「会社の借金が、もし返せなくなったら、自分の全財産を失ってしまうのではないか…」
「万が一、事業に失敗したら、自己破産するしかないのだろうか…」
「『経営者保証』を外せる制度ができたと聞いたけど、自分の会社でも使えるのだろうか?」
会社の経営者であれば、事業の成長のために銀行から融資を受ける際、契約書に 「連帯保証人」 として、自らの名前をサインした経験があるのではないでしょうか。
この 「経営者保証」という、長年、日本の金融界で当たり前とされてきた慣習。それは、「会社が倒産したら、社長個人が、その全財産を投げ打ってでも、会社の借金を返済しなさい」 という、経営者にとって、あまりにも過酷で、重い足かせでした。
この「経営者保証」の存在が、多くの経営者から、思い切った挑戦への意欲を奪い、一度失敗すれば再起不能となる、大きな社会問題となっていました。
しかし、その暗い時代は、ついに終わりを告げようとしています。
国は、日本の国際競争力を高めるため、この経営者保証に依存しない、新しい融資への転換を、強力に推し進めているのです。そして、2024年3月15日から、その流れを決定づける、 新たな「経営者保証を外すための制度」 がスタートしました。
この記事では、
- そもそも「経営者保証」とは何か?そして、なぜそれが問題視されてきたのか?
- 2024年3月から始まった、新しい「経営者保証解除」制度の、具体的な内容と利用条件
- 新制度の裏に隠された、銀行側の「思惑」と、経営者が注意すべき「罠」
- そして、安易に新制度に飛びつく前に、経営者が取るべき「交渉の優先順位」と、最も有利な条件を勝ち取るための、究極の戦略
について、徹底的に、そして分かりやすく解説します。
この記事は、単なる新制度の解説ではありません。それは、あなたが 「会社の借金=個人の借金」という、長年の呪縛から解放され、安心して事業に挑戦し、万が一の時でも、あなた自身の人生と、家族の未来を守り抜くための「知識の盾」 です。この記事を最後までお読みいただき、盤石な経営基盤を築き上げましょう。
「経営者保証」という、重い足かせの正体
まず、なぜこの「経営者保証」が、これほどまでに問題視されてきたのか、その仕組みから理解しましょう。
会社(法人)と、社長(個人)は、法律上は全くの別人格です。そのため、本来であれば、会社の借金を、社長個人が返済する義務はありません。
しかし、日本の金融慣行では、中小企業に融資をする際、銀行は、その会社の信用力だけでは不十分だと考え、 社長個人を「連帯保証人」 とすることを、契約の条件としてきました。
これにより、会社が倒産し、借金を返済できなくなった場合、社長は、自らの家や預貯金といった、個人資産のすべてを売却してでも、会社の借金を肩代わりしなければならなくなるのです。
「会社の倒産 = 社長個人の自己破産」
この構図が、日本の多くの経営者から、リスクを取って新しい事業に挑戦する「起業家精神」を奪い、一度の失敗も許されない、再チャレンジの難しい社会を生み出す、大きな要因となっていました。
「経営者保証なし」への、大きな時代のうねり
この状況を打開するため、国は、数年前から、経営者保証に依存しない融資への転換を、金融機関に強く働きかけてきました。
そして、2023年4月からは、経営者保証を外すための、より具体的な 「3つの要件」 が、金融庁の方針として示されました。
- 法人と個人の資産の分離:会社の経理と、社長個人の家計が、明確に分離されていること。(公私混同がないこと)
- 財務基盤の強化:会社が、安定的に利益を生み出し、自己資本が充実していること。
- 経営の透明性の確保:銀行の求めに応じて、決算書や試算表を速やかに提出するなど、経営状況をガラス張りにしていること。
これらの要件を満たす優良な企業に対しては、経営者保証を求めないように、という流れが作られたのです。さらに、もし銀行が経営者保証を求めるのであれば、「なぜ、保証が必要なのか」という、その理由を、国に対して説明する義務が課せられるようになり、むしろ「保証を付ける」方が、銀行にとって手間のかかる状況になりました。
しかし、この「3-要件」は、多くの中小企業にとって、そのハードルが高く、実際に経営者保証を外せるケースは、なかなか増えていかない、という課題がありました。
【2024年3月スタート】保証料上乗せで、保証を外す「新制度」
この状況を、さらに一歩進めるために、2024年3月15日からスタートしたのが、今回の 「新しい制度」 です。
これは、信用保証協会の保証付き融資において、会社が、保証協会に支払う「信用保証料」を、少しだけ上乗せして支払うことで、経営者保証を免除してもらう、という、これまでにない画期的な仕組みです。
【新制度のポイント】
- 保証料の上乗せ:通常の保証料率に、+0.25% または +0.45% の料率が上乗せされる。
- 国の補助:ただし、当初3年間は、この上乗せ分の保証料の一部を、国が補助してくれるため、実質的な負担増は、さらに軽減される。
そして、この新制度を利用するための条件は、先ほどの「3要件」よりも、はるかに具体的で、明確なものとなっています。
新制度を利用するための「3つのクリア条件」
以下の3つの条件を、すべて満たしていれば、この新制度を利用して、経営者保証を外すことが可能になります。
- 過去2年分の決算書(貸借対照表・損益計算書)を、金融機関に提出していること。
→ 銀行と正常な取引があれば、ほとんどの会社がクリアしているはずです。 - 直近の決算において、役員貸付金などがなく、かつ、役員報酬等が社会通念上、過大でないこと。
→ 社長が、会社のお金を不当に私的流用していないことが、求められます。 - 直近の決算において、「債務超過」ではないこと。
→ 会社の資産が、負債を上回っている、健全な財務状態であることが条件です。
(※ただし、債務超過であっても、直近2期間の経常利益と減価償却費の合計がプラスであれば、認められるケースもあります。)
いかがでしょうか。以前の曖昧な「3要件」に比べて、はるかにハードルが低く、多くの中小企業にとって、現実的にクリア可能な条件となっていることが、お分かりいただけるかと思います。
【要注意】新制度の裏に隠された、銀行の「思惑」と「罠」
「保証料を少し上乗せするだけで、あの重い経営者保証から解放されるなんて、素晴らしい制度だ!」
そう手放しで喜ぶのは、少し早いかもしれません。
この一見、経営者にとって有利に見える新制度には、知っておかなければならない、 銀行側の「思惑」と、経営者が陥りがちな「罠」 が、隠されています。
銀行にとって、この新制度は「おいしい話」
思い出してください。この新制度は、 「信用保証協会の保証付き融資」 であることが、大前提です。
保証協会付き融資とは、銀行にとって、貸し倒れのリスクがほとんどない、極めて安全な融資です。
つまり、銀行は、この新制度を、「経営者保証を外せますよ」という甘い言葉を“エサ”にして、自らはリスクを取らない「保証協会付き融-資」を、推進するための、絶好の営業ツールとして、利用してくる可能性があるのです。
「社長、この新しい制度を使えば、保証料を少し上乗せするだけで、経営者保証が外せますよ。保証協会付きの融資で、いかがですか?」
このように提案されれば、多くの経営者は、喜んでその話に乗ってしまうでしょう。
しかし、その結果、あなたの会社は、本来であれば、もっと有利な条件で融資を受けられたはずの、他の選択肢を、知らず知らずのうちに、失ってしまっているかもしれないのです。
交渉の優先順位を間違えるな!経営者が目指すべき「最強の融資」とは?
では、経営者保証を外し、かつ、会社の資金調達を最も有利に進めるためには、どのような「優先順位」で、銀行と交渉すべきなのでしょうか。
目指すべきゴールの順序は、明確です。
【第1優先】プロパー融資 + 経営者保証なし
これが、経営者が目指すべき、最も理想的で、最も強力な融資の形です。
- プロパー融資:保証協会に頼らず、銀行が100%自らのリスクで実行する融資。これは、銀行からの 「最大限の信頼の証」 です。
- 経営者保証なし:会社の借金と、個人の資産が、完全に切り離されている状態。
この融資を勝ち取ることができれば、あなたは、保証料という無駄なコストを支払う必要もなく、万が一の時でも、個人資産は完全に守られます。
【第2優先】プロパー融-資 + 経営者保証あり
もし、「保証なし」が難しい場合でも、次に目指すべきは、 「プロパー融資」 であることに、変わりはありません。
経営者保証が付いてしまう、というデメリットはありますが、それでもなお、「プロパー融資の実績」は、他の銀行からの信用力を高める、極めて価値のある資産となります。
【第3優先】保証協会付き融資 + 経営者保証なし(旧来の方針で)
プロパー融資が難しい場合に、初めて「保証協会付き融資」を検討します。
しかし、その際も、いきなり今回の「新制度(保証料上乗せ)」に飛びつくべきではありません。
まずは、2023年4月からの方針である、 「3つの要件(資産の分離、財務基盤の強化、経営の透明性)」 を満たすことで、保証料を上乗せすることなく、経営者保証を外せないか、という交渉を行うべきです。
【第4優先】保証協会付き融資 + 経営者保証なし(新制度で)
旧来の方針でも、保証を外すのが難しい、という場合に、最後の手段として、今回の 「新制度(保証料上乗せ)」 の活用を検討します。
【最終手段】保証協会付き融資 + 経営者保証あり
そして、これらすべての交渉が叶わなかった場合に、初めて、従来の「保証協会付き、かつ、経営者保証あり」の融資を受け入れる、という流れになります。
安易に、銀行から最初に提案される、銀行にとって最も都合の良い条件(保証協会付き、保証あり)を、鵜呑みにしてはいけません。
この 交渉の「優先順位」 を、常に頭に入れ、粘り強く、そして戦略的に、自社にとって最も有利な条件を、一つひとつ勝ち取っていく。その姿勢こそが、経営者に求められる、重要な資質なのです。
まとめ:会社の未来も、個人の人生も、自らの手で守り抜く
今回は、2024年3月から始まった、新しい「経営者保証解除」の制度を中心に、経営者が「会社の借金=個人の借金」という、長年の呪縛から解放されるための、具体的な戦略について解説しました。
- 経営者保証は、会社の倒産が、社長個人の自己破産に直結する、非常に過酷な制度であり、国は、その慣行からの脱却を、強力に推し進めています。
- 2024年3月から、保証料を少し上乗せすることで、経営者保証を外せる、ハードルの低い「新制度」がスタートしました。
- しかし、この新制度は、銀行がリスクのない「保証協会付き融資」を推進するための、営業ツールとして利用される可能性があります。安易に飛びつくと、本来得られたはずの、より有利な条件を失う「罠」にもなり得ます。
- 経営者が目指すべき最強の融資は、「プロパー融資、かつ、経営者保証なし」です。このゴールを頂点とした「交渉の優先順位」を、常に意識することが重要です。
経営者保証を外すことは、単に、万が一の時のリスクを軽減する、というだけではありません。
それは、 「失敗を恐れずに、思い切った挑戦ができる」 という、精神的な自由を手に入れることを意味します。その自由こそが、新たなイノベーションを生み出し、会社を、そして日本経済全体を、よりダイナミックな成長へと導く、原動力となるのです。
ぜひ、この記事を参考に、あなたの会社の融資契約を、今一度、見直してみてください。そして、銀行との対等な交渉を通じて、あなたの会社と、あなた自身の未来を、その手で、力強く守り抜いてください。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。