勢いと情熱で駆け抜けた開業1年目。右も左もわからなかったけれど、試行錯誤を繰り返しながら、なんとか確定申告までたどり着いた。そんな安堵も束の間、あなたは今、2年目という新たなステージの入り口に立っています。
「1年目は赤字だったけど、今年こそは軌道に乗せたい」
「思ったより税金が高くて驚いた。何か対策をしないと…」
「事業は順調だけど、このままずっと一人でやっていけるだろうか?」
1年目の「とりあえずやってみる」というフェーズが終わり、2年目は事業の「未来」を現実的に考え始める、まさに飛躍と停滞の分岐点とも言える重要な時期です。ここでどのような戦略を立て、行動に移すかによって、あなたの3年後、5年後の姿は大きく変わってきます。
そこでこの記事では、開業2年目を迎えたすべての個人事業主・フリーランスの方に向けて、事業の土台を固め、さらなる成長を加速させるために 「絶対にやるべき10の重要戦略」 を、具体的なアクションプランと共に徹底的に解説していきます。
税金対策という「守り」から、資金調達や事業拡大という「攻め」まで。この記事を最後まで読めば、あなたが今抱えている漠然とした不安は、未来への確かな道筋へと変わるはずです。
戦略①【守りの基本】青色申告の効果を「最大化」せよ
「1年目は赤字だったから、節税メリットのある青色申告は関係ない」
「確定申告が大変だから、白色申告でいいや」
もしあなたが少しでもこう考えているなら、それは大きな間違いです。青色申告は、単に65万円の控除が受けられるだけの制度ではありません。特に、事業がまだ不安定な時期にこそ、その真価を発揮するのです。
青色申告の真の価値は「赤字の繰り越し」にあり
青色申告の最も強力なメリットの一つが 「純損失の繰越控除」 です。これは、事業で発生した赤字を、最大3年間にわたって翌年以降の黒字と相殺できるという制度です。
- 【例】
- 1年目: 100万円の赤字が発生
- 2年目: 150万円の黒字が出た
- 青色申告の場合: 2年目の利益150万円から、1年目の赤字100万円を差し引くことができます。その結果、2年目の課税所得は50万円に圧縮され、税負担が大幅に軽減されます。
- 白色申告の場合: 赤字の繰り越しはできません。1年目の100万円の赤字は切り捨てられ、2年目は150万円の利益に対してそのまま課税されてしまいます。
起業当初の赤字は、未来の利益を生むための「投資」です。その投資を将来の節税に繋げられるかどうかは、青色申告をしているか否かにかかっています。赤字だからこそ、青色申告は絶対に必要なのです。
「期限内申告」は絶対!青色申告の取り消しリスク
もう一つ注意すべきは、 確定申告の期限(通常は3月15日) です。期限に1日でも遅れてしまうと、その年の青色申告特別控除(65万円/55万円)が受けられなくなるだけでなく、2年連続で期限後申告を行うと、青色申告そのものの承認が取り消されてしまうという、非常に厳しいペナルティがあります。
1年目に青色申告のメリットを活かせなかったとしても、2年目こそ、その効果を100%享受できるように、期限を守り、正しく申告することを徹底しましょう。
戦略②【未来への布石】3年目を見据えた「消費税」対策を始めよ
開業1年目と2年目は、多くの個人事業主にとって、消費税の納税が免除される「免税事業者」でいられる、いわばボーナスタイムです。しかし、このボーナスタイムは永遠には続きません。
2年目のあなたが今から考えておくべきなのは、3年目から始まる「消費税課税」への備えです。
なぜ2年目に考える必要があるのか?
「消費税の支払いが始まるのは3年目からなのだから、2年目の今は関係ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、2年目の行動が、3年目の消費税額に直接影響するのです。
その鍵は 「大きな買い物をするタイミング」 です。
消費税の納税額は、原則として「預かった消費税(売上にかかる消費税)」から「支払った消費税(経費にかかる消費税)」を差し引いて計算されます。
- 【例:100万円の高性能パソコンを購入する場合】
- 2年目(免税事業者)に購入した場合:
あなたは免税事業者なので、パソコン購入時に支払った消費税(約9万円)は、どこからも差し引くことができず、単なるコストとなります。 - 3年目(課税事業者)に購入した場合:
3年目に預かった消費税から、パソコン購入時に支払った消費税(約9万円)を差し引くことができます。つまり、納税するはずだった消費税が約9万円も安くなるのです。
- 2年目(免税事業者)に購入した場合:
このように、車や高額な機材など、大きな設備投資を計画している場合は、そのタイミングを2年目ではなく、課税事業者となる3年目にずらすことで、大きな節税効果が生まれます。
インボイス登録者も要注意!「2割特例」の終了に備えよ
インボイス制度の開始に伴い、1年目から課税事業者になっている方もいるでしょう。その多くは、納税額を売上にかかる消費税の2割に軽減できる 「2割特例」 を適用しているはずです。
しかし、この特例は、本来免税事業者であるはずの人が、インボイス発行のために課税事業者になった場合の経過措置です。3年目になり、基準期間(2年前)の売上が1,000万円を超えて 「本来の課税事業者」 になった場合、この2割特例は使えなくなります。
そうなると、原則的な計算方法(本則課税)に戻り、納税額が急に跳ね上がる可能性があります。この変化に備えるためにも、経費にかかる消費税を意識した事業運営が、2年目から求められるのです。
戦略③【消費税対策②】「簡易課税」の選択を検討せよ
3年目から2割特例が使えなくなった場合の、もう一つの選択肢が 「簡易課税制度」 です。
これは、経費にかかる消費税をいちいち計算する代わりに、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って、簡単に納税額を計算できる制度です。
- 【例:サービス業(第五種事業)の場合】
- みなし仕入率:50%
- 売上1,000万円(税抜)の場合、預かった消費税は100万円。
- 支払った消費税は、実際の経費に関わらず「100万円 × 50% = 50万円」とみなされる。
- 納税額は「100万円 – 50万円 = 50万円」となる。
この制度は、実際の経費が少ない事業者(例えば、コンサルタントやデザイナーなど)にとっては、本則課税よりも納税額が少なくなるケースが多く、非常に有利です。
重要なのは、この簡易課税制度を3年目から適用するためには、2年目の12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければならないという点です。3年目になってから「やっぱり簡易課税にしたい」と思っても手遅れです。2年目のうちに、自社の事業モデルと照らし合わせ、本則課税と簡易課税のどちらが有利になるか、必ずシミュレーションしておきましょう。
戦略④【資金繰り】忘れた頃にやってくる「住民税」に備えよ
1年目の確定申告で所得税を納めた後、安心してはいけません。あなたの納税義務は、まだ終わっていないのです。
住民税は、前年の所得に基づいて税額が計算され、翌年の6月頃に納税通知書が送られてくる「後払い」の税金です。
つまり、開業1年目に大きな利益が出た方は、2年目の6月以降に、高額な住民税の納付が待っているのです。1年目には発生しなかった大きな支出が、2年目には必ずやってきます。このことを忘れて、1年目に稼いだお金をすべて使い込んでしまうと、納税資金がショートするという最悪の事態に陥りかねません。
課税所得に対して、およそ 10% が住民税の目安です。1年目の課税所得が500万円だったなら、約50万円の住民税が2年目に請求される、ということを念頭に置き、必ず納税資金を確保しておきましょう。
戦略⑤【節税の王道】倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入せよ
開業から1年が経過した2年目は、強力な節税制度である 「倒産防止共済(経営セーフティ共済)」 に加入できる年です。
これは、国が運営する制度で、簡単に言えば 「掛け金が全額経費になる貯金」 です。
- 年間最大240万円まで掛け金を支払うことができ、その全額が経費になる。
- 40ヶ月以上支払えば、解約時に掛け金が100%戻ってくる。
所得税・住民税の合計税率が30%の方なら、年間240万円を掛けることで、約72万円もの節税になります。しかも、そのお金は将来的に手元に戻ってくるのです。1年目に利益が出て、2年目も好調が見込まれるのであれば、加入しない手はありません。
戦略⑥【将来への備え】小規模企業共済を検討せよ
倒産防止共済と並ぶ、もう一つの国の制度が 「小規模企業共済」です。これは、個人事業主や小規模企業の経営者のための「退職金制度」 です。
- 年間最大84万円まで掛け金を支払うことができ、その全額が「所得控除」の対象になる。
- 将来、事業を辞めたりする際に受け取る際には、税制上非常に優遇された「退職所得」として扱われる。
支払っている間も、受け取る時も、税金が優遇される非常に優れた制度です。ただし、こちらは倒産防止共済とは異なり、手元のキャッシュが長期間拘束されることになるため、ご自身の資金繰りと、将来設計をよく考えた上で、無理のない範囲で加入を検討しましょう。
戦略⑦【事業の安定化】次なる「売上の柱」を見つけよ
ここまでは「守り」の戦略でしたが、2年目は「攻め」の視点も重要です。特に、事業の 「安定化」 を意識すべき時期です。
開業当初は、仕事をくれるだけでありがたく、特定の1社や2社に売上を依存しがちです。しかし、これは非常に危険な状態です。その取引先の業績が悪化したり、方針が変わったりすれば、あなたの収入は一瞬にしてゼロになってしまいます。
2年目は、この依存状態から脱却し、売上を分散させることを意識しましょう。たとえ利益率が低くても、小さな仕事を複数受けて、取引先の数を増やすのです。それは、目先の利益以上に、「リスク分散」という大きな価値をもたらします。また、その小さな仕事が、3年後、4年後に大きなビジネスチャンスへと花開く可能性も十分にあります。
戦略⑧【資金調達】最後のチャンス!「創業融資」を活用せよ
「今は自己資金で回っているから、融資は必要ない」
そう考えている2年目のあなた。それは、非常にもったいない考え方かもしれません。なぜなら、2年目は「創業融資」という、最も有利な条件で融資を受けられる、最後のチャンスかもしれないからです。
創業融資は、日本政策金融公庫などが、創業後間もない事業者を対象に行っている、金利が低く、無担保・無保証人で借りやすい、特別な融資制度です。多くの場合、その対象期間は「創業後2年以内」などと定められています。
なぜ、今お金が必要なくても借りておくべきなのでしょうか。その目的は、 「金融機関との取引実績を作ること」 にあります。
一度融資を受け、計画通りにきちんと返済していく。この 「返済実績」 こそが、あなたの信用情報となり、将来、本当に大きな資金が必要になった時に、スムーズな追加融資を受けるための、何よりの信頼の証となるのです。
いざという時に「初めまして」で金融機関のドアを叩いても、相手にしてもらえないことがほとんどです。2年目という有利な時期に、未来への橋渡しとして、少額でも創業融資を受けておくことを強くお勧めします。
戦略⑨【攻めの投資】小規模事業者持続化補助金を活用せよ
2年目になると、「ホームページをリニューアルしたい」「Web広告を出してみたい」「チラシを作りたい」といった、細々とした投資ニーズがたくさん出てくるはずです。そんな時に、ぜひ活用したいのが 「小規模事業者持続化補助金」 です。
これは、販路開拓などに取り組む小規模事業者を支援する、非常に人気の高い補助金です。
- 用途が非常に幅広い: 広告宣伝費、Webサイト関連費、店舗改装費など、様々な経費が対象。
- 補助率が高い: 経費の2/3などが補助される。
- 創業期は加点も: 創業後間もない事業者は、審査で有利になる「加点」がつくことが多い。
自己資金だけで投資するのに比べて、実質的な負担を大幅に減らすことができます。国の制度を賢く活用し、攻めの投資を加速させましょう。
戦略⑩【究極の選択】本格的に「法人化」を検討せよ
そして最後に、2年目は 「法人化(法人成り)」 を本格的に検討する、絶好のタイミングです。
法人化を検討すべき理由は、大きく3つあります。
- 所得税と法人税の税率差:
個人の所得税は、稼げば稼ぐほど税率が上がる「累進課税」です。ある一定の所得(一般的に課税所得800万円~900万円あたり)を超えると、法人を設立し、自分に役員報酬を支払う形(所得分散)にした方が、トータルの税負担が安くなる可能性があります。 - 消費税の免税メリット:
戦略②で触れたように、個人事業主として2年間免税だった方が、3年目から法人を設立すると、その法人として、さらに最大2年間、消費税の免税事業者でいられる可能性があります。トータルで最大4年間の免税期間を享受できる、強力な節税策です。 - 社会保険料の削減:
個人事業主が支払う国民健康保険料は、所得に応じて上限なく上がっていき、年間100万円を超えることも珍しくありません。法人化し、自分の役員報酬を低く設定する 「マイクロ法人スキーム」 などを活用することで、この社会保険料負担を、年間25万円程度まで劇的に削減できる可能性があります。
国民健康OK保険料が年間100万円近くになっている方は、それだけで法人化を検討する十分な理由になります。ご自身の確定申告書を改めて見返し、税金や社会保険料の負担額から、法人化のシミュレーションをしてみる価値は、大いにあるでしょう。
まとめ:2年目は、事業の未来を設計する「戦略の年」
開業2年目にやるべき10の戦略をご紹介してきましたが、これらに共通するのは、 「単に目の前の仕事をこなすだけでなく、1年後、3年後を見据えて、事業の土台を再設計する」 という視点です。
- 青色申告を最大活用する
- 3年目を見据えた消費税対策を始める
- 「簡易課税」の選択を検討する
- 住民税の支払いに備える
- 倒産防止共済に加入する
- 小規模企業共済を検討する
- 次なる売上の柱を見つける
- 創業融資を活用する
- 小規模事業者持続化補助金を活用する
- 法人化を本格的に検討する
守りを固め、攻めの布石を打つ。2年目は、その両輪をバランスよく回していく、経営者としての手腕が試される一年です。この10の戦略を羅針盤として、あなたの事業を、より高く、より遠くへと導いていってください。
この記事があなたの経営の一助となれば幸いです。