「会社の業績をなんとかしたい…」経営者であれば誰しもが抱える悩みです。そして、その解決策として真っ先に思い浮かぶのが「売上を増やすこと」ではないでしょうか。しかし、ここに大きな落とし穴が潜んでいる可能性があります。
経営改善において、売上増加よりも優先すべきは「経費削減」です。
「売上を10倍に増やしたのに、結果は大赤字…」こんな悲劇は、実は多くの企業で起こり得ることなのです。売上という表面的な数字だけを追い求め、利益構造やコスト管理を疎かにした結果、かえって資金繰りが悪化し、最悪の場合、倒産の危機に瀕してしまうことも少なくありません。
では、一体何から手をつければ良いのでしょうか?
今回は、経営改善を成功に導くための正しいアプローチ方法を、5つの具体的なポイントに絞って徹底解説します。経営者の方、そしてこれから法人化を目指す個人事業主の方は、手遅れになる前にぜひ本記事を参考に、黒字化への確実な一歩を踏み出してください。
なぜ売上アップより経費削減が先なのか?
多くの中小企業経営者が、「売上が増えれば全て解決する」という幻想を抱きがちです。年商3,000万円の会社も、1億円の会社も、10億円の会社も、業績が悪化するとまず売上アップに奔走します。しかし、年商規模と経営状態の良し悪しは、必ずしも比例しません。売上を増やしても、根本的な問題が解決していなければ、ザルで水をすくうようなもの。むしろ、売上増に伴う運転資金の増加や管理コストの増大で、状況が悪化することさえあるのです。
だからこそ、まず取り組むべきは「経費削減」。自社の足元を見つめ直し、無駄を徹底的に排除することで、利益体質を強化することが先決です。その上で売上増加に取り組めば、増やした売上が確実に利益として残り、強固な経営基盤を築くことができるのです。
それでは、具体的な経営改善の5つのステップを見ていきましょう。
ステップ1:コスト構造の徹底的な見直し – 削るべき経費、増やすべき経費
経営改善の第一歩は、コスト構造のメス入れです。しかし、これは単に「経費を減らせば良い」という短絡的な話ではありません。「無駄な経費は徹底的に削り、将来の利益につながる経費は戦略的に増やす」というメリハリが重要になります。
1. 無駄な経費の洗い出しと削減
何が無駄な経費なのでしょうか?判断基準はただ一つ。「その経費は、会社の収益に貢献しているか?」です。この視点で全ての経費を見直してください。支出したお金が、将来的に利益として会社に戻ってくるのであれば、それは無駄ではありません。しかし、ただ使うだけで何のリターンも生まない経費は、削減対象です。
例えば、
- 効果の薄い広告宣伝費: 費用対効果を検証し、効果測定できないものや成果の出ていないものは見直しましょう。
- 過度な接待交際費: 単なる付き合いや個人的な遊興費は論外です。後述しますが、戦略的な交際費は必要ですが、目的のない支出は削減します。
- 社長の個人的な趣味に近い支出: 高級車やブランド品など、会社の収益に直接結びつかないものは、会社の経費ではなく個人で負担すべきです。
- 利用頻度の低いサブスクリプションサービス: 定期的に見直し、不要なものは解約しましょう。
これらの無駄な経費を徹底的に削減することで、利益を確保し、経営の健全化を図ります。
2. 将来の利益につながる経費への投資
一方で、将来的に会社に利益をもたらす可能性のある経費は、むしろ積極的に投資すべきです。
- 人材育成・研修費: 従業員のスキルアップは、長期的に見て会社の生産性向上や競争力強化に不可欠です。
- 研究開発費: 新しい技術や製品、サービスの開発は、将来の大きな収益源となる可能性があります。
- 戦略的な交際費: 新規顧客の開拓や既存顧客との関係強化、業界内での情報収集など、明確な目的を持った交際費は、将来の売上につながる重要な投資です。飲み会の席で大きなビジネスが決まることも珍しくありません。
- マーケティング費用: 効果測定をしっかりと行い、費用対効果の高いマーケティング施策には積極的に投資し、見込み客の獲得やブランド認知度の向上を目指しましょう。
このように、コストを見直すとは、単に切り詰めることではなく、「利益を生むための最適な資源配分」を行うことなのです。
ステップ2:顧客単価の引き上げ – 安売りからの脱却
次に重要なのが「顧客単価の引き上げ」です。同じ商品を今より高い値段で売ることができれば、その差額はそのまま利益となります。特に中小企業にとって、安易な値引きは経営を圧迫する大きな要因となります。
1. 値引き戦略の危険性
売上を増やしたい一心で、安易に値引きに走っていませんか?確かに値引きをすれば一時的に売上は増えるかもしれません。しかし、それは利益を削っているのと同じことです。100円で仕入れたものを50円で売れば、売れば売るほど赤字が膨らみます。中小企業が価格競争に巻き込まれると、体力のある大企業には到底太刀打ちできません。
2. 勇気を持った価格交渉
多くの経営者が「値上げしたらお客さんが離れてしまうのでは…」と不安に感じ、価格交渉をためらいます。しかし、それは本当にそうでしょうか?実際に交渉してみると、意外とすんなり受け入れてもらえたり、「むしろ安すぎて心配していた」と言われたりすることもあります。
まずは、自信を持って自社の製品やサービスの価値を伝え、価格交渉に臨んでみましょう。もちろん、そのためには製品やサービスの質を向上させたり、付加価値を高めたりする努力も必要です。しかし、恐れずに一歩踏み出すことが、利益改善の大きなきっかけとなるのです。
3. パッケージや見せ方の変更
直接的な値上げが難しい場合は、パッケージや提供方法を変えることで実質的な単価アップを図ることも可能です。例えば、
- 商品の容量を調整する(ステルス値上げ): 大手菓子メーカーなどがよく行う手法で、価格は据え置きのまま内容量を減らすことで、実質的な値上げを実現します。
- セット販売やオプションの提案: 関連商品をセットにしたり、高付加価値のオプションを用意したりすることで、顧客単価の向上を目指します。
- ブランディングによる価値向上: 商品のストーリーやこだわりを伝え、ブランドイメージを高めることで、顧客が価格以上の価値を感じるようにします。
常に「どうすれば顧客単価を上げられるか」を考え、工夫を凝らすことが重要です。
ステップ3:原価率の低減 – 仕入れと製造プロセスの見直し
原価率を下げることも、利益を増やすための直接的な手段です。原価が下がれば、その分だけ利益が増加します。
1. 仕入れ単価の見直し
長年付き合いのある仕入れ先から、惰性で仕入れを続けていませんか?もしかしたら、もっと安く仕入れられる先があるかもしれません。
- 相見積もりの徹底: 複数の仕入れ先から見積もりを取り、価格や条件を比較検討しましょう。
- 仕入れ先の新規開拓: 既存の取引先に固執せず、常に新しい仕入れ先を探す努力をしましょう。
- 交渉による単価引き下げ: 取引量や支払い条件などを交渉材料に、仕入れ単価の引き下げを試みましょう。
「面倒だから」「昔からの付き合いだから」といった理由で現状維持を続けていると、知らず知らずのうちに高いコストを払い続けている可能性があります。
2. 製造プロセスの効率化(製造業の場合)
製造業であれば、製造プロセスを見直すことでも原価削減が可能です。
- 部品点数の削減: 製品の設計を見直し、不要な部品や過剰な部品を減らすことで、材料費を削減します。
- 歩留まりの改善: 不良品の発生を抑え、材料の無駄をなくします。
- 作業工程の効率化: 無駄な作業をなくしたり、作業順序を最適化したりすることで、人件費や光熱費を削減します。
細かい改善の積み重ねが、大きな原価削減につながります。
ステップ4:利益率の高い商品・サービスへの注力
複数の商品やサービスを扱っている場合、それぞれの利益率は異なるはずです。経営資源が限られている中小企業にとっては、利益率の高い商品やサービスに注力することが、効率的に利益を上げるための鍵となります。
1. 商品・サービスごとの利益率分析
まずは、自社が扱っている全ての商品・サービスについて、正確な利益率を把握しましょう。「どの商品が一番儲かるのか」「どの商品は手間がかかる割に利益が薄いのか」を明確にすることがスタートです。
2. 利益率の高い商品へのリソース集中
分析の結果、利益率の高い商品やサービスが特定できたら、そこに営業リソースやマーケティング費用を重点的に投下します。
- 営業戦略の見直し: 利益率の高い商品を優先的に提案するように営業担当者に指示します。
- マーケティング戦略の見直し: 利益率の高い商品の魅力をアピールするような広告宣伝を行います。
- 顧客ターゲットの見直し: 利益率の高い商品を購入してくれる可能性の高い顧客層にアプローチします。
例えば飲食店であれば、原価率の高いビールよりも、原価率の低いハイボールやサワーを積極的に勧めることで、全体の利益率を向上させることができます。
3. 貢献度の低い顧客の見直し
同様に、顧客ごとにも貢献度は異なります。年に一度しか購入してくれない顧客と、毎月大量に購入してくれる優良顧客に、同じように営業リソースを割くのは非効率です。貢献度の高い優良顧客への対応を手厚くし、長期的な関係構築を目指しましょう。場合によっては、貢献度の低い顧客との取引を見直すことも検討すべきです。
ステップ5:利益構造を確立した上での売上増加
ここまでのステップでコスト構造を見直し、利益率を高める努力をしてきました。この「利益が出る体質」を確立した上で、ようやく「売上を増やす」というステップに進みます。この順番を間違えると、冒頭で述べたような「売上は増えたけど大赤字」という事態を招きかねません。
売上を増やす際にも、守るべき鉄則があります。
1. 利益率を下げずに売上を増やす
安易な値引きによって売上を増やしても意味がありません。むしろ、利益が減ってしまう可能性があります。常に利益率を意識し、「売上が増えれば、それに比例して利益も増える」という状態を維持しながら売上を拡大していくことが重要です。
2. 顧客単価のさらなる向上
ステップ2で取り組んだ顧客単価の向上を、さらに徹底します。
- アップセル・クロスセルの積極的な提案: 顧客が購入しようとしている商品よりも高額な上位商品を提案したり(アップセル)、関連商品を一緒に提案したり(クロスセル)することで、一人当たりの購入金額を増やします。
- リピート購入の促進: ポイントカードや会員制度、定期的な情報提供などを通じて、顧客の再来店・再購入を促します。
- きめ細やかな声かけ: 飲食店でグラスが空いたらすぐに声をかける、小売店でおすすめ商品を提案するなど、顧客とのコミュニケーションを密にすることで、追加購入の機会を創出します。
これらの施策を地道に実行することで、着実に売上を伸ばしていくことができます。
まとめ:経営改善は「経費削減」から始まる!
経営改善と聞くと、多くの人が売上アップという華やかな目標に目を向けがちです。しかし、本当に強固な経営基盤を築くためには、まず自社の足元を見つめ直し、徹底的な経費削減と利益構造の改善に取り組むことが不可欠です。
今回ご紹介した5つのステップは、どれも当たり前のことのように聞こえるかもしれません。しかし、これらの基本を徹底できている企業は、実はそれほど多くありません。
- コスト構造の徹底的な見直し
- 顧客単価の引き上げ
- 原価率の低減
- 利益率の高い商品・サービスへの注力
- 利益構造を確立した上での売上増加
この順番で着実に経営改善を進めていけば、売上規模が拡大しても、それに伴って確実に利益とキャッシュが残る強い会社を作り上げることができるはずです。
この記事が貴社の事業の一助になれば幸いです。