【経営者必見】業務改善助成金の活用術!賃上げしながら、設備投資や車両購入も可能に?制度の全貌と注意点を徹底解説

節税・経費

「従業員の給料を上げてあげたいが、会社の負担が大きい…」
「生産性を上げるために新しい設備を導入したいけれど、資金が…」
「パソコンやスマホ、社用車などを、お得に導入する方法はないだろうか?」

多くの中小企業や個人事業主が抱えるこれらの悩みを、同時に解決できる可能性を秘めた、非常に強力な国の制度があることをご存知でしょうか。それが「業務改善助成金」です。

この助成金は、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げる(賃上げ)ことを条件に、生産性向上のための設備投資などにかかった費用の一部を国が助成するというものです。

そして、2023年8月31日から、この助成金の要件が大幅に緩和され、これまで対象外だった多くの事業者にとっても、非常に活用しやすい制度へと生まれ変わりました。

この記事では、要件が緩和された「業務改善助成金」について、その基本的な仕組みから、具体的な助成額、対象となる経費、そして活用する上でのメリットと注意点まで、分かりやすく徹底的に解説していきます。

業務改善助成金とは?その基本的な仕組みと目的

まず、業務改善助成金がどのような制度なのか、その目的と基本的な仕組みを理解しておきましょう。

制度の目的

この助成金の主な目的は、中小企業・小規模事業者の「生産性向上」「賃金引き上げ」を同時に支援することです。事業者が生産性を高めるための投資を行いやすくし、それによって生み出された利益を従業員の賃金に還元するという、経済の好循環を生み出すことを目指しています。

基本的な仕組み

  1. 事業計画の策定・提出:
    事業者は、①どのような設備投資などを行って生産性を向上させるか、②事業場内最低賃金をいくら引き上げるか、という内容を盛り込んだ「事業実施計画」を作成し、管轄の労働局に提出します。
  2. 計画の実施:
    提出した計画に基づき、実際に設備投資と賃金の引き上げを実施します。
  3. 助成金の支給申請:
    計画した取り組みが完了した後、かかった費用や賃上げの実績などを報告し、助成金の支給を申請します。
  4. 助成金の受給:
    申請内容が審査され、要件を満たしていれば、助成金が事業者に支払われます。

重要なのは、この助成金が「賃上げ」そのものを助成するのではなく、「賃上げを条件に、生産性向上のための設備投資等を助成する」という点です。

2023年8月からの要件緩和:何がどう変わったのか?

今回の制度改正で、特に重要な変更点は以下の2つです。これにより、これまで対象外だった多くの事業者が、助成金を活用できる可能性が広がりました。

1. 対象となる従業員の範囲拡大(「30円以内」から「50円以内」へ)

  • 従来の要件:
    助成金の対象となるのは、事業場内最低賃金と、事業所がある地域の地域別最低賃金との差額が30円以内の従業員がいる事業場に限られていました。
  • 緩和後の要件:
    この差額が「50円以内」に拡大されました。
  • 影響:
    例えば、地域別最低賃金が1,113円(東京都)の場合、
    • 従来:時給1,113円~1,143円の従業員がいる事業場のみが対象。
    • 現在:時給1,113円~1,163円の従業員がいる事業場が対象。
      となり、より多くの事業者が対象に含まれるようになりました。

2. 賃上げ計画の事後提出容認

  • 従来の要件:
    原則として、賃金引き上げの計画を事前に提出する必要がありました。
  • 緩和後の要件:
    2023年8月31日以降に賃上げを実施した場合、計画書の提出前に賃上げを行っていても、その賃上げを助成金の対象として認めるという特例が設けられました。
  • 影響:
    「助成金のことを知らずに、既に賃上げしてしまった…」という事業者でも、これから設備投資の計画を立てて申請することで、助成金を受けられる可能性があります。これにより、制度の柔軟性が大幅に向上しました。

助成額はいくら?コースと助成上限額の詳細

業務改善助成金の助成額は、「賃上げ額」「賃上げを行う労働者数」に応じて、複数のコースに分かれています。

助成上限額の表(一部抜粋)

賃金引上額(コース)対象労働者数:1人対象労働者数:2~3人対象労働者数:4~6人対象労働者数:7人以上
30円コース30万円50万円80万円100万円
45円コース45万円70万円110万円150万円
60円コース60万円90万円150万円200万円
90円コース90万円130万円220万円600万円
  • 助成率:
    設備投資などにかかった費用のうち、上記の助成上限額の範囲内で、一定の助成率(原則として3/4、生産性要件などを満たせば最大9/10)が適用されます。
  • ポイント:
    • 最低でも30万円: 最もハードルの低い「30円コース・対象1人」でも、最大30万円の助成が受けられます。
    • 最大で600万円: 最も条件の良い「90円コース・対象10人以上」であれば、最大600万円という非常に大きな助成を受けることが可能です。

助成の対象となる経費:PC・スマホ・車も対象に!?

この助成金の大きな魅力は、助成対象となる経費の範囲が非常に広いことです。

主な助成対象経費

  • 機械設備、器具等の導入:
    • POSレジシステム、在庫管理システム、各種ソフトウェア
    • 生産性を向上させるための機械、装置、車両など
  • コンサルティング導入や専門家謝金:
    • 生産性向上のためのコンサルティング費用や、税理士、社会保険労務士などの専門家に支払うアドバイス料なども対象となります。
  • 人材育成・教育訓練:
    • 従業員のスキルアップのための研修費用など。

【特例】パソコン、スマートフォン、自動車も対象になるケース

原則として、汎用性が高く、他の目的にも使用されやすいパソコン、スマートフォン、自動車などは、助成の対象外です。
しかし、以下の特例要件を満たす事業者に限り、これらの導入費用も助成の対象となります。

  • 特例要件(以下のいずれかを満たすこと):
    1. 売上高要件: 申請前3ヶ月間の売上高合計額が、前年または前々年の同期間と比較して15%以上減少している。
    2. 利益率要件: 申請前3ヶ月間のうち、いずれかの月の売上総利益率(粗利率)または営業利益率が、前年または前々年の同月と比較して3%以上低下している。
  • 影響:
    近年の物価高騰などの影響で、売上は維持・増加していても、原材料費の上昇などにより利益率が低下している企業は少なくありません。この「利益率要件」に該当することで、パソコンやスマホ、社用車(貨物用や、乗車定員7人以上の乗用車など。200万円以下の車両)の購入費用まで、助成の対象となる可能性が広がります。

業務改善助成金活用のメリットと、最大の注意点

メリット

  • 賃上げと設備投資を同時に実現: 従業員の処遇改善と、会社の生産性向上という、経営における重要な課題を同時に解決できます。
  • 実質的なコスト負担の軽減: 助成金を活用することで、設備投資にかかる実質的なコストを大幅に削減できます。
  • 従業員満足度と定着率の向上: 賃上げは、従業員のモチベーションを高め、優秀な人材の確保・定着に繋がります。

最大の注意点:「助成金のための賃上げ」になっていないか?

この助成金を活用する上で、経営者が最も慎重に判断すべきなのが、「賃上げ」そのものです。

  • 人件費は固定費:
    一度引き上げた賃金は、会社の固定費として、将来にわたって継続的に発生します。助成金は一度限りの収入ですが、人件費の増加は永続的な負担となります。
  • 国の狙い:
    国が、これほど多くの賃上げ関連の助成金を用意している背景には、「賃金を引き上げさせ、それによって個人の所得を増やし、社会保険料や税金の徴収額を増やす」という狙いがあることも理解しておく必要があります。
  • 本末転倒のリスク:
    「助成金がもらえるから」という理由だけで、会社の収益力に見合わない無理な賃上げを行うことは、本末転倒です。 将来の固定費増が経営を圧迫し、結果として会社の体力を削ぐことになりかねません。

正しい判断プロセス

  1. まず、自社の経営計画と収益改善の見通しを立てる。
  2. その計画の中で、従業員への賃上げが妥当であり、かつ持続可能であるかを判断する。
  3. 「どうせ賃上げをするのであれば、助成金を活用して、同時に生産性向上のための設備投資も行おう」という順番で考える。

決して、「助成金をもらうために、無理に賃上げをする」という発想になってはいけません。

申請手続きと専門家(社労士)の活用

業務改善助成金の申請手続きは、事業実施計画の作成や、賃金台帳・出勤簿の整備、各種要件の確認など、専門的な知識と多くの手間を要します。

  • 手続きの煩雑さ: 申請様式が多く、要件も細かいため、自社だけで完璧に手続きを行うのは非常に困難です。
  • 社労士への相談を推奨:
    手続きの不備で、もらえるはずの助成金を逃してしまうリスクを避けるためにも、助成金申請を専門とする社会保険労務士(社労士)に相談・依頼することを強くお勧めします。
  • 社労士は、申請書類の作成・提出代行だけでなく、助成金の対象となるための就業規則の整備や、最適な賃上げ計画のアドバイスなど、トータルでサポートしてくれます。専門家への手数料を支払ってでも、確実かつスムーズに助成金を受給する方が、結果として大きなメリットに繋がります。

まとめ:業務改善助成金は「攻めの経営」への起爆剤。ただし、戦略的な判断が不可欠!

要件が緩和された「業務改善助成金」は、中小企業や個人事業主にとって、生産性向上と従業員の処遇改善を両立させるための、またとないチャンスです。賃上げを条件に、これまで手が出せなかった設備投資や、パソコン・車両の導入まで、国からの手厚い支援を受けられる可能性があります。

業務改善助成金活用の鉄則

  1. まずは自社が対象となるかを確認: 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が「50円以内」の従業員がいるかを確認しましょう。
  2. 助成対象となる経費を洗い出す: パソコンや車両も対象となる「特例要件」に該当しないか、確認しましょう。
  3. 「助成金のための賃上げ」は厳禁: あくまで、自社の持続可能な成長計画の一環として、賃上げと設備投資をセットで考えましょう。
  4. 人件費増と助成金額のバランスをシミュレーションする: 長期的な視点で、本当に会社にとってプラスになるかを慎重に判断します。
  5. 申請は専門家(社労士)に相談する: 複雑な手続きはプロに任せ、確実な受給を目指しましょう。

この助成金は、単に目先の資金を得るためのものではありません。これを起爆剤として、社内の業務プロセスを見直し、生産性を向上させ、生み出された利益を従業員に適切に還元し、さらに会社を成長させていくという、「攻めの経営」への転換を促すための制度です。

ぜひ、この記事を参考に、自社における業務改善助成金の活用可能性を検討してみてください。そして、専門家と連携しながら、この強力な支援制度を、あなたの会社の明るい未来を切り拓くための力強い一歩としてください。