「倒産防止共済(経営セーフティ共済)に入っているけど、会計処理は税理士に任せきり…」
「節税になるのは知っているけど、キャッシュが減るのが心配で加入に踏み切れない…」
多くの経営者が活用する「倒産防止共済」ですが、その会計処理の方法一つで、銀行からの評価が天と地ほど変わるという事実を、あなたはご存知でしょうか。
ほとんどの税理士が採用する「費用計上」という一般的な処理方法。実はこれ、節税はできるものの、決算書の「利益」を小さく見せてしまうため、融資の際には不利に働く可能性があるのです。
しかし、ある「裏ワザ的」な会計処理を行うことで、節税効果はそのままに、銀行評価(決算書の見た目)だけを劇的に向上させることが可能になります。
この記事では、
- 一般的な「費用計上」と、銀行評価を高める「資産計上」、それぞれの会計処理の違い
- なぜ「資産計上」の方が、融資に有利になるのか、その具体的なロジック
- 「そもそも倒産防止共済に入らない」という選択肢は、本当に賢明なのか
- 法人と個人事業主で異なる、資産計上のメリット・デメリット
といった、倒産防止共済のポテンシャルを120%引き出すための、極めて専門的かつ実践的な知識を、誰にでも分かるように徹底的に解説していきます。この記事を最後まで読めば、あなたは倒産防止共済を単なる節税ツールとしてではなく、会社の信用と未来を創るための「戦略的財務ツール」として、活用できるようになるはずです。
1.基本の確認:倒産防止共済とは?
まず、倒産防止共済(経営セーフティ共済)がどのような制度か、簡単におさらいしましょう。
これは、国が運営する制度で、取引先の倒産など不測の事態に備えるための共済制度です。しかし、その仕組みが非常に優れた節税策としても機能するため、多くの経営者が活用しています。
- 掛け金: 月額最大20万円、年間最大240万円まで支払うことが可能。
- 節税効果: 支払った掛け金は、 その全額が必要経費(損金) となる。
- 返戻率: 40ヶ月以上加入すれば、解約時に掛け金が100%戻ってくる。
つまり、実質的には 「全額経費になる貯金」 のような制度です。年間240万円を掛ければ、法人税率30%の会社なら約72万円もの節税になります。
2.一般的な会計処理「費用計上」とその”弱点”
この倒産防止共済の掛け金を支払った際、9割以上の税理士が採用するのが 「費用計上」 という会計処理です。
- 【例】利益1,000万円の会社が、倒産防止共済に240万円を支払った場合
【損益計算書(PL)】
項目 | 金額 |
---|---|
売上 | 5,000万円 |
経費 | 4,000万円 |
保険料(倒産防止共済) | 240万円 |
税引前利益 | 760万円 |
法人税等(約30%) | 228万円 |
税引後利益 | 532万円 |
【貸借対照表(BS)】
資産の部 | 金額 | 負債・純資産の部 | 金額 |
---|---|---|---|
現預金 | 1,760万円 | 未払法人税等 | 228万円 |
その他資産 | 1,000万円 | その他負債・資本 | 2,000万円 |
利益剰余金 | 532万円 |
この処理では、掛け金の240万円が「保険料」などの費用科目で計上されるため、会社の利益は1,000万円から760万円に圧縮されます。これにより、支払う法人税も300万円から228万円に減り、72万円の節税が実現します。
一見、何も問題ないように見えます。しかし、この処理には、銀行融資という観点から見ると、大きな弱点が潜んでいます。
それは、決算書上の「利益」が、本来の実力よりも240万円も少なく見えてしまうという点です。銀行は、融資の審査において、会社の収益性、つまり「利益を稼ぐ力」を最も重要な指標の一つとして見ます。利益が760万円の会社と、1,000万円の会社では、銀行が受ける印象は全く異なります。
節税はできたものの、その代償として、銀行からの評価を下げてしまっている可能性があるのです。
3.【裏ワザ】銀行評価が爆上がりする「資産計上」という選択肢
では、この弱点を克服し、「節税」と「銀行評価の向上」を両立させる方法はないのでしょうか。
その答えこそが、倒産防止共済の掛け金を「資産計上」するという、裏ワザ的な会計処理です。
- 【例】同じく、利益1,000万円の会社が、倒産防止共済に240万円を支払った場合
損益計算書(PL)
項目 | 金額 |
---|---|
売上 | 5,000万円 |
経費 | 4,000万円 |
保険料(倒産防止共済) | 0円 |
税引前利益 | 1,000万円 |
法人税等 | 228万円 |
税引後利益 | 772万円 |
貸借対照表(BS)
資産の部 | 金額 | 負債・純資産の部 | 金額 |
---|---|---|---|
保険積立金 | 240万円 | 未払法人税等 | 228万円 |
現預金 | 1,760万円 | その他負債・資本 | 2,000万円 |
その他資産 | 1,000万円 | 利益剰余金 | 772万円 |
この処理方法のポイントは、以下の2点です。
ポイント①:掛け金をPLの「費用」ではなく、BSの「資産」として計上
支払った掛け金240万円を、「保険料」という費用にはせず、「保険積立金」などの科目で貸借対照表(BS)の資産の部に計上します。
これにより、損益計算書(PL)上の 利益は1,000万円のまま、全く圧縮されません。 銀行に対して、会社の「稼ぐ力」を最大限にアピールすることができるのです。
ポイント②:税金の計算は、法人税申告書で調整する
「でも、費用にしないなら節税にならないのでは?」
ここが、この処理の最も巧妙な部分です。
倒産防止共済の掛け金は、会計上は資産として計上したとしても、 税法上は経費(損金)として認められています。そのため、決算書とは別に作成する「法人税申告書」 の上で、「会計上の利益は1,000万円ですが、税金の計算上は、倒産防止共済の240万円を差し引いた760万円を利益として計算してください」という調整(損金算入)を行うのです。
その結果、支払う法人税の額は、費用計上した場合と全く同じ228万円になります。
【資産計上の効果まとめ】
- 支払う税金額は、費用計上した場合と全く同じ(節税効果は変わらない)。
- 決算書上の利益は、費用計上した場合より240万円も多く見える。
- 会社の純資産(利益剰余金)も、費用計上した場合より240万円多くなり、自己資本比率が改善する。
節税メリットは1円も損なうことなく、決算書の見た目だけを、銀行融資に圧倒的に有利な形へと変えることができる。これこそが、「資産計上」が究極の会計処理と言われる所以なのです。
4.「そもそも共済に入らず、キャッシュで持っておく」は賢明か?
ここで、最初の質問に戻りましょう。
「そもそも倒産防止共済に入らず、その分をキャッシュで残しておく方が、資金繰り上は最も安全で良いのではないか?」
これは、一見すると非常に合理的な考え方です。しかし、税金の観点から見ると、必ずしもそうとは言えません。
- 共済に加入しない場合:
- 税引前利益:1,000万円
- 法人税等:300万円
- 会社の現預金:2,000万円のまま(税金支払前)
- 税金支払後の手残り: 利益700万円 + 元々の現預金1,000万円 = 1,700万円
- 共済に加入し、資産計上した場合:
- 税引前利益:1,000万円
- 法人税等:228万円
- 会社の現預金:1,760万円
- 保険積立金(換金性の高い資産):240万円
- 税金支払後の手残り(現金+積立金): 1,760万円 – 228万円 + 240万円 = 1,772万円
倒産防止共済は、40ヶ月経てば100%現金化できる、換金性の高い資産です。銀行も、その価値を高く評価してくれます。
つまり、共済に加入することで、支払う税金が72万円も少なくなるにもかかわらず、実質的な手元資金(現金+いつでも現金化できる資産)は、加入しなかった場合よりも多くなるのです。
もちろん、手元に現預金が多いに越したことはありません。しかし、そのために多額の税金を支払うことが、本当に合理的な選択なのか。このシミュレーションは、私たちにその問いを突きつけています。
5.【要注意】個人事業主は「資産計上」のメリットがない!
ここまで、法人のケースを前提に話を進めてきましたが、個人事業主の場合はどうでしょうか。
結論から言うと、個人事業主が倒産防止共済の掛け金を資産計上するメリットは、残念ながらありません。
なぜなら、個人の所得税の申告書には、法人のように「会計上の利益と税務上の利益を調整する」という仕組みが存在しないからです。個人事業主が掛け金を資産計上してしまうと、それは単なる資産の積み立てとなり、必要経費として認められず、節税効果がゼロになってしまいます。
したがって、 個人事業主の場合は、迷わず「費用計上(保険料など)」 で処理する必要があります。
個人事業主の「出口戦略」は法人と異なる
また、積立金が満期(800万円)になった際の「出口戦略」も、法人と個人では考え方が異なります。
- 法人の場合:
役員の退職金の支払いや、大きな赤字が出た年など、多額の経費が発生するタイミングで解約し、利益と相殺するのがセオリーです。 - 個人の場合:
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」です。800万円という大きな利益が一度に発生すると、非常に高い税率で課税されてしまうリスクがあります。
そのため、800万円の満額まで貯めずに、 200~300万円程度が貯まった段階で一度解約し、またゼロから積み立てを始める、といった「こまめな解約」 を繰り返す方が、トータルの税負担を抑えられるケースが多くなります。
まとめ:会計処理一つで、会社の未来は変わる
倒産防止共済は、多くの経営者にとって馴染みのある制度です。しかし、その会計処理の方法一つで、これほどまでに銀行からの評価が変わるという事実は、あまり知られていません。
- 一般的な「費用計上」は、節税はできるが、決算書上の利益を小さく見せてしまう。
- 「資産計上」+「法人税申告書での調整」を行えば、節税効果はそのままに、銀行評価(利益額・自己資本)を最大化できる。
- この「資産計上」のメリットは、法人ならではの特権であり、個人事業主には適用できない。
もしあなたが法人の経営者で、現在、倒産防止共済の掛け金を「費用」として処理しているのであれば、一度、顧問税理士に「資産計上は可能ですか?」と相談してみてはいかがでしょうか。その一言が、あなたの会社の未来の資金調達を、よりスムーズで有利なものへと変える、大きなきっかけになるかもしれません。
この記事があなたの経営の一助となれば幸いです。