【税務調査の完全対応マニュアル】言ってはいけないNGワード10選!命取りになる一言と、有利に進めるための賢い受け答え術

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「税務署から、税務調査に伺いたいのですが…」
この一本の電話は、多くの経営者にとって、心臓が縮み上がるような緊張の瞬間でしょう。日頃から適正な申告を心がけていても、「もし何かミスがあったら…」「調査官に何を言われるのだろう…」といった不安は尽きません。

税務調査は、単に帳簿書類をチェックされるだけの場ではありません。それは、調査官との高度な心理戦であり、経営者が発する「一言」が、調査の方向性や結果を大きく左右することがあります。良かれと思って発した言葉が、かえって疑念を招き、脱税の意図があったと見なされてしまうリスクすらあるのです。

この記事では、税務調査という緊迫した場面において、経営者が絶対に「言ってはいけない」NGワードと、逆に「言うべき」効果的なフレーズ、そしてその背景にある調査官の心理や思考プロセスについて、具体的なケースを交えながら徹底的に解説していきます。

税務調査の連絡が来たら…最初のNGワードは「その日で大丈夫です」

税務調査は、通常、顧問税理士または経営者本人に、税務署から電話で事前通知があることから始まります。この最初のコンタクトで、絶対に言ってはいけない言葉があります。

NGワード1:「はい、その日程で大丈夫です」

調査官から「〇月〇日と△日に、調査にお伺いしたいのですが」と打診された際に、慌ててその場で承諾してしまうのは、最初の大きな過ちです。

  • なぜダメなのか?
    • 準備期間の喪失: その場で日程を確定してしまうと、調査に向けて十分な準備をする時間が確保できません。
    • 専門家(税理士)と連携する機会の喪失: 税務調査は、専門家である税理士の立ち会いがあるかないかで、その結果が大きく変わります。顧問税理士がいない場合、この最初の電話で日程を決めてしまうと、信頼できる税理士を探し、依頼する時間がなくなってしまいます。
    • 主導権を握られる: 最初の段階で相手のペースに合わせてしまうと、その後の調査全体を通して、受け身の対応を強いられることになりかねません。
  • どう対応すべきか?
    • 「スケジュールの確認をいたしますので、後ほどこちらからご連絡します」と伝え、一度電話を切りましょう。
    • その上で、速やかに顧問税理士に連絡します。顧問税理士がいない場合は、この保留期間中に、税務調査に強い税理士を探し、必ず依頼してください。
    • 税理士に依頼した後は、日程調整を含め、全てのやり取りを税理士に一任するのが最も安全で賢明な対応です。

税務調査は、いわば「税のプロ」である調査官との交渉の場です。こちらも「税のプロ」である税理士を代理人として立てずに、丸腰で戦場に赴くようなことは絶対に避けるべきです。

調査当日の心構え:基本は「聞かれたことだけ、簡潔に」

調査当日、経営者は調査官から様々な質問を受けます。この時の基本的な心構えは、「寡黙になること」です。

NGワード2:「(聞かれてもいない)余計な補足説明」

経営者の中には、サービス精神が旺盛であったり、雄弁であったりする方が多くいます。また、やましさや不安を隠そうとして、つい饒舌になってしまうこともあります。しかし、税務調査の場では、これが命取りになります。

  • なぜダメなのか?
    • 墓穴を掘るリスク: 聞かれてもいないことをペラペラと話すと、その中に含まれる些細な矛盾や不自然な点から、調査官に新たな疑念を抱かせるきっかけを与えてしまいます。
    • 調査範囲の拡大: 余計な一言が、当初の調査対象ではなかった別の取引や勘定科目にまで、調査官の関心を広げてしまう可能性があります。
  • 具体例:
    • (調査官)「この交際費は、どなたとの会食ですか?」
    • (NGな社長)「あ、それは取引先の伊藤さんです。伊藤さんは昔からの友人で、今は独立して社長をやっているので、今後の取引拡大を見据えて、しっかりと事業の話をしてきましたよ!
      → 太字部分の補足説明は不要です。むしろ、「そんなに強調するということは、本当はプライベートな飲み会だったのではないか?」と、かえって疑念を招きます。
  • どう対応すべきか?
    • 「取引先の伊藤様です」と、聞かれたことにだけ、事実を簡潔に答える。
    • 調査官からの質問の意図を一旦考え、冷静に、そして短い言葉で回答する癖をつけましょう。

最初の雑談に潜む罠:趣味やプライベートな話には要注意

調査の冒頭では、調査官が緊張をほぐすかのように、雑談から入ってくることがよくあります。しかし、これも油断してはいけません。

NGワード3:「趣味はゴルフと海外旅行です」

  • なぜダメなのか?
    • 調査官は、あなたの趣味を聞いて、仲良くなろうとしているわけではありません。その趣味に関連する支出が、会社の経費に不正に計上されていないかを探るための、巧妙な情報収集です。
    • 「趣味はゴルフ」と答えれば、交際費の中にプライベートなゴルフ費用が混じっていないかを重点的にチェックします。「海外旅行」と答えれば、海外出張の内容や、福利厚生費として処理されている旅行の実態などを探ってきます。
  • どう対応すべきか?
    • 「趣味は仕事です」と答えるのが、最も無難で、かつ経営者として一貫性のある回答です。
    • 嘘をつく必要はありませんが、調査官に余計な調査の糸口を与えるような、プライベートな情報を自ら開示する必要は全くありません。

嘘は最大の罪:知らぬ存ぜぬは通用しない

税務調査において、最もやってはいけないことが「嘘をつくこと」です。

NGワード4:「ありません」「知りません」(事実と異なる場合)

  • なぜダメなのか?
    • 嘘をつく行為は、「意図的な隠蔽」と見なされ、もし後から事実が発覚した場合、重加算税(35%~40%)という最も重いペナルティが課される直接的な原因となります。
    • 調査官は、事前にある程度の情報を掴んだ上で、確信犯的に質問してくる(カマをかけてくる)ことが多々あります。「現金での売上はありませんか?」と聞かれた場合、既に何らかの情報を得ている可能性が高いのです。
    • 会社の机の引き出しや、壁に貼ってあるカレンダーなども、調査官は注意深く見ています。例えば、取引のないはずの金融機関のカレンダーがあれば、「隠し口座があるのではないか」と疑われます。その際に「他に口座はありません」と嘘をつくと、致命傷になります。
  • どう対応すべきか?
    • 絶対に嘘はつかない。
    • しかし、安易に「ない」と言い切るのも危険です。記憶違いや、自分が把握していない取引がある可能性もあります。
    • そのような場合は、「すぐには分かりかねますので、確認して後日回答いたします」と回答するのが、最も賢明な対応です。これにより、嘘をつくリスクを回避し、かつ税理士と相談する時間を確保できます。

過去の調査は関係ない?「言うべきこと」と「言わない方が良いこと」

調査官から指摘を受けた際の、反論の仕方にも注意が必要です。

NGワード5:「前の調査では何も言われませんでした」

  • 「これは言っても無駄」という通説の背景:
    • 税務の世界では、「前の調査官が見逃したからといって、今回の指摘が間違いになるわけではない。ダメなものはダメ」というのが基本的な考え方です。そのため、多くの専門家が「このような反論は意味がない」と指導します。
  • しかし、戦略的には「言うべき」ケースもある:
    • 筆者の考えは異なります。言うべきことは、たとえそれが直接的な反論にならなくても、言うべきです。
    • 戦略的な言い方: 「承知いたしました。ご指摘の点は、今回のご指導に従い、今後は改めます。ただ、弊社としましては、前回の税務調査で同様の処理について是認されたため、それが正しい処理であると認識しておりました。 もし前回の時点でご指導いただけていれば、このような誤りを続けることはございませんでした。」
    • 効果: このように伝えることで、今回の指摘が「意図的な不正(隠蔽・仮装)」ではなく、「過去の是認に基づく誤った認識」であったことを主張し、重加算税の適用を回避する交渉材料となり得るのです。

感情的な発言は禁物、しかし「主張」は必要

調査官の指摘に納得がいかず、感情的になってしまう経営者もいます。

NGワード6:「税金の無駄遣いばかりしてるくせに!」

  • 「これも言っても無駄」という通説の背景:
    • 政治家の税金の使い道と、自社の税務調査は、法的には全く関係のない話です。感情的な批判は、調査官の心証を悪くするだけ、というのが一般的な考え方です。
  • しかし、これも戦略的には「言うべき」ケースがある:
    • これもまた、筆者の考えは異なります。納税者としての正当な意見や不満を、感情的にならず、しかし毅然とした態度で主張することは、無意味ではありません。
    • 調査官も一人の国民であり、納税者の想いを伝えることで、調査全体の雰囲気が変わったり、最終的な判断において、杓子定規ではない、ある程度の情状酌量がなされたりする可能性もゼロではないからです。ただし、これは高度な交渉術であり、税理士と相談の上で行うべきです。

責任転嫁は最悪の一手!味方を敵に回す愚行

追及が厳しくなった際に、経営者がつい口にしてしまう、最悪のNGワードがあります。

NGワード7:「会計のことは、全部税理士に任せているので分かりません」

  • なぜ最悪なのか?
    • 経営責任の放棄: 会社の会計処理や申告内容に関する最終的な責任は、全て経営者自身にあります。この発言は、その責任を放棄していると見なされます。
    • 味方を敵に回す: この発言は、「もし間違いがあったら、それは全部税理士のせいです」と言っているのと同じです。あなたの隣で、あなたを守るために戦おうとしている税理士を、背後から撃つような行為です。このような社長を、税理士が本気で守りたいと思うでしょうか?
  • どう対応すべきか?
    • 専門的な詳細が分からない場合は、「その点については、顧問税理士から説明させます」と、敬意を払った形で税理士にバトンを渡しましょう。

調査官の要求への適切な対応術

調査の過程で、調査官から様々な要求があります。これらに安易に応じてしまうと、調査が不利に進む可能性があります。

NGワード8:「はい、どうぞ」(パソコンを見せてと言われた時)

  • なぜダメなのか?
    • 税務署が調査できるのは、あくまでも「調査対象の税目・期間に関する帳簿書類や、それに関連する物件」に限られます。パソコン全体を自由に見せる義務はありません。
    • パソコンの中には、調査とは無関係なプライベートな情報や、経営上の機密情報も含まれています。これらを無防備に見せることは、新たな調査の糸口を与えるリスクに繋がります。デスクトップに「税務調査対策」といった名前のフォルダがあれば、真っ先に中身を見られてしまいます。
  • どう対応すべきか?
    • 「どのファイルをご覧になりたいですか?必要なものを印刷してお渡しします」と対応します。パソコン本体を渡すのではなく、要求された特定のデータのみを、印刷物などの形で提出するのが基本です。

NGワード9:「はい、どうぞ」(資料を預からせてと言われた時)

  • なぜダメなのか?
    • 調査官が資料を税務署に持ち帰ると、時間的な制約なく、隅々まで詳細に調べられてしまいます。 これにより、当初は想定していなかったような、些細なミスまで発見されるリスクが高まります。また、調査期間そのものが長引く原因にもなります。
    • 紛失のリスクもゼロではありません。
  • どう対応すべきか?
    • 「資料の紛失が心配ですので、原本をお預けすることはできません。必要な部分については、こちらでコピーを取ってお渡しします」と、丁寧かつきっぱりと断りましょう。

NGワード10:「はい、大丈夫です」(調査を延長したいと言われた時)

  • なぜダメなのか?
    • 税務調査は、納税者の業務に支障をきたさない範囲で行われるのが原則です。調査官も、限られた日数で調査を終えるのが仕事です。
    • 安易に延長に応じると、これもまた調査範囲が拡大し、より詳細に調べられることに繋がります。
  • どう対応すべきか?
    • 「申し訳ありませんが、予定していた日程以降は、業務の都合でどうしても対応できません」と、正当な理由を述べて断りましょう。「あなたの仕事が遅いからでは?」とまでは言う必要はありませんが、毅然とした態度で、決められた日程内で調査を終えてもらうよう促すことが重要です。

調査を乗り切るための究極のフレーズと心構え

では、判断に迷う質問に対しては、どのように答えれば良いのでしょうか。

究極のフレーズ:「記憶が曖昧なので、確認してから後日回答します」

  • 即答できない質問、答えるべきか迷う質問に対しては、このフレーズが非常に有効です。
  • これにより、嘘をつくリスクや、不確かな発言で墓穴を掘るリスクを回避し、税理士と相談して最適な回答を準備する時間を稼ぐことができます。

その他の重要な心構え

  • サインを求められても、絶対に応じない: 調査の最後に、調査内容の確認書などにサインを求められることがありますが、これにサインをする義務は一切ありません。安易にサインをすると、不利な内容を認めたことになりかねません。
  • 安易なお土産(修正事項の譲歩)は不要: 「調査官の手柄のために、何か一つくらいは修正事項を認めた方が良い」という都市伝説がありますが、これは間違いです。修正事項があれば、次回以降の調査のサイクルが早まる可能性があります。修正すべき点がなければ、ゼロで終わらせるのが最善です。

まとめ:税務調査は「対話」と「交渉」。正しい知識と戦略、そして最強の味方で乗り切る!

税務調査は、恐怖の対象ではなく、準備と対応次第で、その結果を大きく変えることができる「対話と交渉の場」です。

税務調査で失敗しないための鉄則

  1. 初動が全て。連絡が来たら、即、税理士に相談する。
  2. 基本は寡黙。聞かれたことにだけ、簡潔に、事実を答える。
  3. 嘘は絶対につかない。しかし、安易に「ない」とも断定しない。
  4. 「分かりません」ではなく、「確認して後日回答します」で時間を稼ぐ。
  5. 調査官の要求(パソコンの閲覧、資料の預かり、調査の延長)には、安易に応じない。
  6. 味方であるはずの税理士を、責任転嫁で敵に回すような言動は絶対にしない。
  7. 言うべきことは、感情的にならず、しかし毅然とした態度で主張する。
  8. そして何よりも、調査の全プロセスにおいて、税理士を代理人として全面的に信頼し、連携する。

税務調査は、経営者にとって大きな試練ですが、これを乗り越えることで、自社の経理体制の弱点を見直し、よりクリーンで強固な経営基盤を築くきっかけとすることもできます。この記事が、いざという時のための「お守り」となり、皆様が自信を持って税務調査に臨むための一助となれば幸いです。