「教えてもらった節税対策、色々やったのに全然税金安くなってない!」
もしあなたがそう感じているなら、それはもしかしたら「片手落ちの節税」になっているのかもしれません。世の中の節税策の多くは、実は「法人税」の節税を意味するものであって、それに加えて「消費税」も合わせてダブルで節税できるものは意外と少ないのです。
特に、創業して間もない企業や、これから法人化を考えている個人事業主の方々にとって、この違いを理解しておくことは非常に重要です。
今回は、法人税と消費税、それぞれの税金の仕組みと、多くの人が見落としがちな「消費税には効かない節税策」、そして本当に効果的な「ダブルで得する税金対策」について、プロの視点から徹底解説していきます。
この記事は主に法人向けの内容ですが、個人事業主の方にも参考になる情報が満載です。ぜひ最後までご覧ください!
1. 節税しているつもりが片手落ち!?その税金対策、消費税には効きません!
まずは、世の中でよく知られている節税策の中で、「法人税の節税にはなるけれど、消費税には全く効果がない」というものについて、具体的な例を挙げて見ていきましょう。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)
経営セーフティ共済は、連鎖倒産を防ぐための「保険料」のような制度です。掛け金が法人税法上「経費」となるため、法人税の節税効果が生まれます。さらに、40ヶ月以上掛け金をかけると100%返金してもらえる権利があるため、中小企業の間では節税目的で利用されるケースが多く見られます。
しかし、残念ながら消費税の節税効果はありません。
【なぜ消費税の節税にならないのか?】
消費税法では、「事業者が国内で行った資産の譲渡等」に対して消費税が課税されるという独特のルールがあります。経営セーフティ共済のような保険料的な意味合いを持つものは、消費税法上「非課税」として明記されています。当然、経営セーフティ共済の支払いに消費税10%が上乗せされることはありませんよね。
消費税の計算上、「仕入れ税額控除」と呼ばれる経費計上は、経営セーフティ共済ではできないということになります。
役員報酬・決算賞与・退職金、従業員給与など
役員報酬や従業員への給与、決算賞与、退職金などは、法人税法上「経費」になるため、法人税の節税効果があります。
しかし、これらも消費税の節税効果はありません。
【なぜ消費税の節税にならないのか?】
これは少し複雑な話ですが、消費税法上の課税取引に該当しないためです。経営セーフティ共済のような「非課税」というものとは異なり、給与はそもそも「労働の対価」としての性質を持つものです。消費税法上の「資産の譲渡等」には、この労働の対価は含まれません。
そのため、給与は消費税の課税対象外、別の言葉で「不課税取引」と呼ばれます。
例えば、人件費で赤字になっている会社さんであっても、消費税の控除はできないため、消費税の納税額の負担が大きくなってしまうことがあります。
小規模企業共済
小規模企業共済は、個人事業主や中小企業の経営者向けの「退職金積み立て制度」です。しかし、こちらは法人税の節税項目ではありません。個人の「所得税」や「住民税」の計算上、控除という形になり、節税効果が生まれます。
もちろん、法人税の節税効果がないため、 消費税の節税効果もありません。 不課税取引(課税対象外)となります。
企業型DC(企業型確定拠出年金)
企業型DCは、現在一人当たり月額5万5,000円まで掛けられる、福利厚生制度の一種です。iDeCo(イデコ)の法人版とも言われ、主に会社負担でiDeCoができる制度です。
こちらも、上記の小規模企業共済と同様に「不課税取引」となるため、消費税の節税効果はありません。
社宅
社宅は、会社の役員や従業員に住宅を貸し出すことで、家賃の一部を会社が負担し、法人税の節税効果を生み出す定番の節税策です。
しかし、これも消費税の節税効果はありません。
【なぜ消費税の節税にならないのか?】
社宅や住居の賃貸料は、消費税法上「非課税」に該当するからです。店舗やオフィスの家賃は消費税の節税効果を生み出しますが、住居に関しては消費税法上「非課税取引」とされています。そこに消費税10%が上乗せされていませんので、消費税を引くことはできない、つまり消費税の節税効果はないということになります。
家賃は、賃貸物件に住んでいる方にとって生きていくために必須のものですので、「そこに消費税をかけるのはやめておこう」という政策的な理由があると言われています。
企業版ふるさと納税
企業版ふるさと納税は、法人税の節税効果はありますが(限度額の計算などはあります)、消費税の節税効果はありません。
【なぜ消費税の節税にならないのか?】
これは「寄付行為」だからです。対価を得て行う事業取引ではないため、何かを寄付する時に消費税を上乗せして寄付する、ということは通常ありませんよね。そのため、消費税の節税効果はないということになります。
欠損金の繰越控除
欠損金の繰越控除は、法人税の節税にはなりますが、消費税の節税効果はありません。
これはざっくり言うと「過去の赤字」のことです。中小企業の場合、青色申告をしていることなどが前提ですが、過去の赤字を最大10年間繰り越すことができます。今期が赤字で、来期が黒字になった時に、この赤字を来期に持っていくことで、未来の法人税を節税できるという制度です。
これは法人税法独自の制度であり、年度が違う経費を計上して法人税の節税ができるというものですので、消費税法にはそもそもそのような概念がないのです。したがって、消費税の節税効果はありません。
法人税と消費税の違いを一覧で比較
法人税と消費税、この両者の違いは一見すると分かりにくいですよね。ここで一度、一覧表で比較してみましょう。
| 項目 | 法人税 | 消費税 |
| 課税対象 | 課税所得(利益) | 課税取引 |
| 税率 | 所得800万円以下: 約15% 800万円超: 約23.2% | 原則10%(軽減税率8%あり) |
| 計算式(ざっくり) | 売上 – 経費 × 税率 | 仮受消費税 – 仮払消費税 |
| 節税方法 | 経費計上(または税額控除) | 課税仕入れ(仮払消費税)を増やす |
法人税は、ざっくり言うと「売上から経費を引いた残りの利益」に対して課税されます。一方、消費税は「課税取引」というものに対して課税されます。
会計ソフトで入力されている方であれば、負債に「仮受消費税」(得意先などから受け取った10%)が計上され、資産に「仮払消費税」(自社が仕入れやオフィス家賃、水道光熱費、通信費などにかかった消費税)が計上されているのを目にしていることでしょう。この「仮受消費税」から「仮払消費税」を引いた純額を国に納めることになっています。
法人税の節税方法は基本的に「経費計上」がメインですが、消費税の節税方法は「課税仕入れ(仮払消費税)に該当するものを増やしていく」しかありません。
先ほどお話ししたように、給料や保険料、寄付金などは、法人税の経費になるため節税効果が生まれますが、消費税法上は「不課税」や「非課税」となるため、消費税の節税効果は生まれません。そのため、どうしても消費税の負担が大きく感じられてしまうのです。
2. ダブルで効く!法人税と消費税の両方を節税できる方法
ここからは、法人税と消費税の両方に節税効果が期待できる、本当に賢い税金対策についてご紹介します。
出張旅費・日当
出張旅費や日当は、法人税と消費税、どちらにも節税効果が期待できる優れた方法です。
社長さんや社員さんが会社の都合で出張に行った際、実費の交通費などとは別に「日当」を支払うことができます。この日当は旅費交通費として法人税法上の「経費」になるため、法人税の節税効果が生まれます。さらに、この旅費日当を受け取る個人側では、所得税や住民税の課税対象にならないという大きなメリットがあります。
【消費税の節税効果は?】
消費税の節税効果は、「国内か海外か」によって異なります。
- 国内出張: 国内出張に伴う旅費日当は、消費税法上「課税仕入れ」になりますので、消費税の節税効果も生まれます。
- 海外出張: 消費税法は「消費地課税主義」という考え方があり、あくまで国内で消費されたものやサービスに対して課税するものです。そのため、海外での消費に関しては消費税が発生しないため、当然消費税の節税効果もありません。
【大前提として】
日当が世間相場的に妥当な額であること、そして「出張規定」を会社がきちんと整備し、それに則って支給することが条件となります。
交際費・接待費
接待交際費も、法人税と消費税の双方に節税効果が期待できます。
法人税に関しては、中小企業の場合、年間800万円の限度額があります。この限度額を超えると経費にできないため、節税効果はなくなります。
【消費税の節税効果は?】
接待交際費の内容によって決まります。
- 飲食代: 得意先と飲食を共にした場合の飲食代は、消費税法上「課税仕入れ」になりますので、消費税の節税効果も生まれます。
- 手土産: 手土産を購入して渡した場合も、購入時に消費税を支払っているため、課税取引として消費税の節税効果が生まれます。
- 金一封など: 得意先へのお祝いなどで金一封を渡した場合、これは対価がなく、消費税法上の「資産の譲渡等」に該当しないため、「不課税取引」となります。
とはいえ、接待交際費の大部分は飲食代だと思われますので、ほとんどの場合で消費税の節税効果も期待できると考えて良いでしょう。
少額減価償却資産の特例
「ちょっと金額が小さいし、地味じゃない?」と思われるかもしれませんが、この「少額減価償却資産」は、法人税と消費税のダブルで節税効果が大きい、非常にお得な制度です。
通常、設備やパソコン、車などの大きなものを購入した場合、「減価償却」というルールに基づいて、国税庁が定めた耐用年数(例えば営業車両なら6年)にわたって少しずつ経費化していかなければなりません。
しかし、青色申告をしている法人に限り、1個あたり30万円未満の資産であれば、年間300万円という上限はありますが、なんと減価償却せずに一発で全額経費に落とすことができるという特例があります。これを「少額減価償却資産の特例」と呼びます。
この特例を適用すれば、全額を一度に経費に落とせるため、それなりの法人税の節税効果が生まれます。
さらに、これは「物の購入」という課税取引に他なりませんので、消費税の節税効果も生まれるのです。
例えば、決算前に駆け込みで何か設備投資をする際、この少額減価償却資産の特例を活用すれば、法人税と消費税のダブルで節税ができるため、非常にお得です。ただし、「節税できるから」といって、不要なものを買うのは絶対にやめましょう。それは何の意味もなく、キャッシュが減るだけになってしまいます。
車の購入(減価償却費)
車の購入(減価償却費)も、法人税と消費税、双方に節税効果がある可能性があります。
【法人税の節税効果は?】
例えば、新車を購入した場合、法人税法上、一般の営業車両であれば6年という耐用年数が適用され、6年かけて少しずつ経費化していかなければなりません。そのため、決算前に駆け込みで節税目的で車を買いたいという社長さんもいらっしゃいますが、これはあまりおすすめできません。
例えば、4年落ちの中古車であれば耐用年数が短くなり、一発で減価償却できるケースもあります。しかし、その納車日によっては月割り計上になるため、3月決算の法人さんが3月中に納車したとしても、1/12しか経費計上できないといったことも起こります。
したがって、駆け込みでの法人税の節税にはあまり適していません。本当に車が好きで、それを事業に使うのであれば問題ありませんが、節税目的だけで購入するのはあまりおすすめできないのが現状です。
【消費税の節税効果は非常に大きい!】
ところが、車の購入は消費税の節税効果が非常に大きいのです。
車を購入する際には、税金や自賠責保険料など、付随する費用が色々と発生します。そういったものは消費税法上「不課税」であったりしますが、 車体価格そのものに関しては「課税取引」 になりますので、消費税の控除対象となります。
法人税のように減価償却という形でゆっくり経費に落とすのではなく、なんと消費税の計算上、この「仕入れ税額控除」は一発でできるのです。
そのため、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、駆け込みでの車の購入は、どちらかといえば法人税よりも消費税の節税効果がでかいと言えます。
業務委託契約への切り替えは「安易な節税」ではない!
「業務委託に切り替えたら、消費税の節税になるって聞いたんですけど…?」
そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。確かに、給与は消費税法上「不課税(課税対象外)」であるため消費税の節税になりませんが、業務委託契約は経理上「外注費」となり、個人事業主扱いとなるため、消費税の節税になります。
加えて、業務委託契約には以下のようなメリットがあると言われています。
- 労働基準法の適用除外
- 社会保険の負担なし
- 残業代や退職金が不要
- 年末調整や定額減税処理が不要(会社の手間が少ない)
会社にとっては、非常に多くのメリットがあるように見えるでしょう。しかし、これは「安易な節税」として手を出してはいけない領域です。
【実態が伴っていなければアウト!】
業務委託契約は、民法上の「請負契約」や「委任契約」であり、労働時間の切り売りではなく、一つの成果物を提供し、その対価として報酬を得るものです。これは「労働」とは全く異なる性質を持ちます。そのため、切り替えた瞬間、消費税法上の「課税取引」となり、確かに消費税の節税効果は生まれます。
しかし、実態が伴っていなければ税務調査で「アウト」になります。
形だけの業務委託ではいけないのです。雇用契約と業務委託契約には、実態として明確な違いがあります。
| 項目 | 雇用契約 | 業務委託契約 |
| 業務の拒否権 | なし | あり(自営業と同じ) |
| 会社への専属性 | あり | なし(複数社との契約可能) |
| 業務の指揮監督 | 強め | 基本的に弱い |
| 勤務場所の指定 | あり | なし |
| 時間の拘束 | あり | なし |
| 報酬の算定根拠 | 時間単位 | 案件・成果物単位 |
| 契約解除 | 労働基準法により制限あり | 双方合意で可能 |
もし皆さんの会社が、社員を雇用契約から業務委託に切り替え、インボイスまで取得させて消費税の節税をしたとします。しかし、税務調査でこの「実態」を問われた際に、「これは表向きは業務委託だが、実態は雇用契約である」と判断されれば、節税した消費税を追加で納税しなければならなくなります。
したがって、「節税のため」という理由で業務委託契約に切り替えるのは危険です。ましてや、既存の社員を無理やり業務委託に切り替えることは「不当解雇」に当たる可能性もあるため、絶対にやめましょう。
3. 消費税単独での節税対策はあるのか?
ここまで見てきたように、消費税単独で節税できるものはほとんどありません。唯一挙げるとすれば、先ほどご紹介した「車の購入」や「設備投資全般」(機械や修繕費など)が、ダブルでの節税効果が高いと言えるでしょう。
あとは、消費税の計算方法を賢く選択することです。消費税の計算方法には、大きく分けて3通りあります。
- 本則課税: 仮受消費税から仮払消費税を引いた差額を納める、基本的な計算方法です。
- 簡易課税: 基準期間(2期前)の課税売上が5,000万円以下の事業者しか使えません。事前の届出が必要ですが、業種に応じた「みなし仕入れ率」をかけて消費税額を計算するものです(例えば卸売業なら10%)。これにより、本則課税よりも納税額が小さくなる場合に選択することで、消費税を節税できます。ただし、その差額(益税)は法人税や所得税の課税対象になるので注意が必要です。
- 2割特例: インボイス制度が始まり、消費税の課税事業者になってしまった方を対象とした、期間限定の特例です。受け取った消費税(仮受消費税)の2割だけを納めれば良いというものです。資本金1,000万円以上など、一定の要件に該当する場合は使えないこともありますのでご注意ください。
【ざっくりとした目安】
どの計算方法を選ぶべきか、ざっくりとした目安は以下の通りです。
- 赤字の会社: 課税仕入れが多い可能性があるため、1番の「本則課税」が良いかもしれません。
- 卸売業など: 「みなし仕入れ率」が低い業種(卸売業は10%)は、2番の「簡易課税」を使うことで納税額が少なくなる可能性があります。
- その他(インボイスで課税事業者になった方): 3番の「2割特例」が良いかもしれません。
【3つの計算方法の比較(アパレル卸売業の例)】
例えば、アパレルの卸売業で、売上500万円、経費350万円のケースで比較してみましょう。
| 計算方法 | 仮受消費税 | 仮払消費税 | 納める消費税額 |
| 本則課税 | 50万円 | 35万円 | 15万円 |
| 2割特例 | 50万円 | – | 10万円(50万円の2割) |
| 簡易課税(卸売業10%) | 50万円 | – | 5万円(50万円の10%) |
このケースでは、簡易課税が最も有利になることが分かります。売上が5,000万円以下の事業者の方は、簡易課税の適用を検討し、事前にシミュレーションをすることをおすすめします。
ただし、簡易課税は一度選択すると原則2年間継続しなければならないというルールもありますので、届出をする際は十分ご注意ください。
4. 節税の注意点:弊害を知って賢く対策しよう!
最後に、節税に関する重要な注意点をお伝えします。
【節税には弊害がある!】
節税のために、やみくもにお金を使いすぎると、法人税や消費税の節税はできたとしても、資金不足に陥る可能性があります。
そして何より、中小企業の経営者にとって最大のネックとなるのは「資金調達」です。節税しすぎると、赤字が多くなったり、手元の資金(純資産)が少なくなったりする状態になり、有利な条件での資金調達がしにくくなるのです。
特に、これから事業拡大を目指していくという方にとって、資金調達は事業の「命」となります。もし事業拡大が最も重要なテーマであるならば、極論、節税はしない方が良いとさえ言えます。
何かあった時の財源がなくなってしまえば、倒産しやすい会社になってしまうというデメリットもありますので、くれぐれもご注意ください。