「今期は赤字決算になってしまった…これではもう銀行から融資は受けられないだろうか?」
「資金繰りが厳しい。でも、赤字の決算書を銀行に見せるのが怖い…」
赤字経営は、多くの経営者にとって、資金調達の道を閉ざされる深刻な事態と捉えられがちです。しかし、「赤字=融資不可能」と諦めてしまうのは、まだ早すぎます。
実際に、日本の企業の約7割が赤字であるというデータもあり、多くの赤字企業が、金融機関からの融資によって事業を継続し、再起を図っています。銀行も、単に赤字という事実だけで融資を断るわけではありません。重要なのは、赤字という状況下でも、銀行に「この会社には将来性があり、貸したお金はきちんと返ってくる」と信頼してもらうための、戦略的なアプローチです。
この記事では、赤字企業であっても銀行融資を受けやすくするための具体的な4つの秘訣について、金融機関の評価基準や、担当者とのコミュニケーション術といった、実践的な視点から分かりやすく徹底的に解説していきます。
銀行融資の大原則:なぜ「お金がある会社」に貸したがるのか?
まず、銀行融資の基本的な考え方を理解しておくことが重要です。銀行は、よく「晴れの日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」と揶揄されることがあります。これは、 銀行が最も重視するのが「貸したお金が、きちんと返済されるか(=返済能力)」 であるためです。
- お金がある会社(晴れの日): 財務的に安定しており、返済能力が高いと判断されるため、銀行は積極的に融資を提案します。
- お金がない会社(雨の日): 資金繰りに窮しており、返済能力に疑問符が付くため、融資に慎重になります。
つまり、銀行から融資を引き出すためには、 「この会社には、今は苦しくても、将来的に必ず返済できるだけの力がある」 と、客観的な根拠をもって示す必要があるのです。赤字という「雨」の中でも、将来の「晴れ」をいかにして見せるかが、融資成功の鍵となります。
秘訣1:銀行の「評価基準」を知り、決算書の印象をコントロールする
銀行は、融資審査において、企業の「決算書」を基に点数付け(スコアリング)を行っています。この評価基準を理解し、決算書の印象を戦略的にコントロールすることが、融資の第一歩です。
1. 最重要項目は「現金預金残高」:決算日だけでも厚く見せる
- なぜ重要か?
銀行が最も重視する項目の一つが、貸借対照表(BS)に記載される決算日時点の「現金及び預金」の残高です。この金額が多いほど、会社の短期的な支払い能力が高く、資金繰りに余裕があると評価されます。 - 決算日のマジック:
貸借対照表は、あくまで「決算日」という一時点での財政状態を示すものです。つまり、決算日の前日に現金が少なくても、決算日当日に現金が潤沢にあれば、決算書上の評価は高くなります。 - 具体的な対策:
- 計画的な資金管理: 決算日が近づいてきたら、大きな支払いを決算日後にずらす、売掛金の回収を決算日前に済ませるなど、意図的に決算日時点の預金残高を高める工夫をしましょう。
- 一時的な資金移動(役員借入金): 経営者個人の資産や、親族からの短期的な借入などを、決算日前に一時的に会社の口座に入金し、決算日を過ぎたら元に戻すという方法も有効です。これは、会社の財産を偽る「粉飾」とは異なり、あくまで「会社に資金を投入した」という事実に基づくものであり、違法ではありません。この手法は、それだけ銀行が決算書上の現金預金残高を重視していることの証左です。
2. 銀行が本当に見ている利益は「営業利益」
- なぜ重要か?
損益計算書(PL)には様々な「利益」がありますが、銀行が特に重視するのが 「営業利益」 です。営業利益は、会社の本業における儲けを示す指標であり、企業の基本的な収益力を表します。 - 評価を高めるための対策(会計処理の工夫):
- 費用の表示区分の最適化: 会計処理上、販売費及び一般管理費(営業利益の計算に影響)に計上すべき費用と、営業外費用や特別損失(営業利益の計算には影響しない)に計上すべき費用を、ルールに則って適切に区分することが重要です。
- 例:決算賞与の扱い: その期の利益に応じて臨時的に支給される「決算賞与」は、その臨時性を理由に「特別損失」として、営業利益の下で計上できる場合があります。これにより、最終的な利益額は同じでも、営業利益を高く見せることが可能になります。
これらの会計処理は、脱税や粉飾とは全く異なる、会計ルール上の正当な工夫です。顧問税理士と相談し、自社の実態に合わせて、銀行評価上有利になるような決算書を作成することも、重要な戦略の一つです。
秘訣2:経営者自身の「信用力」を総動員する
中小企業の融資審査において、会社の財務状況と同等、あるいはそれ以上に重要視されるのが、経営者個人の信用力と資産背景です。
1. 社長の個人資産も評価の対象
- なぜ重要か?
銀行が最も気にするのは「貸したお金が返ってくるか」です。もし会社が返済不能に陥っても、社長個人に十分な資産があれば、「社長が代わりに返済してくれるだろう」と期待できるため、融資のハードルは格段に下がります。 - 対策:
- 融資面談の際には、会社の決算書だけでなく、社長個人の資産状況(預金残高、所有不動産など)を示す資料を、任意で提示することも有効です。
- 日頃から、会社の利益の一部を適切な役員報酬として受け取り、それを無駄遣いせずに、個人としても資産を形成しておくことが、結果として会社を守ることに繋がります。
2. 親族の資産背景も影響するケースがある
- さらに踏み込んだ話として、社長個人にも資産がない場合でも、社長の親族(特に親)が資産家であることが分かれば、それが融資判断にプラスに働くケースもあります。
- これは、万が一の際には、親族からの資金援助も期待できると銀行が判断するためです。銀行は、様々な方法で経営者の周辺情報を調査しており、こうした背景も評価の一環としている場合があります。
- もちろん、これは全ての銀行に当てはまるわけではなく、あくまで会社の事業性そのものを厳格に評価する金融機関もあります。
秘訣3:銀行との「良好な関係性」を日頃から構築する
融資は、単なる書類審査だけで決まるものではありません。特に、地域密着型の信用金庫や地方銀行では、担当者との日頃のコミュニケーションや信頼関係が、審査結果に大きな影響を与えることがあります。
1. 定期的な業績報告(試算表の提出)
- なぜ重要か?
- ほとんどの中小企業は、年に一度、決算書を提出するだけです。それも、銀行から催促されて、ようやく提出するというケースが少なくありません。
- そのような中で、自ら積極的に、四半期に一度(3ヶ月に一度)でも、月次の試算表(会社の最新の業績を示す書類)を銀行に持参し、業績報告を行うことで、経営の透明性や真摯な姿勢を強くアピールできます。
- 赤字の時こそ、報告が重要:
- 「業績が悪いから、試算表を見せたくない」と考える経営者は多いですが、これは逆効果です。
- 業績が悪化し、資金繰りが厳しくなってから相談に行っても、銀行としては「もっと早く言ってくれれば、打つ手があったのに…」と、対応が難しくなります。
- 赤字の兆候が見え始めた段階で、正直に状況を報告し、今後の改善策を相談することで、銀行は「この経営者は、きちんと自社の課題を把握し、対策を講じようとしている」と評価し、支援を検討しやすくなるのです。
2. 信頼できる「顧問税理士」を味方につける
- 銀行は「どの税理士が作った決算書か」を見ている:
- 銀行は、多くの企業の決算書を見ています。そのため、「この税理士が作成した決算書は、信頼性が高い」「こちらの税理士の資料は、少し大雑把だ」といったように、顧問税理士に対する評価も持っています。
- 信頼性の高い、質の良い決算書や試算表を作成してくれる税理士と顧問契約を結ぶことは、間接的に銀行からの評価を高めることに繋がります。
- 事業計画書の作成支援:
- 融資の際に不可欠となる「事業計画書」も、経営者一人で作成するよりも、顧問税理士と一緒に、客観的なデータに基づいた実現可能性の高い計画を作成する方が、銀行からの評価は格段に高まります。
3. 担当者との人間関係の構築
- 銀行の担当者も人間です。定期的に顔を合わせ、事業の話だけでなく、時には業界の情報交換や雑談などを交えることで、個人的な信頼関係を築くことも重要です。
- 担当者が会社を訪問した際には、従業員全員が気持ちの良い挨拶をするなど、社内全体の雰囲気の良さを見せることも、プラスの評価に繋がります。
秘訣4:銀行の「ビジネス事情」を理解し、Win-Winの関係を築く
銀行も、利益を追求する一企業です。彼らのビジネスモデルや、何を求めているのかを理解し、こちらからも協力する姿勢を示すことで、より強固なパートナーシップを築くことができます。
- 銀行の現在のビジネスモデル:
- 長引く低金利により、銀行は伝統的な融資の利息収入だけでは、収益を確保することが難しくなっています。
- そのため、多くの銀行は、 投資信託や生命保険の販売、クレジットカードの契約といった「手数料ビジネス」 に力を入れています。
- Win-Winの関係構築:
- 融資の相談をする際に、これらの金融商品の提案を受けることもあるでしょう。もちろん、不要な商品を契約する必要は全くありません。
- しかし、もし自社や経営者個人にとって、本当にメリットのある提案(例えば、適切な保障内容の生命保険や、自身の資産運用計画に合致した投資信託など)であれば、融資と合わせて検討し、契約することで、銀行側に「協力的な取引先」という印象を与えることができます。
- 「もらうだけ」の関係ではなく、こちらも銀行のビジネスに貢献する姿勢を示すことで、銀行側も「この会社を積極的に支援しよう」という気持ちになりやすくなります。
まとめ:赤字は終わりではない。信頼と戦略で、融資への道を切り拓こう!
赤字決算は、経営者にとって厳しい現実ですが、それが即座に融資の道が閉ざされることを意味するわけではありません。重要なのは、赤字という事実から目を背けず、それを乗り越えるための具体的な戦略と、銀行からの信頼を勝ち取るための誠実な努力です。
赤字でも融資を受けやすくするための4つの鉄則
- 決算書の印象をコントロールする:
- 決算日時点の「現金預金残高」を、一時的にでも厚く見せる。
- 会計処理を工夫し、本業の儲けを示す「営業利益」を確保する。
- 経営者自身の信用力を活用する:
- 会社の返済能力だけでなく、社長個人の資産背景も、銀行は評価していることを理解する。
- 銀行との良好な関係性を日頃から構築する:
- 赤字の時こそ、正直に、そして早期に業績報告と相談を行う。
- 信頼できる顧問税理士を介して、質の高い財務資料や事業計画書を提出する。
- 銀行のビジネスを理解し、Win-Winの関係を目指す:
- こちらも協力できる部分は協力し、単なる「お金を借りる相手」ではなく、「ビジネスパートナー」としての関係を築く。
赤字からの脱却には、資金調達が不可欠なケースがほとんどです。絶望的な状況に思えても、打つ手は必ずあります。ぜひこの記事を参考に、自社の現状を冷静に分析し、銀行との対話の準備を進めてみてください。誠実な姿勢と、専門家と練り上げた戦略的なアプローチがあれば、赤字という逆境を乗り越え、再び成長軌道に乗るための活路を切り拓くことができるはずです。