【節税の罠】良かれと思ったその対策が、あなたの会社の資金繰りを悪化させる5つの危険な節税術

節税・経費

「利益が出そうだから、節税のために経費を使わなければ…」
「節税になるって聞いたから、この保険に加入した方がいいのかな?」
「とにかく税金を1円でも安くしたい!」

会社の経営者であれば、汗水流して稼いだ大切な利益から、多額の税金が引かれていくことに、少なからず抵抗を感じるのは当然のことかもしれません。そして、「節税」という言葉には、抗いがたい魅力があるのも事実です。

しかし、その 「節税」という目的が、時として経営判断を誤らせ、かえって会社の体力を奪い、最も重要な「資金繰り」を悪化させる危険な罠 となることを、あなたはご存知でしょうか。

この記事では、数多くの企業の財務を見てきた専門家の視点から、多くの中小企業経営者が陥りがちな、「節税」の名の下に行われる、実は危険な5つの節税対策について、そのリスクと本質を徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と健全な経営判断の軸を手に入れることができます。

  • なぜ「節税のための支出」が、結果的に会社の現金を減らすことになるのか、その根本的なカラクリを理解できます。
  • 「出張旅費規程」が、使い方を間違えると、社員の不満と無駄なコストを生むだけの制度になるリスクがわかります。
  • 「家賃の年払い」という節税テクニックが、なぜ長期的に見て資金繰りを圧迫するのかを学べます。
  • 節税商品として勧められがちな「養老保険」に潜む、大きなコストと解約できないリスクを知ることができます。
  • 日本の伝統である「お中元」が、現代のビジネスにおいて、いかに非効率なコストになっているかに気づくことができます。
  • 社員のための退職金制度「中退共」が、場合によっては会社の大きな負担となり得る危険性を理解できます。

本当の「守るべきもの」は、目先の税金の額ではありません。それは、会社の血液であり、生命線である 「現金(キャッシュ)」 です。この記事が、「節税」という言葉の魔力からあなたを解き放ち、会社の未来を真に豊かにするための、賢明な判断の一助となることを願っています。

大前提:「節税のための支出」は、本末転倒である

まず、すべての節税対策を考える上での、最も重要な大原則をお伝えします。
それは、 「節税のために、不要な支出を増やすことは、本末転倒である」 ということです。

考えてみてください。
法人税の税率が約30%だとします。
節税のために、100万円の経費を使ったとします。

  • 節税できる金額:100万円 × 30% = 30万円
  • 会社から出ていく現金100万円
  • 結果:30万円の税金を払わずに済んだ代わりに、会社のお金は70万円減っています。

税金を払いたくない、という気持ちは分かります。しかし、そのために必要のないものにお金を使い、会社の貴重な現金を減らしてしまうのは、賢い経営判断とは到底言えません。

節税とは、 「どうせ支払わなければならない必要不可欠な経費を、税務上最も有利な形で計上する」 ことであり、「税金を減らすためにお金を使う」ことではないのです。

この大原則を忘れてしまうと、これからご紹介するような、多くの「節税の罠」に陥ってしまうことになるのです。

資金繰りを悪化させる「5つの危険な節税術」

それでは、良かれと思って導入したものの、結果的に会社の資金繰りを悪化させかねない、5つの具体的な節税対策を見ていきましょう。

危険な節税①:「出張旅費規程」の安易な導入と、不公平感の増大

出張旅費規程は、正しく運用すれば非常に有効な節税策です。出張の際に、宿泊費や交通費といった実費とは別に、規程に基づいて「日当」を支給することで、

  • 会社側:日当を「旅費交通費」として全額経費にできる。
  • 受け取る役員・社員側:日当は給与とは見なされず、所得税がかからない。

という、双方にとってメリットのある制度です。

【どこに罠があるのか?】
この制度の罠は、 「社長だけが得をする」 という状況を生み出しやすい点にあります。

節税に熱心な社長が、自分だけが高額な日当(例:国内出張1日2万円)を受け取れるような規程を作成したとします。しかし、一般の社員の出張には、日当が全く支給されないか、ごく少額であったとしたら、どうなるでしょうか。

社員たちの間には、 「社長だけが良い思いをしている」「この会社は不公平だ」 という、強い不満と不信感が生まれます。

この不公平感を解消するために、「では、社員にも同じように手厚い日当を支給しよう」と考えたとします。しかし、出張の多い会社であれば、その人件費の増加は、会社の資金繰りを大きく圧迫する新たな要因となり得ます。

さらに厄介なのは、一度定めた旅費規程(特に日当の額)を、後から引き下げるのは非常に難しいという点です。賃金の引き下げと同様に、社員の不利益になる変更には、原則として社員の同意が必要です。日当の減額は、社員のモチベーション低下に直結するため、簡単には実行できません。

節税目的で安易に導入した旅費規程が、社員の不満を生み、会社の固定費を無駄に増やし、簡単にはやめられない「負の遺産」となってしまう。これが、出張旅費規程に潜む危険性なのです。

危険な節税②:「家賃の年払い」による、キャッシュフローの悪化

決算月の直前に、翌年1年分のオフィスの家賃を 「年払い」 することで、その支払額を当期の経費として計上し、利益を圧縮するという節税テクニックがあります。

例えば、月50万円の家賃を、決算月に1年分の600万円を前払いすれば、その期に600万円の経費が生まれ、法人税を大きく減らすことができます。

【どこに罠があるのか?】
この方法は、一見すると効果的な節税に見えますが、長期的な視点で見ると、会社の資金繰りを著しく悪化させる危険性をはらんでいます。

なぜなら、この「年払い」という行為は、一度始めると、毎年繰り返さなければならなくなるからです。

  • 1年目:決算月に600万円を支払い、節税に成功する。
  • 2年目:決算月になると、また次の1年分の家賃600万円を支払わなければならない。もし支払わなければ、その期の経費が減り、前年に節税した分が、結局2年目の利益として課税されることになる。

つまり、目先の節税のために、毎年決算月にまとまった現金を支出し続けなければならないという、資金繰りの悪循環に陥ってしまうのです。

これは、同じく利益の繰り延べに使われる「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」と比較すると、そのリスクは明らかです。倒産防止共済は、掛金が積み立てられていき、40ヶ月以上経過すれば、解約時に全額が戻ってきます。つまり、 「回収の見込みがある支出」 です。

しかし、家賃の年払いは、単なる費用の前払いに過ぎず、そのお金が戻ってくることはありません。 「回収の見込みがない、永続的な支出」 なのです。

目先の税金を減らすためだけに、会社の貴重な現金を、回収不能な形で社外に流出させ続ける。これが、いかに危険な行為であるか、お分かりいただけるかと思います。

危険な節税③:「養老保険」による、高コストと解約不能リスク

法人保険の中には、「節税しながら、社員の福利厚生(退職金準備)もできる」という謳い文句で、保険会社から 「養老保険」 を勧められることがあります。

養老保険は、死亡保障と貯蓄機能がセットになった保険で、一定の要件(役員・従業員の全員加入など)を満たせば、支払った保険料の半分を経費にできるという税務上のメリットがあります。

【どこに罠があるのか?】
この「全員加入」という要件が、将来、会社の首を絞めることになります。

  • 高額な保険料:貯蓄性がある分、保険料は非常に高額です。従業員全員に加入させると、毎月の保険料負担は相当なものになり、会社の資金繰りを圧迫します。
  • 増え続けるコスト:途中で従業員が増えれば、その都度、新しい保険に加入しなければならず、保険料負担は雪だるま式に増え続けます。
  • 解約できないリスク:そして、最も恐ろしいのが、会社の業績が悪化し、保険料の支払いが苦しくなっても、安易に解約することができない点です。もし、一部の従業員の分だけを解約してしまえば、「全員加入」の要件から外れ、過去に経費として処理した保険料の全額が、さかのぼって利益として認定され、多額の追徴課税が発生するという、最悪のシナリオが待っているのです。

節税目的で加入した保険が、やめたくてもやめられない「負債」と化し、会社の資金繰りを蝕み続ける。これが、養老保険に潜む最大の罠です。保険会社の営業マンから提供される情報は、彼らにとって都合の良い情報に偏っている可能性があります。経営者は、その裏にあるリスクまで含めて、冷静に判断する必要があります。

危険な節税④:「お中元・お歳暮」という、効果の薄い伝統的支出

お中元やお歳暮は、日頃の感謝を伝えるための、日本の美しい伝統文化です。ビジネスの世界でも、多くの会社が取引先に対して、これらの贈答品を送っています。これも、もちろん会社の経費として計上できます。

【どこに罠があるのか?】
問題は、 「その支出が、本当にビジネス上の効果を生んでいるのか?」 という点です。

現代のビジネスにおいて、お中元やお歳暮の有無が、取引関係の継続や、新規契約の獲得に、どれほどの実質的な影響を与えるでしょうか。答えは、 「ほとんど影響しない」 というのが現実でしょう。

ビジネスにおける取引先との関係は、結局のところ、仕事の質、成果、そして信頼によって決まるべきものです。

もし、あなたが本当に取引先に感謝の気持ちを伝えたいのであれば、

  • 直接会って打ち合わせをする際に、少し良い手土産を持参する。
  • 相手の会社の記念日などに、お祝いの花を贈る。

といった、よりパーソナルで、気持ちが伝わりやすい方法の方が、はるかに効果的です。

多くの取引先に、画一的なお中元やお歳暮を、毎年惰性で送り続けるコストと手間。それは、もはや効果の薄い、無駄な支出になっている可能性が高いのではないでしょうか。思い切ってやめてみることで、かなりの経費を削減できるはずです。

危険な節税⑤:「中退共(中小企業退職金共済)」への安易な加入

中退共は、国が運営する、中小企業のための退職金制度です。会社が毎月掛金を支払うことで、従業員が退職する際に、国から直接退職金が支払われる仕組みです。会社が支払う掛金は、全額が経費になります。

社員の福利厚生を充実させ、定着率を高めるための、非常に優れた制度であることは間違いありません。

【どこに罠があるのか?】
この制度の危険性は、その 「不可逆性」 にあります。

  • 一度加入すると、会社の負担は確定する:中退共に加入した時点で、将来、その社員に退職金を支払うという、会社の「債務」が確定します。
  • 円満退職でなければ、無駄なコストになる可能性:この制度は、長年勤め上げてくれた社員への功労に報いるためのものです。しかし、現実には、数年で辞めてしまう社員も少なくありません。短期間で退職した社員のために払い続けた掛金は、結果として、会社の意図とは異なる、無駄な支出となってしまう可能性があります。
  • やめるには、社員の同意が必要:そして、最大のデメリットが、一度加入した中退共を、会社の都合で一方的にやめることはできないという点です。制度を廃止するには、従業員の過半数の同意が必要となり、それは実質的に不可能に近いです。

会社の業績が良い時には、良かれと思って導入した退職金制度が、業績が悪化した際には、固定費として重くのしかかり、簡単にはやめることもできない。これが、中退共に潜むリスクなのです。導入は、会社の長期的な支払い能力を慎重に見極めた上で、判断すべきです。

まとめ:「節税」の前に、会社の「現金」を守れ

今回は、良かれと思って行った節税対策が、かえって会社の資金繰りを悪化させてしまう、5つの危険なケースについて解説しました。

  1. 出張旅費規程:社長だけが得をする制度は、社員の不満を生む。
  2. 家賃の年払い:目先の節税と引き換えに、毎年の資金繰りを圧迫する。
  3. 養老保険:高額な保険料と、やめたくてもやめられない解約不能リスクがある。
  4. お中元・お歳暮:もはや効果の薄い、伝統的な無駄遣いになっている可能性が高い。
  5. 中退共:一度始めるとやめられない、永続的な固定費となるリスクがある。

これらの事例に共通しているのは、「税金を減らす」という目先の利益のために、「会社の現金を減らす」という、より大きなリスクを冒してしまっている点です。

経営者が本当に守るべきものは、何でしょうか。それは、会社の血液であり、あらゆる事業活動の源泉である 「現金(キャッシュ)」 に他なりません。現金さえあれば、会社は存続できます。現金さえあれば、新しい挑戦ができます。

節税は、確かに重要です。しかし、それは、会社の現金を潤沢に保つ、という大目的のための、一つの手段に過ぎません。

ぜひ、あなたの会社で行っている節税対策を、今一度、「本当に会社の現金を増やすことに繋がっているか?」という視点で見直してみてください。その冷静な判断が、あなたの会社を、目先の利益に惑わされない、真に強い企業へと導いてくれるはずです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。