【法人税増税に備えよ】2024年税制改正で中小企業が今すぐやるべき5つの対策

節税・経費

「最近、法人税が上がるというニュースを聞いたけど、うちの会社にどんな影響があるのだろう?」
「税制改正で損をしないために、今からできる対策はないだろうか?」
「個人事業主のままがいいのか、法人化すべきか、今後の税金の動向を踏まえて判断したい」

会社の経営者にとって、税制の動向は事業の利益や資金繰りに直結する、決して無視できない重要なテーマです。そして今、日本の税制は大きな転換点を迎えようとしています。その中心にあるのが、 「法人税率の引き上げ」 という議論です。

防衛費の増額などを背景に、将来的な法人税の増税は避けられない流れとなりつつあります。もちろん、これと同時に「賃上げ」や「設備投資」を行った企業に対する減税措置(税額控除)も拡充される見込みですが、これは裏を返せば、 「積極的な投資を行わない多くの中小企業にとっては、実質的な増税になる」 ということを意味します。

では、この大きな変化の波の中で、中小企業の経営者は、会社の利益と資産をどう守っていけばよいのでしょうか?

この記事では、今後の税制改正、特に「法人税率のアップ」という大きな流れを見据えて、中小企業の経営者が今から考えておくべき具体的な5つの対策について、専門家の視点から徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。

  • 「交際費1万円基準」の改正が、実は多くの中小企業に影響が少ない本当の理由がわかります。
  • 法人税率アップの時代に、「長期の繰延べ節税」がなぜ危険なのかを理解できます。
  • 法人を複数設立する「法人分割」による節税メリットと、その具体的な活用法を学べます。
  • 法人化を急ぐべきではない理由と、「個人事業+マイクロ法人」という最強の組み合わせを知ることができます。
  • 社会保険料の負担増に対応するための、「業務委託」という組織戦略の有効性を理解できます。

税制改正は、ただ受け入れるものではありません。その変化を先読みし、適切に対策を講じることで、むしろ会社の財務をより強固にするチャンスとすることも可能です。この記事を参考に、あなたの会社に最適な未来戦略を描いていきましょう。

ウォーミングアップ:交際費「1万円基準」改正のウソとホント

本題に入る前に、直近の税制改正で大きな話題となった「交際費」のルール変更について、その本質を正しく理解しておきましょう。

2024年度の税制改正で、飲食を伴う接待などにかかる費用について、1人あたり1万円以下の支出であれば、税法上の「交際費」から除外し、「会議費」などとして全額損金(経費)にできる、というルールに変更される見込みです。(従来は5,000円基準)

「接待に使えるお金が倍になる!」と喜ぶ声も聞かれますが、実は、この改正は多くの中小企業にとって、ほとんど影響がありません。

なぜなら、資本金1億円以下の中小企業には、もともと 「年間800万円までの交際費は、全額損金として認められる」 という非常に有利な特例があるからです。

考えてみてください。1人あたり1万円の飲食費を使ったとしても、年間の交際費の合計額が800万円の枠内に収まっているのであれば、5,000円基準だろうが1万円基準だろうが、結果は同じです。どちらにせよ、全額が経費として認められます。

では、この改正で一番得をするのは誰でしょうか。それは、交際費の年間予算が800万円をはるかに超えるような、大企業や一部の大規模な中小企業です。彼らにとっては、800万円の枠とは別で、1人1万円までの飲食費を経費にできる枠が生まれるため、大きな節税メリットが生まれます。

多くの中小企業にとっては、この改正は「増税ではない、嬉しいニュース」ではありますが、実質的なインパクトは小さい、ということをまず理解しておきましょう。

法人税増税時代に備える、5つの具体的な対策

ここからが本題です。将来的な法人税率の引き上げという大きな流れの中で、私たちはどのような対策を講じるべきなのでしょうか。5つの具体的な戦略をご紹介します。

対策①:「長期の繰延べ節税」のリスクを再認識する

会社の利益が出た際の節税手法として、「利益の繰延べ」という方法があります。これは、保険商品やリースなどを活用して、今期の利益を将来に先送りすることで、目先の法人税負担を軽減するテクニックです。

その代表格が、航空機や船舶の所有権の一部を購入する 「オペレーティング・リース」 です。初年度に支払額の8割程度を損金にでき、数年~10年後にそのお金が戻ってくるという仕組みで、大きな利益が出た際の節税策として人気があります。

しかし、将来的に法人税率が上がることが予想される局面において、この「長期の繰延べ節税」は非常に危険な選択となり得ます。

【なぜ危険なのか?シミュレーションで解説】

  • 現在(法人税率33%と仮定)
    • オペレーティング・リースに5,000万円を出資し、全額を損金にできたとします。
    • 節税できる金額:5,000万円 × 33% = 1,650万円
  • 10年後(法人税率が38%に上昇したと仮定)
    • リース期間が満了し、出資金5,000万円が会社に戻ってきます。
    • この戻り金は、その期の「利益(益金)」として扱われます。
    • 支払う法人税:5,000万円 × 38% = 1,900万円

いかがでしょうか。節税したはずが、出口(返戻時)の税率が上がったことで、差し引き250万円(1,900万円 – 1,650万円)も損をしてしまう結果になったのです。

税率が上がる局面では、利益を将来に繰り延べることは、かえって納税額を増やすリスクをはらんでいます。特に、オペレーティング・リースのような10年単位の長期にわたる繰延べ商品は、将来の税率変動リスクを直接的に受けるため、慎重な判断が必要です。

もし繰延べ節税を行うのであれば、数年以内に回収できるような、短期のサイクルで回せる商品を選択するのが賢明でしょう。

対策②:法人を複数設立し「中小企業の低い税率」を最大限活用する

法人税の税率は一律ではありません。資本金1億円以下の中小企業には、利益の額に応じて税率が変わる、以下のような優遇措置が設けられています。

  • 年間所得800万円以下の部分:低い軽減税率(約23%前後)が適用
  • 年間所得800万円超の部分:通常の税率(約33%前後)が適用

将来、法人税のベースが上がったとしても、この「中小企業の800万円までの所得に対する軽減税率」という特例は、維持される可能性が高いと考えられます。

であれば、この有利な「低い税率の枠」を最大限に活用することが、有効な節税戦略となります。その具体的な方法が、 「法人を複数設立する(法人分割)」 という考え方です。

【例:年間利益1,600万円の会社の場合】

  • 1社の場合
    • 800万円部分 → 低い税率(約23%)
    • 残り800万円部分 → 高い税率(約33%)
  • 2社に分割し、それぞれ利益800万円ずつにした場合
    • A社の800万円 → 低い税率(約23%)
    • B社の800万円 → 低い税率(約23%)

このように、1社で高い税率が適用される部分を、別の法人に分散させることで、会社全体として低い税率の恩恵を最大限に受けることができ、結果として大きな節税に繋がるのです。

利益が恒常的に800万円を大きく超えている企業は、事業内容に応じて法人を分割することを検討する価値は十分にあります。

対策③:「法人化」を急がず、「個人事業」のメリットを見直す

法人税率が上がるのであれば、そもそも 「法人」という枠組みにこだわる必要はないのではないか? という発想の転換も重要です。

これまで、個人事業主は、所得が増えて所得税率が高くなると、「法人成り」して法人税の低い税率の恩恵を受けるのがセオリーでした。

しかし、その法人税の税率自体が、所得税の税率に近づいていくのであれば、あえて手間やコストのかかる法人を設立するメリットは薄れていきます。

法人税が増税されるということは、相対的に 「個人事業主」のままでいることの価値が高まる ことを意味します。個人事業であれば、法人税増税の影響を一切受けることはありません。

「いつかは法人化して、代表取締役という肩書を…」と考えている個人事業主の方も多いかもしれませんが、今後の税制の動向次第では、焦って法人化する必要はない、ということも念頭に置いておきましょう。

対策④:「個人事業+マイクロ法人」の二刀流で社会保険料を最適化する

とはいえ、法人には「法人ならでは」の節税メリットが存在するのも事実です。例えば、

  • 役員社宅:自宅の家賃の大部分を経費にできる。
  • 出張旅費規程:出張の際に、非課税の日当を支給できる。
  • 社会保険料のコントロール:役員報酬の設定次第で、社会保険料を最適化できる。

これらのメリットを享受しつつ、法人税増税のリスクを回避するための最強の組み合わせが、 「個人事業+マイクロ法人」 という二刀流の戦略です。

  • 個人事業:メインの事業を行い、利益の大部分はこちらで上げる。
  • マイクロ法人:自分一人の法人(社長兼従業員)を設立し、こちらではほとんど利益を出さない。

このマイクロ法人では、自分に対してごく少額の役員報酬(例:月5万円程度)を支払い、その報酬に対して社会保険に加入します。こうすることで、個人事業主として国民健康保険に加入する場合に比べて、社会保険料の負担を劇的に下げることができるのです。

そして、社宅や旅費規程といった法人ならではの節税メリットは、このマイクロ法人側で適用します。

利益は個人事業で上げ(法人税増税の影響なし)、節税と社会保険料対策はマイクロ法人で行う。この二刀流戦略は、今後の時代における、個人事業主の最適解の一つと言えるかもしれません。

対策⑤:社員雇用を見直し「業務委託」への切り替えを検討する

税制改正と並行して進んでいるのが、社会保険制度の改正です。今後、社会保険料の負担はますます増大していくことが予想されます。

社員を一人雇用すると、会社はその社員の社会保険料の半分を負担しなければなりません。これは、会社の固定費として大きな負担となります。

この固定費リスクを回避し、組織をより柔軟にするための選択肢が、社員を雇用する代わりに、外部のフリーランスや個人事業主と「業務委託契約」を結ぶという方法です。

【業務委託のメリット】

  • 社会保険料の負担がない:会社は、業務委託先の社会保険料を負担する必要がありません。
  • 即戦力として活用できる:専門性の高い人材を、必要な時に必要なだけ活用できます。新卒社員をゼロから育てる教育コストや時間はかかりません。
  • 契約の柔軟性:会社の業績が悪化した際には、契約を終了させるといった、柔軟な人員調整が可能です。(社員のリストラは非常に困難です)

もちろん、社員を雇用し、自社で人材を育てることには、ロイヤリティの醸成やノウハウの蓄積といった大きなメリットがあります。

しかし、これからの時代は、「すべての業務を正社員で賄う」という考え方だけでなく、コア業務は正社員、ノンコア業務や専門性の高い業務は業務委託、というように、両者をハイブリッドで活用していく視点が、企業の競争力を高める上で不可欠となるでしょう。

まとめ:変化を先読みし、最適な戦略を立てる

今回は、将来的な法人税の増税という大きな変化を見据え、中小企業が今から準備しておくべき5つの対策について解説しました。

  1. 「長期の繰延べ節税」はリスクが高い
  2. 「法人分割」で低い税率の枠を活用する
  3. 「法人化」を急がず、個人事業のメリットを再評価する
  4. 「個人事業+マイクロ法人」の二刀流を検討する
  5. 社員雇用を見直し、「業務委託」を積極的に活用する

これらの対策は、どれか一つが絶対的な正解というわけではありません。あなたの会社の業種、事業規模、成長ステージ、そして経営者自身の価値観によって、最適な選択は異なります。

重要なのは、「税制は常に変化する」ということを前提に、その変化を先読みし、自社にとって最も有利な戦略を柔軟に選択していくことです。

何も考えずにただ時代の変化に流されていれば、気づかぬうちに多くの税金を支払い、会社の体力を消耗してしまうかもしれません。しかし、変化の兆候をいち早く察知し、賢く対策を講じれば、むしろ他社との差別化を図り、より強固な経営基盤を築くチャンスとすることもできるのです。

ぜひ、この記事をきっかけに、ご自身の会社の未来の形について、一度じっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。