【黒字倒産は他人事ではない】なぜ利益があるのにお金がない?社長のためのキャッシュフロー経営入門

節税・経費

「今期は過去最高の利益が出たはずなのに、なぜか月末の支払いに追われている…」
「損益計算書(PL)上は黒字なのに、銀行口座の残高はいつもギリギリだ」
「利益が出ているからと安心して設備投資をしたら、急に資金繰りが苦しくなった」

マイクロ法人や中小企業の社長様の中には、このような 「利益とお金のギャップ」 に頭を悩ませた経験がある方も少なくないのではないでしょうか。

会社の経営状態を示す「利益」と、会社の生命線である「お金(現金)」。この2つは、似ているようで全くの別物です。そして、この違いを正確に理解していないと、たとえ事業が順調で利益が出ていたとしても、 「黒字倒産」 という最悪の事態を招きかねません。

この記事では、すべての経営者が知っておくべき、この永遠の課題について、以下の点を徹底的に解説します。

  • 「利益」と「お金」の決定的な違いとは何か?
  • なぜ、利益が出ているのにお金は増えないのか?その根本原因
  • 黒字倒産を回避し、会社の現金を確実に増やすための具体的な資金管理術

会計の専門知識がない方でも理解できるよう、具体例を交えながら一つひとつ丁寧に説明していきます。この記事を最後までお読みいただければ、あなたの会社の「お金の流れ」を見る目が変わり、盤石な財務体質を築くための第一歩を踏み出せるはずです。

第1章: すべての社長が最初に理解すべき「利益」と「お金」の決定的な違い

まず、最も基本的な問いから始めましょう。「利益」と「お金」は、一体何が違うのでしょうか。この2つは、会社の状態を異なる側面から映し出す鏡のようなものです。

「利益」とは会社の通信簿 – 損益計算書(PL)の世界

「利益」とは、一言でいえば 「会社が事業活動を通じてどれだけ儲けたか」 を示す成績表です。これは、 損益計算書(Profit and Loss Statement、略してPL) という決算書で確認できます。

PLの構造は非常にシンプルです。

収益(売上など) – 費用(仕入、人件費、家賃など) = 利益

この計算結果がプラスであれば「黒字」、マイナスであれば「赤字」となります。社長の皆様が「今期は儲かったぞ!」と喜ぶのは、まさにこのPL上の利益が出ている時でしょう。利益は、会社の収益性や経営の巧拙を評価する上で、極めて重要な指標です。

しかし、ここには大きな落とし穴があります。PL上の「収益」や「費用」は、実際にお金が入金されたり、支払われたりしたタイミング(現金主義)ではなく、取引が確定したタイミング(発生主義)で計上されるというルールがあるのです。

例えば、建設業の会社が1,000万円の工事を完了させたとします。この時点で、PLには「売上1,000万円」が計上されます。しかし、その代金がクライアントから入金されるのが3ヶ月後だとしたらどうでしょうか。PL上は1,000万円の売上が立っていても、会社の銀行口座には1円も入ってきていないのです。

このように、利益はあくまで「会計上の儲け」であり、手元にある現金の量とは必ずしも一致しない、ということをまず大原則として覚えておいてください。

「お金」とは会社の血液 – 貸借対照表(BS)の世界

一方で、「お金(現金)」は、会社の活動を支える 「血液」 そのものです。どれだけ利益が出ていても、この血液が尽きてしまえば、会社は活動を停止してしまいます。これが倒産です。

会社の「お金」が今いくらあるのかは、 貸借対照表(Balance Sheet、略してBS) という決算書で確認できます。

BSは、特定の日(例:決算日)時点での会社の財産状況を示す一覧表で、以下の3つの要素で構成されています。

  1. 資産の部: 会社が保有する財産(現金、預金、売掛金、建物、機械など)
  2. 負債の部: いずれ返済が必要なお金(買掛金、未払金、借入金など)
  3. 純資産の部: 資産から負債を差し引いた、返済不要の自己資本(資本金、利益剰余金など)

そして、常に 「資産 = 負債 + 純資産」 という関係が成り立ちます。

PLで計算された利益は、最終的にこのBSの「純資産の部」にある「利益剰余金」という項目に蓄積されていきます。利益が出れば、会社の純資産は増え、財産的には豊かになります。しかし、問題は、増えた資産が「現金」という形で増えるとは限らない、という点です。先ほどの建設業の例でいえば、利益は増えましたが、同時に資産の部にある「売掛金(後でもらえるお金)」が増えただけで、肝心の「現金」は増えていないのです。

まとめると、

  • 利益(PL): 会社の「儲ける力」を示す指標。取引が発生した時点で計算される。
  • お金(BS): 会社の「支払い能力」を示す指標。実際の現金の出入りそのもの。

この2つの視点を両方持たなければ、会社の本当の健康状態は見えてきません。

第2章: なぜ利益とお金はズレるのか?現金の動きを支配する5つの要因

では、なぜ「利益」と「お金」の間にこれほど大きなギャップが生まれるのでしょうか。その原因は、会社の日常的な活動の中に隠されています。ここでは、現金の動きを支配する5つの主要因を詳しく見ていきましょう。

【要因①】売上計上と入金のタイムラグ(売掛金)

これが最も代表的で、多くの社長を悩ませる原因です。
先ほども少し触れましたが、商品を販売したりサービスを提供したりしても、その場で現金を受け取れる取引(現金商売)はむしろ少数派です。多くの企業間取引では、 「掛け売り」 が一般的です。

  1. 商品を納品・サービスを提供した時点で、会計上は 「売上」 を計上します。
  2. 同時に、まだ受け取っていない代金は 「売掛金」 という資産としてBSに記録されます。
  3. 後日、約束の期日にクライアントから代金が振り込まれた時点で、「売掛金」が「現金」に変わります。

例えば、IT企業がシステム開発を月末に納品し、クライアントからの入金が翌々月の末日だったとします。この「2ヶ月」という期間、PL上は売上が計上されて利益が出ているように見えても、会社には一銭も入ってきません。その間にも、社員の給料やオフィスの家賃など、支払いは待ってくれません。

この 「売掛金」が大きくなればなるほど、あるいは回収までの期間(回収サイト)が長くなればなるほど、会社は儲かっているのに資金繰りが苦しい「勘定合って銭足らず」の状態に陥りやすくなる のです。

【要因②】経費計上と支払のタイムラグ(買掛金・未払金)

売上とは逆に、仕入れや経費の支払いにもタイムラグが存在します。

商品を仕入れた場合、代金を後で支払う約束をすれば、それは 「買掛金」という負債になります。また、広告費や外注費など、仕入れ以外の経費でまだ支払っていないものは「未払金」 という負債になります。

  1. 商品を受け取ったり、サービスを利用したりした時点で、会計上は 「費用」 を計上します。
  2. 同時に、まだ支払っていない代金は 「買掛金」「未払金」 としてBSに記録されます。
  3. 後日、約束の期日に代金を支払った時点で、「買掛金・未払金」が消え、「現金」が減少します。

こちらは、一時的に資金繰りを楽にしてくれる効果があります。支払いを先延ばしにできる分、手元に現金を長く留めておけるからです。しかし、当然ながら、いずれは支払わなければならないお金です。この支払いタイミングを把握しておかないと、大きな支払いが集中した月に、突然資金がショートするという事態に繋がりかねません。

【要因③】お金が出ていかない経費の王様「減価償却費」

会計には、「減価償却費」という少し特殊な費用項目があります。これは、社長がぜひとも味方につけるべき重要な概念です。

例えば、会社で600万円の新しい機械を現金で購入したとします。この時、会社の現金は600万円減少します。しかし、会計上、この600万円を全額その年の費用として計上することはありません。なぜなら、この機械は今後何年にもわたって会社の利益獲得に貢献してくれる「資産」だからです。

そこで、法律で定められた耐用年数(例えば6年)にわたって、費用を分割して計上していきます。

600万円 ÷ 6年 = 100万円/年

この毎年計上される100万円が 「減価償却費」 です。

ここでのポイントは、減価償却費はPL上では「費用」として利益を減らす効果があるにもかかわらず、実際にはお金の支出を伴わないという点です。お金は、最初に機械を買った時に600万円まとめて出ていくだけ。2年目以降は、帳簿上で費用が計上されるだけで、現金は1円も減りません。

これは、キャッシュフローの観点から見ると非常に有利に働きます。
PL上の利益を圧縮してくれるため、その利益に対してかかる 法人税を少なくする効果(節税効果) があります。税金の支払いは、会社からの明確なキャッシュアウトです。つまり、減価償却費を計上することで、手元に残る現金を増やすことができるのです。減価償却費は「お金の出ていかない経費」として、資金繰りの強力な味方になります。

【要因④】PLには載らない大きな現金の動き「借入と返済」

銀行からの借入やその返済は、現金の残高に非常に大きな影響を与えますが、PLの利益計算にはほとんど関係しないため、見落とされがちです。

  • 借入: 銀行から1,000万円を借り入れたとします。会社の口座には現金が1,000万円増えます。しかし、これはPL上の「収益」ではありません。BS上で「現金(資産)」が1,000万円増えると同時に、「借入金(負債)」が1,000万円増えるだけの取引です。利益は1円も変わりません。
  • 返済: 借入金の返済はさらに厄介です。返済額は「元本」と「利息」に分かれています。このうち、PLで費用として計上できるのは「利息」の部分だけです。「元本」の返済は、単にBS上の「借入金(負債)」と「現金(資産)」が両方減るだけの取引であり、費用にはなりません。

例えば、毎月30万円を返済していて、その内訳が「元本28万円、利息2万円」だったとします。この場合、PLで費用になるのはわずか2万円です。しかし、会社の口座からは、毎月確実に30万円という現金が消えていきます。

利益が出ている会社が黒字倒産に陥る最大の原因の一つが、この 「借入金の元本返済」 です。PLだけを見ていると、「利益が出ているから返済は問題ない」と錯覚しがちですが、実際には利益の中から、税金を払い、さらに元本を返済しなければなりません。この構造を理解していないと、返済負担が会社のキャッシュフローを静かに蝕んでいきます。

【要因⑤】将来への投資というキャッシュアウト「設備投資」

会社の成長のために、新しいパソコンやソフトウェア、車両、機械などを購入する「設備投資」は不可欠です。しかし、これもキャッシュフローを圧迫する大きな要因です。

減価償却費の項目で説明した通り、600万円の機械を購入した場合、現金は購入時に一括で600万円減少します。一方で、費用として計上されるのは、減価償却費として毎年少しずつです。

つまり、お金の減少スピードと、費用の計上スピードに大きなギャップがあるのです。利益計画だけを元に大規模な設備投資を行うと、手元の現金が一気に枯渇し、運転資金が足りなくなるリスクがあります。投資は重要ですが、それは常に会社の現金残高と相談しながら、慎重に行う必要があります。

第3章: 黒字倒産を回避せよ!今日からできるキャッシュフロー改善戦略

ここまで、「利益」と「お金」がズレる原因を見てきました。では、このギャップを乗り越え、会社の現金を安定的に確保するためには、具体的に何をすればよいのでしょうか。ここからは、社長が今日から実践できるキャッシュフロー改善戦略を詳しく解説します。

【戦略①】守りの要「資金繰り表」を作成し、未来を予測する

何よりもまず始めるべきは、「資金繰り表」の作成です。
PLやBSが会社の「過去」や「今」を示す健康診断書だとすれば、資金繰り表は 「未来」のお金の動きを予測する天気予報 のようなものです。

難しく考える必要はありません。Excelなどで、以下のようなシンプルな表を作るだけで十分です。

項目1ヶ月後2ヶ月後3ヶ月後
A. 前月繰越現金100万円
B. 収入(入金)
売掛金回収300万円
現金売上50万円
収入合計350万円
C. 支出(出金)
買掛金支払150万円
人件費80万円
家賃・光熱費20万円
借入金返済30万円
支出合計280万円
D. 翌月繰越現金 (A+B-C)170万円

この表のポイントは、発生主義ではなく、実際にお金が入ってくるタイミング、出ていくタイミングで記入することです。
最低でも3ヶ月先、できれば6ヶ月先までのお金の出入りを予測することで、

  • 「来月は大きな支払いがあるから、今月のうちに売掛金の回収を急ごう」
  • 「3ヶ月後に資金がマイナスになりそうだ。早めに銀行に融資の相談をしよう」

といった先手を打つことが可能になります。資金繰り表は、闇夜の航海における羅針盤です。これを持たずして、安定した経営はあり得ません。

【戦略②】攻めのキャッシュフロー改善 – 売上債権(売掛金)の管理

会社に入ってくるお金の流れを良くするためには、売掛金の管理が鍵となります。

  • 請求書発行の迅速化: 納品やサービス提供が完了したら、間髪入れずに請求書を発行しましょう。「月末にまとめて」という習慣があるなら、今すぐ見直すべきです。請求が1日早まれば、入金も1日早まる可能性があります。
  • 回収サイトの短縮交渉: 新規の取引先とは、できるだけ有利な支払い条件で契約することが重要です。既存の取引先にも、関係性が良好であれば、回収サイトの短縮を交渉してみる価値はあります。一部でも前金をもらう、といった交渉も有効です。
  • 入金管理の徹底: 支払い期日を過ぎても入金がない場合は、すぐに督促を行いましょう。相手の経理担当者が単に忘れているだけのケースも少なくありません。定期的に売掛金の残高と滞留状況をチェックする体制を整えましょう。

【戦略③】攻めのキャッシュフロー改善 – 仕入債務(買掛金)の管理

出ていくお金の流れをコントロールすることも同様に重要です。

  • 支払サイトの交渉: 仕入先や外注先との交渉で、支払サイトをできるだけ長くしてもらえるよう交渉しましょう。例えば、「月末締め・翌月末払い」を「月末締め・翌々月10日払い」にできれば、それだけで約40日間、手元に現金を留めておくことができます。
  • クレジットカードの活用: 経費の支払いに法人クレジットカードを活用するのも有効な手段です。カードの引き落としは利用日から1〜2ヶ月後になるため、実質的に支払いを先延ばしにできます。ポイントが貯まるという副次的なメリットもあります。

ただし、これらの交渉や支払いの先延ばしは、会社の信用に関わる問題でもあります。無理な要求で取引先との関係を悪化させては本末転倒です。あくまで、信頼関係に基づいた上で、計画的に行うことが大切です。

【戦略④】攻めのキャッシュフロー改善 – 在庫の最適化

製造業や小売業、卸売業など、在庫を抱えるビジネスモデルの会社にとって、 「在庫は寝ているお金」 です。

過剰な在庫は、

  • 資金の固定化: 在庫を仕入れるために支払った現金が、売れるまで回収できない。
  • 保管コストの発生: 倉庫の賃料や管理費用がかかる。
  • 陳腐化リスク: 商品が古くなったり、流行が過ぎたりして価値が下がる。

など、キャッシュフローを悪化させる多くの要因をはらんでいます。
定期的に棚卸しを行い、どの商品がどれだけあるのかを正確に把握しましょう。そして、過去の販売データなどから需要を予測し、売れ筋商品の在庫は厚く、死に筋商品の在庫は持たない、といった 「適正在庫」 を維持する努力が、キャッシュフローを大きく改善します。

【戦略⑤】攻めのキャッシュフロー改善 – 税金と経費の賢い使い方

税金の支払いは、会社にとって最大級のキャッシュアウトの一つです。これを合法的にコントロールすることも、資金繰り戦略の一環です。

  • 減価償却の特例活用: 中小企業には、30万円未満の資産であれば購入した年に一括で経費用にできる「少額減価償却資産の特例」などがあります。これを活用すれば、利益を圧縮し、法人税の支払いを抑える(繰り延べる)ことができ、結果としてキャッシュが手元に残りやすくなります。
  • 納税資金の確保: 法人税や消費税は、利益が出た後、あるいは売上があった後に、時間差で支払いがやってきます。利益が出たからと油断せず、納税分のお金はあらかじめ別の口座に取り分けておくなど、計画的に準備しておくことが極めて重要です。

決算間近になって慌てて節税対策をする会社も多いですが、その節税策が現金を大きく減らすものであれば、かえって資金繰りを悪化させかねません。すべての経営判断は、PL上の利益だけでなく、キャッシュフローへの影響をセットで考える習慣をつけましょう。

まとめ:利益を追いかけるな、お金の流れを追いかけろ

今回は、「なぜ利益があるのにお金がないのか?」という、多くの社長が抱える根本的な疑問について、その原因と具体的な対策を詳しく解説しました。

最後に、重要なポイントをもう一度振り返りましょう。

  1. 「利益(PL)」と「お金(BS)」は全くの別物。 利益は会計上の儲け、お金は会社の血液である。
  2. 両者のズレは、主に「売掛・買掛のタイムラグ」「減価償却」「借入返済」「設備投資」によって生まれる。
  3. 利益が出ているのに資金繰りが苦しいのは、経営者として当然向き合うべき正常な課題。 問題なのは、その構造を理解せず、放置すること。
  4. 解決策の第一歩は「資金繰り表」の作成。 未来のお金の動きを予測し、先手を打つことが黒字倒産を回避する最大の防御策となる。
  5. 日々の業務の中で、「売掛金の早期回収」「支払いの計画的なコントロール」「在庫の最適化」を意識するだけで、キャッシュフローは大きく改善する。

「利益は意見、キャッシュは事実(Profit is an opinion, Cash is a fact.)」という有名な言葉があります。利益は会計ルールという解釈によって変動しうる「意見」に過ぎませんが、手元にある現金は誰が見ても動かせない「事実」だ、という意味です。

これからの時代を生き抜く強い会社を作るために、社長であるあなたがまず追いかけるべきは、PL上の利益の数字だけではありません。会社の隅々まで流れる「お金の動き」、すなわちキャッシュフローです。

まずは、自社のPLとBSを改めて見比べ、そして簡単な資金繰り表の作成から始めてみてください。お金の流れを正しく把握し、コントロールする。それこそが、会社を真の成長軌道に乗せるための、最も確実で力強い一歩となるはずです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。