【個人事業主必見】なぜあなたの「赤字」は危険なのか?法人よりも厳しく見られる理由と、税務署・銀行が疑うポイントを徹底解説!

確定申告をしないとどうなる?追徴課税や大きなデメリット 法人設立

「今期は赤字になってしまった…」
事業を運営していれば、誰しもが経験する可能性のある「赤字」。法人であれ、個人事業主であれ、赤字決算は決して望ましい状況ではありません。しかし、この「赤字」が持つ意味合いと、それが外部(特に税務署や金融機関)に与える印象は、法人と個人事業主とでは大きく異なることをご存知でしょうか?

結論から言えば、同じ赤字額であっても、個人事業主の赤字は、法人の赤字よりも遥かに深刻な問題と見なされ、厳しい視線を向けられる可能性が高いのです。

この記事では、なぜ個人事業主の赤字が「ヤバい」と言われるのか、その背景にある法人と個人の構造的な違い、そして税務署や金融機関が何を疑い、どこをチェックしているのか、その具体的なポイントと対策について、分かりやすく徹底的に解説していきます。

法人と個人事業主:利益と生活費の根本的な違い

個人事業主の赤字が問題視される理由を理解するためには、まず、法人と個人事業主における「利益」の概念と、それが「生活費」とどう関わってくるのか、その根本的な違いを理解しておく必要があります。

1. 法人の場合:利益と役員報酬の明確な分離

  • 役員報酬(給料)は会社の経費:
    社長(役員)は、会社から「役員報酬」という形で給与を受け取ります。この役員報酬は、会社の経費として損益計算書(PL)に計上されます。
  • 利益は会社のもの:
    会社は、売上から全ての経費(役員報酬を含む)を差し引いた後、最終的な「利益」を計算します。この利益は、あくまでも法人という別人格のものであり、ここから法人税等を支払った残りが、会社の将来の成長のための投資原資や内部留保となります。
  • 生活費の源泉は役員報酬:
    社長個人の生活費は、この経費として支払われた「役員報酬」から賄われます。

つまり、法人の場合、たとえ会社の最終利益が赤字であったとしても、役員報酬が支払われている限り、社長個人の生活費は確保されていると見なされます。

【法人の損益構造(例)】

項目金額備考
売上高2,000万円
経費2,100万円
役員報酬400万円会社の経費。社長個人の生活費の源泉。
税引前利益▲500万円会社の最終的な赤字。役員報酬支払い後の結果。

この例では、会社は500万円の赤字ですが、社長個人は400万円の報酬を得ており、生活の基盤はあります。

2. 個人事業主の場合:利益と生活費が一体

  • 社長の給料という概念がない:
    個人事業主には、「自分に給料を支払う」という概念がありません。事業の売上から経費を差し引いて残った「利益(事業所得)」そのものが、事業主の収入となります。
  • 生活費も事業投資も、全て利益から:
    事業主は、この事業所得の中から、自身の生活費を支出し、同時に、事業の将来のための再投資資金も捻出しなければなりません。つまり、利益と生活費が一体化しているのです。
  • 赤字の意味:
    個人事業で赤字が出るということは、「1年間の事業活動の結果、生活費や再投資の原資となるお金を一切生み出せなかった」ということを意味します。

【個人事業主の損益構造(例)】

項目金額備考
売上高2,000万円
経費2,100万円
事業所得(利益)▲100万円事業主の収入はマイナス。生活費も事業投資の原資も生み出せていない。

この構造的な違いこそが、個人事業主の赤字が、法人よりも深刻な問題として捉えられる根本的な理由です。

税務署はココを見ている!個人事業主の赤字が招く「脱税疑惑」

個人事業主の確定申告書が赤字であった場合、税務署はどのような視点でそれを見るのでしょうか。単に「経営が大変なのかな」と心配してくれるわけではありません。むしろ、「脱税」の疑いを真っ先にかけられる可能性があります。

税務署が抱く主な疑念

  1. 「どうやって生活しているのか?」という根源的な疑問:
    事業所得が赤字であるにもかかわらず、その事業主が普通に生活できている場合、税務署は「生活費の源泉はどこにあるのか?」と考えます。
    • 疑念①:売上除外(売上隠し): 申告していない別の収入(裏金)があるのではないか?
    • 疑念②:架空経費の計上: 実際には発生していない経費を計上したり、プライベートな生活費を事業経費に不正に計上したりして、意図的に所得を赤字にしているのではないか?
  2. タンス預金などの隠し資産の存在:
    「過去の申告には出てこなかった、多額のタンス預金や隠し資産を取り崩して生活しているのではないか?」という疑いも持たれます。これも、過去の所得を正しく申告してこなかった結果ではないか、と見なされる可能性があります。

赤字が2年、3年と続いた場合

一時的な赤字であれば、突発的な要因(大きな設備投資、取引先の倒産など)も考えられます。しかし、赤字状態が2年、3年と継続すると、税務署の疑念はますます深まります。 過去の貯蓄を取り崩して生活するにも限界があるため、「継続的な売上除外や経費の水増しが常態化しているのではないか」と判断され、税務調査の対象となる確率が格段に高まります。

実際に、税務調査の対象となった個人事業主に対し、調査官が最初に問いかけるのが「赤字なのに、どうやって生活されているのですか?」という質問であることは、よく知られています。この質問に、客観的な証拠(例:過去の預貯金の推移、配偶者の収入など)をもって明確に答えられなければ、徹底的な調査が行われることになります。

金融機関はココを見ている!個人事業主の赤字が招く「信用失墜」

金融機関(銀行や信用金庫など)もまた、個人事業主の赤字に対して非常に厳しい視線を向けます。

金融機関が懸念する主なポイント

  1. 事業の継続性と返済能力への疑問:
    赤字が続いているということは、事業そのものが成り立っていない、収益を生み出す力がない、と判断されます。このような状況では、「融資をしても返済できる見込みがない」と見なされ、新規の融資を受けることは極めて困難になります。
  2. 生活費補填のための融資と見なされるリスク:
    個人事業主の場合、事業資金と生活資金の境界が曖昧です。そのため、金融機関は「融資したお金が、事業の成長投資ではなく、事業主の生活費の穴埋めに使われてしまうのではないか」と強く警戒します。金融機関は、事業の発展を目的として融資を行うのであり、生活費の補填を目的とした融資は原則として行いません。
  3. 法人と比較した信用の差:
    一般的に、法人は個人事業主よりも社会的信用度が高いと見なされます。法人は、登記や社会保険加入などの法的義務を負い、解散・清算にも手間がかかるため、「逃げにくい」存在と見なされます。一方、個人事業主は、いつでも事業をやめることができ、責任の所在も個人に帰属するため、金融機関にとっては貸し倒れリスクが比較的高いと判断されがちです。
    この基本的な信用の差に「赤字」というマイナス要素が加わると、融資のハードルはさらに高くなります。

赤字の「質」も重要:減価償却費が与える影響

ただし、全ての赤字が同じようにネガティブに評価されるわけではありません。赤字の内容、つまり「赤字の質」も重要な判断材料となります。

特に重要なのが「減価償却費」の存在です。
減価償却費は、設備投資などで購入した固定資産の費用を、数年間にわたって分割して経費計上するものです。これは、会計上は費用ですが、その計上時点では現金の支出を伴わない「非資金費用」です。

  • 減価償却費による赤字の場合:
    もし、赤字の原因が、多額の設備投資に伴う減価償却費の計上によるものであれば、見え方は少し変わってきます。
    例えば、事業所得がマイナス100万円でも、その期の経費の中に減価償却費が300万円含まれていたとします。この場合、現金の動きに近いキャッシュフローは、「▲100万円 + 300万円 = +200万円」となり、会計上は赤字でも、手元の現金は増えている可能性があります。
    金融機関も、このような「前向きな投資による赤字」については、ある程度理解を示し、将来の収益性を評価して融資を検討してくれる可能性があります。
  • 減価償却費が少ない(またはない)赤字の場合:
    減価償却費がほとんどないにもかかわらず赤字である場合は、純粋に本業の収益力がマイナスであることを意味し、より深刻な状況と見なされます。

赤字申告の注意点:申告しないのは最悪の選択

「赤字なら税金はかからないし、申告しなくても良いのでは?」と考える方もいるかもしれません。確かに、所得税法上、給与所得のない個人事業主が赤字である場合、確定申告の義務はありません。
しかし、申告しないことは、将来の大きなメリットを放棄する、極めてもったいない行為です。

赤字でも申告すべき理由:「純損失の繰越控除」

  • 青色申告をしている個人事業主は、その年に生じた赤字(純損失)を、翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来発生した黒字と相殺することができます。
  • 例:
    • 今年度:▲100万円の赤字(申告しておく)
    • 翌年度:+300万円の黒字
    • この場合、翌年度の所得計算では、300万円の黒字から、前年の赤字100万円を差し引いた、200万円を所得として申告できます。これにより、翌年度以降の所得税・住民税の負担を軽減できるのです。
  • この「純損失の繰越控除」の適用を受けるためには、赤字であった年にも、必ず確定申告書を提出しておく必要があります。申告を怠ると、この権利は失われてしまいます。

まとめ:個人事業主の赤字は「経営の赤信号」。放置せず、早期の対策を!

法人と個人事業主、その構造的な違いから、同じ「赤字」でも、外部から見られる深刻度は全く異なります。

個人事業主の赤字が危険な理由(再確認)

  • 税務署の視点:
    • 「生活費の源泉」が不明確になり、売上除外や架空経費といった「脱税」を強く疑われる。
    • 赤字が継続すれば、税務調査の対象となるリスクが格段に高まる。
  • 金融機関の視点:
    • 事業の継続性と返済能力に疑問符がつき、新規融資が極めて困難になる。
    • 事業資金ではなく、生活費の補填のための融資と見なされ、警戒される。
    • 法人と比較して、根本的な信用力が低いと判断されやすい。

赤字からの脱却に向けた第一歩

もし、あなたの事業が赤字状態にあるならば、それを「仕方がない」と放置することは、事業の存続を危うくする最も危険な行為です。

  1. 現状の直視と原因分析:
    なぜ赤字なのか、売上不振なのか、コスト構造の問題なのか、その原因を客観的に、そして徹底的に分析しましょう。
  2. 具体的な経営改善計画の策定:
    原因に基づいて、黒字化に向けた具体的な数値目標と、それを達成するためのアクションプラン(売上増加策、コスト削減策など)を策定します。
  3. 早期の専門家への相談:
    自力での改善が難しいと感じたら、できるだけ早い段階で、税理士や経営コンサルタントといった専門家に相談しましょう。客観的な視点からのアドバイスは、新たな突破口を開くきっかけとなります。
  4. 法人化の検討:
    もし、赤字の原因が事業構造そのものにあるのではなく、事業規模の拡大に伴うものであったり、将来的な成長が見込めるのであれば、法人化(法人成り)も有効な選択肢の一つです。法人化することで、
    • 経営者個人の生活費と、会社の経費・利益を明確に分離できる。
    • 社会的信用力が高まり、資金調達がしやすくなる。
    • 様々な節税策を活用できる。
      といったメリットを享受し、赤字状態から脱却しやすくなる可能性があります。

個人事業主の赤字は、会社からの重要なSOSサインです。そのサインを見逃さず、真摯に向き合い、迅速かつ適切な行動を起こすこと。それこそが、事業の危機を乗り越え、持続可能な経営を実現するための唯一の道と言えるでしょう。この記事が、そのための気づきと、具体的な一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。