「なぜ、富裕層はアメリカの不動産に投資するのだろう?」
「海外不動産を使えば、合法的に税金を大幅に減らせるって本当?」
「税制改正で、アメリカ不動産節税はもう終わったと聞いたけど、実際はどうなの?」
年収数千万円を超える高所得者や、事業で大きな利益を上げた経営者の間で、長年にわたり 「最強の節税スキーム」として密かに活用されてきたのが、「アメリカ不動産投資」 です。
これは、アメリカの中古不動産が持つ、ある “特殊な性質” を利用して、日本の所得税や住民税を合法的に、かつ劇的に圧縮するという、まさに「知る人ぞ知る」資産防衛術でした。
しかし、2020年の税制改正により、このスキームには大きな規制がかかり、「もはや使えない節税策」という声も聞かれるようになりました。果たして、本当にそうなのでしょうか?
この記事では、税務と資産運用の専門家の視点から、
- そもそも、なぜアメリカ不動産投資がこれほどまでに強力な節税効果を生み出していたのか、その根本的な「カラクリ」
- 税制改正によって、何がどう変わったのか
- そして、規制後の現在でも、なお有効な「新たな節税アプローチ」と、投資として成功するための本質的な注意点
について、徹底的に、そして分かりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と考え方を手に入れることができます。
- 日本とアメリカの「土地と建物の価値観」の根本的な違いが、なぜ節税に繋がるのかを深く理解できます。
- 節税の鍵を握る「減価償却」の仕組みと、特にアメリカの中古木造物件が持つ驚異的な償却スピードの理由がわかります。
- 税制改正で封じられた「個人の給与所得との損益通算」というスキームの全貌を知ることができます。
- 規制後の現在でも、法人での活用や「建物付属設備」に着目することで、一定の節税効果を維持できる新戦略を学べます。
- 節税という側面だけでなく、投資として「アメリカ不動産」を成功させるための、物件選びや資金調達における重要なリスクと注意点を理解できます。
富裕層が実践してきた節税術のロジックを知ることは、あなたの資産を守り、賢く増やすための、新たな視点を与えてくれるはずです。その本質を理解し、時代の変化に対応した、最適な資産戦略を構築していきましょう。
すべての始まり:日本とアメリカ、不動産価値観の「決定的な違い」
アメリカ不動産投資による節税スキームの根幹をなすのは、不動産の価値を構成する 「土地」と「建物」の価格比率 に関する、日本とアメリカの根本的な価値観の違いです。
- 日本の場合
- 土地:80%、建物:20%
- 日本では「土地神話」が根強く、不動産の価値の大部分は「土地」にあると考えられています。建物は、築年数とともに価値が下がり続ける「消耗品」という認識が一般的です。
- アメリカの場合
- 土地:20%、建物:80%
- 一方、アメリカでは、不動産の価値は、そこに建っている「建物」そのものにあると考えられています。適切なメンテナンスを施された建物は、中古であっても価値が落ちにくく、むしろ周辺環境の発展とともに上昇していくことが珍しくありません。土地は、あくまで建物を建てるための「場所」という位置づけです。
この 「建物の価値の比率」 の違いが、後述する「減価償却」の額に、決定的な差を生み出すことになるのです。
節税のエンジン:「減価償却」と中古木造物件の驚異的なスピード
この節税スキームのエンジンとなるのが、会計上の費用計上ルールである 「減価償却(げんかしょうきゃく)」 です。
減価償却の基本ルール
減価償却とは、建物や機械設備といった、長期間にわたって使用する資産の取得費用を、購入した年に一括で経費にするのではなく、法律で定められた使用可能な期間(法定耐用年数)にわたって、分割して費用計上していく会計処理のことです。
ここで、極めて重要なポイントが2つあります。
- 建物は減価償却できるが、土地はできない
建物は時の経過とともに劣化し、価値が減少していくため、減価償却の対象となります。しかし、土地は、時の経過で価値が減るものではないため、減価償却はできません。 - 海外の不動産でも、日本の税法で計算する
アメリカの不動産であっても、日本の居住者が所有する場合、減価償却の計算は、アメリカのルールではなく、日本の税法に基づいて行われます。
この2つのルールと、先ほどの日米の「建物比率」の違いを組み合わせると、何が起こるのでしょうか。
- 日本の不動産:不動産価格の20%(建物部分)しか、減価償却の対象にならない。
- アメリカの不動産:不動産価格の80%(建物部分)が、減価償却の対象となる。
つまり、同じ1億円の不動産を購入しても、アメリカの不動産の方が、日本の不動産の4倍もの金額を経費として計上できるポテンシャルを持っているのです。
中古木造物件の「4年償却」という魔法
さらに、この効果を最大化するのが、中古物件、特に木造物件の耐用年数のルールです。
日本の税法では、木造住宅の法定耐用年数は22年と定められています。そして、この法定耐用年数をすべて経過した中古物件(つまり、築22年超の木造住宅)を取得した場合、その耐用年数は、以下の簡便法で計算されます。
法定耐用年数 22年 × 20% = 4.4年
(1年未満の端数は切り捨て)
↓
耐用年数「4年」
つまり、築22年を超えるアメリカの中古木造住宅を購入した場合、その建物価格の8割にも及ぶ取得費用を、わずか4年間という驚異的な短期間で、全額経費として計上することができたのです。
【税制改正前】最強の節税スキームのカラクリ
この「4年償却」という魔法を使って、税制改正前は、どのような節税が行われていたのでしょうか。
【具体的なスキームの流れ】
- 年収数千万円の高所得者(給与所得者)が、1億円のアメリカの中古木造住宅(建物8,000万円、土地2,000万円)を購入する。
- 建物価格8,000万円を、4年間で減価償却する。
→ 年間2,000万円という、巨額の「減価償却費(経費)」が発生する。 - 一方、この物件から得られる年間の家賃収入は、せいぜい数百万円程度。
→ 結果として、不動産所得は、 毎年1,000万円以上の、大きな「赤字」 となる。 - この不動産所得の赤字を、日本国内の 給与所得と「損益通算」 する。
→ 例えば、給与所得が3,000万円あっても、不動産の赤字1,000万円と相殺することで、課税所得を2,000万円まで圧縮できる。 - これにより、所得税・住民税が数百万円単位で還付される。
- 4年後、減価償却が終わったタイミングで、物件を売却する。アメリカの不動産は価値が落ちにくいため、購入時とほぼ同額、あるいはそれ以上の価格で売却できる可能性が高い。
- 売却益(譲渡所得)にかかる税率は、5年以上保有していれば約20%と、所得税の最高税率(55%)に比べて格段に低いため、出口での税負担も抑えられる。
このように、 「減価償却による毎年の大きな節税効果」と、「価値が落ちにくいことによる売却時の利益確保」 を両立できるのが、このスキームの最大の魅力でした。
【税制改正後】何がどう変わったのか?
この、あまりにも効果的な節税スキームに対し、国税庁はついにメスを入れました。
2020年の税制改正により、2021年以降、個人が海外不動産投資で生じさせた減価償却費による赤字(損失)のうち、日本の土地建物のルールで計算した場合の金額を超える部分については、国内の他の所得(給与所得など)と損益通算することができなくなったのです。
非常に複雑なルールですが、簡単に言うと、 「アメリカ不動産ならではの、過大な減価償却費を使った、給与所得との損益通算は、もう認めませんよ」 ということです。
これにより、高所得の会社員が、個人の節税目的でこのスキームを活用する道は、事実上、閉ざされることになりました。
規制後の現在でも有効な「新たな節税アプローチ」
では、アメリカ不動産投資は、もはや節税の手段としては全く使えなくなったのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。いくつかの「抜け道」というか、新たなアプローチが残されています。
アプローチ①:法人での活用
今回の税制改正は、あくまで 「個人」 の損益通算を規制するものです。
法人が海外不動産に投資する場合は、これまで通り、不動産所得の赤字を、法人の他の事業の黒字と相殺することが可能です。
そのため、現在では、事業で大きな利益が出ている法人が、その利益を圧縮するための節税策として、このスキームを活用するケースが主流となっています。
アプローチ②:「建物付属設備」や「備品」の減価償却を活用
もう一つのアプローチが、建物本体ではなく、それに付随する「設備」や「備品」の減価償却に着目する方法です。
建物本体の耐用年数は長いですが、
- 給排水設備やガス設備などの 「建物付属設備」:耐用年数15年
- 家具や家電などの 「器具備品」:耐用年数3年~10年程度
といったように、それぞれ個別に、より短い耐用年数が設定されています。
不動産の売買契約の際に、売買価格の内訳を、「建物」「土地」だけでなく、「建物付属設備」「器具備品」といった形で細かく分類し、これらの短期で償却できる資産の価額を、合理的な範囲で大きく計上するのです。
これにより、損益通算の規制対象となる「建物本体」の減価償却費を抑えつつ、規制対象外である「設備・備品」の減価償却費を大きく計上することで、一定の節税効果を維持することが可能になります。
ただし、これは非常に高度な税務判断を要するため、必ず経験豊富な専門家と相談の上、進める必要があります。
投資として成功するための「リスク」と「注意点」
最後に、節税という側面だけでなく、純粋な「投資」としてアメリカ不動産を成功させるために、絶対に押さえておくべきリスクと注意点について解説します。
1. 物件選定の重要性:「売れる物件」を見極める
どんな投資でも同じですが、最も重要なのは 「何を買うか」 です。
- エリアの選定:現地の治安は良いか、学校や商業施設などの周辺環境はどうか、将来的な人口増加や再開発の計画はあるか。
- 物件のコンディション:大規模な修繕が必要ないか、賃貸需要は見込めるか。
- 売却のしやすさ:最終的な出口戦略として、将来、スムーズに売却できる流動性の高い物件か。
これらの点を、現地の信頼できるパートナー(不動産エージェントなど)と連携しながら、慎重に見極める必要があります。
2. 資金調達と返済計画:「高金利ローン」の罠
海外不動産の購入資金を、日本の金融機関で低金利で調達するのは、簡単ではありません。場合によっては、金利の高いノンバンクのローンを利用せざるを得ないケースもあります。
家賃収入と、ローンの返済額、そして管理費や固定資産税といった経費のバランスを、事前に綿密にシミュレーションし、キャッシュフローがマイナスにならないか、厳しくチェックする必要があります。
3. 投資目的の明確化:「節税」か「資産形成」か
あなたが、この投資に何を求めているのかを、明確にすることが重要です。
- 節税が第一目的なのか?
- 長期的な家賃収入によるインカムゲインを狙うのか?
- 短期的な値上がり益によるキャピタルゲインを狙うのか?
目的によって、選ぶべき物件のタイプやエリア、投資戦略は大きく変わってきます。ただ「節税になるから」という理由だけで飛びつくのではなく、長期的な資産形成という視点から、リターンとリスクを総合的に判断する、賢明な投資判断が求められます。
まとめ:変化に対応し、本質を見極めることが成功の鍵
今回は、富裕層の節税スキームとして知られる「アメリカ不動産投資」について、そのカラクリから税制改正後の新戦略までを詳しく解説しました。
- アメリカ不動産投資の節税効果は、日米の「建物価値」への考え方の違いと、「減価償却」のルールを利用したものでした。
- 2020年の税制改正により、個人が給与所得と損益通算する、という従来のスキームは使えなくなりました。
- しかし、現在でも、「法人での活用」や、「建物付属設備・備品」の減価償却に着目することで、一定の節税効果を狙うことは可能です。
- 節税という側面だけでなく、「投資」として成功するためには、物件選定、資金調達、そして明確な目的設定といった、本質的なリスク管理が不可欠です。
税制は、常に変化し続けます。昨日まで有効だった節税策が、今日には使えなくなる、ということは、これからも起こり得ます。
重要なのは、小手先のテクニックに頼るのではなく、その節税策がどのようなロジックで成り立っているのか、その「本質」を理解することです。そして、法改正という変化に柔軟に対応し、常に最新の知識を元に、最適な戦略を再構築していく。
そのために、信頼できる税理士などの専門家をパートナーとすることが、これからの時代、ますます重要になってくるでしょう。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。