【社長必見の財務戦略】「借入は悪、利益は善」は本当か?会社を永続させる、逆転の資金繰り・利益コントロール術

節税・経費

「借金は一日でも早く返すべきだ」
「利益は出せるだけ出して、内部留保を厚くするのが良い経営だ」

これらは、多くの経営者が信じて疑わない、いわば経営の「常識」かもしれません。しかし、この常識に囚われている限り、あなたの会社は真の成長機会を逃し、将来の事業承継で思わぬ税金の壁にぶつかる可能性があるとしたら、どうでしょうか?

実は、倒産することなく永続的に成長を続ける企業の多くは、この「常識」とは全く逆の財務戦略を実践しています。 彼らは、借入金を「悪」ではなく「成長のための武器」と捉え、また、目先の利益の最大化だけを追うのではなく、会社の将来像を見据えて戦略的に利益をコントロールしているのです。

この記事では、多くの経営者が抱える「利益を残さなければ、借入金を返済できないのでは?」という根源的な疑問に答えつつ、「借入金を増やしながら、会社の現金を潤沢にし、かつ将来の税負担まで軽減する」という、一見矛盾しているようで、実は極めて合理的な経営戦略について、その具体的な考え方と実践方法を徹底的に解説していきます。

大前提の誤解:「利益」と「借金返済のお金」はイコールではない

まず、多くの経営者が陥りがちな、根本的な誤解を解くことから始めましょう。それは、「借入金の返済原資は、税金を支払った後の利益(税引後利益)だけである」という思い込みです。

確かに、会計の教科書的には、そのように説明されます。

【教科書的な考え方】

  1. 会社が事業活動で利益(税引前利益)を上げる。
  2. その利益に対して法人税等を支払う。
  3. 残った利益(税引後利益)が、借入金返済の原資となる。

この考え方に基づくと、「返済額以上の税引後利益を確保しなければ、手元の現金が減ってしまう」ということになり、経営者は常に利益の最大化と節税のジレンマに悩まされることになります。

しかし、このモデルには、実際の会社の資金繰りに大きな影響を与える、いくつかの重要な要素が抜け落ちています。

  • 減価償却費の存在: 減価償却費は、会計上は費用ですが、現金の支出を伴いません。したがって、税引後利益に減価償却費を加えた金額が、本業から生み出される、より実態に近い返済原資(キャッシュフロー)となります。
  • そして何よりも重要なのが、「新たな借入(借り換え・追加融資)」という選択肢です。

成長企業の経営者は、借入金の返済を、自社が生み出すキャッシュフローだけで賄おうとは考えません。彼らは、金融機関との良好な関係を維持し、戦略的に新たな借入を行うことで、返済資金を確保し、同時に手元資金を厚くしていくのです。

「借入金は武器である」という発想の転換

多くの経営者にとって、借入金は「返さなければならない負債」「できればない方が良いもの」というネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、この認識を180度転換する必要があります。

借入金とは、会社の成長を加速させるための「武器」です。

手元に十分な現金(武器)があれば、

  • 有利な条件での仕入れ(大量購入による割引など)
  • 効果的な広告宣伝による新規顧客獲得
  • 生産性向上のための設備投資
  • 優秀な人材の採用
  • 競合他社が苦しい時のM&A(事業買収)
    など、様々な成長の機会を掴むことができます。

借入金の返済を急ぐあまり、この「武器」である現金を自ら手放してしまうことは、ビジネスという戦場で、丸腰で戦おうとするようなものです。事業を継続し、成長させていく限り、借入金をゼロにすることを目指す必要は全くありません。 むしろ、自社の信用力を最大限に活用し、借りられる時に、借りられるだけ借りておき、その資金を事業成長のために「ぐるぐる回していく」ことこそが、賢明な財務戦略なのです。

成長企業の借金サイクル:「2歩進んで、1歩下がる」の繰り返し

成長企業の借金サイクルは、「完済」を目指すものではなく、「2歩進んで、1歩下がる」というイメージです。

  1. 毎月の契約通りに、借入金を少しずつ返済していく(1歩下がる)。
  2. しかし、それを上回る金額の追加融資や借り換えを、より良い条件で行う(2歩進む)。
  3. 結果として、借入金の総額は維持、あるいは増加しながら、手元の現金預金は着実に増えていく。

このサイクルを回し続けることで、会社は常に潤沢な資金を確保し、安定した経営と積極的な事業展開を両立させることが可能になるのです。借入金を返済し終えるのは、事業を完全に畳む時だけで良いのです。

なぜ会社の利益を残さない(純資産を増やさない)方が良いのか?

「借入金を活用するのは分かった。でも、やはり利益はできるだけ多く出して、会社に内部留保(純資産)として蓄積していくべきではないか?」という疑問も当然生じます。

確かに、潤沢な純資産は、会社の財務的な安定性を示す指標であり、金融機関からの信用にも繋がります。しかし、過度に純資産を積み上げていくことには、将来の事業承継において、極めて大きな税務上のリスクが潜んでいるのです。

会社の利益は、株価となって経営者に蓄積される

会社が生み出した税引後利益は、貸借対照表(BS)の「純資産の部」にある「利益剰余金」として、毎年積み上がっていきます。そして、この純資産の増加は、そのまま自社株の評価額の上昇に直結します。

仮に、毎年1,000万円の税引後利益を20年間出し続けたとすれば、会社の純資産(≒株価)は2億円にも達する可能性があります。

事業承継時に待ち受ける、高額な相続税・贈与税の壁

この2億円の価値を持つ株式を、後継者(例えば、子供や信頼できる社員)に引き継ぐ際には、贈与税または相続税が課税されます。これらの税金の最高税率は55%と非常に高率です。

2億円の株式を承継した場合、後継者は実に1億円近い税金を、個人として納付しなければならない可能性があるのです。これだけの納税資金を個人で用意できる後継者は、ほとんどいません。この税負担が原因で、せっかく育て上げた会社を誰も引き継げず、廃業せざるを得ないという悲劇が、日本中の中小企業で起こっています。

利益をコントロールし、株価を抑える戦略

この問題を回避するための最も有効な戦略が、「毎年の会社の利益を、税務上も経営上も最適な水準にコントロールし、過度に純資産(株価)を増やさない」という考え方です。

  • 利益コントロールの方法:
    • 役員報酬・役員賞与の活用: 利益が出た分は、できるだけ役員報酬や役員賞与(事前確定届出給与などを活用)として、経営者個人に還元します。
    • 節税対策の実施: 倒産防止共済への加入や、将来への投資(広告宣伝、研究開発など)を積極的に行い、課税所得を圧縮します。
  • 目標とする利益水準:
    前述した法人税の軽減税率が適用される「課税所得800万円」が一つの目安となります。この水準であれば、毎年の法人税負担を抑えつつ、将来の株価高騰も防ぐことができます。
  • 最終的な株価圧縮:
    そして、社長が退職する際には、これまで蓄積された純資産の範囲内で、適正な「役員退職金」を受け取ります。役員退職金は会社の損金となるため、会社の純資産が大幅に圧縮され、株価が下がります。これにより、後継者はほとんど税金を負担することなく、会社の経営権(株式)を引き継ぐことが可能になるのです。

ゴール設定によって戦略は変わる:事業承継か、M&A(会社売却)か?

ただし、この「利益を抑え、純資産を増やさない」という戦略は、親族や社員へのスムーズな事業承継をゴールとしている場合に、特に有効な考え方です。

もし、経営者のゴールが、事業承継ではなく「M&Aによる会社売却(バイアウト)」である場合は、戦略は全く逆になります。

  • M&Aの場合: 会社の売却価格(企業価値)を最大化することが目的となります。企業価値は、主に会社の収益性(利益額)や純資産額によって評価されるため、この場合はできるだけ多くの利益を出し、会社の純資産と収益力を高めていく方が有利になります。

重要なのは、自社の最終的なゴールは何かを明確にし、それに合わせて財務戦略・利益戦略を設計することです。

利益を出さなくても、借入金返済キャッシュがなくならない理由(まとめ)

ここで、最初の質問に戻りましょう。「利益を出さないプラス税金を払わない=返済キャッシュがそのうちなくなってしまう気がする」という懸念は、以下の理由で解消されます。

  1. 「利益を出さない」は「利益ゼロ」ではない:
    ここで言う「利益を出さない」とは、赤字にするという意味ではありません。会社の成長に必要な投資や、経営者の報酬、納税などを適切に行った上で、過度に会社の内部に利益を溜め込まないという意味です。最低限、減価償却費と借入金の元本返済額を賄える程度のキャッシュフロー(税引後利益+減価償却費)は、計画的に確保します。
  2. 返済原資は、新たな借入で確保する:
    もし、本業で生み出すキャッシュフローだけでは返済が追いつかない、あるいは手元資金が心許ない場合は、金融機関からの追加融資や借り換えによって、返済原資と手元資金を確保します。 成長を続ける限り、借入金をゼロにする必要はないのです。
  3. トップの役員報酬が、最大の調整弁となる:
    万が一、会社の資金繰りが本当に厳しくなった場合、最終的な調整弁となるのが、経営者自身の役員報酬です。社長の役員報酬を一時的に減額・停止すれば、会社のキャッシュフローは大幅に改善します。事業承継時には、この莫大な役員報酬がなくなるため、会社の収益力は一気に向上し、残された借入金の返済も容易になります。

まとめ:経営の「常識」を疑い、未来から逆算する財務戦略を

会社経営において、「借金は悪」「利益は善」という単純な二元論は、もはや通用しません。企業の持続的な成長と、円満な事業承継という長期的なゴールを見据えた場合、その戦略は、むしろ世間の「常識」とは逆の方向を向いていることさえあるのです。

倒産しない、成長し続ける会社の財務戦略の鉄則

  1. 借入金を「悪」ではなく「成長のための武器」と捉える: 借りられる時に、借りられるだけ借りて、手元資金を常に潤沢に保つ。返済は計画的に行いつつ、それを上回る新たな調達で、常に武器(現金)を手元に置く。
  2. 利益を「溜め込む」のではなく、「戦略的にコントロール」する: 会社の最終的なゴール(事業承継かM&Aか)を明確にし、それに合わせて毎年の利益水準を意図的に設計する。
  3. 事業承継をゴールとする場合: 毎年の利益を「課税所得800万円」程度に抑え、会社の純資産(株価)の過度な上昇を防ぐ。これにより、将来の後継者の税負担を劇的に軽減する。
  4. 利益を残さなくても、借入金返済は「借り換え」で対応可能: 返済原資が不足しても、新たな借入で乗り切る。事業を続ける限り、借金をゼロにする必要はない。

これらの考え方は、従来の会計の教科書には載っていない、実践的な経営の知恵です。目先の利益や返済に追われるのではなく、自社の未来をどうデザインしたいのかという大きな視点から、自社の財務戦略を再構築してみてください。

もちろん、この戦略を実践するには、金融機関との強固な信頼関係や、正確な資金繰り管理、そして適切な節税策に関する専門的な知識が不可欠です。信頼できる税理士などの専門家をパートナーとし、共に会社の未来を築き上げていくことが、成功への鍵となるでしょう。この記事が、そのための新たな視点を提供する一助となれば幸いです。