「売上は上がっているのに、なぜか手元にお金が残らない…」
「節税もしたいけれど、下手にやって資金繰りを悪化させたくない…」
会社経営において、「資金繰り」と「節税」は、多くの経営者が頭を悩ませる永遠のテーマと言えるでしょう。資金繰りが安定していなければ、どんなに利益が出ていても事業の継続は困難になりますし、一方で、納めるべき税金は少しでも賢く抑えたいと考えるのは当然のことです。
しかし、この二つは時として相反する関係にもなり得ます。例えば、過度な節税策がキャッシュフローを悪化させたり、逆に資金繰りを優先するあまり、活用できるはずの節税機会を逃してしまったりすることもあります。
この記事では、企業の生命線である「資金繰り」を安定させ、かつ合法的な範囲で「節税」も実現するための具体的なテクニックや考え方について、図解もイメージしながら、税務の専門家の視点から分かりやすく徹底解説していきます。会社のお金を守り、そして賢く増やしていくための実践的なヒントが満載です。
なぜ「利益」と「お金」は一致しないのか?資金繰りの基本を理解する
まず、多くの方が誤解しがちな「利益」と「手元のお金(キャッシュ)」の違いについて、しっかりと理解しておくことが重要です。会計上の利益が出ていても、必ずしもそれと同額の現金が会社に残っているわけではありません。
利益とお金がズレる主な要因
- 売上と入金のタイムラグ(売掛金): 商品やサービスを提供した時点で売上(利益の源泉)は計上されますが、その代金が実際に入金されるのは数ヶ月後というケースが一般的です。この未回収の代金が「売掛金」です。
- 仕入れと支払いのタイムラグ(買掛金): 商品や原材料を仕入れた時点で費用(仕入原価)が発生しますが、その支払いは後日行われることが多いです。この未払いの代金が「買掛金」です。
- 在庫の存在: 売れることを見込んで仕入れた商品や製品は、売れるまでは「在庫」として会社に滞留します。在庫は会計上資産ですが、現金ではありません。
- 減価償却費: 設備投資などで購入した固定資産の費用は、減価償却費として数年間にわたり分割して経費計上されます。減価償却費は会計上の費用ですが、その計上時点では現金の支出を伴いません(現金支出は購入時)。
- 借入金の返済: 借入金の元本返済は、経費にはなりませんが、確実に現金は減少します。
- 税金の支払い: 法人税や消費税などの税金は、利益計算後(または売上計上後)に納税するため、利益が出た時点ではまだ現金が残っていても、納税によって大きく減少します。
- 設備投資: 新たな設備投資は、将来の収益増に繋がるものですが、短期的には大きな現金支出を伴います。
これらの要因が複雑に絡み合い、会計上の利益と手元のキャッシュの間にズレが生じます。このズレを正確に把握し、管理することが「資金繰り管理」の第一歩です。
資金繰り改善の即効薬!今すぐ取り組むべき5つのテクニック
資金繰りを安定させ、会社にお金を残すためには、日々の地道な努力が不可欠です。ここでは、比較的すぐに効果が期待できる5つのテクニックをご紹介します。
テクニック1:売掛金の早期回収と管理徹底
- 「請求書は月末締めの翌月末払い」が当たり前だと思っていませんか? 回収サイト(売上計上から入金までの期間)は、短ければ短いほど資金繰りは楽になります。
- 具体的な行動:
- 請求書発行の迅速化: 売上が確定したら、できる限り早く請求書を発行しましょう。
- 回収サイトの交渉: 新規取引先はもちろん、既存の取引先に対しても、可能であれば回収サイトの短縮を交渉してみましょう。
- 入金確認の徹底と早期督促: 入金期日を過ぎた売掛金については、速やかに状況を確認し、督促を行いましょう。放置すればするほど回収は難しくなります。
- 与信管理の強化: 取引先の信用状況を定期的に確認し、与信限度額を設定するなど、貸倒れリスクを低減させましょう。
- ファクタリングの検討: 緊急時の資金調達手段として、売掛金を金融機関やファクタリング会社に買い取ってもらう「ファクタリング」も選択肢の一つです。ただし、手数料が高めなので、常用は避けるべきです。
テクニック2:在庫の圧縮と適正化
- 「在庫は資産」という言葉に安心してはいけません。 売れない在庫は、資金を寝かせ、保管コストを発生させ、最悪の場合は価値がなくなる(陳腐化・劣化)リスクも抱えています。
- 具体的な行動:
- 定期的な棚卸と在庫分析: 実際にどれだけの在庫があるのか、どの商品が売れていて、どの商品が滞留しているのかを正確に把握しましょう。ABC分析などを用いて、在庫の重要度を分類することも有効です。
- 需要予測の精度向上: 過去の販売データや市場トレンドを分析し、できるだけ正確な需要予測を行うことで、過剰在庫を防ぎます。
- 仕入れ・生産計画の見直し: 大量ロットでの一括仕入れや生産は単価を抑えられるメリットがありますが、在庫リスクも高まります。小ロットでの発注や、受注状況に応じた生産計画への切り替えも検討しましょう。
- 不良在庫の早期処分: 長期間売れ残っている在庫や、品質が劣化した在庫は、損失を覚悟してでも早期にセール販売や廃棄処分を行い、少しでも現金化を図り、保管スペースの無駄をなくしましょう。
テクニック3:買掛金の支払サイトの最適化
- 売掛金の回収を早めるのと同様に、買掛金の支払サイトをできるだけ長くすることも、資金繰り改善に繋がります。
- 具体的な行動:
- 仕入れ先との交渉: 新規の仕入れ先はもちろん、既存の仕入れ先に対しても、無理のない範囲で支払サイトの延長を交渉してみましょう。
- 手形支払いの検討(慎重に): 支払手形を利用すれば、実際の現金支出を数ヶ月先延ばしにできますが、手形割引のコストや、不渡りのリスクも伴うため、安易な利用は禁物です。
- クレジットカードの活用: 仕入れ代金の支払いに法人クレジットカードを利用し、カードの支払日までの期間、資金を手元に留めておくという方法もあります。
テクニック4:不要な経費の徹底的な削減
- 「チリも積もれば山となる」。一つ一つは少額でも、日々の無駄な経費が積み重なると、大きな金額になります。聖域を設けず、あらゆる経費項目を見直しましょう。
- 具体的な行動:
- 固定費の見直し:
- 家賃: より賃料の安い物件への移転、オフィススペースの縮小、リモートワークの導入などを検討。
- リース料: 契約内容を見直し、不要なリースの解約や、より有利な条件への切り替えを検討。
- 保険料: 保障内容が過剰でないか、より安い保険料のプランがないか見直し。
- 変動費の削減:
- 水道光熱費: 省エネ設備の導入、節電・節水の徹底。
- 通信費: 契約プランの見直し、不要なオプションの解約。
- 消耗品費: ペーパーレス化の推進、購入先の集約による単価引き下げ。
- 交際費: 本当に必要な交際費か、費用対効果を厳しく見極める。
- 業務効率化による間接的なコスト削減: ITツールの導入、業務プロセスの見直し、アウトソーシングの活用など。
- 固定費の見直し:
テクニック5:資金繰り表の作成と活用
- これは即効薬というより、資金繰り管理の「基本のき」ですが、徹底することで大きな効果が期待できます。
- 具体的な行動:
- 過去の実績に基づいた正確な作成: まずは過去数ヶ月の現金の収入と支出を詳細に記録し、資金繰りのパターンを把握します。
- 将来予測の精度向上: 売上予測、仕入れ・経費の支払い予定、借入金の返済予定、税金の納税予定などを盛り込み、少なくとも3ヶ月~半年先までの資金繰りを予測します。
- 定期的な更新と実績との比較: 毎月、資金繰り表を更新し、予測と実績の差異を分析します。差異が大きい場合は、その原因を究明し、予測の精度を高めていきます。
- 資金ショートの早期発見と対策: 資金繰り表を活用することで、将来の資金不足を早期に察知し、金融機関への融資相談や、売上増加策、経費削減策などの対策を事前に講じることができます。
節税の基本と賢いテクニック:お金を残しつつ税負担を軽減する
節税は、多くの経営者が関心を持つテーマですが、重要なのは「合法的な範囲で、かつ会社の資金繰りや成長を妨げない方法」を選択することです。過度な節税は、かえって会社の財務体質を弱めたり、税務調査で指摘を受けたりするリスクがあります。
節税の基本的な考え方
所得税や法人税は、原則として「利益(所得)」に対して課税されます。したがって、節税の基本的なアプローチは以下の2つです。
- 収入を減らす(これは本末転倒なので通常は選択しない)
- 経費を増やす
- 所得控除・税額控除を最大限に活用する
ここでは、主に2と3に関連する、資金繰りにも配慮した賢い節税テクニックをご紹介します。
テクニック1:経費を漏れなく、かつ適正に計上する
- 「これは経費になるかな?」と迷ったら、まず記録! 事業に関連する支出であれば、経費として認められる可能性があります。
- 具体的な行動:
- 家事按分の適切な実施: 個人事業主や自宅兼事務所の法人の場合、家賃、水道光熱費、通信費、車両費など、事業と私用の両方に関わる費用は、合理的な基準で按分し、事業用部分を経費として計上しましょう。按分基準の根拠資料(面積、使用時間、走行距離の記録など)は必ず保管します。
- 減価償却費の適切な計上: 10万円以上の固定資産(パソコン、車、機械など)は、法定耐用年数に応じて減価償却費として毎期経費計上します。償却方法(定額法・定率法)の選択も、節税や利益計画に影響を与えるため、税理士と相談して決定しましょう。
- 少額減価償却資産の特例の活用(中小企業者等): 取得価額30万円未満の減価償却資産について、年間合計300万円まで一括で経費計上できる制度です。購入年度の利益を大きく圧縮できます。
- 領収書がない場合の対応: 領収書をもらい忘れたり紛失したりした場合でも、出金伝票を作成したり、クレジットカードの利用明細や銀行振込の控えなどを活用したりすることで、経費として認められる場合があります。ただし、支出の事実と事業関連性を証明できるようにしておくことが重要です。
テクニック2:所得控除・税額控除をフル活用する
- 所得控除は課税対象となる所得金額を減らし、税額控除は計算された税額から直接差し引かれるため、節税効果が非常に高い制度です。
- 具体的な行動(個人事業主・法人役員向け):
- 小規模企業共済への加入: 掛金が全額所得控除となり、将来の退職金準備と節税を両立できます。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)への加入: 掛金が全額所得控除、運用益も非課税、受取時にも税制優遇があります。
- 生命保険料控除・地震保険料控除: 支払った保険料に応じて一定額が所得控除されます。
- 医療費控除・セルフメディケーション税制: 年間の医療費や特定の市販薬の購入額が一定額を超えた場合に適用されます。
- ふるさと納税(寄付金控除): 実質2,000円の負担で返礼品を受け取りながら、所得税・住民税の控除が受けられます。
- (法人の場合)各種税額控除制度の活用: 中小企業向けの投資促進税制や、雇用促進税制など、特定の設備投資や雇用増加などを行った場合に、法人税額から直接控除できる制度があります。適用要件が複雑な場合が多いため、税理士への確認が不可欠です。
テクニック3:利益の繰り延べ(キャッシュアウトを伴わない、または将来回収可能なもの)
- これは厳密な意味での「節税(税金の総額を減らす)」とは異なりますが、税金の支払時期を遅らせたり、将来の資金需要に備えたりする効果があります。
- 具体的な行動:
- 経営セーフティ共済(倒産防止共済)への加入: 掛金(月額最高20万円、総額800万円まで)は全額必要経費(法人の場合は損金)として算入できます。取引先の倒産時に無担保・無保証人で借入れができるほか、40ヶ月以上加入していれば解約時に掛金が全額戻ってきます(その際は雑収入として課税)。
- 役員退職金の準備(法人): 生命保険などを活用し、将来の役員退職金の原資を計画的に準備することで、保険料支払い時には損金算入(一部または全部)、退職金支払い時には退職所得控除が適用されるなど、税負担を平準化・軽減する効果が期待できます。ただし、保険商品の選定や経理処理は複雑なため、専門家のアドバイスが必須です。
- 決算賞与の支給(法人): 利益が出た年度に、従業員や役員に対して決算賞与を支給することで、利益を圧縮し、法人税等の負担を軽減できます。役員賞与の場合は、「事前確定届出給与」などの手続きが必要です。
節税における注意点:やってはいけないこと
- 脱税行為は厳禁: 売上の隠蔽、架空経費の計上、個人的な支出の経費化などは、悪質な脱税行為であり、重加算税や刑事罰の対象となります。
- 節税目的だけの不必要な支出: 「税金を払うくらいなら何か買おう」という安易な考えで、事業に必要のないものを購入するのは、結果的に手元のキャッシュを減らすだけであり、本末転倒です。
- 実態と乖離した過度な節税スキームの利用: 一部のコンサルタントなどが推奨する、実態とかけ離れた複雑な節税スキームは、税務調査で否認されるリスクが高いです。
資金繰りと節税のバランス:どちらを優先すべきか?
多くの場合、「資金繰りの安定」が「節税」よりも優先されるべきです。どんなに節税ができても、会社が資金ショートを起こして倒産してしまっては元も子もありません。
ただし、これは二者択一の問題ではなく、両者のバランスを取りながら、会社にとって最適な着地点を見つけることが重要です。
- 資金繰りに余裕がある場合: 積極的に活用できる節税策を検討し、将来への投資や内部留保の充実を図る。
- 資金繰りが厳しい場合: まずは資金繰り改善策(売上増加、コスト削減、借入条件の見直しなど)に注力し、キャッシュフローを安定させることを最優先とする。その上で、キャッシュアウトを伴わない、あるいは最小限に抑えられる節税策を検討する。
税理士との連携が成功の鍵
資金繰り管理と節税対策は、専門的な知識と経験が求められる分野です。日頃から顧問税理士と密にコミュニケーションを取り、自社の経営状況や目標を共有し、適切なアドバイスを受けることが、最適なバランスを見つける上で非常に重要です。
税理士は、
- 正確な月次決算と資金繰り表の作成支援
- 納税予測と納税資金準備のアドバイス
- 活用できる節税制度の提案と実行支援
- 金融機関との交渉サポート
など、多岐にわたるサポートを提供してくれます。
まとめ:攻め(節税)と守り(資金繰り)を両立し、盤石な経営基盤を築こう!
会社経営における「お金」の問題は、避けて通ることができません。資金繰りの安定は、事業継続のための最低条件であり、その上で、賢い節税策を講じることで、会社により多くのお金を残し、将来の成長へと繋げていくことができます。
資金繰り改善と節税の両立を実現するためのステップ
- 「利益」と「お金」の違いを正しく理解する。
- 日々の資金繰り管理を徹底し、将来のキャッシュフローを予測する。
- 売掛金回収、在庫管理、買掛金支払いの最適化を図る。
- 無駄な経費を削減し、コスト構造を見直す。
- 合法的な範囲で、利用できる所得控除・税額控除を最大限に活用する。
- 節税目的だけの安易な支出は避け、事業への貢献度を常に意識する。
- 資金繰りと節税のバランスを考慮し、自社にとって最適な戦略を選択する。
- 顧問税理士と緊密に連携し、専門的なアドバイスを積極的に活用する。
「攻め」の節税と「守り」の資金繰り。この両輪をバランス良く回していくことが、変化の激しい時代を乗り越え、会社を持続的に成長させていくための鍵となります。この記事が、皆様の会社経営における財務戦略の一助となれば幸いです。