【超入門】減価償却費とは?計算方法から仕訳、節税、耐用年数まで、会計のプロがゼロから徹底解説!

節税・経費

「減価償却(げんかしょうきゃく)って、なんだか難しそう…」
「会計や経理でよく聞くけど、イマイチ意味が分からない…」

事業を始めたばかりの方や、経理にあまり馴染みのない経営者の方にとって、「減価償却費」は取っつきにくい会計用語の一つかもしれません。しかし、減価償却費は、企業の正しい利益を計算し、適切な税金を納め、さらには将来の設備投資計画を立てる上でも非常に重要な概念です。

この記事では、そんな減価償却費について、「そもそも何なのか?」という基本的なところから、具体的な計算方法、仕訳のやり方、節税との関係、そして「耐用年数」とは何かまで、会計のプロが専門用語をできるだけ使わずに、超入門レベルで分かりやすく徹底解説していきます。

減価償却費って、そもそも何?なぜ必要なの?

まずは、減価償却費の基本的な考え方と、なぜこのような会計処理が必要なのかについて見ていきましょう。

減価償却費を一言で言うと…

減価償却費とは、 「高価で長期間使えるもの(固定資産)の購入費用を、それが使える期間(耐用年数)にわたって、少しずつ経費として計上していくための会計処理」 のことです。

例で考えてみよう!300万円の車を買った場合

例えば、あなたの会社が事業用に300万円の車(固定資産)を購入したとします。この車は、おそらく1年だけでなく、数年間は事業のために活躍してくれるはずです。

もし、この300万円を車を買った年に全額経費として計上してしまうと、どうなるでしょうか?
その年の利益は、車の購入費用300万円分、一気に少なくなってしまいます。そして、翌年以降は、車を実際に使っていても、車の購入に関する経費は計上されません。
これでは、各年の利益が車の購入タイミングによって大きく変動してしまい、会社の本当の儲け具合(経営成績)を正しく把握することが難しくなってしまいます。

そこで登場するのが「減価償却」という考え方です。

「この車は、だいたい6年間くらい使えるだろう(これが耐用年数です)」と仮定します。
そうすると、車の購入費用300万円を、この6年間に分けて経費として計上していくのです。
最も単純な計算方法(定額法といいます)では、
300万円 ÷ 6年 = 50万円
となり、毎年50万円ずつ、6年間にわたって「減価償却費」という名前の経費を計上していくことになります。

なぜ減価償却が必要なの?~正しい利益計算のために~

このように、減価償却を行う主な目的は、 「企業の正しい期間利益を計算するため」です。
高価な固定資産は、長期間にわたって会社の収益獲得に貢献します。そのため、その取得費用も、その資産が収益を生み出す期間に合わせて按分して費用化することで、各年度の利益と費用が適切に対応し、より実態に近い経営成績を示すことができるのです。これを会計の専門用語で
「費用収益対応の原則」 と言います。

また、減価償却費を経費として計上することで、その分だけ利益が圧縮され、結果として法人税や所得税の負担を軽減する効果も期待できます(詳しくは後述します)。

減価償却の対象になるもの、ならないもの

では、どのようなものが減価償却の対象となるのでしょうか?

減価償却の対象となる主な固定資産

  • 有形固定資産:
    • 建物(事務所、店舗、工場など)
    • 建物附属設備(電気設備、空調設備、給排水設備など)
    • 構築物(駐車場、塀、看板など)
    • 機械装置
    • 車両運搬具(自動車、トラックなど)
    • 工具器具備品(パソコン、コピー機、机、椅子、応接セットなど、取得価額が10万円以上のもの)
  • 無形固定資産:
    • ソフトウェア
    • 特許権、商標権、実用新案権などの知的財産権
    • 営業権(のれん)※M&Aなどで取得した場合

減価償却の対象とならないものの例

  • 土地: 土地は、時の経過によって価値が減少しないと考えられるため、減価償却の対象とはなりません。
  • 書画骨董品: 美術品や骨董品なども、原則として価値が減少しないため、減価償却の対象外です(ただし、事業の用に供され、かつ時の経過によりその価値が減少することが明らかな場合は、減価償却できるケースもあります)。
  • 取得価額が10万円未満のもの: 税法上、取得価額が10万円未満のものは、購入時に全額を消耗品費などの経費として処理できます(減価償却は不要)。
  • 使用可能期間が1年未満のもの: 短期間しか使用できないものも、減価償却の対象外です。

減価償却費の計算に必要な3つの要素

減価償却費を計算するためには、以下の3つの情報を把握する必要があります。

  1. 取得価額(しゅとくかがく):いくらで買ったか?
    • その固定資産を購入するために支払った代金だけでなく、購入手数料、運送費、設置費、関税など、その資産を使える状態にするためにかかった全ての費用(付随費用)を含めた金額です。
  2. 耐用年数(たいようねんすう):何年くらい使えるか?
    • その固定資産が、通常の維持補修を加える場合に、本来の用途・用法により通常予定される効果を上げることができる年数のことです。
    • 税法では、資産の種類や構造、用途などによって、あらかじめ 「法定耐用年数」 が細かく定められています。例えば、普通乗用車(新車)は6年、パソコンは4年、鉄筋コンクリート造の事務所用建物は50年などです。
    • この法定耐用年数に基づいて減価償却計算を行うのが一般的です。
  3. 償却方法(しょうきゃくほうほう):毎年いくらずつ経費にするか、その計算ルールは?
    • 取得価額を耐用年数にわたって、どのように費用配分していくかの計算方法です。主に「定額法」と「定率法」があります。

減価償却費の代表的な計算方法:「定額法」と「定率法」

減価償却費の計算方法として最も代表的なのが、「定額法」と「定率法」です。

1. 定額法(ていがくほう)

  • 特徴: 毎年、同じ金額の減価償却費を計上する方法です。
  • 計算式(原則): 取得価額 × 定額法の償却率
    • ※償却率は、耐用年数に応じて定められています(例:耐用年数6年の償却率は0.167)。
    • ※平成19年3月31日以前に取得した資産の場合は、「(取得価額 - 残存価額)÷ 耐用年数」または「(取得価額 - 残存価額)× 定額法の償却率」で計算します。残存価額とは、耐用年数経過後の資産価値のことで、通常は取得価額の10%とされていました。
    • ※現在の税法では、平成19年4月1日以降に取得した有形固定資産の残存価額は「0円(ただし、最後に備忘価額1円を残す)」として計算します。
  • メリット: 計算がシンプルで分かりやすく、毎年の費用額が一定のため、利益計画などが立てやすい。
  • デメリット: 資産の収益貢献度や修繕費の発生パターン(初期は少なく、後期に多くなる傾向)とは必ずしも一致しない場合があります。
  • 主な適用対象(法人): 建物、建物附属設備、構築物、無形固定資産(ソフトウェアなど)。
  • 主な適用対象(個人事業主): 原則として全ての減価償却資産(届出により定率法を選択することも可能)。

【定額法の計算例】
取得価額300万円、耐用年数6年の車を定額法で償却する場合(償却率0.167)

  • 1年目の減価償却費:300万円 × 0.167 = 50万1,000円
  • 2年目の減価償却費:300万円 × 0.167 = 50万1,000円
  • 6年目の減価償却費:300万円 × 0.167 = 50万1,000円(ただし、最終年度は備忘価額1円を残して調整)
    • 実務上は、より簡便に「取得価額 ÷ 耐用年数」で計算し、最終年度に調整することが多いです。

2. 定率法(ていりつほう)

  • 特徴: 毎年の未償却残高(まだ経費にしていない金額)に一定の償却率を掛けて減価償却費を計算する方法です。そのため、償却の初期に多くの費用が計上され、年々償却額が減少していきます。
  • 計算式(原則): 未償却残高 × 定率法の償却率
    • ※償却率は、耐用年数に応じて定められています(定額法の償却率よりも高い率になります)。
    • ※償却額が、取得価額に保証率を乗じて計算した「償却保証額」を下回る年以降は、計算方法が切り替わり、残りの未償却残高を均等に償却していきます。
  • メリット: 償却初期に多くの費用を計上できるため、早期に利益を圧縮し、税負担を軽減する効果が期待できます。資産の価値が初期に大きく減少するような場合や、初期の修繕費が少ない場合に、より実態に近い費用配分となることがあります。
  • デメリット: 計算が定額法よりも複雑になります。また、償却後期の費用額が少なくなるため、利益計画に影響を与える可能性があります。
  • 主な適用対象(法人): 建物、建物附属設備、構築物、無形固定資産を除く有形固定資産(届出により定額法を選択することも可能)。
  • 主な適用対象(個人事業主): 届出により、建物以外の有形固定資産について定率法を選択可能。

【定率法の計算例】
取得価額300万円、耐用年数6年の車を定率法で償却する場合(償却率0.333、償却保証額29万9,670円)

  • 1年目の減価償却費:300万円 × 0.333 = 99万9,000円 (未償却残高:200万1,000円)
  • 2年目の減価償却費:200万1,000円 × 0.333 = 66万6,333円 (未償却残高:133万4,667円)
  • 3年目の減価償却費:133万4,667円 × 0.333 = 44万4,444円 (未償却残高:89万223円)
  • 4年目の減価償却費:89万223円 × 0.333 = 29万6,440円
    • この償却額(29万6,440円)が償却保証額(29万9,670円)を下回るため、ここから計算方法が変更されます。
    • 4年目以降の償却費:(未償却残高89万223円 × 改定償却率0.334 ※)≒ 29万8,000円(3年間均等償却と仮定)
    • ※実際には、改定償却率を用いて計算し、最終年度に調整します。

定額法と定率法、どちらを選ぶべき?

  • とにかく計算をシンプルにしたい、毎年の費用を安定させたい場合 → 定額法
  • できるだけ早く費用化したい、初期の税負担を抑えたい場合 → 定率法

法人の場合、建物などは定額法が強制ですが、機械や車両などは原則定率法です。個人事業主は原則定額法ですが、届出で定率法も選べます。自社の状況や経営戦略に合わせて、税理士と相談しながら最適な償却方法を選択しましょう。

減価償却の仕訳(帳簿への記録方法)

減価償却費を計上する際の仕訳は、主に「直接法」と「間接法」の2つの方法があります。

1. 直接法

  • 減価償却費の分だけ、固定資産の帳簿価額を直接減額する方法です。
  • 仕訳例(減価償却費50万円を計上する場合):
    (借方)減価償却費 500,000円 / (貸方)車両運搬具 500,000円
  • メリット: 仕訳がシンプル。
  • デメリット: 貸借対照表で、固定資産の取得価額が分からなくなる。

2. 間接法

  • 減価償却費を「減価償却累計額」という勘定科目に積み上げていき、固定資産の取得価額はそのまま残す方法です。貸借対照表では、固定資産の取得価額から減価償却累計額を差し引く形で、現在の帳簿価額(未償却残高)を表示します。
  • 仕訳例(減価償却費50万円を計上する場合):
    (借方)減価償却費 500,000円 / (貸方)減価償却累計額 500,000円
  • メリット: 貸借対照表で、固定資産の取得価額と、これまでにいくら償却したか(減価償却累計額)の両方が分かり、資産の状況を把握しやすい。多くの企業で採用されている方法です。
  • デメリット: 直接法に比べて勘定科目が一つ増える。

どちらの方法を選択しても、損益計算書に計上される減価償却費の額は同じです。実務上は、間接法が一般的に使われています。

減価償却費と節税の関係:誤解と正しい理解

「減価償却費は節税になる」とよく言われますが、この「節税」の意味合いを正しく理解しておく必要があります。

減価償却費の節税効果とは?

減価償却費を経費として計上することで、その分だけ課税対象となる利益が減少し、結果として法人税や所得税の支払額が少なくなります。これが減価償却費の節税効果です。

しかし、注意点も!

  • 税金の支払いを繰り延べているだけ: 減価償却は、あくまで固定資産の取得費用を耐用年数にわたって分割して費用化する手続きです。トータルで見れば、支払った費用の全額が経費になることに変わりはありません。つまり、減価償却は、「税金の総額を減らす」というよりは、「税金の支払時期を将来に繰り延べる」効果が大きいと言えます。
  • キャッシュアウトは既に発生している: 減価償却費は、会計上の費用ですが、その計上時点では現金の支出を伴いません(非資金費用)。現金は、固定資産を購入した時点(または分割払いの時点)で既に支出されています。
  • 節税目的だけの設備投資は危険: 「節税になるから」という理由だけで、本来必要のない高額な設備投資を行うことは、資金繰りを悪化させ、経営を圧迫する可能性があります。設備投資は、あくまで事業の成長や収益向上に繋がるかどうかを最優先に判断すべきです。

戦略的な減価償却による節税テクニック

とはいえ、減価償却に関する税法上の特例などをうまく活用することで、より効果的に税負担を軽減することは可能です。

  • 少額減価償却資産の特例(中小企業者等): 取得価額30万円未満の減価償却資産について、年間合計300万円まで一括で経費計上できる制度。
  • 一括償却資産の損金算入: 取得価額10万円以上20万円未満の資産を3年間で均等償却できる。
  • 特別償却・税額控除: 国の政策に応じた特定の設備投資について、通常の減価償却に上乗せして償却できたり、税額そのものを控除できたりする制度(例:中小企業経営強化税制など)。
  • 中古資産の活用: 中古資産は短い耐用年数が適用される場合があり、早期に費用化できる。

これらの制度を活用する際には、適用要件や手続きを正確に理解し、税理士に相談しながら進めることが重要です。

「耐用年数」って誰が決めるの?法定耐用年数の調べ方

減価償却計算の基礎となる「耐用年数」は、どのように決まるのでしょうか。
税法上、資産の種類や構造、用途などに応じて、あらかじめ 「法定耐用年数」 が定められています。この法定耐用年数は、国税庁のホームページなどで確認することができます。

「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の別表に、詳細な耐用年数表が掲載されています。

法定耐用年数の例

  • 普通自動車(新車):6年
  • パソコン(サーバー用のものを除く):4年
  • 木造の事務所用建物:24年
  • 鉄骨鉄筋コンクリート造の事務所用建物:50年
  • 店舗用陳列ケース(金属製):8年

中古資産の場合は、法定耐用年数から経過年数を考慮して、一定の計算式で耐用年数を算定します。

実務上は、この法定耐用年数に基づいて減価償却計算を行うのが一般的です。

減価償却費の重要性まとめ:経営判断への活かし方

減価償却費は、単なる会計上の数字ではありません。以下のような点で、経営判断に大きく関わってきます。

  • 正確な利益把握: 正しい期間損益を計算し、自社の本当の収益力を把握する。
  • 適正な納税: 税法に基づいた適切な減価償却により、過不足のない納税を行う。
  • 資金繰り管理: 減価償却費は非資金費用である一方、節税効果を通じてキャッシュフローに影響を与えることを理解し、資金計画に役立てる。
  • 設備投資判断: 減価償却の状況(未償却残高など)を把握し、将来の設備更新や新規投資のタイミングを判断する材料とする。
  • 価格設定: 商品やサービスの価格に、固定資産の減価償却費(つまり使用コスト)を適切に反映させる。

減価償却費を正しく理解し、その情報を経営に活かすことで、より精度の高い意思決定が可能になります。

まとめ:減価償却は怖くない!経営を強くする会計の基本をマスターしよう!

減価償却費は、一見すると複雑で難解に感じるかもしれませんが、その基本的な考え方は「高価で長持ちするものの費用を、使う期間に分けて計上する」というシンプルなものです。

この記事を通じて、

  • 減価償却費の基本的な意味と必要性
  • 定額法と定率法という代表的な計算方法
  • 仕訳のやり方(間接法が一般的)
  • 節税効果の正しい理解と注意点
  • 耐用年数の調べ方

といったポイントをご理解いただけたのではないでしょうか。

減価償却は、決して経理担当者だけのものではありません。経営者自身がその重要性を認識し、自社の財務状況や経営戦略と照らし合わせながら、適切な会計処理と活用を心がけることが、会社の持続的な成長と安定経営に繋がります。

もし、減価償却に関する具体的な計算方法や、自社にとって最適な償却方法の選択、あるいは税制特例の活用などについて不明な点があれば、遠慮なく税理士などの専門家にご相談ください。専門家は、あなたの会社の状況に合わせた最適なアドバイスを提供し、減価償却というツールを最大限に活用するためのサポートをしてくれるはずです。

減価償却を味方につけて、より賢く、より力強い経営を目指しましょう!