【役員借入金の教科書】メリット・デメリットと、会社を救う賢い活用法を徹底解説

NISA・保険

「会社の運転資金が足りないけど、銀行から融資を受けるのは難しい…」
「社長である自分の個人資産を、会社のために一時的に使いたいけど、どう処理すればいい?」
「決算書にある『役員借入金』、これって放置しておくと危険だって本当?」

会社の経営者であれば、事業の運転資金が一時的に不足し、社長個人の資産から会社にお金を貸し付ける、という経験をされた方も少なくないのではないでしょうか。この、 社長が会社にお金を貸した際に発生する勘定科目が「役員借入金」 です。

一見すると、ただの「社長からの借金」に見えるこの役員借入金ですが、実は、その扱い方一つで、 会社の資金繰りを劇的に改善する「救世主」 にもなれば、将来、深刻な「税金問題」を引き起こす時限爆弾にもなり得る、非常に特殊で重要な存在なのです。

この記事では、数多くの企業の財務戦略に携わってきた専門家の視点から、この 「役員借入金」について、その基本的な仕組みから、資金繰り・税金・相続におけるメリットとデメリット、そして会社を成長させるための賢い管理・活用方法 まで、徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。

  • 「役員借入金」が、なぜ銀行から「第二の資本金」として評価されることがあるのか、その理由がわかります。
  • 役員報酬との決定的な違いと、役員借入金を活用して社長個人の税金・社会保険料を軽減するテクニックを学べます。
  • 役員借入金に「利息」を設定する際のメリットと、注意すべき税務上のポイントを理解できます。
  • 放置された役員借入金が、将来、莫大な「相続税」に変わるリスクとその具体的な対策(生前贈与・債務免除)を知ることができます。
  • 会社の成長ステージに合わせて、役員借入金を計画的に管理・返済・整理していくための具体的な方法を身につけることができます。

役員借入金は、使い方を熟知すれば、会社経営における最強の武器の一つとなります。この記事を参考に、あなたの会社の財務をより強固にし、未来のリスクに備えるための知識を身につけていきましょう。

「役員借入金」とは?役員報酬との根本的な違い

まず、役員借入金の基本的な定義と、よく混同されがちな「役員報酬」との違いについて、正確に理解しておきましょう。

役員借入金の基本

役員借入金とは、社長や役員が、会社に対して個人的にお金を貸し付けた際に発生するものです。

  • 会社側から見れば:社長からの「借金」であり、会計上は 「負債」 として計上されます。
  • 社長側から見れば:会社への「貸付金」であり、将来返してもらう権利のある 「債権(資産)」 となります。

会社の資金が不足した際に、社長がポケットマネーで会社の経費を立て替えたり、運転資金を補填したりすると、この役員借入金が帳簿上に発生します。

役員報酬との決定的な違い

一方、役員報酬は、社長が会社の経営者として働いたことに対する 「給料」 です。この二つは、税務上の取り扱いが全く異なります。

役員借入金役員報酬
会社の経費(損金)ならないなる
会社の利益への影響影響なし利益を減少させる
社長個人の税金かからない所得税・住民税がかかる
社長個人の社会保険料かからないかかる

役員報酬は、会社の経費となるため、支払うほど会社の利益は減り、赤字になる要因ともなります。しかし、役員借入金は、単なる「お金の貸し借り」であるため、会社の経費にはならず、利益には影響を与えません。

この違いを理解することが、役員借入金を戦略的に活用するための第一歩です。

会社を救う!役員借入金の3大メリット

役員借入金は、正しく活用することで、会社の資金繰り、税金、そして相続において、大きなメリットをもたらします。

メリット①:資金繰りの改善と、銀行評価の向上

会社にとって最も直接的なメリットは、資金繰りの安定です。銀行からの融資が難しい局面でも、社長が資金を供給することで、当面の支払いを乗り切り、経営を安定させることができます。

そして、この役員借入金は、銀行からの評価においても、意外なプラスの効果をもたらすことがあります。

会計上は「負債」である役員借入金ですが、銀行はこれを 「実質的な資本金(第二の資本金)」 と見なしてくれることがあるのです。

【銀行が考えること】
「この会社は、いざとなれば社長が私財を投じてでも会社を守るという、強い意志と覚悟がある」
「社長からの借入なので、返済を急かされるリスクは低い。実質的には、返済不要の資本金のようなものだ」

このように、社長からの多額の役員借入金があることは、経営者のコミットメントの証と受け取られ、会社の信用力を高め、結果として銀行からの追加融資を受けやすくなる可能性に繋がるのです。

メリット②:社長個人の「税金・社会保険料」の軽減

役員借入金は、社長個人の手取り額を最大化するための、強力なテクニックとしても活用できます。

例えば、会社に利益が出て、社長がもっと多くの生活費を手に入れたいと考えたとします。

  • 選択肢A:役員報酬を増額する
    → 増額した分の報酬に対して、高い税率の所得税・住民税と、社会保険料が課せられます。手元に残る金額は、額面よりも大幅に少なくなってしまいます。
  • 選択肢B:役員報酬は据え置き、役員借入金を返済してもらう
    → 会社から役員借入金を返済してもらう行為は、単なる「借金の返済」です。そのため、社長個人には所得税・住民税も、社会保険料も一切かかりません。

つまり、会社の利益を社長個人に移す際に、役員報酬として受け取るのではなく、過去の役員借入金の「返済」という形で受け取ることで、社長個人の税・社会保険料負担をゼロにできるのです。

メリッ-ト③:相続対策としての活用

役員借入金は、将来の「相続対策」としても活用できます。

社長が会社に貸しているお金(役員借入金)は、社長個人の「資産(貸付金債権)」です。社長に万が一のことがあった場合、この役員借入金は、そのまま相続財産となり、相続税の課税対象となります。

もし、この役員借入金が数千万円、数億円と積み上がっている場合、莫大な相続税が発生する可能性があります。

そこで、社長が元気なうちに、

  • 生前贈与:役員借入金の返済を受ける代わりに、その権利を子供に贈与する。(年間110万円までなら非課税)
  • 債務免除:会社に対して「この借金は、もう返さなくていいですよ」と、債務を免除する。

といった対策を計画的に行うことで、自身の相続財産を圧縮し、将来、家族が支払う相続税の負担を軽減することができるのです。(※債務免除にはデメリットもあるため、後述します)

放置は危険!役員借入金の3大デメリットとリスク

多くのメリットがある一方で、役員借入金を無計画に放置しておくと、深刻なデメリットやリスクをもたらす「時限爆弾」へと変貌します。

デメリット①:利息の設定と、それに伴う税金

原則として、社長と会社の間のお金の貸し借りであっても、 適正な「利息」 を設定するのが望ましいとされています。

もし利息を設定した場合、

  • 会社側:支払った利息を 「支払利息」として経費(損金)に計上 できます。
  • 社長個人:受け取った利息は 「雑所得」として、確定申告が必要 になり、所得税・住民税が課せられます。

利息を設定すれば、会社の利益を圧縮して法人税を下げることができますが、その分、社長個人の税負担が増える、というトレードオフの関係になります。

また、利息を設定しない「無利息」での貸付も可能ですが、税務上、会社が利息相当分の利益を得た(受贈益)と見なされ、課税されるリスクもゼロではありません。

デメリット②:債務免除による「法人税」の発生

相続対策として有効な「債務免除」ですが、これには大きな税務上のリスクが伴います。

社長が会社に対して債務を免除すると、会社側から見れば、 「借金がなくなった(利益が出た)」と見なされます。この免除された金額は「債務免除益」 として、会社の利益に計上され、法人税の課税対象となってしまうのです。

例えば、会社が赤字で、過去の繰越欠損金がたくさんある状態であれば、債務免除益と相殺して法人税がかからないケースもあります。しかし、利益が出ている会社で安易に債務免除を行うと、思わぬ多額の法人税が発生する可能性があるため、実行のタイミングは慎重に判断する必要があります。

デメリット③:相続時の「相続税」という最大の爆弾

これが、役員借入金を放置しておくことの、最大のリスクです。

前述の通り、役員借入金は社長個人の財産であり、相続税の対象となります。問題なのは、これが 「現金」ではなく、「会社に対する貸付金」という、すぐに換金できない資産 である点です。

例えば、社長が1億円の役員借入金を残して亡くなったとします。相続人である家族は、この1億円という資産に対して、多額の相続税を 「現金」で 支払わなければなりません。

しかし、会社にその1億円を返済するだけの現金がなければ、相続人は、相続税を支払うために、自らの預貯金を取り崩したり、他の資産を売却したりしなければならなくなります。

「帳簿上は1億円の資産を相続したはずなのに、手元には現金が全くなく、納税資金に窮する」

これが、役員借入金が引き起こす、最も悲惨なシナリオです。

役員借入金の賢い管理と出口戦略

では、この役員借入金を、リスクではなくメリットとして活用し続けるためには、どのように管理していけばよいのでしょうか。

1. 定期的な残高のチェック

まず、最も基本的なことは、「現在、役員借入金がいくらあるのか」を常に把握しておくことです。

月次決算などを通じて、毎月、貸借対照表の「役員借入金」の残高を確認する習慣をつけましょう。なぜ増えたのか、あるいは減ったのか、その原因を把握し、不必要に残高が膨れ上がらないように管理することが重要です。

2. 計画的な返済計画の策定

役員借入金は、「いつかは返済すべきもの」という認識を持つことが大切です。
会社の利益が出たタイミングで、役員報酬を上げる代わりに、役員借入金を計画的に返済していく。これにより、社長個人の税・社会保険料負担を抑えながら、会社の帳簿をクリーンにしていくことができます。

3. 後継者への引き継ぎと相続対策

もし、後継者が決まっているのであれば、役員借入金の出口戦略はより計画的に進める必要があります。

  • いつ、誰に、どのようにして、この貸付金債権を引き継がせるのか。
  • 相続税の負担を最小限にするために、どのタイミングで生前贈与や債務免除を実行すべきか。

といった点を、税理士などの専門家と相談しながら、長期的な視点で計画を立てていくことが、円満な事業承継を実現するための鍵となります。

まとめ:役員借入金は、経営者の財務スキルを映す鏡

今回は、多くの中小企業が抱える「役員借入金」について、そのメリット・デメリットから、賢い活用法までを網羅的に解説しました。

  • 役員借入金は、会社の資金繰りを支え、銀行からの信用を高める「第二の資本金」となり得ます。
  • 役員報酬の代わりに「返済」という形で受け取ることで、社長個人の税・社会保険料負担を劇的に軽減できます。
  • しかし、無計画に放置すれば、将来、相続時に莫大な「相続税」という時限爆弾に変わるリスクをはらんでいます。
  • メリットを最大化し、リスクを最小化するためには、「定期的な残高チェック」「計画的な返済」「専門家と連携した相続対策」が不可欠です。

役員借入金は、単なる勘定科目の一つではありません。それは、経営者の会社に対するコミットメントの証であり、同時に、経営者の財務リテラシーが如実に表れる「鏡」のような存在です。

ぜひ、この記事を参考に、自社の貸借対照表に記載されている「役員借入金」と改めて向き合ってみてください。その数字を正しく理解し、戦略的にコントロールすることができれば、それはあなたの会社を未来の危機から救い、さらなる成長へと導く、強力な武器となるはずです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。