【社長必見】お年玉を経費で渡すと税金がかかる?福利厚生と給与の境界線を徹底解説

節税・経費

新しい年を迎え、日頃の感謝を込めて、社員に「お年玉」を渡したい。
そう考える心優しい経営者の方は、少なくないでしょう。社員のモチベーションを高め、より良い関係を築くための素晴らしい習慣です。

しかし、その「お年玉」、どのような形で渡すかによって、会社と社員の双方に予期せぬ税金の負担が発生してしまう可能性があることをご存知でしょうか。

「もちろん経費で落とすつもりだけど、何か問題があるの?」
「福利厚生の一環だから、税金なんてかからないはずだ」

もし、そのように考えているのであれば、少しだけ注意が必要です。
税務の世界では、会社から社員へ渡される金品は、その名目に関わらず、非常に厳格なルールに基づいて判断されます。良かれと思って渡したお年玉が、税務調査で「給与」と認定され、源泉徴身漏れを指摘されたり、社員の手取りをかえって減らしてしまったりするケースは、決して珍しくないのです。

この記事では、経営者が知っておくべき「お年玉と税金」の関係について、その基本原則から、非課税で渡せる「福利厚生費」と見なされるための条件、そして渡す相手別の注意点まで、あらゆる角度から徹底的に解説していきます。

感謝の気持ちを伝えるはずのお年玉が、税金のトラブルに発展しないために。正しい知識を身につけ、会社にとっても社員にとっても、本当に喜ばれる形でお年玉を渡しましょう。

第1章:【大原則】会社から社員へのお年玉は「給与」として課税される

まず、絶対に押さえておかなければならない大原則からお伝えします。
それは、 「会社が経費で社員にお年玉を渡した場合、それは原則として『給与』と見なされる」 ということです。

「お年玉」という名目であっても、税務上は「会社から従業員への利益供与」であり、労働の対価として支払われる給料や賞与(ボーナス)と何ら変わりはない、と判断されるのです。

どんな渡し方が「給与」になるのか?

具体的には、以下のような形で渡したお年玉は、ほぼ100%給与として扱われます。

  • 現金
  • 商品券やギフトカード(換金性の高いもの)
  • 電子マネー(PayPay、LINE Payなど)での送金
  • 高価な物品

これらは、社員が自由に使い道を選べるため、実質的に現金をもらったのと同じと解釈されます。

「給与」扱いになると、何が起こるのか?

お年玉が「給与」と認定されると、会社と社員の双方に以下のような影響が出ます。

【会社側の義務と影響】

  1. 源泉徴収の義務:
    給与を支払う会社には、社員の所得税を天引きして国に納める「源泉徴収」の義務があります。お年玉を給与として処理せず、源泉徴収を怠った場合、税務調査で不納付加算税や延滞税といったペナルティが課せられます。
  2. 社会保険料の計算対象になる可能性:
    お年玉を「賞与」として処理する場合、その金額は健康保険料や厚生年金保険料の計算対象となります。会社負担分の社会保険料も増加することになります。

【社員側の負担と影響】

  1. 所得税・住民税の課税対象になる:
    お年玉の金額が、その社員の所得に加算され、所得税や翌年の住民税が増加します。額面通りの金額が手元に残るわけではありません。
  2. 社会保険料の計算対象になる:
    賞与として処理された場合、社員負担分の社会保険料も天引きされます。
  3. 扶養の「壁」を超えるリスク:
    これが特に注意すべき点です。配偶者の扶養に入っているパート・アルバイトの社員にとって、お年玉が給与に加算されることで、年収が「103万円の壁」や「130万円の壁」を超えてしまう可能性があります。壁を超えると、扶養から外れ、自分自身で所得税や社会保険料を支払う必要が出てくるため、かえって世帯全体の手取りが大幅に減ってしまうという悲劇が起こりかねません。

例えば、扶養内で働いているパート社員に、良かれと思って5万円のお年玉を渡した結果、その年の年収が104万円になってしまったらどうでしょう。その社員は、配偶者控除の対象から外れ、ご家庭の税負担が大きく増えることになります。感謝されるどころか、困惑させてしまう結果になりかねないのです。

第2章:【例外】お年玉を「福利厚生費」として非課税で渡す方法

では、社員に税金の負担をかけずに、お年玉を渡す方法はないのでしょうか。
その唯一の例外的な方法が、 「福利厚生費」 として処理することです。

福利厚生費とは、全従業員の福祉の向上のために、給与以外に支出される費用のことです。これが認められれば、会社は経費として計上でき、社員は非課税で受け取ることができます。

しかし、何でもかんでも福利厚生費にできるわけではありません。税務署が福利厚生費として認めるためには、以下の3つの厳格な要件をすべて満たす必要があります。

要件1:機会の均等

全社員(正社員、パート、アルバイトなど、すべての従業員)に対して、平等に機会が与えられていることが絶対条件です。

「社長のお気に入りのAさんだけに渡す」
「営業部の成績優秀者だけに渡す」

といった、特定の個人やグループだけを対象とするものは、福利厚生とは認められず、その人への「給与」または「賞与」と見なされます。

要件2:社会通念上の相当性

支給する金品の金額が、常識的に見て妥当な範囲内である必要があります。
明確な基準はありませんが、一般的には 「数千円程度」 が目安とされています。

1人あたり数万円もするような高額なものを渡した場合、たとえ全社員が対象であっても、「それはもはや福利厚生の域を超えている」と判断され、給与課税の対象となる可能性が高くなります。

要件3:現金・換金性の高いものではないこと

原則として、福利厚生は 「物品の支給」や「サービスの提供」 が基本です。
第1章で述べた通り、現金や商品券など、換金性が高く、使い道を限定できないものは、給与と判断されます。

福利厚生費として認められるOK例と、給与になるNG例

これらの要件を踏まえて、具体的な例を見てみましょう。

【OK例:福利厚生費として認められる可能性が高い】

  • 全社員に、一律3,000円相当のカタログギフトを渡す。
    → 機会が均等で、金額も常識の範囲内、かつ物品の提供であるため。
  • 全社員に、自社製品や取引先から仕入れたお菓子の詰め合わせを渡す。
    → 同上。
  • 特定のチェーン店でしか使えない、有効期限付きの食事券を全社員に渡す。
    → 換金性が低く、用途が限定されているため、福利厚生と認められる余地があります。

【NG例:給与として課税される可能性が高い】

  • 勤続10年以上の社員だけに、現金1万円を渡す。
    → 対象者が限定されており、現金支給のため。これは「給与(勤続手当など)」と見なされます。
  • 全社員に、一人5万円の全国共通商品券を渡す。
    → 全員が対象でも、金額が高額で換金性も高いため。「賞与」と見なされます。
  • 社長の判断で、Aさんには3万円、Bさんには1万円の現金を手渡す。
    → 機会の均等性も、金額の妥当性もなく、完全に「給与」です。

このように、「福利厚生費」として認められるハードルは、想像以上に高いことを理解しておく必要があります。

第3章:【応用編】渡す相手で変わる!ケース別の税務上の注意点

お年玉を渡す相手は、自社の社員だけとは限りません。社員の家族や、日頃お世話になっている取引先に渡すケースもあるでしょう。しかし、渡す相手が変わると、税務上の論点も全く異なってきます。

ケース1:社員の子供へお年玉を渡した場合

「社員本人ではなく、その子供にお年玉を渡せば、給与にはならないだろう」
そう考える経営者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、残念ながら、これも 社員本人への「給与」 と見なされます。

税法では、従業員の家族に対する利益の供与は、実質的にその従業員本人に対する給与と解釈されるのです。
会社が経費として計上した時点で、その原資は会社のお金であり、社員の子供に渡すことで、その社員の家計を助ける経済的利益を与えた、と判断されます。

したがって、社員本人に渡す場合と同様に、源泉徴収の対象となります。
これを「福利厚生費」として処理しようとしても、「全社員の子供に、同一年齢で同額を」といった、極めて厳格で現実的ではない要件を満たさない限り、認められることはありません。

ケース2:取引先の担当者(またはその子供)へお年玉を渡した場合

日頃の感謝の気持ちとして、取引先の担当者やそのご家族にお年玉を渡すケースです。
この場合、会社の経費としては 「交際費」 に該当することになります。

しかし、ここにも大きな注意点があります。

  1. 経費として認められないリスク:
    お年玉は、社会通念上、個人的な付き合いの中で行われる贈答という側面が強いものです。そのため、税務調査において「事業関連性が薄い、個人的な支出である」と判断され、交際費としての計上自体を否認されるリスクがあります。
  2. 相手方に納税義務を発生させてしまう:
    これがより深刻な問題です。あなたが渡したお年玉は、受け取った相手にとって 「所得」 となります。
    • 相手が法人の場合: 「雑収入」として法人税の課税対象になります。
    • 相手が個人の場合: その人の「一時所得」または「雑所得」となり、確定申告が必要になる場合があります。
  3. 贈与税の対象となる可能性:
    特に、事業と関係のない取引先の子供などに渡した場合、それは個人間の 「贈与」 と見なされます。受け取った側が、その年に他の人からもらった財産と合わせて110万円を超えると、贈与税の申告と納税の義務が発生します。

良かれと思って渡したお年玉が、相手に面倒な確定申告の手間や、納税の義務を負わせてしまう可能性があるのです。これは、ビジネス上の関係性において、かえってマイナスの影響を与えかねません。取引先へのお年玉は、極めて慎重に判断すべきと言えるでしょう。

第4章:【結論】最もシンプルで安全な「お年玉」のベストプラクティス

ここまで、お年玉を経費で渡すことの様々なリスクや複雑さを見てきました。
では、結局のところ、どうやって渡すのが会社にとっても、社員にとっても、そして取引先にとっても、最も安全で、感謝の気持ちがストレートに伝わるのでしょうか。

その結論は、非常にシンプルです。

「会社の経費には一切計上せず、社長個人のポケットマネーから渡す」

これが、あらゆる税務リスクを回避し、人間関係を円滑にするための、唯一無二のベストプラクティスです。

ポケットマネーで渡すことの絶大なメリット

  1. 税金の問題が一切発生しない:
    会社のお金ではないため、給与課税、源泉徴収、社会保険料といった問題は一切生じません。
  2. 社員は満額を受け取れる:
    社員は税金を引かれることなく、渡された金額をそのまま手にすることができます。扶養の壁を気にする必要もありません。
  3. 贈与税も基本的にはかからない:
    社長個人から社員個人への「贈与」となりますが、年間110万円の基礎控除の範囲内であれば、贈与税はかかりません。お年玉がこの金額を超えることはまずないでしょう。
  4. 純粋な「感謝の気持ち」として伝わる:
    「会社の経費」ではなく、「社長個人の心遣い」として渡すことで、その感謝の気持ちはより深く、ストレートに社員に伝わります。

経営者としては、「何でも経費で落としたい」という気持ちが働くのは当然です。しかし、「経費で落とすこと」に固執するあまり、複雑な事務手続きを増やし、社員に税負担をかけ、税務リスクを負うのは、果たして賢明な判断でしょうか。

お年玉に関しては、「経費にするメリット」よりも、「ポケットマネーで渡すことによるシンプルさと安全性、そして心理的な効果」の方が、はるかに大きいと言えるでしょう。

第5章:【関連知識】年始にまつわる経費のQ&A

お年玉以外にも、年始には様々な支出が発生します。最後に、経営者が迷いやすい年始の経費について、Q&A形式で解説します。

Q1. 事務所に置く神棚や、商売繁盛の熊手は経費になりますか?

A1. はい、経費として計上できます。
事業の安全や商売繁盛を祈願する目的で設置するものは、社会通念上、事業に関連する支出と認められます。勘定科目は、金額が少額であれば 「消耗品費」、または「福利厚生費」 として処理するのが一般的です。

Q2. 社員全員で会社の商売繁盛を祈願するために初詣に行きました。交通費やご祈祷料は経費になりますか?

A2. はい、福利厚生費として経費計上できる可能性が高いです。
社員全員が参加する恒例行事として行われるものであれば、社員の慰安や士気高揚を目的とした福利厚生の一環と認められます。会社名で受けたご祈祷料も同様に経費として処理できます。

Q3. 地元の神社に、会社名義で寄付(玉串料など)をしました。これは経費になりますか?

A3. はい、「寄付金」として経費になりますが、損金に算入できる金額には上限があります。
神社仏閣への寄付は、法人税法上の「寄付金」に該当します。ただし、全額を経費(損金)にできるわけではなく、その法人の資本金の額や所得の金額に応じて、損金に算入できる限度額が計算されます。限度額を超えた部分は、経費として認められないため注意が必要です。

まとめ:感謝の気持ちを、最も良い形で伝えるために

お年玉と税金の関係は、一見すると些細な問題に思えるかもしれません。しかし、その裏には「給与」「福利厚生」「交際費」「贈与」といった、税務の重要な論点が複雑に絡み合っています。

安易に「経費で落とせるだろう」と判断することが、いかに多くのリスクを伴うか、ご理解いただけたかと思います。

  • 会社から社員への現金支給は、原則すべて「給与」。
  • 「福利厚生費」として認められるには、全社員対象・少額・物品支給という厳しい要件がある。
  • 最も安全でシンプルな方法は、社長の「ポケットマネー」から渡すこと。

経営者の仕事は、税法を正しく理解し、リスクを管理し、会社と従業員を守ることでもあります。感謝の気持ちという最も大切なものを、税金のトラブルで台無しにしないために。ぜひ、この記事で得た知識を、あなたの会社のより良い経営に活かしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。