銀行員は決算書のココを見ている!融資を左右する「実態貸借対照表」のカラクリと、債務超過を回避する全手法

法人設立

「決算書上は、資産もあって黒字なのに、なぜか銀行は融資に渋い顔をする…」
「銀行は、私たちが提出した決算書を、そのまま信じていないって本当?」
「融資審査で『債務超過』と見なされないために、何をすればいいのだろう?」

会社の経営者であれば、銀行融資の審査において、自社の 「決算書」 が最も重要な評価基準となることは、ご存知かと思います。しかし、その決算書が、銀行員の手によって「書き換えられ」、全く別の、より厳しい評価を下されているとしたら、あなたはどう思いますか?

実は、銀行は、あなたが提出した決算書を鵜呑みにすることはありません。彼らは、その決算書を元に、独自の厳しい基準で資産や負債を再評価し、 「実態貸借対照表(じったいたいしゃくたいしょうひょう)」 という、 銀行内部だけの「もう一つの決算書」 を作成しているのです。

そして、融資の可否は、この「実態貸借対照表」の結果によって、ほぼ決定づけられます。

この記事では、

  • そもそも「実態貸借対照表」とは何か?なぜ銀行は、そんなものを作成するのか?
  • あなたの会社の資産が、銀行によってどのように「減額」されてしまうのか、その具体的な評価基準
  • 多くの会社が陥る、融資否決の最大の原因「実質債務超過」という危険な状態
  • そして、この厳しい銀行の評価を乗り越え、「実質債務超過」を回避するための具体的な対策

について、徹底的に、そして分かりやすく解説します。

この記事は、銀行融-資の「裏側」で行われている、知られざる評価の仕組みを解き明かすものです。この記事を最後までお読みいただき、銀行員の「視点」を理解し、あなたの会社が正当に評価され、円滑な資金調達を実現するための、強力な武器を手に入れてください。

なぜ銀行は「もう一つの決算書」を作成するのか?

まず、なぜ銀行は、わざわざ手間をかけて「実態貸借対照表」などというものを作成するのでしょうか。
その理由は、あなたが作成した決算書(帳簿貸借対照表)上の資産価額と、その資産の「本当の価値(実態)」との間に、大きなギャップが存在することが多いためです。

銀行の使命は、貸したお金を、確実に回収することです。そのためには、万が一会社が倒産した場合に、その会社の資産を売却して、どれだけのお金を回収できるのかを、シビアに見積もる必要があります。

しかし、決算書に記載されている資産の金額は、必ずしも、今すぐ現金化できる「本当の価値」を表しているわけではありません。

  • 「売掛金 1,000万円」と書かれていても、そのうちの半分は、倒産寸前の取引先のもので、回収は絶望的かもしれない。
  • 「商品在庫 500万円」と書かれていても、そのほとんどは、何年も売れ残っている流行遅れのデッドストックかもしれない。
  • 「建物 2,000万円」と書かれていても、それは取得した時の価格であり、現在の市場価値は、もっと低いかもしれない。

このように、帳簿上の数字には、「希望的観測」や「実態とのかい離」が含まれている可能性があります。
そこで銀行は、これらの資産を、極めて保守的(厳しく)再評価し、 「本当に現金化できる、リアルな価値」 を算出し直します。そうして作られるのが、「実態貸借対照表」なのです。

あなたの会社の資産は、こうして「減額」される!

では、銀行は、具体的にどの資産を、どのように厳しく評価し直すのでしょうか。代表的な資産科目の評価方法を見ていきましょう。

資産①:売掛金 → 回収不能な「不良債権」は切り捨てられる

決算書に「売掛金 1,000万円」と記載されていても、銀行は「はい、そうですか」とはなりません。その内訳を精査し、回収可能性の低いものを 「不良債権」 として、資産価値から容赦なく差し引きます。

【銀行が不良債権と見なすケース】

  • 長期滞留債権:特定の取引先からの入金が、何か月も、あるいは何年も遅延している。
  • 経営悪化先の債権:取引先の経営状況が著しく悪化しており、倒産のリスクが高い。
  • 紛争中の債権:品質問題などで、取引先と支払いについて争っている。

例えば、1,000万円の売掛金のうち、200万円が長期滞留債権であると判断されれば、実態貸借対照表上の売掛金の価値は、800万円に減額されてしまいます。

資産②:在庫(商品・製品) → 売れない「デッドストック」は無価値

「在庫 500万円」も、銀行にとっては疑いの対象です。彼らは、その在庫が、本当に 「売れる見込みのある、価値のある在庫」 なのかをチェックします。

【銀行が価値を減額するケース】

  • 長期滞留在庫:何年も倉庫に眠っている、売れ残りの商品。
  • 陳腐化・劣化在庫:流行遅れになったアパレル商品や、賞味期限の近い食品、モデルチェンジ前の電子部品など、市場価値が著しく低下しているもの。
  • 過剰在庫:会社の売上規模に対して、不自然なほど多くの在庫を抱えている場合。(粉飾決算の疑いも持たれます)

500万円の在庫のうち、300万円がデッドストックであると判断されれば、在庫の資産価値は、わずか200万円と評価されてしまいます。

資産③:貸付金 → 社長への貸付は「資産ゼロ」評価

会社が誰かにお金を貸している場合、それは「貸付金」として資産に計上されます。しかし、その貸付先が 社長個人である「役員貸付金」の場合、銀行は、その資産価値を「ゼロ」 と評価します。

なぜなら、社長個人への貸付は、会社が危機に陥った際に、社長自身が返済できる可能性は極めて低いと見なされるからです。それどころか、役員貸付金の存在自体が、「公私混同が激しく、ガバナンスの効かない会社」という、極めてネガティブな評価に繋がります。

資産④:建物・土地 → 「時価」で再評価される

建物や土地の評価額も、帳簿上の金額(簿価)ではなく、現在の 「市場価値(時価)」 で再評価されます。
路線価や、周辺の取引事例などを元に、評価額が修正されます。都心部など、地価が上昇しているエリアであれば、評価額が上がることもありますが、一般的には、建物の経年劣化などを考慮され、簿価よりも低く評価されるケースが多くなります。

資産⑤:投資有価証券 → 種類と時価で厳しく評価

株式や投資信託などの「投資有価証券」も、その種類と時価で評価が見直されます。特に、上場していない非公開会社の株式などは、換金性が極めて低いと見なされ、資産価値が大幅に減額、あるいはゼロと評価されることもあります。

融資否決の最大の原因:「実質債務超過」という名の赤信号

このように、銀行は、あなたの会社の資産を、一つひとつ厳しく再評価していきます。その結果、何が起こるのでしょうか。

帳簿上の資産の合計額が、大幅に目減りしてしまうのです。

そして、もし、この減額された後の「実態資産」の合計額が、会社の「負債」の合計額を下回ってしまった場合。
この状態を、 「実質債務超過」 と呼びます。

実質債務超過 = 実態資産 < 負債

これは、 「会社の全財産を今すぐ売り払っても、借金を返しきれない」 という、極めて危険な状態を意味します。
銀行にとって、「実質債務超過」の会社は、倒産リスクが極めて高い、最も融資してはいけない相手です。

あなたの会社の決算書が、帳簿上は黒字で、資産が負債を上回る「資産超過」の状態であっても、銀行の物差しである「実態貸借対照表」で計算し直した結果、「実質債務超過」に陥っていれば、融資の審査に通ることは、まずありません。

これが、多くの経営者が気づいていない、 銀行融資の審査における、最大の「落とし穴」 なのです。

「実質債務超過」を回避するための、3つの具体的な対策

では、この厳しい銀行の評価を乗り越え、「実質債務超過」という最悪の事態を回避するためには、どうすればよいのでしょうか。具体的な対策は、3つあります。

対策①:決算前に、自ら「実態貸借対照表」を作成してみる

まず、最も重要なのが、銀行と同じ視点に立ち、自社の決算を自己評価してみることです。

銀行に決算書を提出する前に、

  • 回収不能な売掛金はないか?
  • 価値のないデッドストックは含まれていないか?
  • 役員貸付金は残っていないか?

といった項目を、自ら厳しくチェックし、 自社版の「実態貸借対照表」 を作成してみるのです。

これにより、銀行から、どの資産が、どれくらい減額評価されるかを、事前に予測することができます。そして、もし債務超過に陥りそうであれば、決算が確定する前に、先手を打って対策を講じることが可能になります。

対策②:資産の「質」を高め、不良資産を処分する

実態貸借対照表の評価を上げるためには、資産の「量」だけでなく 「質」 を高めることが不可欠です。

  • 不良債権の整理:回収の見込みがない売掛金は、いつまでも資産として計上し続けるのではなく、貸倒損失として費用処理し、帳簿から消し去ります。
  • 不良在庫の処分:売れる見込みのない在庫は、セールなどで現金化するか、あるいは廃棄損として費用処理します。

これらの処理を行うと、一時的に帳簿上の利益は減少し、痛みを伴います。しかし、これにより、決算書の「純資産」と、銀行が評価する「実態純資産」のギャップが埋まり、財務の透明性と健全性が高まるのです。血を流してでも、膿を出し切ることが、長期的な信頼獲得に繋がります。

対策③:「役員借入金」を「資本金」に振り替える(DES)

「実質債務超過」を回避するための、非常に強力なテクニックが、 「役員借入金」の資本組入れ(DES:デット・エクイティ・スワップ) です。

これは、社長が会社に貸しているお金(役員借入金)を、 「もう返済してもらわなくていいので、その代わりに、会社の資本金を増やすことに使ってください」 という手続きです。

会計上は、

  • 「負債」である役員借入金が減少する。
  • 「純資産」である資本金が増加する。

という処理が行われます。
これにより、自己資本が大幅に増強され、債務超過の状態を一気に解消することが可能になるのです。

もちろん、DESには、法人税(債務免除益)の問題や、株式の構成比率の変化など、専門的な検討が必要です。しかし、銀行からの評価を劇的に改善する、最後の切り札として、その存在を知っておくことは非常に重要です。

まとめ:銀行との「対話」が、あなたの会社を強くする

今回は、銀行融資の裏側で行われている「実態貸借対照表」の仕組みと、融資審査で最も恐れるべき「実質債務超過」を回避するための具体的な対策について、詳しく解説しました。

  • 銀行は、あなたが提出した決算書を、独自の厳しい基準で再評価し、「実態貸借対照表」を作成しています。
  • 売掛金や在庫、貸付金といった資産は、その「本当の価値」が見極められ、帳簿上の金額から大幅に減額評価される可能性があります。
  • この実態評価の結果、資産よりも負債が上回る「実質債務超過」に陥ると、融資を受けることは極めて困難になります。
  • 対策の鍵は、決算前に自ら実態評価を行い、不良資産を処分し、必要であれば「役員借入金の資本組入れ(DES)」といった、財務改善策を実行することです。

銀行の評価基準を正しく理解し、自社の財務状況を客観的に把握すること。そして、その内容を、銀行に対して、透明性をもって、自分の言葉で説明できること。

この銀行との「対話」能力こそが、これからの厳しい時代を生き抜く、すべての経営者に求められる、必須のスキルです。

ぜひ、この記事を参考に、あなたの会社の「本当の姿」と向き合い、銀行から「この会社なら、安心して応援できる」と信頼される、強固な経営基盤を築き上げてください。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。