌月に支給することで、より正確な利益額に基づいて賞与原資を計算し、適切な金額を支給することができます。

これらの理由から、特に3月決算の企業においては、決算賞与の支給タイミングを4月に設定することが、財務戦略上、非常に有効な手段となり得るのです。

昇給のタイミングと社会保険料:4月昇給は本当に損なのか?

賞与だけでなく、「昇給」のタイミングも社会保険料に影響を与える要素としてよく議論されます。多くの企業では4月に定期昇給が行われますが、「4月・5月・6月の給与が算定基礎になるなら、4月昇給は社会保険料が上がるから損なのでは?」という疑問が生じます。

これに対する基本的な考え方は以下の通りです。

  • 4月昇給の場合: 4月・5月・6月の報酬月額が昇給後の金額となるため、その平均額に基づいて9月からの標準報酬月額が決定されます。確かに、昇給分が早期に社会保険料に反映されることになります。
  • 7月昇給の場合: 4月・5月・6月の報酬月額は昇給前の金額で算定されるため、9月からの標準報酬月額は低いままとなります。昇給後の報酬額が社会保険料に反映されるのは、原則として翌年の定時決定(算定基礎届)を待つことになります。
    • ただし、7月の昇給額が非常に大きく、標準報酬月額の等級が2等級以上変動する場合は、「随時改定」の対象となり、昇給後の3ヶ月間の報酬月額の平均に基づいて、4ヶ月目(この場合は10月)から標準報酬月額が改定されます。
      • 「2等級以上の変動」とは、具体的には月額で数万円以上の大幅な昇給を指すことが多く、一般社員の通常の定期昇給(数千円~1万円程度)では該当しないケースがほとんどです。

結論として、一般社員の数千円~1万円程度の定期昇給であれば、4月に行っても7月に行っても、社会保険料への影響は最終的には同じになることが多いと言えます(反映されるタイミングが異なるだけ)。ただし、大幅な昇給の場合は、昇給時期によって社会保険料の改定タイミングが変わるため、注意が必要です。

企業によっては、あえて昇給時期を7月に設定することで、社会保険料の改定を遅らせるという戦略を取るケースもありますが、従業員のモチベーションや他社との比較などを考慮し、総合的に判断する必要があります。

決算賞与戦略の注意点と、さらなる活用法

決算賞与の支給タイミングや方法を検討する際には、以下の点にも注意しましょう。

  • 就業規則・賃金規程への明記: 賞与の支給条件や計算方法については、就業規則や賃金規程に明確に定めておくことが、労務トラブルを避ける上で重要です。
  • 従業員への丁寧な説明: 賞与制度の変更や、支給タイミングの変更などを行う場合は、従業員に対してその理由やメリット・デメリットを丁寧に説明し、理解と納得を得ることが不可欠です。
  • 役員賞与の取り扱い: 役員に対する賞与は、従業員とは異なり、原則として損金算入が認められません。損金算入するためには、「事前確定届出給与」として事前に税務署に届出を行うなどの厳格な手続きが必要です。
  • 資金繰りへの影響: 賞与は多額の現金支出を伴うため、支給時期の資金繰りを十分に考慮し、計画的に準備しておく必要があります。
  • 退職金との連携: 将来の退職金原資の一部として、毎年の賞与の一部を積み立てる(例えば、確定拠出年金制度の活用など)といった、長期的な視点での活用も考えられます。

まとめ:社会保険の仕組みを理解し、賢い賞与・昇給戦略で会社と従業員双方のメリットを!

決算賞与の支給タイミングと社会保険料の関係は、一見複雑に思えるかもしれませんが、算定基礎届の対象となる「報酬」と「賞与」の区別を正しく理解すれば、決して難しいものではありません。

重要なポイントの再確認

  1. 年3回以下の賞与は、原則として算定基礎届の対象外。 したがって、3月決算企業が4月に決算賞与を支給しても、それ自体が9月からの月々の社会保険料を直接引き上げる要因にはなりません(賞与そのものには社会保険料がかかります)。
  2. 決算賞与は、決算月の翌月(決算日後1ヶ月以内)に支給することで、当期の損金に算入しつつ、決算書上の現金残高を多く見せることができる。
  3. 一般社員の通常の定期昇給であれば、4月昇給でも7月昇給でも、社会保険料への最終的な影響は大きく変わらないことが多い。 大幅な昇給の場合は注意が必要。

これらの知識を活かし、自社の経営状況や従業員の状況に合わせて、最適な賞与・昇給戦略を策定することが、従業員満足度の向上、優秀な人材の確保・定着、そして会社の健全な財務運営に繋がります。

ただし、社会保険制度や税法は非常に専門的であり、頻繁に改正も行われます。具体的な制度設計や運用に際しては、必ず顧問税理士や社会保険労務士といった専門家に相談し、最新の情報を踏まえた的確なアドバイスを受けるようにしてください。

「知っている」と「知らない」とでは、大きな差が生まれます。この記事が、皆様の会社経営における人事・労務戦略の一助となれば幸いです。