「銀行から提示された融資条件は、絶対的なもので変更できない…」
「金利や返済期間について、交渉するなんておこがましい…」
「銀行との交渉で、関係性が悪化するのが怖い…」
会社の経営者や財務担当者の方にとって、銀行からの借入は事業を成長させるための重要な手段です。しかし、その一方で、銀行という存在に対して「お堅い」「融通が利かない」といったイメージを持ち、提示された条件をそのまま受け入れるしかない、と考えている方は非常に多いのではないでしょうか。
もし、あなたがそう思っているとしたら、それは非常にもったいないことです。
実は、銀行融資における多くの条件は、交渉によって変更することが可能です。それどころか、銀行側も「交渉されること」をある程度想定して、最初の条件を提示しているケースが少なくありません。
家電量販店で「これ、もう少し安くなりませんか?」と交渉するのと同じように、銀行融資でも交渉はできるのです。金利はもちろんのこと、保証の有無や返済期間、さらには振込手数料に至るまで、交渉の余地はいたるところに存在します。
この記事では、多くの企業の資金調達を支援してきた専門家の知見を元に、 会社の資金繰りを劇的に改善し、万が一の際のリスクを最小限に抑えるための「銀行交渉術5選」 を徹底的に解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識とスキルを手に入れることができます。
- 銀行融資で交渉可能な5つの重要項目が明確にわかります。
- 無駄なコストを削減し、信用力を高める「プロパー融資」の重要性が理解できます。
- 経営者個人のリスクをなくす「経営者保証なし」を実現するためのポイントがわかります。
- 金利交渉のコツと、返済期間を延ばすことがなぜ重要なのかを学べます。
- 資金繰りに絶大な効果を発揮する「据置期間」の交渉術と、その実例を知ることができます。
銀行との交渉は、対立ではありません。自社の状況を正しく伝え、お互いにとって良い関係を築くための「対話」です。この記事で紹介する交渉術を武器に、あなたの会社の未来をより盤石なものにしていきましょう。
交渉の大前提:銀行の提示は「定価」であると心得る
交渉術を学ぶ前に、まず最も重要なマインドセットを共有します。それは、 「銀行から最初に提示される条件は、あくまで『定価』である」 と認識することです。
多くの方は、銀行から提示された金利や返済期間を見て、「これが決定事項なのだ」と思い込んでしまいます。しかし、それは大きな誤解です。
考えてみてください。銀行もまた、利益を追求する一企業です。他の銀行との競争もあります。もし、ある会社が複数の銀行と取引していれば、より良い条件を提示した銀行に乗り換えられてしまう可能性だってあるのです。
そのため、銀行側は交渉の余地を残した「少し高め」の金利を最初に提示したり、銀行にとってリスクの低い「短め」の返済期間を提案したりすることが往々にしてあります。
「言わなければそのまま通る。言われたら少し譲歩しよう」
これが、交渉の基本的な構造です。黙って定価で買い物をし続ける「カモ」になるのか、それとも賢く交渉して最適な条件を引き出すのか。その差は、経営者の知識と行動力にかかっているのです。交渉を恐れる必要は一切ありません。交渉して失敗しても、失うものは何もないのですから。
それでは、具体的に何を交渉すべきなのか、5つの重要項目を一つずつ見ていきましょう。
交渉術①:「保証協会付き融資」ではなく「プロパー融資」を目指す
銀行融資を申し込む際、特に創業期や業績が不安定な企業に対して、銀行は 「信用保証協会」 の保証を付けることを条件にしてくることがよくあります。これを「保証協会付き融資」と呼びます。
これは、万が一会社が返済不能になった場合に、信用保証協会が銀行に対して借入金を代わりに返済(代位弁済)してくれる仕組みです。銀行にとっては貸し倒れリスクがなくなるため、融資のハードルが低くなります。
しかし、経営者にとって、この制度は手放しで喜べるものではありません。
保証協会付き融失のデメリット
- 保証料の支払いが必要:融資を受ける際、借入額や期間に応じた「信用保証料」というコストを支払わなければなりません。これは、本来払う必要のないコストです。
- 最終的な返済義務は消えない:保証協会が銀行に代位弁済しても、会社の借金が帳消しになるわけではありません。その後、会社(または経営者)は、保証協会に対して返済を続けていく義務を負います。つまり、債権者が銀行から保証協会に変わるだけなのです。
「保証人がついてくれる」と聞くと安心感を覚えるかもしれませんが、実態は「一時的な立て替え」に過ぎず、そのために安くない保証料まで支払っているのです。
なぜ「プロパー融資」を目指すべきなのか?
そこで交渉すべきなのが、保証協会を通さずに、 銀行が100%自らのリスクで直接融資を行う「プロパー融資」 です。
プロパー融資を引き出すことには、保証料という無駄なコストを削減できる以上の、計り知れないメリットがあります。
それは、 「他の金融機関からの信用力が劇的に向上する」 という点です。
考えてみてください。A銀行が、あなたの会社にプロパー融資を実行したとします。その事実を知ったB銀行やC銀行は、どう思うでしょうか。
「A銀行が、保証もなしに直接融資をするなんて、この会社はよほど財務内容が良くて、将来性があると評価されているに違いない」
このように、一行からのプロパー融資の実績が、他の銀行に対する強力な「お墨付き」となるのです。その結果、他の銀行からも融資の提案が来やすくなったり、より有利な条件での借入が可能になったりと、好循環が生まれます。
プロパー融資の交渉術
もちろん、いきなり高額のプロパー融資を引き出すのは簡単ではありません。まずは、たとえ 少額からでも「プロパー融資の実績を作る」 ことを目指しましょう。
「今回の融資、なんとかプロパーでお願いできませんか?財務内容も改善してきていますし、まずは数百万円からでも実績を作らせていただけると、今後の取引にも繋がると思うのですが…」
このように、自社の財務状況の健全性をアピールしつつ、粘り強く交渉することが重要です。この小さな一歩が、あなたの会社の資金調達能力を大きく飛躍させるきっかけとなるのです。
交渉術②:経営者の人生を守る「経営者保証なし」を要求する
次に交渉すべきは、融資契約における 「経営者保証(個人保証)」 の有無です。これは、あなたの人生そのものを左右しかねない、極めて重要な項目です。
経営者保証とは、会社が借入金を返済できなくなった場合に、経営者個人が会社に代わって返済義務を負うという契約です。日本の多くの中小企業融資では、この経営者保証が付いているのが一般的です。
しかし、これが意味するところは、 「会社の倒産=経営者の自己破産」 という、非常に過酷な現実です。会社の借金を返済するために、経営者は自らの家や資産をすべて手放さなければならなくなります。これでは、失敗を恐れて思い切った挑戦ができなくなってしまいます。
「経営者保証なし」は、もはや国の基本方針
「銀行がそんな大事な保証を外してくれるわけがない」と思われるかもしれません。しかし、状況は大きく変わってきています。
実は、金融庁は以前からこの経営者保証の慣行を問題視しており、近年では 「経営者保証に依存しない融資」を推進する ことを明確に打ち出しています。2024年4月からは、銀行が経営者保証を求める際には、その必要性を具体的に書面で説明することが求められるなど、むしろ「経営者保証を付ける」方が銀行にとってハードルが高くなるという流れに変わってきています。
この国の大きな方針転換は、経営者にとって強力な追い風です。
「経営者保証なし」の交渉術
この流れを最大限に活用し、融資の際には「経営者保証を外してほしい」と堂々と交渉しましょう。もちろん、そのためには銀行を安心させる材料が必要です。
- 財務内容の透明性を高める:定期的に試算表や事業計画書を提出し、会社の状況をガラス張りにする。
- 公私混同をなくす:会社の資金と経営者個人の資金を明確に分離し、クリーンな経営を徹底する。
- 財務内容そのものを良くする:自己資本比率を高めるなど、健全な財務体質を構築する。
これらの条件が整えば、銀行側も経営者保証を外すことに応じやすくなります。
ただし、この流れには注意点もあります。経営者保証を外すということは、銀行にとってリスクが高まることを意味します。そのため、今後は融資審査そのものがより厳格になる可能性があります。「経営者保証は外してもらえたけど、そもそも融資が受けられない」という事態も想定されるため、日頃から健全な会社経営を心がけることが、より一層重要になります。
交渉術③:金利は「相見積もり」で引き下げる
支払い利息の「利率(金利)」は、最も分かりやすく、交渉しやすい項目の一つです。銀行から提示された金利を鵜呑みにせず、必ず交渉しましょう。
金利交渉の最も効果的な方法は、 「相見積もり(複数の銀行から見積もりを取ること)」 です。
一つの銀行としか取引していなければ、その銀行の提示する条件がすべてになってしまいます。しかし、複数の銀行と取引があれば、競争原理が働きます。
金利交渉の具体的な進め方
- 複数の銀行(A銀行、B銀行、C銀行)に同じ融資の相談をします。
- 各銀行から提示された金利の条件を比較します。
- 例えば、B銀行が最も低い金利を提示してきたら、その条件をA銀行に伝えます。
「実はB銀行さんからは、〇〇%という条件をいただいているのですが、A銀行さんではこれより良い条件は出せませんでしょうか?」 - これにより、A銀行はB銀行に対抗して、さらに低い金利を再提示してくる可能性があります。
このプロセスを繰り返すことで、最終的に最も有利な金利条件を引き出すことができるのです。
【最重要注意点】メインバンクの顔を立てる
ただし、この金利交渉には一つだけ、絶対に守るべき鉄則があります。それは、 「メインバンクを敵に回さない」 ということです。
メインバンクとは、あなたの会社を最も深く理解し、いざという時に一番頼りになるパートナーです。そのメインバンクに対して、他行の安い金利ばかりを振りかざして過度な値下げ交渉を迫ったり、安い金利に釣られて安易に他行に乗り換えたりすると、メインバンクとの信頼関係が崩れてしまいます。
関係が悪化し、メインバンクからそっぽを向かれてしまっては、いざ本当に困った時に助けてもらえなくなり、本末転倒です。
交渉の基本は、 「メインバンクとの良好な関係を維持しつつ、他行の条件も参考にしながら、お互いが納得できる着地点を探る」 というスタンスです。メインバンクの顔を立てながら、賢く交渉を進めることが大切です。
交渉術④:利息よりも重要!「返済期間」は最長を目指す
多くの経営者が金利の低さにばかり目を奪われがちですが、実は 金利以上に会社の資金繰りに大きな影響を与えるのが「返済期間」 です。
結論から言うと、返済期間は、その融資制度で認められている「最長期間」で契約すべきです。
なぜなら、返済期間が長ければ長いほど、毎月の元金返済額を低く抑えることができるからです。
例えば、600万円を借り入れた場合を考えてみましょう。
- 返済期間5年(60ヶ月)の場合:毎月の元金返済額は 10万円
- 返済期間7年(84ヶ月)の場合:毎月の元金返済額は 約7.1万円
いかがでしょうか。返済期間をたった2年延ばすだけで、毎月のキャッシュアウトが約3万円も減り、その分、手元の資金に余裕が生まれます。
「利息がもったいない」という罠
ここで、「返済期間が長くなると、その分、支払う利息の総額が増えてもったいないのではないか?」という疑問を持つ方がいます。確かにその通りですが、これは経営判断として正しくありません。
低金利時代の今、金利負担は微々たるものです。それよりも、毎月の返済額が重荷となって資金繰りが悪化し、黒字なのに資金がショートしてしまう「黒字倒産」に陥るリスクの方が、はるかに恐ろしいのです。
会社の命運を左右するのは「利益」ではなく「現金(キャッシュ)」です。利息というわずかなコストを惜しむのではなく、手元の現金をできるだけ厚く保つことを最優先に考えるべきです。
銀行から「運転資金なら5年ですね」と提示されても、その制度の最長期間が7年や10年なのであれば、「資金繰りに余裕を持たせたいので、最長の〇年でお願いできませんか」と必ず交渉しましょう。
交渉術⑤:究極の資金繰り改善策「据置期間」を最大限に活用する
最後に、特に創業期や新規事業の立ち上げ時、あるいはコロナ禍のような不測の事態において絶大な効果を発揮する交渉項目、 「据置(すえおき)期間」 について解説します。
据置期間とは、融資を受けてから一定期間、元金の返済は行わず、利息の支払いだけで済む期間のことです。
例えば、「返済期間7年、うち据置期間1年」という契約の場合、最初の1年間は利息のみを支払い、2年目から元金の返済が始まる、という形になります。この据置期間があるだけで、借入直後の資金繰りは劇的に楽になります。
据置期間は「交渉」で延ばせる!
この据置期間も、銀行から「1年ですね」と提示されたとしても、それが上限ではありません。粘り強く交渉することで、期間を延ばすことが可能です。
ある税理士の業界では、コロナ融資の据置期間は「1年がルール」と金融機関から言われていたそうです。しかし、そこで諦めずに交渉を続けた結果、最終的に「3年」の据置期間を勝ち取ったという実例があります。当初「1年と決まっている」と言われていたものが、交渉次第で3倍に延びたのです。これは、「ルール」が実は絶対的なものではない、という何よりの証拠です。
さらに驚くべきことに、最近では同じ業界でも「5年」の据置期間が認められたケースもあるといいます。その背景には、経営者が自らの資金繰りに対する考え方を日頃から銀行の担当者に伝え、深い信頼関係を築いていたことがありました。
銀行側も、こちらの状況や考え方を深く理解してくれれば、ルールを乗り越えてでも協力しようと考えてくれることがあるのです。
「5年は飲食店のような打撃の大きい業界だけ」などと言われても、諦める必要はありません。自社の事業の先行きが不透明であることを真摯に伝え、 「できるだけ長い据置期間を設定して、事業を安定させたい」 という熱意をぶつけることで、道は開ける可能性があります。
まとめ:銀行交渉は、会社の未来を守るための必須スキル
今回は、会社の資金繰りを劇的に改善するための「銀行交渉術5選」を解説しました。最後に、今日の重要なポイントをもう一度振り返りましょう。
- プロパー融資を目指す:無駄な保証料を削減し、会社の信用力を高めるために、まずは少額からでもプロパー融資の実績を作りましょう。
- 経営者保証は外す:経営者個人のリスクをなくし、再チャレンジ可能な社会を実現するため、「経営者保証なし」を基本方針として交渉しましょう。
- 金利は相見積もりで下げる:複数の銀行と取引し、競争原理を働かせることで、有利な金利を引き出しましょう。ただし、メインバンクとの関係性は最優先に。
- 返済期間は最長にする:利息を惜しまず、毎月の返済額を抑えることを優先し、資金繰りの安定化を図りましょう。
- 据置期間は最大限活用する:元金の返済を猶予してもらうことで、事業の立ち上がりや危機的状況を乗り越えるための時間を稼ぎましょう。
銀行との交渉は、決してケンカや無理強いではありません。自社の状況を正しく理解してもらい、お互いがWin-Winの関係を築くための、建設的な「対話」です。
今日学んだ5つの項目は、すべてあなたの会社の未来に直結する重要な要素です。これらの知識を武器に、ぜひ次回の銀行との面談に臨んでみてください。黙っていては何も変わりません。勇気を持って一歩踏み出すことで、あなたの会社の資金繰りは、今よりもずっと強く、しなやかなものになるはずです。