【経営者・個人事業主必見】その節税、本当に得していますか?専門家が警鐘を鳴らす「やってはいけない節税策」3選とその理由

節税・経費

「節税」という言葉は、多くの経営者や個人事業主、そして一般の納税者にとっても魅力的に響くものです。しかし、世間で「節税になる」とされている手法の中には、専門家の視点から見ると、必ずしも経済的なメリットがあるとは言えない、あるいは別のリスクを伴うものが少なくありません。

本記事では、一般的に節税策として認識されがちなものの、実際には慎重な判断が必要とされる代表的な手法を3つ取り上げ、その仕組み、潜在的なデメリット、そして本来あるべき考え方について、客観的かつ詳細に解説していきます。目先の税負担軽減に囚われることなく、長期的な視点で自身の資産形成や事業の健全な発展に繋がる選択をするための一助となれば幸いです。

1. 「多額の生命保険料」による節税効果の限界

生命保険は、万が一の事態に備える保障機能と同時に、「節税効果」を期待して加入するケースが見受けられます。「安心も得られて節税にもなる」というセールストークは一般的ですが、特に多額の保険料を支払っている場合、その節税効果は限定的であることを理解しておく必要があります。

生命保険料控除の仕組みと実際の節税額

個人が支払った生命保険料は、所得税や住民税の計算上、「生命保険料控除」として所得から差し引かれます。これにより課税対象となる所得が減少し、結果として税負担が軽減されるという仕組みです。

現行制度(新契約:平成24年1月1日以降の契約)では、生命保険料控除は「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3つの区分に分かれており、それぞれについて所得控除額の上限が設けられています。

  • 所得税: 各区分で年間支払保険料8万円超の場合、控除額は一律4万円(3区分合計で最大12万円)。
  • 住民税: 各区分で年間支払保険料5万6千円超の場合、控除額は一律2万8千円(3区分合計で最大7万円)。

ここで重要なのは、「控除額 = 節税額」ではないという点です。控除額はあくまで課税所得を計算する際に差し引かれる金額であり、実際の節税額は、この控除額にその人の所得税率・住民税率を乗じた金額になります。

例えば、所得税率20%、住民税率10%(合計30%)の人が、各区分で8万円ずつ、合計24万円の保険料を支払ったとします。
この場合の所得税の控除額は、4万円 × 3区分 = 12万円。
住民税の控除額は、2万8千円 × 3区分 = 8万4千円。
合計の所得控除額は20万4千円となります。

しかし、実際の節税額は、
所得税:12万円 × 20% = 2万4千円
住民税:8万4千円 × 10% = 8千4百円
合計:3万2千4百円 となります。

年間24万円の保険料を支払っても、節税効果は約3万2千円であり、支払保険料に対する節税効果の割合は約13.5%です。

多額の保険料を支払う場合の注意点

日本の一世帯あたりの年間平均保険料は約35万円というデータがあります。仮に、この平均額を3つの控除区分に均等に割り振って支払っている(各区分約11万7千円)と仮定しても、前述の所得税率20%・住民税率10%のケースであれば、節税額の上限である3万2千4百円を超えることはありません。支払保険料がこれ以上増えても、節税額は変わらないのです。

つまり、年間支払保険料が3区分合計で24万円(各区分8万円)を超えてくると、それ以上の保険料支払いは、生命保険料控除による節税効果という観点からは、ほとんど意味をなさなくなります。

もちろん、生命保険の主目的は万が一の保障であり、その必要性は個々の状況によって異なります。しかし、「節税になるから」という理由だけで、必要以上の高額な保険に加入することは、経済合理性に欠ける可能性があります。保険加入を検討する際は、まず保障内容が本当に自分や家族にとって必要なものかを見極め、節税効果はあくまで副次的なものとして捉えるべきでしょう。

(※2026年限定で、23歳未満の扶養親族がいる場合に生命保険料控除の枠が拡大される特例が予定されていますが、これは一時的な措置であり、基本的な考え方は変わりません。)

2. 「中古ワンルームマンション投資」による節税スキームの罠

「中古のワンルームマンションに投資すれば節税になる」という謳い文句で、不動産投資を勧められるケースがあります。これは、不動産所得の計算上生じる赤字を、給与所得など他の所得と相殺(損益通算)することで、全体の所得税・住民税を軽減しようとするスキームです。

不動産投資における損益通算の仕組み

例えば、年収500万円(給与所得356万円)の会社員がいたとします。通常であれば、この給与所得に対して所得税・住民税が課されます。
ここで、この会社員が中古のワンルームマンションを購入し、不動産賃貸業を始めたとします。
年間の家賃収入が120万円あったとしても、不動産所得の計算上、様々な経費(管理費、修繕費、固定資産税、ローンの利息、そして減価償却費など)を差し引いた結果、帳簿上75万円の赤字になったとします。

この場合、給与所得356万円から不動産所得の赤字75万円を差し引いた281万円が、その年の合計所得となります。課税対象となる所得が減少するため、結果として所得税・住民税も減少し、節税効果が得られるというわけです。

「節税」の源泉となる減価償却費の特性

このスキームで、特に初期の数年間に不動産所得が赤字になりやすい大きな要因は、「減価償却費」です。建物部分は時の経過とともに価値が減少すると考えられ、その取得価額を耐用年数にわたって分割して経費計上していきます。中古物件の場合、耐用年数が新築物件よりも短くなるため、特に築年数が経過した物件では、購入後数年間は多額の減価償却費を計上できることがあります。この減価償却費は、実際には現金の支出を伴わない帳簿上の経費であるため、キャッシュフロー上はプラスでも、会計上は赤字を生み出しやすいのです。

しかし、この減価償却費が多く計上できる期間は限定的です。耐用年数が経過すれば、減価償却費は大幅に減少するか、計上できなくなります。その結果、数年後には不動産所得が黒字に転換し、逆に税負担が増加する可能性が高くなります。

中古マンション投資節税の潜在的リスク

この中古ワンルームマンション投資による節税スキームは、以下のような潜在的なリスクやデメリットを抱えています。

  1. 節税効果の持続性のなさ: 前述の通り、減価償却費が多く計上できるのは初期の数年間に限られます。長期的に見れば、節税効果は薄れていきます。このスキームは、数年後に収入が減少する見込みがある、あるいはリタイアを予定しているなど、特定のライフプランを持つ人には一時的に有効かもしれませんが、万能ではありません。
  2. 不動産投資特有のリスク:
    • 空室リスク: 入居者が見つからず、家賃収入が得られない期間が発生する可能性があります。
    • 家賃下落リスク: 周辺相場の下落や建物の老朽化により、家賃収入が減少する可能性があります。
    • 修繕リスク: 突発的な設備の故障や、大規模修繕など、予期せぬ修繕費用が発生する可能性があります。
    • 災害リスク: 地震や水害など、自然災害による物件の損傷リスクがあります。
    • 流動性リスク: 不動産は株式などと比べて売却に時間がかかり、希望通りの価格で売れない可能性があります。
  3. 高値掴みのリスク: ワンルームマンション投資は、専門業者からの勧誘で始めるケースが多く、中には市場価格よりも割高な価格で購入させられてしまう事例も散見されます。このような場合、将来売却しようとしても購入価格を大幅に下回り、大きな損失を被る可能性があります。

不動産投資で成功するためには、まず「良い物件を適正な価格で取得する」ことが大前提です。節税効果は、あくまでその後の副次的な要素として考えるべきであり、「節税になるから」という理由だけで安易に投資判断をすることは、大きなリスクを伴います。

3. 「とにかく経費を増やす」ことによる節税の落とし穴

個人事業主や会社の経営者にとって、税金は大きな関心事であり、「1円でも税金を払いたくない」という気持ちから、「とにかく経費を増やして利益を圧縮しよう」と考える傾向が見られます。

経費増加と手元資金減少のメカニズム

税金の計算は、大まかに言えば「収入 - 経費 - 各種控除 = 課税所得」となり、この課税所得に税率を乗じて税額が算出されます。したがって、経費を増やせば課税所得は減少し、結果として税額も減少します。

しかし、ここで忘れてはならないのは、「経費を支払うということは、現金を支出するということ」です。
例えば、課税所得500万円の個人事業主がいたとします。仮にこの場合の税金が108万円だったとすると、手元に残る資金は「収入 - 経費 - 税金」で計算されます。
ここで、「税金108万円は高いから、もっと経費を使おう」と考え、追加で100万円の経費を使ったとします。すると、課税所得は400万円に減少し、税金も例えば78万円に減ったとします。

この結果、税金は108万円から78万円へと30万円減少しました。一見、節税に成功したように見えます。
しかし、手元の資金はどうなったでしょうか?

  • 経費追加前:税金108万円を支払い
  • 経費追加後:追加経費100万円 + 税金78万円 = 合計178万円を支払い

つまり、税金は30万円減ったものの、それ以上に追加の経費で100万円を支払っているため、差し引きで70万円も手元資金が減少してしまっているのです。

「節税貧乏」という本末転倒な状態

もちろん、事業に必要な経費を適切に計上することは当然です。パソコンを買い替える、業務に必要な研修を受けるなど、将来の収益に繋がる投資としての経費は積極的に使うべきでしょう。

しかし、問題なのは、「決算が近いから、とにかく何か経費を使わなければ」という動機で、**本来必要のないものにお金を使ってしまう「浪費」**です。例えば、業務との関連性が曖昧な高額なオフィス家具の購入、過度な交際費の支出などがこれに該当します。

このような「税金を払うくらいなら、何か物やサービスに変えてしまおう」という思考で経費を使い続けると、確かに納税額は減るかもしれませんが、それ以上に手元の現金がどんどん減っていきます。これを長年続けると、帳簿上は利益が出ている(あるいはトントン)ように見えても、実際には会社や事業に全くお金が残らない**「節税貧乏」**という状態に陥ってしまいます。

税金を支払うことによって手元に残るはずだった資金を、不必要な経費として流出させてしまうのは、本末転倒と言わざるを得ません。30万円の税金を支払うことを選択すれば、70万円の現金を事業の成長や将来の備えのために残すことができたかもしれないのです。

高級車による節税スキームの注意点

「とにかく経費を増やす」という文脈で、高級車を購入し、それを短期間で減価償却することで多額の経費を計上し、節税を図るという手法もよく話題になります。しかし、これも前述の中古ワンルームマンション投資と同様に、減価償却費は現金の支出を伴わない帳簿上の経費であるものの、車両購入時には多額の現金支出または負債の発生を伴います。

本当に事業に必要な車両であれば問題ありませんが、「節税のため」という理由だけで高級車を乗り換えるような行為は、資金繰りを圧迫し、企業の財務体質を弱める結果に繋がりかねません。

結論:節税は目的ではなく手段。本質を見失わない賢明な判断を

今回取り上げた3つの「節税策」は、いずれも「税負担を軽減する」という側面だけを見ると魅力的に映るかもしれません。しかし、その裏には、限定的な効果、潜在的なリスク、そして何よりも「手元資金の減少」という大きな代償が伴う可能性があることを理解する必要があります。

節税は、それ自体が目的であってはなりません。 あくまで、事業を健全に発展させ、個人の資産を豊かにするための「手段」の一つとして捉えるべきです。

専門家として、お客様がこれらの手法を選択されることを必ずしも止めはしません。個々の価値観や状況によっては、それでもなおメリットを感じるケースもあるかもしれません。しかし、少なくとも専門家自身が積極的にこれらの手法を選択することはない、というのが本音です。なぜなら、多くの場合、目先の税金軽減効果以上に、失うもの(現金、機会、時間、リスク)が大きいと考えるからです。

本当に賢明な節税とは、無駄な支出をなくし、事業の収益性を高め、その結果として適正な利益を確保し、正当な税金を納めた上で、手元にしっかりとキャッシュを残していくことです。そして、その残ったキャッシュを、さらなる事業成長や将来への備えに戦略的に活用していく。この健全なサイクルこそが、企業と個人の持続的な繁栄に繋がる道であると確信しています。

税金に関する情報は複雑で、誤解を招きやすいものも少なくありません。安易な情報に飛びつくのではなく、信頼できる専門家に相談し、多角的な視点からメリット・デメリットを十分に比較検討した上で、ご自身の状況に最も適した判断を下すことが重要です。