【フリーランス新法とは】2024年11月施行!発注者・受注者が知るべき「禁止事項」とトラブル回避策

法人設立

「フリーランスとして働いているけど、取引先から一方的に不利な条件を押し付けられて困っている…」
「業務委託で仕事を発注しているけど、どんなことに気をつけないと法律違反になるんだろう?」
「2024年11月から始まる『フリーランス新法』って、一体何がどう変わるの?」

近年、働き方の多様化に伴い、会社に属さず、自らのスキルや専門知識を武器に独立して働く 「フリーランス」が急増しています。その数は、日本国内で1,500万人を超える とも言われ、もはや日本の経済にとって不可欠な存在となっています。

しかし、その一方で、フリーランスという働き方は、労働基準法などの保護を受けられない、弱い立場に置かれがちでした。

  • 発注者から、口約束だけで仕事が始まり、後からトラブルになる。
  • 納品したのに、正当な理由なく報酬を減額される。
  • 報酬の支払いが、数ヶ月も先延ばしにされる。

こうした、フリーランスと発注者との間のトラブルは後を絶たず、実にフリーランスの約4割が、何らかの取引上のトラブルを経験しているという調査結果もあります。

この深刻な状況を改善し、フリーランスが安心して働ける環境を整備するために、ついに国が動きました。それが、2024年11月から施行される、通称「フリーランス新法」(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)です。

この記事では、「フリーランス新法」について、

  • そもそも、誰が、どんな取引が、この法律の対象になるのか?
  • 発注者(企業側)に課せられる、具体的な「義務」と「禁止事項」とは何か?
  • フリーランス(受注者側)は、この法律によって、どのように守られるようになるのか?
  • そして、発注者・受注者の双方が、トラブルを未然に防ぎ、健全な取引関係を築くために、今から何を準備すべきか?

という点を、徹底的に、そして分かりやすく解説します。

この法律は、フリーランスとして働くすべての人、そして、フリーランスに業務を委託しているすべての企業にとって、「知らなかった」では済まされない、極めて重要なルールです。この記事を最後までお読みいただき、新しい時代の取引ルールを正しく理解し、未来のリスクに備えましょう。

あなたは対象?「フリーランス新法」が適用される人、されない人

まず、この新しい法律が、どのような人に適用されるのか、その「対象者」の定義を正確に理解しましょう。

対象となるフリーランス(特定受託事業者)

この法律で保護の対象となるフリーランス(法律上は「特定受託事業者」と呼ばれます)は、以下の2つの条件を両方とも満たす個人事業主や一人社長の法人です。

  1. 従業員を使用していないこと
  2. 業務委託を受ける事業者であること

ポイントは、 「従業員がいない」 という点です。たとえ個人事業主であっても、常時雇用する従業員がいる場合は、この法律の保護対象にはなりません。
(※週の労働時間が20時間未満、または雇用期間が31日未満の、ごく短時間・短期の労働者を雇用している場合は、従業員がいないものと見なされます。)

対象となる発注者(特定業務委託事業者)

一方、この法律の義務を負うことになる発注者(法律上は「特定業務委託事業者」と呼ばれます)は、従業員を1人でも使用している法人または個人です。

つまり、

  • 従業員のいる会社 → 従業員のいないフリーランス適用対象◎
  • 従業員のいない会社 → 従業員のいないフリーランス適用対象外×
  • 従業員のいる会社 → 従業員のいる個人事業主適用対象外×

という関係になります。個人事業主同士の取引であっても、発注側に一人でも従業員がいれば、この法律が適用される、という点に注意が必要です。

発注者に課せられる2つの「義務」と、7つの「禁止事項」

では、この法律によって、フリーランスに仕事を発注する企業側には、具体的にどのような義務が課せられるのでしょうか。

【義務①】取引条件の「書面等による明示」

これまで、口約束や曖昧な指示だけで仕事が始まるケースも多かったフリーランスとの取引ですが、今後は、発注時に、以下の項目を明記した書面(またはメールなどの電磁的方法)を、フリーランスに交付することが義務付けられます。

【明示が必要な主な項目】

  • 発注者とフリーランスの名称
  • 業務委託をした日
  • 委託する業務の具体的な内容
  • 報酬の額と、その算定方法
  • 報酬の支払期日
  • その他、公正取引委員会規則で定める事項

特に、 「報酬額」「支払期日」 を、事前に、そして明確に書面で示すことが求められます。これにより、「仕事を終えた後で、報酬額について揉める」といったトラブルを防ぐ狙いがあります。

【義務②】報酬の「60日以内」の支払い

フリーランスの資金繰りを安定させるため、報酬の支払期日にもルールが設けられます。
原則として、納品物を受け取った日(またはサービスの提供を受けた日)から起算して、60日以内のできる限り短い期間内に、支払期日を設定しなければなりません。

これまでのように、「うちの会社の支払いサイトは3ヶ月後だから」といった、発注者側の一方的な都合で、支払いを不当に遅らせることはできなくなります。

【7つの禁止事項】これやったらアウト!

さらに、発注者がフリーランスに対して、その優越的な地位を利用して不利益を与えることを防ぐため、以下の7つの行為が明確に 「禁止」 されます。これは、下請法の内容と非常によく似ています。

  1. 受領拒否:フリーランス側に責任がないのに、納品物の受け取りを拒否すること。
  2. 報酬の減額:フリーランス側に責任がないのに、発注時に定めた報酬を後から減額すること。
  3. 返品:フリーランス側に責任がないのに、受け取った納品物を返品すること。(食べた団子を返すような行為は許されません)
  4. 買いたたき:同種の業務の相場に比べて、著しく低い報酬額を一方的に定めること。
  5. 購入・利用強制:正当な理由なく、自社の商品を購入させたり、サービスを利用させたりすることを強制すること。
  6. 経済上の利益提供の要請:正当な理由なく、発注の見返りとして、金銭やサービスなどの提供を要求すること。
  7. やり直しの要請:フリーランス側に責任がないのに、給付内容を変更させたり、やり直しをさせたりすること。(もちろん、フリーランス側に落ち度があれば、修正を要求することは正当な権利です)

これらの禁止事項に違反した場合、公正取引委員会などから助言、指導、勧告が行われ、それでも改善されない場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

フリーランスはどう守られる?新たな2つの権利

この法律は、フリーランス側にも、より安心して働けるための新たな権利を与えています。

権利①:育児・介護などへの配慮

特に、継続的な業務委託契約(期間の定めが6ヶ月以上など)を結んでいるフリーランスから、出産、育児、または介護との両立に関する申し出があった場合、発注者は、その業務の時期や内容について、必要な配慮をしなければならない、とされています。

  • 「子供が生まれたばかりなので、納期を少し調整してほしい」
  • 「親の介護のため、一時的にリモートでの作業に切り替えたい」

といった申し出に対して、発注者は、一方的に「ダメだ」と拒否するのではなく、その事情に配慮する努力義務が課せられます。

権利②:ハラスメント対策

同様に、継続的な業務委託契約において、発注者は、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントといった、各種ハラスメント行為に関する相談体制を整備するなどの、必要な措置を講じることが求められます。

フリーランスも、従業員と同様に、尊厳を持って働ける環境が、法律によって守られることになるのです。

「専属外注」のジレンマと、税務調査への備え

このフリーランス新法の議論の中で、興味深いデータがあります。それは、日本のフリーランスのうち、実に 約4割が、特定の1社のみと取引している「専属外注」 である、という事実です。

ここで、ある 「矛盾」 が生じます。

  • フリーランス新法:専属外注を含む、多くのフリーランスを保護するための法律を整備する。
  • 税務署の考え方:専属外注は、実質的に「社員(給与所得者)」と同じであり、外注費として処理するのは不当である、として税務調査で否認するケースがある。

国の中でも、片や「フリーランスとして保護する」と言い、片や「社員と見なして課税する」と言う。この矛盾した状況に、多くの経営者やフリーランスが混乱しています。

しかし、結論から言うと、「専属外-注」であること自体が、税務上、即座にNGとなるわけではありません。
税務調査で「給与」と認定されないためには、たとえ取引先が1社であっても、「事業者」としての独立性を、客観的な証拠で示すことができればよいのです。

【専属外注が「給与」と認定されないための3つの絶対条件】

  1. 業務委託契約書の締結:フリーランス新法でも義務付けられていますが、対等な事業者間の契約であることを示す、最も基本的な証拠です。
  2. フリーランス側からの請求書発行:会社が給与明細を発行するのではなく、必ずフリーランス側から、業務の対価として「請求書」を発行してもらうフローを徹底します。
  3. フリーランス側の確定申告:フリーランス自身が、受け取った報酬を「事業所得」として、責任を持って確定申告を行っていること。

これらの形式的な要件を最低限整え、さらに、仕事の進め方において、会社からの指揮命令を受けない、働く時間や場所に縛られない、といった 「事業者としての実態」 があれば、たとえ専属であっても、外注として認められる可能性は十分にあります。

このフリーランス新法の施行は、むしろ、国が「専属外注」という働き方を、正式なフリーランスの一形態として認めた、というポジティブな側面もあるのです。

まとめ:新しい時代の「対等なパートナーシップ」へ

今回は、2024年11月から施行される「フリーランス新法」について、その概要から、発注者とフリーランスの双方が知っておくべきポイントまでを詳しく解説しました。

  • フリーランス新法は、弱い立場に置かれがちなフリーランスを保護し、発注者との間のトラブルを防ぐための、新しい取引ルールです。
  • 発注者(従業員のいる事業者)は、フリーランスに対し、「取引条件の書面明示」や「60日以内の報酬支払い」といった義務を負います。
  • 報酬の不当な減額や、受領拒否といった、優越的地位の濫用にあたる「7つの行為」は、明確に禁止されます。
  • フリーランス側も、育児・介護への配慮や、ハラスメント対策といった、より安心して働ける環境が、法律によって守られるようになります。
  • この法律は、国が「専属外注」という働き方を認めた証でもあります。税務調査に備え、契約書や請求書といった、事業者としての独立性を示す証拠を、より一層きちんと整備することが重要になります。

この新しい法律は、発注者側から見れば、「面倒な義務が増えた」と感じるかもしれません。しかし、これは、フリーランスを単なる「便利な外部の労働力」としてではなく、事業を共に推進していく「対等なビジネスパートナー」として尊重する、という、社会全体の意識変革を促す、大きな一歩です。

明確なルールのもとで、双方が信頼関係を築き、安心して取引ができる環境が整うことは、長期的には、日本経済全体の生産性向上にも繋がるはずです。

ぜひ、この記事を参考に、新しい時代の取引ルールへの準備を進め、より健全で、より建設的なパートナーシップを築いていってください。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。