「会社の車、個人名義と法人名義、どっちで買うのが一番得なんだろう?」
「マイホームを法人名義で買えるって本当?どんなメリットがあるの?」
「会社の利益がどんどん増えて、将来の相続税が心配…何か対策はないだろうか?」
会社の経営者であれば、事業で得た利益を元に、車や不動産といった資産を所有することを考える機会があるかと思います。その際に必ず直面するのが、 「その資産を、個人として持つべきか、それとも法人として持つべきか」 という、非常に重要かつ悩ましい選択です。
この選択を一つ間違えるだけで、支払う税金の額が大きく変わってしまったり、将来思わぬトラブルに巻き込まれたりする可能性があります。
結論から言うと、多くの場合、 資産は法人名義で所有した方が、税金面や資金繰りの面で大きなメリットを享受できます。 しかし、そこには知っておかなければならない注意点やデメリットも存在します。
この記事では、多くの企業の財務戦略に携わってきた専門家の視点から、経営者が所有する代表的な3つの資産 「車」「不動産」「自社株」 について、それぞれを個人と法人で所有した場合のメリット・デメリットを徹底比較し、あなたの資産を最大化するための賢い所有方法を解説します。
この記事を最後までお読みいただければ、以下の知識が身につきます。
- 車を法人所有する際の圧倒的な経費計上のメリットと、注意すべき点がわかります。
- 自宅不動産を法人で所有し、家賃を劇的に安くする方法と、相続時の「出口戦略」の重要性が理解できます。
- 会社の成長に伴う「自社株」の評価額上昇リスクと、ホールディングス化による相続税対策の仕組みがわかります。
- そもそも「資産を所有しない」という新しいライフスタイル戦略の利点を知ることができます。
資産の所有方法は、あなたの会社の財務戦略そのものです。正しい知識を身につけ、ご自身の状況に合わせた最適な選択をしていきましょう。
【資産別比較①】車は「法人所有」が圧倒的に有利な理由
まず、最も身近な資産である「車」について見ていきましょう。結論として、事業で少しでも使用する車であれば、法人名義で購入(またはリース)するのが圧倒的に有利です。
個人所有のデメリット:税引き後の「手取り」で買う辛さ
もし、あなたが車を個人名義で買う場合、その購入資金はどこから出てくるでしょうか。それは、会社から受け取った役員報酬、つまりあなたの給料です。
この給料は、すでに所得税、住民税、社会保険料といった多くの税金や社会保険料が差し引かれた後の 「手取り」 です。例えば、額面50万円の役員報酬でも、手取りは30万円台になることも珍しくありません。
つまり、個人で車を買うということは、税金等を引かれた後の貴重な手持ち資金を貯めて、そこから支払わなければならないということを意味します。当然、購入代金や維持費を経費にすることもできません。
法人所有のメリット:税金を引かれる前の「利益」で買い、経費にする
一方、法人名義で車を購入すると、状況は一変します。
- メリット①:税引前の資金で購入できる
法人の資金、つまり税金などが引かれる前の「利益」を原資として車を購入できます。個人で買うよりも、資金的な負担感が全く異なります。 - メリット②:購入費用を「減価償却費」として経費にできる
これが最大のメリットです。車の購入費用は、購入した年に一括で経費になるわけではなく、「減価償却」という手続きを通じて、法律で定められた年数(新車の普通自動車なら6年)にわたって分割で経費に計上できます。
例えば、1000万円の新車を法人で購入した場合、6年間にわたって合計1000万円を会社の経費として計上できるのです。これにより、会社の利益が圧縮され、法人税の節税に直結します。 - メリット③:維持費もすべて経費になる
自動車税、保険料、車検代、ガソリン代、駐車場代、修理代といった、車を維持するためのあらゆる費用も、すべて法人の経費として計上できます。
このように、資金繰りと節税の両面から見て、法人所有のメリットは計り知れません。
法人所有の注意点:プライベート利用の「按分」
ただし、一つだけ注意しなければならない点があります。それは、法人名義の車をプライベートでも使用する場合の扱いです。
法人名義の車を100%事業のためだけに使っているのであれば何の問題もありません。しかし、週末に家族と出かけるなど、プライベートでも頻繁に使用する場合、その費用を全額会社の経費として計上するのは税務上問題があります。
税務調査で指摘された場合、「役員への給与(現物給与)」と見なされ、追加で税金が課される可能性があります。
これを避けるためには、事業とプライベートの使用頻度に応じて、経費を「按分(あんぶん)」する必要があります。例えば、「平日の5日間は事業、土日の2日間はプライベート」というように、合理的な基準で利用割合を算出し(この場合は事業利用が約7割)、プライベートで利用した分に相当する使用料を、個人から会社へ支払うといった処理が望ましいです。
とはいえ、たまにプライベートで乗る程度であれば、そこまで厳密に按分しなくても、実務上は黙認されるケースが多いのも事実です。しかし、明らかに半分近くプライベートで使っているような場合は、適切な按分処理をしておくのが賢明でしょう。
【資産別比較②】不動産(自宅)は「法人所有」で家賃を劇的に下げる
次に、人生で最も大きな買い物ともいえる「不動産」、特にご自身が住む「自宅」について考えてみましょう。実は、この自宅でさえも法人名義で所有することが可能であり、大きなメリットを享受できます。
法人所有のメリット:車のケースに加えて、家賃設定の妙技
自宅を法人で所有するメリットは、基本的には車のケースとよく似ています。
- 税引前の法人の資金で購入できる。
- 建物の購入費用を減価償却費として経費にできる(※土地は経費になりません)。
- 固定資産税や修繕費、火災保険料などの維持費をすべて法人の経費にできる。
これらに加え、不動産特有の非常に大きなメリットがあります。それは、 「社長個人が法人に支払う家賃を、相場よりもはるかに安く設定できる」 という点です。
通常、社長が法人所有の社宅に住む場合、会社に対して家賃を支払う必要があります。この家賃が適正な金額でないと、差額分が社長への給与と見なされてしまうからです。
しかし、この「適正な家賃」の計算には、税法で定められた特別な計算式があります。この計算式は、建物の固定資産税評価額などを元に算出するため、非常に複雑ですが、結論として、周辺の賃貸相場よりも大幅に安い金額になるケースがほとんどなのです。
例えば、通常であれば月30万円の家賃がかかるような豪邸に住んでいたとしても、この計算式を適用すると、月々の支払いが相場の2割程度である6万円で済んでしまう、といった魔法のようなことが現実に起こり得ます。
社長は格安の家賃で良い家に住むことができ、会社側も減価償却費や維持費を経費にできる。まさに一石二鳥の節税スキームと言えるでしょう。
法人所有のデメリット:必ず考えるべき「出口戦略」
しかし、この魔法には注意すべき「副作用」があります。それは、「相続」が発生したときの出口戦略です。
車であれば、万が一社長が亡くなっても、その車を売却すればすぐに現金化でき、問題はほとんどありません。
しかし、不動産はそう簡単にはいきません。社長が亡くなった後、その法人名義の家はどうなるのでしょうか?
- メリット:相続税の対象にならない
その家はあくまで「会社」の資産であり、社長「個人」の資産ではありません。したがって、社長の相続財産には含まれず、相続税の課税対象にはならないという大きなメリットがあります。 - デメリット:遺族が自由にできない
反面、会社のものである以上、社長の息子さんなど、 会社と関係のない遺族がその家を勝手に相続することはできません。 もし息子さんが会社の後継者であれば、引き続き社宅として住み続けることも可能ですが、会社を継がないのであれば、その家に住む権利はありません。
では、誰も住まなくなった法人名義の家はどうするのか。選択肢は「売却」ですが、すぐに買い手が見つかるとは限りませんし、購入時よりも価値が下がって売却損が出る可能性もあります。
このように、法人名義の不動産は、社長が元気なうちはメリットだらけですが、将来の相続まで見据えた「出口戦略」をあらかじめ考えておかないと、残された家族が困ってしまう可能性があるのです。
「所有しない」という選択肢:賃貸・リースの活用
ここまで「個人所有vs法人所有」という観点で解説してきましたが、実はもう一つ、 「そもそも所有しない」 という賢い選択肢があります。
- 不動産の場合 → 賃貸
法人名義で物件を賃貸契約し、それを「社宅」として社長に貸し出す方法です。この場合も、先ほどと同様に、社長は相場より安い家賃で住むことができます。所有に伴う固定資産税や大規模修繕のリスクもなく、ライフスタイルの変化に合わせて気軽に住み替えができるという大きなメリットがあります。相続の問題も一切発生しません。 - 車の場合 → リース
法人名義でリース契約を結ぶ方法です。毎月のリース料は全額経費にでき、車検やメンテナンスの費用もリース料に含まれていることが多いため、管理が非常に楽です。数年ごとに最新の車に乗り換えたい、という方にも向いています。
身軽なライフスタイルを送りながら、税金面のメリットは享受したい、そして将来の相続で揉めたくない、と考えるのであれば、この「所有しない」という戦略は非常に有効です。
【資産別比較③】自社株は「ホールディングス」で相続税を劇的に圧縮する
最後に、多くの中小企業経営者が抱える、最も深刻な問題の一つである 「自社株」 の対策について解説します。これは少し専門的な内容になりますが、会社の未来を左右する非常に重要な知識です。
自社株の相続問題とは?
中小企業の多くは、社長が会社の株式の100%を所有しています(社長=株主)。この「自社株」は、社長個人の立派な財産です。そして、会社の業績が良く、利益が積み上がっていくと、この自社株の評価額(価値)もどんどん上がっていきます。
会社の純資産(=株価)が1,000万円だったものが、会社の成長によって2,000万円、3,000万円と増えていくのです。これは喜ばしいことである反面、将来、社長に相続が発生した際に、後継者である息子さんなどが、この高額になった自社株を相続するために、莫大な相続税を支払わなければならないという問題を引き起こします。
自社株は、現金のようにすぐに換金できるものではありません。それなのに、相続税は現金で納めなければならないため、後継者が納税資金を用意できずに困窮してしまうケースが後を絶たないのです。
解決策:「ホールディングス化」による相続税対策
この問題を解決するための強力な手法が、「ホールディングス(持株会社)」を設立するという方法です。
難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みは比較的シンプルです。
【従来の形】
社長(個人) →(直接所有)→ 事業会社(株式会社ミライ)
【ホールディングス化の形】
社長(個人) →(所有)→ ミライホールディングス株式会社 →(所有)→ 事業会社(株式会社ミライ)
このように、社長個人と事業会社の間に、株式を保有するためだけの会社(ホールディングス)を一層挟むのです。社長は、事業会社の株を直接持つのではなく、ホールディングスの株を持つ形になります。
なぜ、これだけで相続税対策になるのでしょうか。
それは、相続税を計算する際の、特殊な株価評価ルールに秘密があります。
仮に、事業会社の株価が1,000万円から2,000万円に値上がりしたとします。
- 直接所有の場合:社長の財産は、そのまま2,000万円として評価され、相続税が計算されます。
- ホールディングス化の場合:社長が亡くなった際、ホールディングスが持つ事業会社の株価も時価評価されますが、その際に、値上がりした利益部分(1,000万円)に対して、37%を控除して評価してよいというルールがあるのです。
つまり、値上がりした1,000万円は、1,000万円ではなく、63%である630万円として評価されます。その結果、ホールディングスの株価は、当初の1,000万円と合わせて1,630万円として評価されることになります。
2,000万円 → 1,630万円
たった一層、会社を挟むだけで、相続財産の評価額を370万円も圧縮することができたのです。会社の規模が大きくなり、利益が積み上がれば積み上がるほど、この効果は絶大なものになります。
これは、あくまで単純化したモデルですが、ホールディングス化が強力な相続税対策になるという仕組みを、ぜひご理解ください。会社の純資産が増え続け、将来の事業承継に不安を感じている経営者の方は、一度専門家に相談してみることを強くおすすめします。
まとめ:資産の所有方法は、あなたの会社の未来を映す鏡
今回は、経営者が所有する資産を「個人」と「法人」のどちらで持つべきか、というテーマについて、車、不動産、自社株という3つの視点から詳しく解説しました。
最後に、本日の重要なポイントをまとめます。
- 車や自宅は、法人名義で所有(または賃貸・リース)することで、経費計上のメリットを最大限に享受できます。
- 不動産を法人で所有する場合は、メリットが大きい反面、将来の相続まで見据えた「出口戦略」を必ず考えておく必要があります。
- そもそも「所有しない」という選択肢も、リスクヘッジとライフスタイルの自由度を高める上で非常に有効な戦略です。
- 会社の利益が増え続けると、自社株の評価額が将来の相続税問題に直結します。その対策として「ホールディングス化」は極めて強力な手法です。
資産の所有方法をどうするかは、単なる節税テクニックの話ではありません。あなたのライフプラン、そして会社の事業承継計画まで含めた、長期的な経営戦略そのものです。
ご自身の状況、そして会社の未来をどう描きたいのかをじっくりと考え、それぞれのメリット・デメリットを比較検討した上で、最適な選択をしてください。もし判断に迷う場合は、信頼できる税理士などの専門家に相談することも忘れないようにしましょう。
正しい知識が、あなたの資産と会社の未来を守る最強の盾となるのです。