「法人を設立したのに、銀行で法人口座の開設を断られてしまった…」
「なぜ、法人口座を作るだけで、こんなに審査が厳しいのだろう?」
「融資を受けるためには、どの銀行で、どのように口座を開設すればいいのか知りたい」
会社を設立し、これから事業を本格的にスタートさせようという時、誰もが最初に直面する大きなハードルが 「法人口座の開設」 です。
一昔前までは、法人口座は比較的簡単に開設できましたが、近年、その審査は非常に厳格化しています。特に、設立したばかりで実績のない会社の場合、メガバンクはもちろん、地方銀行でさえも口座開設を断られてしまうケースが後を絶ちません。
法人口座がなければ、取引先との円滑な入出金ができず、事業そのものが成り立ちません。なぜ、今、これほどまでに法人口座の開設は難しくなってしまったのでしょうか。そして、この厳しい審査をクリアし、将来の有利な資金調達へと繋げるためには、私たちは何をすべきなのでしょうか。
この記事では、数多くの企業の資金調達を支援してきた専門家の視点から、法人口座の審査が厳格化した背景から、審査をスムーズに通過するための具体的な準備と戦略、そしてなぜ「3つ以上」の銀行口座を持つべきなのかという、一歩進んだ銀行との付き合い方まで、徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。
- 法人口座の開設が厳しくなった、マネー・ローンダリングなどの社会的な背景を理解できます。
- メガバンク、地方銀行、信用金庫、ネット銀行、それぞれの審査の難易度と特徴がわかります。
- 口座開設の審査を有利に進めるための、最も確実な方法(専門家からの紹介など)を知ることができます。
- バーチャルオフィスが口座開設に不利になる理由と、その対策を学べます。
- なぜ「1つ」ではなく「3つ以上」の銀行口座を持つことが、融資戦略において絶大な効果を発揮するのかを理解できます。
銀行との付き合いは、会社経営の根幹をなす重要な要素です。この記事を参考に、賢く、そして戦略的に、あなたの会社の未来を支える強固な金融基盤を築いていきましょう。
なぜ法人口座の開設は、これほど難しくなったのか?
まず、なぜ近年、法人口座の開設審査がこれほどまでに厳しくなったのか、その背景から理解しましょう。主な理由は2つあります。
理由①:マネー・ローンダリング(資金洗浄)対策の強化
最大の理由は、マネー・ローンダリングや、振り込め詐欺などの犯罪行為に法人口座が悪用されるケースが急増したことです。
犯罪組織は、実態のないペーパーカンパニーを設立し、その法人口座を使って不正な資金を移動させ、出所を分からなくしようとします。こうした犯罪行為を防止するため、金融庁は全国の金融機関に対し、口座開設時の本人確認と事業実態の確認を徹底するよう、厳しく指導しているのです。
特に、設立したばかりで事業実績のない会社は、銀行から見れば 「本当に真っ当な事業を行う会社なのか、それとも犯罪目的で設立されたダミー会社なのか」 を見分けるのが非常に困難です。そのため、審査のハードルが必然的に高くなってしまうのです。
理由②:銀行側のビジネスモデル
もう一つの理由は、銀行側のビジネス上の都合です。銀行の主な収益源は、企業にお金を貸し出し、その利息で儲けることです。
つまり、銀行が本当に取引したいのは、将来的に成長し、融資を利用してくれて、かつきちんと返済してくれる、優良な企業です。
口座を一つ維持・管理するにも、銀行にはコストがかかります。将来的に融資の取引が見込めない、あるいは事業がすぐに立ち行かなくなりそうなリスクの高い会社のために、わざわざコストをかけて口座を開設したいとは考えません。
この2つの理由から、銀行は口座開設の段階で、その会社が 「信頼できる、真っ当な事業を行っており、かつ将来性があるか」 を厳しく審査するようになったのです。
銀行の種類別|口座開設の難易度と特徴を知ろう
「銀行」と一括りに言っても、その種類によって審査の難易度や特徴は大きく異なります。闇雲に申し込むのではなく、自社の状況に合った銀行を選ぶことが、口座開設成功の第一歩です。
【難易度:★★★★★】メガバンク(三菱UFJ、みずほ、三井住友など)
誰もが知っているメガバンク。個人の口座は誰でも簡単に作れますが、法人口座の開設は、最もハードルが高いと考えて間違いありません。
メガバンクの主な取引相手は、大企業や中堅企業です。設立したばかりで実績のない、小規模な会社は、そもそも彼らのメインターゲットではありません。よほど強力なコネクションや、画期的なビジネスモデルでもない限り、門前払いされてしまう可能性が高いでしょう。
【難易度:★★★★☆】地方銀行(第一地銀)
各都道府県でトップのシェアを誇る、地域を代表する地方銀行(横浜銀行、千葉銀行など)です。メガバンクよりは地域密着ですが、それでもその地域の大企業や優良企業が主な取引相手であり、プライドも高いため、新規の法人に対する審査は比較的厳しい傾向にあります。
【難易-度:★★★☆☆】地方銀行(第二地銀)・信用金庫
第一地銀に次ぐ規模の地方銀行や、より地域に密着した信用金庫は、中小企業にとって最も現実的な選択肢となります。
特に信用金庫は、 「地域の中小企業を応援する」 という設立趣旨を持っているため、メガバンクや地銀に比べて、親身に相談に乗ってくれるケースが多く、口座開設のハードルも比較的低いと言えます。起業家が最初にアプローチすべき金融機関です。
【難易度:★☆☆☆☆】ネット銀行(GMOあおぞらネット銀行、楽天銀行など)
店舗を持たないネット銀行は、手続きがオンラインで完結し、審査のハードルも非常に低いのが特徴です。もし、実店舗を持つ金融機関で開設を断られた場合の、最後の砦とも言えるでしょう。
ただし、注意点もあります。ネット銀行は、振込手数料が安いなどのメリットがある一方で、融資機能が弱い、あるいは全くないことがほとんどです。事業の資金調達という観点では、メインバンクとしては心許ないかもしれません。
あくまで、日々の決済用のサブバンクとして活用するのが賢明です。
口座開設の審査をパスするための「3つの必勝法」
では、この厳しい審査をクリアし、スムーズに法人口座を開設するためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。3つの具体的な戦略をご紹介します。
必勝法①:専門家(税理士など)からの「紹介」を活用する
これが、最も確実で、最も強力な方法です。
もしあなたが、すでに顧問税理士を決めているのであれば、その税理士から、取引のある銀行の担当者を紹介してもらうのです。
銀行は、日頃から付き合いがあり、信頼している税理士からの紹介であれば、無下に断ることはできません。「この税理士先生が紹介してくる会社なら、身元も確かで、しっかりした事業なのだろう」という、 「信用の補完」 が働くからです。
実際に、専門家からの紹介があれば、通常は断られてしまうようなケースでも、スムーズに口座が開設できることがほとんどです。
会社を設立したら、まず信頼できる税理士を見つけ、その税理士を介して銀行と繋がる。これが、円滑な口座開設と、その後の良好な銀行関係を築くための王道ルートです。
必勝法②:「バーチャルオフィス」を避ける
コストを抑えるために、事務所の実態がない「バーチャルオフィス」の住所で法人登記をするケースが増えています。
しかし、これは口座開設において、非常に大きなリスクを伴います。
前述の通り、銀行は「事業の実態」を厳しくチェックします。事務所の実態がないバーチャルオフィスは、「犯罪目的のペーパーカンパニーではないか?」という疑念を抱かせる格好の材料となってしまうのです。
銀行によっては、バーチャルオフィスというだけで、問答無用で審査に落とすところもあります。
コストはかかりますが、たとえ小さくても、個室のレンタルオフィスやシェアオフィスを契約し、「事業の実態」を証明できる場所を確保しておくことが、スムーズな口座開設の鍵となります。
必勝法③:事業を行うエリアの銀行に申し込む
銀行は、原則として、自らの営業エリア内に本店や支店がある会社としか取引をしません。
例えば、本店登記が東京都にある会社が、北海道の銀行に口座開設を申し込んでも、断られてしまいます。
もし、あなたが全国各地で事業を展開したいと考えているのであれば、事業を行う主要な都市に 「支店登記」 をしておくことをお勧めします。支店登記をすれば、その地域の金融機関とも取引ができるようになり、資金調達の選択肢が大きく広がります。
なぜ「3つ以上」の銀行口座を持つべきなのか?融資戦略の核心
無事に一つの銀行で法人口座を開設できたとしても、そこで満足してはいけません。安定した会社経営と、有利な資金調達を実現するためには、最低でも「3つ以上」の金融機関と取引関係を持っておくことを強く推奨します。
理由①:融資の選択肢を増やし、リスクを分散する
取引している銀行が一行だけだと、その銀行から融資を断られた瞬間に、会社の資金調達の道は完全に閉ざされてしまいます。これは、経営上、非常に危険な状態です。
しかし、3つの銀行と取引があれば、
- A銀行がダメでも、B銀行やC銀行が助けてくれるかもしれない。
- 3つの銀行すべてから、同時に融資を受けられる可能性もある。
というように、リスクを分散し、資金調達の選択肢を複数確保することができます。
理由②:銀行間を「競争」させ、有利な条件を引き出す
これが、複数の銀行と付き合う、最大の戦略的メリットです。
もし、取引銀行が一行だけなら、融資の金利や返済期間といった条件は、銀行側の言いなりになるしかありません。
しかし、3つの銀行と取引があれば、 「相見積もり」 が可能になります。
「A銀行さんからは、金利〇%という条件をいただいていますが、B銀行さんでは、もっと良い条件は出せませんか?」
このように、銀行同士を競争させることで、あなたはより低い金利、より長い返済期間といった、自社にとって最も有利な融資条件を引き出すことができるようになるのです。交渉の主導権を握り、銀行から「選ばれる」立場になるために、複数行との取引は不可欠なのです。
理想のポートフォリオ:「金融機関3行+日本政策金融公庫」
中小企業が目指すべき、理想的な金融機関との付き合い方は、
- 民間金融機関(地銀、信金など):3行以上
- 日本政策金融公庫:1機関
というポートフォリオです。日本政策金融公庫は、民間金融機関とは別に、創業者や中小企業を支援するための融資を直接行ってくれる政府系の金融機関です。この公庫とも取引関係を築いておくことで、資金調達の選択肢はさらに盤石なものになります。
まとめ:法人口座開設は、銀行との長い付き合いの「始まり」
今回は、法人口座の開設がなぜ難しいのか、そしてその壁を乗り越え、有利な銀行関係を築くための具体的な戦略について解説しました。
- 法人口座の開設審査は、犯罪防止と銀行のビジネス上の理由から、年々厳格化しています。
- 起業家が最初に狙うべきは、メガバンクではなく、地域に密着した「信用金庫」や「第二地銀」です。
- 審査をスムーズに通過する最強の方法は、信頼できる「税理士」からの紹介です。バーチャルオフィスは避け、事業の実態を証明できる場所を確保しましょう。
- 1つの銀行に依存するのは危険です。最低でも「3つ以上」の金融機関と取引し、リスクを分散させると同時に、競争原理を働かせて有利な融資条件を引き出しましょう。
法人口座の開設は、単なる事務手続きではありません。それは、これから長い年月にわたって、あなたの会社の成長を支えてくれる パートナー(銀行)との、最初の「顔合わせ」 です。
ここでいかに良い第一印象を与え、信頼関係の礎を築けるかが、その後の資金調達、ひいては会社の未来を大きく左右します。
ぜひ、この記事を参考に、戦略的に、そして周到に準備を進め、あなたの事業の成功に向けた、最高のスタートを切ってください。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。