「キャッシュリッチな会社とは、借金が全くない、お金持ちの会社のことだ」
「借金は悪。一日でも早く返済して、無借金経営を目指すべきだ」
「借金をすると、利息がもったいないし、返せなくなるのが怖い…」
もし、あなたが会社の経営者として、少しでもこのように考えているとしたら、その 「無借金経営」という名の“神話”が、あなたの会社の成長を妨げ、かえって経営を危険に晒している 可能性があります。
インターネットやビジネス書では、しばしば「無借金でお金をたくさん持っている会社が、理想的なキャッシュリッチ企業だ」と語られます。しかし、これは、中小企業の経営における、非常に大きな誤解の一つです。
この記事では、数多くの企業の財務戦略を支援してきた専門家の視点から、なぜ安易な「無借金経営」が危険なのか、そして、「借金」という最強のレバレッジをいかにして活用し、会社の現金を最大化する「本当のキャッシュリッチ経営」を実現するのかについて、その本質を徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と考え方を手に入れることができます。
- 「無借金経営」に潜む、資金ショートという最大の経営リスクを深く理解できます。
- 銀行が「無借金で現金が少ない会社」よりも、「借金が多くても現金が潤沢な会社」を高く評価する、その理由がわかります。
- 「利息はコスト」という考えを捨て、「利息以上のリターンを生むための投資」という、経営者としての正しい思考法が身につきます。
- 借金は「完済」するものではなく、「借り換え」で活用し続けるものである、という、資金調達の常識を覆す考え方を学べます。
- 世界のトヨタ自動車の事例から、超優良企業がなぜ巨額の借入を行うのか、その戦略的な意味を知ることができます。
「借金は悪」という、個人としての金銭感覚を、会社の経営にそのまま持ち込んではいけません。会社経営における借金は、事業を飛躍させるための 「翼」 です。この記事が、あなたの会社を新たな高みへと導くための、確かな一歩となることを願っています。
「無借金経営」という名の、最も危険な綱渡り
まず、なぜ「無借金経営」が危険なのか。3つの異なる財務状況の会社を例に、そのリスクを明らかにしていきましょう。ここに、同じくらいの事業規模(年商2億円)の会社が3社あるとします。
- A社(無借金・貧乏経営)
- 現金預金:100万円
- 借入金:0円
- 実質的な手元資金:100万円
- B社(実質無借金・堅実経営)
- 現金預金:5,000万円
- 借入金:5,000万円
- 実質的な手元資金:0円(現金と借金が同額)
- C社(借金活用・キャッシュリッチ経営)
- 現金預金:2億円
- 借入金:3億円
- 実質的な手元資金:マイナス1億円(借金が現金を上回る)
さて、この3社の中で、最も経営が安定しており、将来性のある「強い会社」はどれでしょうか。
ネットの情報や一般的な感覚で言えば、「借金のないA社」や、「実質無借金でバランスの取れているB社」が優良に見えるかもしれません。
しかし、銀行や経営のプロフェッショナルから見れば、答えは明白です。圧倒的に「C社」が、最も強い会社なのです。
なぜ、現金100万円の無借金経営は「最弱」なのか?
年商2億円規模の会社であれば、1ヶ月にかかる経費(人件費、家賃、仕入など)は、少なくとも1,500万円以上になるでしょう。
そんな会社の手元現金が、たったの100万円。
これは、来月の支払いができずに資金ショートする可能性が極めて高い、非常に危険な状態です。たった一度、大きな取引先からの入金が遅れただけで、会社は倒産してしまいます。
無借金であることは、一見すると健全に見えるかもしれません。しかし、それは 「リスクを取って事業を成長させることを放棄した、守りの経営」 の裏返しでもあります。銀行も、明日にも潰れるかもしれない会社に、新たにお金を貸そうとは思いません。
なぜ、現金2億円の借金経営は「最強」なのか?
一方で、C社は3億円という大きな借金を抱えています。しかし、それ以上に重要なのは、手元に2億円という潤沢な現金預金があるという事実です。
この会社は、たとえコロナ禍のような不測の事態が起こり、売上がゼロになったとしても、1年以上は持ちこたえることができるでしょう。この 「キャッシュの厚み」 こそが、会社の存続を可能にし、経営者に精神的な余裕をもたらす、最大の安全装置なのです。
銀行の視点から見ても、C社は非常に魅力的な取引先です。
- 倒産リスクが低い:手元に現金が潤沢にあるため、短期的な業績悪化で倒産するリスクは極めて低いと判断できます。
- 実績がある:すでに3億円もの借入をできているということは、他の金融機関から「3億円を貸すに値する」と評価された実績がある、ということです。
- 銀行にとって「良いお客様」:3億円の借入に対して、銀行に多くの利息を支払ってくれる、いわば「上得意様」です。銀行は、こうした会社をさらに応援し、追加の融資を提案したくなります。
無借金経営とは、いわば武器を持たずに戦場に出るようなものです。キャッシュリッチ経営とは、巨額の借金という名の強力な武器を使いこなし、潤沢な弾薬(現金)を確保しながら、余裕をもって戦いを進めることなのです。
経営者が持つべき「借金」に対する正しいマインドセット
「借金は怖い」「利息がもったいない」といった、個人としての感覚を、会社の経営に持ち込んではいけません。経営者として成功するためには、「借金」に対するマインドセットを、根本から変える必要があります。
① 利息は「コスト」ではなく、「リターンを生むための投資」
「借金をすると、利息を支払わなければならないから、もったいない」
これは、多くの人が抱く、最も一般的な借金への抵抗感でしょう。
しかし、経営者はこう考えるべきです。
「この低金利で借りたお金を使って、支払う利息以上の利益(リターン)を生み出せばいい」
例えば、金利1%で5,000万円を借りたとします。年間の支払利息は50万円です。
手元に何もない状態から50万円を稼ぐのは大変ですが、5,000万円という元手があれば、年間で50万円以上の利益を生み出すことは、経営者にとって決して難しいことではありません。
- その資金で新たな設備投資を行い、生産性を向上させる。
- 広告宣伝費に投下し、新規顧客を獲得する。
- 極端な話、そのお金で商品を仕入れ、わずか数パーセントの利益を乗せて転売するだけでも、利息分は簡単に稼げるでしょう。
もし、5,000万円の元手があっても、年間50万円の利益すら生み出せないと考えるのであれば、それは経営者としての資質に問題がある、と言わざるを得ません。
支払利息は、無駄なコストではありません。それは、 会社の成長を加速させるための、最もレバレッジの効いた「投資」 なのです。
② 借金は「完済」するものではなく、「活用し続ける」もの
「借金は、一日でも早く返済して、スッキリしたい」
これも、個人としては非常に真面目で、正しい感覚です。しかし、会社経営においては、この考え方もまた、成長の足かせとなります。
会社の借入金は、完済を目指すものではありません。
事業を継続し、成長させていく限り、「借り換え」を繰り返しながら、常に活用し続けるのが正解です。
【借金を活用し続けるサイクル】
- 銀行から融資を受け、手元の現金を増やす。
- 毎月、決められた額をコツコツと返済する。(薬定返済)
- 数年後、返済がある程度進んだタイミングで、銀行に 「借り換え」 を申し込む。
- その際、残っている借入金と同額ではなく、会社の成長分を上乗せした、より大きな金額で新たに借り入れる。
- これにより、借入金の総額はさらに増え、手元の現金もさらに厚くなる。
このサイクルを繰り返すことで、会社の規模が大きくなるにつれて、借入金の額も、そして手元の現金も、雪だるま式に増えていくのです。
借金を完全に返済するのは、事業をやめる時です。それまでは、借金というレバレッジを最大限に活用し、会社の成長のために使い続ける。これが、キャッシュリッチ経営の神髄です。
③ 借金が怖いメンタルの人は、経営者に向いていない
「それでもやっぱり、借金を背負うのは精神的に不安だ…」
もし、あなたがどうしてもそう感じてしまうのであれば、残念ながら、あなたは事業を大きく成長させるタイプの経営者には向いていないのかもしれません。
もちろん、細々と、着実に事業を続けていく、という生き方もあります。しかし、事業を拡大し、大きな成功を収めている経営者は、例外なく、借金をすることに喜びすら感じています。
「これだけの金額を借りられるということは、それだけ銀行から信用されている証拠だ」
「この資金を使って、次はどんな新しい挑戦をしようか」
このように、借金を「リスク」ではなく 「チャンス」 と捉え、それを原動力にできるメンタリティこそが、会社を成長させる上で不可欠なのです。
世界のトヨタも実践する「借金活用経営」
「借金が多い方が強いなんて、極端な話だ」と思われるかもしれません。
では、世界を代表する超優良企業である、トヨタ自動車の財務状況を見てみましょう。
ある時点でのトヨタの貸借対照表を見ると、
- 現金預金:約7兆円
- 借入金(有利子負債):約40兆円
という、驚くべき数字が並んでいます。
借入金の額が、現金預金の5倍以上もあるのです。
もし、「借金は悪」という理論が正しいのであれば、トヨタは世界で最も危険な会社の一つ、ということになってしまいます。しかし、現実はもちろん違います。
トヨタは、40兆円という巨額の借入金を活用して、世界中で研究開発や設備投資を行い、その結果として、莫大な利益を生み出し、7兆円という潤沢な手元現金を確保しているのです。
これが、 レバレッジを最大限に活用した、究極の「キャッシュリッチ経営」 の姿です。
会社の本当の強さは、借金の額の多寡ではなく、「手元にどれだけ自由に使える現金を確保しているか」、そして 「その現金を元に、どれだけの利益を生み出す力があるか」 で決まるのです。
まとめ:無借金の幻想を捨て、本当のキャッシュリッチを目指せ
今回は、多くの中小企業経営者が陥りがちな「無借金経営」という幻想の危険性と、「借金」を武器として活用する「本当のキャッシュリッチ経営」の本質について解説しました。
- 手元現金が少ない「無借金経営」は、資金ショートのリスクが常に伴う、最も危険な経営状態です。
- 銀行は、借金が多くても、手元に潤沢な現金を持つ会社を「倒産リスクが低い、優良な取引先」として高く評価します。
- 支払利息は、無駄なコストではありません。それは、会社の成長を加速させるための、最も効率的な「投資」です。
- 会社の借金は、完済を目指すものではなく、「借り換え」を繰り返しながら、事業を成長させるために活用し続けるべきものです。
- 借金を恐れるメンタリティでは、事業を大きく成長させることはできません。借金を「チャンス」と捉える思考の転換が必要です。
ネットや巷で語られる「キャッシュリッチ=無借金」という言葉の表面的な意味に、決して惑わされないでください。
真のキャッシュリッチ経営とは、借入というレバレッジを最大限に活用して、会社の現金を最大化し、その潤沢なキャッシュを元に、さらなる成長投資を行い、盤石な経営基盤を築き上げることなのです。
まずは、あなたの会社の貸借対照表を見てください。そして、「どうすれば、もっと借入を活用して、手元の現金を増やせるだろうか?」と考えてみてください。その思考の先に、あなたの会社が「キャッシュリッチ企業」へと変貌を遂げる、新しい道が拓けているはずです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。