【年収900万円の壁は本当?】税金と手取りの真実!所得増を恐れないための税金シミュレーションと正しい知識

節税・経費

「年収が900万円を超えると、税率が一気に上がって損をするって本当?」
「お金は欲しいけれど、税金をたくさん取られるのは嫌だ…」

収入を増やしたいと考える一方で、税負担の増加を懸念し、特定の年収ライン(特に「年収900万円の壁」)を意識して、あえて収入を抑制しようと考える方は少なくありません。しかし、この「壁」に対する認識は、果たして正しいのでしょうか?

実は、日本の所得税の仕組みを正しく理解すれば、「壁」を越えたからといって、急に手取りが減るような「逆転現象」は起こらないことが分かります。むしろ、「壁」を過度に恐れるあまり、収入を増やす機会を逃してしまうことの方が、長期的には大きな損失に繋がる可能性があるのです。

この記事では、所得税の「超過累進課税制度」という基本的な仕組みから、なぜ「900万円の壁」といった言葉が生まれるのか、そして実際に年収が増えると、所得税・住民税・社会保険料の負担はどのように変化し、手取り額はどうなるのか、具体的なシミュレーションを交えながら、分かりやすく徹底的に解説していきます。

所得税の基本:なぜ「900万円の壁」が意識されるのか?

まず、所得税がどのように計算され、なぜ特定の年収ラインが「壁」として意識されるのか、その仕組みを理解しましょう。

1. 所得税は「超過累進課税制度」

日本の所得税は、「超過累進課税制度」という仕組みを採用しています。これは、所得が高くなるほど、段階的に高い税率が適用されるという制度です。

【所得税の速算表(令和6年分)】

課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超 330万円以下10%97,500円
330万円超 695万円以下20%427,500円
695万円超 900万円以下23%636,000円
900万円超 1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

この表を見ると、課税所得金額が900万円を境に、税率が23%から33%へと10%もジャンプアップすることが分かります。この税率の上がり幅が他の区間(5%→10%など)と比較して大きいため、「900万円を超えると一気に税金が高くなるのではないか?」という印象が生まれ、これが「900万円の壁」と呼ばれる所以となっています。

2. 所得税計算における2つの重要な誤解

この速算表を見る際に、多くの方が陥りがちな2つの重要な誤解があります。

  • 誤解①:「年収(給与額面)」に直接税率がかかると思っている
    • 正解: 税率がかかるのは、年収そのものではなく、そこから様々な控除を差し引いた後の「課税所得金額」です。
      • 課税所得金額 = 年収 - 給与所得控除 - 各種所得控除
        • 給与所得控除: 会社員の必要経費に相当するもので、年収に応じて自動的に計算されます(例:年収500万円の場合、144万円)。
        • 各種所得控除: 社会保険料控除、扶養控除、生命保険料控除、基礎控除など、個人の状況に応じて適用される控除です。
      • したがって、年収が900万円あっても、課税所得金額はそれよりもかなり低い金額になります。
  • 誤解②:「課税所得金額」の全額に高い税率がかかると思っている
    • 正解: 超過累進課税では、課税所得金額の全額にその区分の税率がかかるわけではありません。
    • 例えば、課税所得金額が1,000万円の場合、「1,000万円 × 33%」で計算するのではなく、
      • 195万円までの部分には5%
      • 195万円超~330万円以下の部分には10%
      • 330万円超~695万円以下の部分には20%
      • 695万円超~900万円以下の部分には23%
      • そして、900万円を超えた100万円の部分にのみ33%
        というように、各所得段階に応じて異なる税率を適用し、それらを合計して税額を算出します。
    • つまり、900万円の壁を越えたとしても、税率が上がるのは「900万円を超えた部分だけ」であり、900万円以下の部分の税額は変わりません。そのため、収入が増えて手取りが減るという「逆転現象」は起こらないのです。

税金は所得税だけじゃない!住民税と社会保険料の存在

手取り額を考える上で、所得税だけでなく、「住民税」と「社会保険料」の存在を忘れてはなりません。

  • 住民税:
    • 所得税とは異なり、累進課税ではなく、原則として課税所得金額に対して一律約10%の税率が課されます。
    • 所得が低い段階では、所得税よりも住民税の方が負担率として大きく感じられることがあります。
  • 社会保険料(健康保険・厚生年金など):
    • これは税金ではありませんが、手取り額に大きな影響を与える強制的な負担です。
    • 給与(標準報酬月額)に対して、従業員負担分だけで約15%の保険料がかかります(会社も同額を負担)。
    • 所得が低い段階では、所得税や住民税よりも、この社会保険料の負担が最も重くなります。
    • ただし、社会保険料には上限額が設定されており、一定の給与額を超えると、それ以上給与が増えても保険料は頭打ちになります。そのため、高額所得者になるほど、収入に占める社会保険料の負担割合は相対的に低下していきます。

では、実際に年収が増えると、所得税・住民税・社会保険料の合計負担はどのように変化し、手取り額はどうなるのでしょうか。いくつかの年収パターンでシミュレーションしてみましょう。

(※以下のシミュレーションは、扶養家族なし、生命保険料控除などの各種所得控除は社会保険料控除と基礎控除のみを考慮した、簡略化されたモデルケースです。実際の手取り額は個人の状況により異なります。)

ケース1:年収500万円の場合

  • 社会保険料(自己負担):約77万円
  • 所得税:約13万円
  • 住民税:約24万円
  • 合計負担額:約114万円(負担割合:約22.8%)
  • 手取り額:約386万円
  • 分析: この所得水準では、税金よりも社会保険料の負担が圧倒的に大きいことが分かります。所得税率も低い段階です。

ケース2:年収1,000万円の場合

  • 社会保険料(自己負担):約136万円
  • 所得税:約81万円
  • 住民税:約63万円
  • 合計負担額:約280万円(負担割合:約28.0%)
  • 手取り額:約720万円
  • 分析: 年収は2倍になりましたが、合計負担割合は22.8%から28.0%へと約5ポイントの上昇に留まっています。所得税の負担は増えていますが、社会保険料の負担割合は相対的に低下し始めます。手取り額は、年収500万円の場合と比較して、約334万円も増加しています。

ケース3:年収2,000万円の場合

  • 社会保険料(自己負担):約180万円
  • 所得税:約365万円
  • 住民税:約161万円
  • 合計負担額:約706万円(負担割合:約35.3%)
  • 手取り額:約1294万円
  • 分析: 所得税の累進性が効いてきて、負担割合は35%を超えてきます。しかし、社会保険料の上限が近づいてくるため、負担割合の増加は緩やかになってきます。手取り額は、年収1,000万円の場合からさらに約574万円も増加しており、収入を増やすメリットは依然として非常に大きいことが分かります。

ケース4:年収3,000万円の場合

  • 社会保険料(自己負担):約190万円
  • 所得税:約724万円
  • 住民税:約293万円
  • 合計負担額:約1207万円(負担割合:約40.2%)
  • 手取り額:約1793万円
  • 分析: 社会保険料はほぼ上限に達し、負担割合の増加は主に所得税と住民税によるものとなります。手取り額は、年収2,000万円の場合から約499万円増加します。

ケース5:年収5,000万円の場合

  • 社会保険料(自己負担):約199万円
  • 所得税:約1,593万円
  • 住民税:約491万円
  • 合計負担額:約2,283万円(負担割合:約45.7%)
  • 手取り額:約2,717万円
  • 分析: よく言われる「最高税率55%」には、まだ達していません。これは、給与所得控除や各種所得控除、そして累進課税の仕組みにより、実質的な負担割合は名目の最高税率よりも低くなるためです。手取り額は、年収3,000万円の場合から約924万円も大幅に増加しています。

シミュレーションから分かること

  • 収入が増えれば、手取り額は必ず増える: どの年収段階においても、収入の増加に伴い、手取り額は確実に増加しています。「壁」を越えたことで手取りが減るような「逆転現象」は起こりません。
  • 「900万円の壁」は、心理的な壁に過ぎない: 確かに900万円を境に所得税率は10%上昇しますが、それは900万円を超えた部分にのみ適用されるため、トータルでの手取り額への影響は限定的です。上記のシミュレーションでも、年収500万円から1,000万円へと収入が増えた際のメリットは非常に大きいことが分かります。
  • 負担の主役は所得段階によって変わる: 年収が低い段階では社会保険料の負担が最も重く、年収が高くなるにつれて所得税の負担が大きくなっていきます。

所得増を恐れない!賢い資産形成の考え方

税負担を恐れて収入を抑制するのは、機会損失に他なりません。むしろ、積極的に収入を増やし、手元に残った資金を賢く活用していくことが、豊かな人生を築く上で重要です。

1. 積極的に稼ぎ、手取り額を増やす

  • まずは、本業でスキルアップを図ったり、副業に挑戦したりして、収入の総額を増やすことに注力しましょう。手取り額が増えれば、生活の質を向上させたり、将来のための投資に回したりする余裕が生まれます。

2. 節税・控除制度をフル活用する

  • 収入が増えてきたら、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)、ふるさと納税、生命保険料控除など、活用できる節税・控除制度を漏れなく利用し、税負担を適正化しましょう。
  • これにより、同じ年収でも手取り額をさらに増やすことが可能です。

3. 余剰資金を資産運用に回す

  • 労働によって得た所得(給与所得など)には、最高で55%もの税金がかかる可能性があります。
  • 一方、株式投資や投資信託などで得られる金融所得(配当所得、譲渡所得)に対する税率は、原則として一律約20%です。
  • したがって、労働で得た余剰資金を資産運用に回し、金融所得を増やしていくことで、より効率的に資産を形成していくことができます。
  • 積極的に稼ぎ、節税し、手元に残ったお金を資産運用でさらに増やしていく。この好循環を生み出すことが、経済的な自由への道筋となります。

まとめ:「900万円の壁」は幻想!税金を恐れず、豊かさへのアクセルを踏み込もう!

「年収900万円の壁」をはじめとする、特定の年収ラインを過度に恐れる必要は全くありません。日本の税制は、収入が増えれば手取り額も必ず増えるように設計されています。

この記事の重要ポイント

  1. 所得税は「課税所得金額」に、しかも「超過累進」でかかる: 年収の額面全体に高い税率がかかるわけではありません。
  2. 「900万円の壁」を越えても、手取りが減ることはない: 税率が上がるのは、あくまで900万円を超えた部分だけです。
  3. 手取り額を考える上では、所得税・住民税・社会保険料の3つをトータルで見る必要がある。
  4. 収入が増えれば、負担割合は上昇するが、手取り額の増加分の方がはるかに大きい。
  5. 税負担を恐れて収入を抑制するのは最大の機会損失。積極的に稼ぎ、賢く節税し、資産運用でさらに増やすのが王道。

税金の仕組みを正しく理解し、過度な不安を払拭すること。そして、税負担の増加を恐れるのではなく、それを上回る収入増を目指し、手元に残ったお金を賢く活用していくこと。これこそが、これからの時代を豊かに生き抜くための、最も合理的で前向きなアプローチと言えるでしょう。

「壁」は、乗り越えるためにあります。税金という名の幻想の壁に惑わされることなく、あなた自身の可能性を最大限に引き出し、豊かさへのアクセルを力強く踏み込んでください。この記事が、そのための後押しとなれば幸いです。