「社会保険料、高すぎる…」多くの経営者が頭を悩ませるこの問題。従業員の給与から天引きされるだけでなく、会社も同額を負担するため、その額は決して無視できません。資金繰りを圧迫する大きな要因の一つと言えるでしょう。
「何とかしてこの負担を減らせないものか…」そうお考えの経営者の方も多いのではないでしょうか。
結論から申し上げます。社会保険料を削減する方法は、あります!
知っているか知らないかで、資金繰りに大きな差が生まれることも。本来なら削減できたはずのお金で経営が悪化してしまうのは、非常にもったいないことです。
しかし、具体的にどうすれば社会保険料を削減できるのか、その判断基準や方法は複雑で分かりにくいものです。
そこで今回は、社会保険料の負担を劇的に減らすための具体的なテクニックを7つ厳選し、徹底解説します。この記事を読めば、あなたも社会保険料削減の専門家になれるはず。ぜひ最後までご覧いただき、自社の経営改善にお役立てください。
前提知識:社会保険料とは?経営者と従業員の視点
まず、社会保険料がどのようなものなのか、簡単に整理しておきましょう。
- 従業員から見た社会保険料: 毎月の給与から強制的に天引きされるため、税金に近い感覚かもしれません。健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上)、雇用保険料などが含まれます。
- 会社から見た社会保険料: 税金のような側面と、人件費の一部という側面があります。従業員が負担する社会保険料と同額を会社も負担する「労使折半」が原則です。つまり、額面給与のおよそ30%が社会保険料としてかかり、その半分(約15%)を会社が負担している計算になります。
実質的には、会社が従業員に支払う給与総額(額面給与+会社負担分の社会保険料)を考慮して給与設定を行うため、結果的に会社が社会保険料の大部分を負担しているとも言えます。しかし、この会社負担分は従業員に意識されにくく、会社にとっては重い負担となりがちです。
一度雇用すると簡単には解雇できない日本の雇用慣行において、人件費(社会保険料を含む)は固定費となりやすく、削減が難しい経費の一つです。だからこそ、採用は慎重に行い、従業員一人ひとりがそのコストに見合うだけの利益(一般的には額面給与の3倍程度の粗利)を生み出す体制を築くことが重要になります。
社会保険料削減テクニック7選
削減が難しいとされる社会保険料ですが、実はいくつかのテクニックを使えば、合法的に負担を軽減することが可能です。ここでは、その代表的な7つの方法をご紹介します。
1. 役員報酬の最適化(効果絶大!)
役員報酬の支払い方を変えるだけで、社会保険料の負担を劇的に減らすことができます。場合によっては、会社負担分・個人負担分それぞれで年間100万円単位の削減も可能です。
【具体例】年間役員報酬2400万円の場合
- 従来の方法: 毎月200万円 × 12ヶ月 = 2400万円
- 最適化案:
- 毎月の役員報酬:5万円
- 役員賞与(年1回、例えば12月末):2340万円
- 合計:(5万円 × 12ヶ月) + 2340万円 = 2400万円
なぜこれで社会保険料が減るのか?
社会保険料は、「標準報酬月額」と「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算されます。この標準報酬月額と標準賞与額には、実は上限金額が設定されています。上限を超えた部分については、社会保険料がかからないのです。
上記の最適化案では、毎月の役員報酬を低く抑えることで標準報酬月額を低くし、役員賞与でまとめて支払う際に、賞与の上限額(厚生年金部分は1回あたり150万円、健康保険部分は年間累計573万円 ※令和5年度現在)を大幅に超える部分について社会保険料がかからないようにする、という仕組みです。
注意点:
- 役員賞与の損金算入: 役員賞与を法人税法上の経費(損金)にするためには、事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出する必要があります。この届出書に記載した支給日・支給額通りに支払わなければ、損金として認められません(1円でも、1日でもズレたらアウト)。
- 資金繰り: 賞与支給日には多額の現金が必要になるため、資金繰りに余裕のある範囲で計画的に行う必要があります。生活費が不足する場合は、賞与の支給時期を年の初めにするなどの工夫も考えられます。
- リスク分散: 役員が複数いる場合は、賞与を分散して支給することで、万が一業績が悪化して全額支払えなくなった場合のリスクを軽減できます。
- 支給しない場合の処理: 届け出た賞与を支給しない場合は、株主総会でその権利を放棄する決議を行い、議事録を作成する必要があります。
この方法は効果が大きい反面、手続きや資金繰りに注意が必要です。実施する際は、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。
2. 入社日・退社日の調整(意外と大きい!)
従業員の入社日や退社日を1日調整するだけで、社会保険料の負担月数が変わることがあります。
社会保険料の発生・消滅のルール:
- 発生: 入社日の属する月から発生(日割り計算なし)。
- 消滅: 退職日の翌日の属する月の前月まで発生。つまり、月末退社の場合はその月まで、月末以外(例:月の途中)の退社の場合はその月の社会保険料はかからない。
【具体例】在籍期間がほぼ同じ2つのケース
- ケースA(負担が多い例):
- 入社日:5月31日
- 退社日:7月31日
- 社会保険料負担月数:3ヶ月(5月、6月、7月)
- ケースB(負担が少ない例):
- 入社日:6月1日
- 退社日:7月30日
- 社会保険料負担月数:1ヶ月(6月のみ)
- 解説:5月入社ではないので5月分はかからない。7月30日退社なので、資格喪失日は7月31日。資格喪失日の属する月(7月)の保険料はかからない。
このように、退社日を月末にするか、月末の1日前にするかで、社会保険料の負担が1ヶ月分変わってきます。これは会社負担分だけでなく、従業員の手取り額にも影響するため、お互いにとってメリットのある調整と言えるでしょう。
3. 給与テーブルの改定(チリも積もれば…)
社会保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」は、実際の給与額そのものではなく、一定の範囲(等級)ごとに定められています。例えば、「給与額29万円~31万円の人は標準報酬月額30万円」といった具合です。
この仕組みを利用し、給与テーブルを各等級の上限額に近づけるように設定することで、社会保険料の負担をわずかに最適化できます。
- 例: 標準報酬月額30万円の等級が、給与29万円~31万円の場合
- 給与29万円の人も、給与31万円の人も、同じ標準報酬月額30万円で社会保険料が計算される。
- もし給与テーブルを細かく設定していて、多くの従業員の給与が各等級の下限に近い場合、わずかな昇給で等級が上がり、社会保険料が急に増える可能性があります。
- 逆に、給与テーブルを各等級の上限に合わせて設定しておけば、社会保険料の負担を抑えつつ、従業員に支払う給与額を最大化できる可能性があります。
従業員数が多い企業ほど、この細かな調整が大きな削減効果を生むことがあります。
4. 4月~6月の残業抑制・昇給時期の調整
標準報酬月額は、原則として毎年7月1日に、その年の4月・5月・6月の給与月額の平均によって決定されます(定時決定)。この決定された標準報酬月額が、その年の9月から翌年8月までの社会保険料の計算基礎となります。
つまり、4月~6月の給与額が高いと、その後の1年間の社会保険料も高くなるということです。
この仕組みを利用し、
- 4月~6月の残業を極力減らし、他の月に分散させる。
- 昇給の時期を7月以降にする。(4月昇給だと、昇給後の高い給与で標準報酬月額が決定されてしまうため)
といった対策を行うことで、年間の社会保険料負担を抑えることが可能です。
5. 有給休暇の買い取り(退職時)
従業員が退職する際、未消化の有給休暇を消化すると、その分だけ退職日が後ろにずれ込み、社会保険料の負担月数が増えることがあります。
例えば、実際の最終出勤日が5月30日でも、有給消化によって正式な退職日が6月15日になった場合、5月分の社会保険料が発生してしまいます(ケースBの理屈)。
このような場合、会社と従業員の同意があれば、未消化の有給休暇を買い取ることで、退職日を早めることができます。これにより、会社・従業員双方の社会保険料負担を軽減できる可能性があります。
6. 賞与を退職金として支給(退職時)
賞与の支給日直後に退職を考えている従業員がいる場合、その賞与を退職金の一部として支給することを提案するのも有効な手段です。
- 賞与として支給する場合: 社会保険料がかかります。また、支給日に在籍している必要があるため、退職日が賞与支給日以降になり、社会保険料の負担月数が増える可能性があります。
- 退職金として支給する場合: 退職金には社会保険料がかかりません。 また、退職日を早めることができれば、前述の入社日・退社日の調整による社会保険料削減効果も期待できます。
これは会社だけでなく、従業員にとっても手取り額が増えるメリットがあるため、交渉の余地があるでしょう。
7. 退職金積立制度の活用
毎月の給与の一部を減らし、その分を退職金として積み立てる制度(企業型確定拠出年金(企業型DC)や中小企業退職金共済(中退共)など)を活用する方法です。
- 給与として受け取る場合: 社会保険料と所得税・住民税がかかります。
- 退職金として積み立て、将来受け取る場合:
- 積立時: 給与が減るため、その分の社会保険料負担が軽減されます。
- 受取時: 退職所得として扱われ、社会保険料はかかりません。また、所得税・住民税も給与所得に比べて大幅に優遇されます(退職所得控除など)。
将来の資産形成と節税を両立できる方法ですが、目先の毎月の手取り額が減るため、従業員のライフプランや意向を尊重しながら導入を検討する必要があります。
まとめ:賢く削減し、経営を強くする!
社会保険料は、経営者にとって頭の痛いコストですが、今回ご紹介したようなテクニックを活用することで、その負担を合法的に軽減することが可能です。
これらの方法は、一つひとつは小さな削減効果に見えるかもしれませんが、積み重ねることで大きな差となって現れます。削減できた資金を事業投資に回したり、従業員の待遇改善に充てたりすることで、会社の成長を加速させることができるでしょう。
ただし、社会保険料の制度は複雑であり、法改正も頻繁に行われます。実際にこれらの削減策を検討・実施する際には、必ず社会保険労務士や税理士などの専門家に相談し、自社の状況に合った最適な方法を選択するようにしてください。
この記事が、あなたの会社の社会保険料負担軽減と、さらなる発展の一助となれば幸いです。
この記事が貴社の事業の一助になれば幸いです。