【神の節税】社長の家賃は会社の経費に!社宅制度を活用した節税スキーム完全ガイド

節税・経費

「毎月の家賃や住宅ローン。これが会社の経費にできたら、どれだけ助かるだろうか…」

マイクロ法人や中小企業の社長様であれば、一度はこう考えたことがあるのではないでしょうか。個人の支出の中で最も大きな割合を占めることが多い「住居費」。この負担を合法的に会社の経費として計上し、結果として会社と個人の両方の手残りを最大化する方法があります。

それが、 「社宅制度」 を活用した節税スキームです。

この方法は、生命保険や倒産防止共済のような「税金の支払いを将来に先送りする(繰り延べる)」タイプの節税とは一線を画します。社宅制度は、本来であれば個人の財布から出ていくはずだった支出を、正々堂々と会社の経費に組み込むことができる、純粋な意味での節税です。

その効果の大きさから、専門家の間では 「神の節税」 とまで呼ばれることもあります。

この記事では、そんな強力な社宅節税について、

  • どのような仕組みで節税になるのか?
  • 導入するための具体的なステップと条件
  • 【最重要】社員と役員で異なる「適正家賃」の複雑な計算方法
  • 賃貸と自社所有、どちらが有利なのか?
  • 導入前に知っておくべき注意点とリスク

といった内容を、専門知識がない方でも完全に理解できるよう、徹底的に、そして丁寧にかみ砕いて解説していきます。少し長い記事になりますが、最後までお読みいただければ、あなたの会社のキャッシュフローを劇的に改善する道筋がはっきりと見えてくるはずです。

結論:なぜ社宅は「最強の節税」の一つなのか?

本題に入る前に、このスキームの核心をシンプルにお伝えします。

「生活のために必ず支払う住居費(家賃・住宅ローンの一部)を、会社の経費にできるから」

これに尽きます。通常、プライベートな生活費は経費にできません。しかし、社宅という制度のルールを正しく使うことで、この大原則に例外を作ることができるのです。これにより、会社は経費が増えて法人税が減り、社長個人は給与から天引きされる税金や社会保険料が減るという、まさに一石二鳥の効果が生まれます。

STEP1:社宅節税の基本スキームと全体像

では、具体的に社宅制度を導入するには、何をすればよいのでしょうか。基本的な流れは、次の3つのステップで構成されます。

  1. 会社名義で物件を契約(または購入)する
    • 賃貸マンションやアパートであれば、会社名義で賃貸借契約を結びます。
    • 戸建てやマンションを購入する場合は、会社名義で所有権登記をします。
    • ※注意: すでに社長個人で契約・所有している物件をそのまま使うことはできません。必ず「法人契約」に切り替えるか、法人として新たに契約・購入する必要があります。これが大前提です。
  2. 会社が家賃やローンを支払う
    • 契約者が会社なので、当然、家賃の支払いや住宅ローンの返済は、会社の銀行口座から行います。
    • 支払った家賃は、原則として会社の 経費(地代家賃など) になります。
    • 住宅ローンの場合は、支払う 「利息」部分のみが経費 となり、元本部分は経費になりません(資産の購入扱い)。
  3. 入居者(社長・社員)から「一定額の家賃」を徴収する
    • これが、このスキームにおける最重要ポイントです。会社が家賃を全額負担して、社長が無料で住んでしまうと、それは「家賃分の給与を現物で支給した」と見なされ、全額が社長個人の所得として課税されてしまいます(給与課税)。
    • そうならないために、法律で定められた計算方法に基づき算出した 「適正な家賃(賃貸料相当額)」 を、毎月、社長や社員の給与から天引きする形で徴収します。

この3ステップを踏むことで、会社が支払う家賃と、社長から徴収する家賃の「差額」部分が、実質的に会社の経費として認められ、節税効果が生まれるのです。

STEP2:シミュレーションで見る!社宅節税の絶大な効果

言葉だけでは分かりにくいので、具体的な数字を使って、どれほどのインパクトがあるのかを見てみましょう。

【前提条件】

  • 社長:40歳、独身
  • 現在の役員報酬(月額):60万円
  • 住居:賃貸マンション(家賃 月額10万円)
  • これまでは、個人契約で自分で家賃を支払っていた

【Before】社宅制度を導入する前

まず、現状の整理です。
役員報酬60万円から、社会保険料や税金が引かれ、さらにそこから家賃10万円を支払っています。

  • 役員報酬(月額):600,000円
  • 社会保険料(健康保険・厚生年金)※個人負担分:約89,000円
  • 所得税(源泉徴収税額):約30,000円
  • 控除合計:約119,000円

この時点での手取りは約48.1万円。ここからさらに家賃10万円を支払うので、自由に使えるお金は約38.1万円となります。
(※住民税は前年所得にかかるため、ここでは簡略化しています)
(※社会保険料は会社も同額を負担しているため、会社としてのコストはさらに約8.9万円上乗せされています)

【After】社宅制度を導入した後

次に、社宅制度を導入した場合です。
会社が家賃10万円を支払う代わりに、社長から適正家賃として5万円を徴収することにします(この5万円という金額の根拠は後ほど詳しく解説します)。
そして、この5万円分、個人の負担が減るため、その分だけ役員報酬を60万円→55万円に減額します。

  • 役員報酬(月額):550,000円
  • 社会保険料(健康保険・厚生年金)※個人負担分:約84,000円
  • 所得税(源泉徴収税額):約24,000円
  • 社宅家賃(給与から天引き):50,000円
  • 控除合計:約158,000円

この時点での手取りは約39.2万円。しかし、家賃はすでに天引きで支払済みです。
つまり、自由に使えるお金は約39.2万円となります。

【結果の比較】

BeforeAfter差額(月)差額(年)
自由に使えるお金約38.1万円約39.2万円+1.1万円+13.2万円

一見、自由に使えるお金が月々1.1万円、年間で約13万円増えただけに見えるかもしれません。しかし、節税効果はこれだけではありません。

【会社側のメリット】
役員報酬を60万円から55万円に下げたことで、会社が負担する社会保険料も減少します。上記の例では月額で約5,000円、年間で約6万円のコスト削減になります。

【トータルのメリット】
社長個人の手取り増(年間約13万円)と、会社のコスト削減(年間約6万円)を合わせると、年間で約19万円ものキャッシュが会社と個人の手元に残ることになります。

これは、役員報酬の額面(給与の総支給額)は下がっているにもかかわらず、です。社会保険料や税金の計算の元となる「役員報酬」を引き下げられることが、このスキームが持つ本当の力なのです。

STEP3:【最重要】一体いくら徴収すれば良いのか?「適正家賃」の計算方法

さて、このスキームを成功させるための最大の関門が、社長や社員から徴収すべき 「適正家賃」の計算 です。この金額を間違えると、税務署から指摘を受け、追徴課税されるリスクがあります。

ルールは、「一般の社員」と「役員」とで大きく異なります。それぞれ見ていきましょう。

【一般社員の場合】

まず、役員ではない一般の社員に社宅や寮を提供する場合のルールです。
徴収すべき家賃の最低ラインは、 「賃貸料相当額の50%」 とされています。
そして、この「賃貸料相当額」は、非常に複雑な次の3つの合計額で計算されます。

賃貸料相当額 = (1) + (2) + (3)

  1. その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
  2. 12円 × (その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡)
  3. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

…いかがでしょうか。おそらく、ほとんどの方が「全く意味がわからない」と感じたはずです。
固定資産税の課税標準額は、物件の所有者でなければ簡単には分かりません。

しかし、ご安心ください。実務上、この複雑な計算式を毎回使うことは稀です。
一般的に、この計算式で算出した金額は、実際に支払っている家賃の10%~20%程度に収まることが多いと言われています。

つまり、実際に支払っている家賃が10万円だとしたら、賃貸料相当額は1〜2万円程度になる可能性が高いのです。そして、その賃貸料相当額の「50%」以上を社員から徴収すれば良いので、結果として支払家賃の5%〜10%程度の負担で済むケースが多くなります。

社員にとっては非常に有利な制度であり、これは福利厚生として強力な武器になります。

【役員(社長)の場合】

ここからが本番です。社長をはじめとする「役員」に社宅を貸す場合のルールは、社員の場合よりも厳しく、さらに複雑になります。
まず、社宅はその規模によって、次の3種類に区分されます。

区分主な内容節税メリット
① 小規模な住宅比較的コンパクトな物件。法定耐用年数30年以下の木造等なら132㎡以下、耐用年数30年超のRC造等なら99㎡以下大(最も有利)
② 一般の住宅上記の小規模な住宅にも、下記の豪華社宅にも当てはまらない、一般的な規模の物件。
③ 豪華社宅床面積が240㎡を超えるもの。または240㎡以下でも、プール付きなど社会通念上豪華と判断される物件。一切なし

【最重要】豪華社宅は節税に使えない
まず大前提として、③の豪華社宅に該当する場合、社宅節税の優遇措置は一切受けられません。この場合は、会社が支払っている家賃と同額(時価)を役員から徴収する必要があります。つまり、節税効果はゼロです。

節税を目的とするならば、①小規模な住宅か、②一般の住宅のどちらかを選ぶ必要があります。

では、それぞれの「適正家賃」の計算方法を見ていきましょう。


① 小規模な住宅の場合の適正家賃

最も節税メリットが大きいのがこのパターンです。計算式は、先ほどの「一般社員」のケースで見たものと全く同じです。

適正家賃 = (1) + (2) + (3)

  1. その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
  2. 12円 × (その建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3㎡)
  3. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%

※注意点: 社員の場合と異なり、「計算結果の50%でOK」というルールはありません。この計算式で算出された金額そのものを徴収する必要があります。とはいえ、計算結果は実勢家賃よりも大幅に低くなることが多いため、非常に有利であることに変わりはありません。


② 一般の住宅の場合の適正家賃

小規模住宅の基準を超える物件の場合は、こちらのルールが適用されます。計算方法は、その物件が「自社所有」か「賃貸」かで異なります。

  • 【自社所有物件の場合】
    以下の2つの合計額の12分の1が、月々の適正家賃となります。
    1. その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 12% (※耐用年数30年超なら10%)
    2. その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 6%
  • 【賃貸物件の場合】
    これが最も多くのケースに当てはまると思われます。適正家賃は、次のAとBを比較して、いずれか「高い方」の金額となります。
    • A: 上記の【自社所有物件の場合】の計算式で算出した金額
    • B: 会社が支払っている実際の家賃 × 50%

この 「支払家賃の50%」 という基準が非常に重要です。たとえ、固定資産税を基にした計算(A)で非常に低い金額(例:2万円)が算出されたとしても、会社が支払っている家賃が20万円であれば、その半額である「10万円」(B)の方が高くなります。その場合、役員から徴収すべき最低家賃は10万円となるのです。

多くの都市部の賃貸物件では、この「支払家賃の50%」が適用されるケースが非常に多いのが実情です。
冒頭のシミュレーションで、家賃10万円の物件に対して5万円を徴収したのは、このルールに基づいています。

【役員社宅の結論】
節税効果を最大化したいのであれば、狙うべきは 「小規模な住宅」 です。物件選びの段階から、この面積基準(木造なら132㎡、RC造なら99㎡)を意識することが、社宅節税を成功に導く最大の秘訣と言えるでしょう。

STEP4:【応用編】賃貸 vs 自社所有、どちらが有利か?

社長が住む家を会社で用意するにあたり、「賃貸で借りる」べきか、「いっそ会社で買って(自社所有して)しまう」べきか、という悩みも出てきます。これは会社の資金状況や将来計画によって判断が分かれますが、それぞれの税務上のメリット・デメリットを整理しておきましょう。

【自社所有のメリット】

  1. 減価償却費を計上できる
    建物は会社の資産なので、毎年「減価償却費」という形でお金の支出を伴わない経費を計上できます。これはPL上の利益を圧縮し、法人税を削減する効果があります。
  2. 消費税の還付を受けられる可能性がある
    建物を購入した際に支払った消費税は、会社の課税売上にかかる消費税から控除できます(仕入税額控除)。会社の業態や売上規模によっては、消費税の還付を受けられるケースもあり、これは非常に大きなメリットです。
  3. 相続税対策になる可能性がある
    個人で不動産を所有するよりも、会社の株式という形で所有する方が、相続時の財産評価額を低く抑えられる場合があります。

【自社所有のデメリット(注意点)】

  1. 住宅ローンが使えない(最大のデメリット)
    個人がマイホームを買う際に利用できる、低金利(1%前後)で長期間(最長35年)の「住宅ローン」は、法人は利用できません。法人で不動産購入資金を借りる場合は、金利が高く、返済期間も短い「事業用ローン(プロパーローン)」を組むことになり、資金繰りの負担が格段に重くなります。
  2. 初期投資が巨額になる
    当然ながら、購入には多額の自己資金が必要になります。その資金を会社の運転資金や他の事業投資に回した方が、リターンが大きい可能性もあります。
  3. 流動性が低い
    一度購入すると、会社の業績が悪化したり、移転したくなったりしても、簡単に売却できないリスクがあります。

【結論】
消費税還付などの大きなメリットを狙える特定のケースを除き、多くのマイクロ法人や中小企業にとっては、まずは「賃貸」から始めるのが現実的でリスクが低い選択肢と言えるでしょう。

STEP5:導入前に必ず確認すべき注意点・留意事項

最後に、この社宅節税スキームを導入する前に、必ず押さえておくべき注意点をまとめます。

  • 住宅手当とは全くの別物
    給与に上乗せして支払う「住宅手当」は、単なる給与の一部です。全額が課税対象となり、社会保険料の計算基礎にも含まれます。社宅制度とは全く異なるので混同しないようにしましょう。
  • 水道光熱費や電気代は対象外
    社宅制度で経費にできるのは、あくまで「家賃」の部分です。個人的に使用する水道光熱費や通信費などを会社が負担した場合、その分は給与として課税されますのでご注意ください。
  • 将来もらえる年金額が減る
    このスキームは、役員報酬を下げることで社会保険料を削減する方法です。納める厚生年金保険料が減るということは、将来受け取れる老齢厚生年金の額も減ることを意味します。このデメリットを正しく理解し、削減できたキャッシュを原資に、iDeCoやNISA、小規模企業共済などを活用して、ご自身で老後の資産形成を計画的に行う必要があります。
  • 契約書や議事録を整備する
    税務調査などで指摘を受けないよう、「社宅管理規程」を社内で作成し、賃貸借契約書は必ず会社名義で保管、役員に社宅を提供する際は株主総会や取締役会で承認を得て「議事録」を残しておくなど、形式をきちんと整えておくことが重要です。

まとめ:知識は最強の武器。賢い節税で会社の未来を創る

今回は、社長の家賃を経費化する「社宅節税」について、その仕組みから具体的な計算方法、注意点までを網羅的に解説しました。

複雑な部分も多かったと思いますが、重要なポイントは次の通りです。

  1. 社長の住居費を経費化できる「神の節税」であり、繰り延べではない純粋な節税である。
  2. 成功の鍵は「会社名義での契約」と「適正家賃の徴収」。
  3. 役員の場合、節税効果が最も高いのは「小規模な住宅」(木造132㎡以下、RC造99㎡以下)。
  4. 一般の賃貸物件では「支払家賃の50%」を徴収するケースが多いと心得ておく。
  5. 将来の年金減少などのデメリットも理解し、自己責任で資産形成を行う必要がある。

このスキームは、知っているか知らないかで、年間に数十万円、場合によっては百万円単位で手元に残るキャッシュが変わってくる、非常に強力な経営戦略です。その浮いたお金を、新たな事業投資や人材採用、あるいは万が一の備えに回すことで、会社の成長を大きく加速させることができます。

もちろん、本記事でご紹介した内容は一般的なルール解説です。実際の適正家賃の計算や最適な導入方法は、物件の状況や会社の財務状況によって異なります。導入を検討される際は、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、ご自身の会社に合った万全のプランを立てるようにしてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。