【相続税の税務調査が変わる】AI導入で何が暴かれる?申告漏れを防ぐための完全対策ガイド

確定申告・税務調査

「最近、相続税の税務調査にAIが使われるようになったって本当?」
「AI調査って、今までと何が違うの?どんなことがバレやすくなるんだろう?」
「自分は大丈夫だと思っているけど、気づかずに申告漏れをしていないか心配…」

大切な家族が亡くなった後の「相続」。その手続きは非常に複雑で、多くの方が「相続税」という大きな壁に直面します。そして、その相続税の申告内容をチェックするのが「税務調査」です。

これまで、この税務調査は、調査官が過去の申告書や銀行口座の履歴などを一つひとつ目で見て、経験と勘を頼りに行われてきました。しかし、その時代は終わりを告げようとしています。

2024年7月から、ついに相続税の税務調査に「AI(人工知能)」が本格的に導入されることが決定したのです。

これは、単なる技術の導入という話ではありません。税務調査の精度と網羅性が、これまでとは比較にならないレベルにまで引き上げられることを意味します。これまで見過ごされてきたような、些細な申告漏れや隠し財産も、AIの鋭い目からは逃れられなくなる時代が到来するのです。

この記事では、AI時代の新しい税務調査に備えるために、 「AI調査とは具体的にどのようなものなのか」「それによって何が、どのように暴かれるのか」、そして「私たちが今から準備しておくべき具体的な対策」 について、専門家の視点から徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。

  • 相続税の申告が必要になる、具体的な「基礎控除」の計算方法がわかります。
  • 税務署が申告漏れの可能性をどうやって事前に把握しているのか、その仕組みを理解できます。
  • AIがどのようにして申告漏れの疑いがある案件を「スコアリング」し、調査対象を選定するのかがわかります。
  • 家族名義の預金や生前贈与など、AI調査で特に狙われやすいポイントを学べます。
  • AI時代の税務調査で、無用な追徴課税を受けないための、最も確実な対策を知ることができます。

「自分には関係ない」と思っている方ほど、注意が必要です。AIは、あなたの家族の、そしてあなた自身の金融取引のすべてを見ています。正しい知識で武装し、未来の不安を取り除きましょう。

大前提:相続税の申告が必要なのは「約1割」の人だけ

本題に入る前に、相続税の基本的なルールについておさらいしておきましょう。
人が亡くなったからといって、誰もが相続税の申告をしなければならないわけではありません。実際、相続税の申告書が提出されるのは、亡くなった方全体のうち、約9.9%、つまりおよそ10人に1人です。

なぜなら、相続税には 「基礎控除」 という、非常に大きな非課税枠があるからです。

【相続税の基礎控除額の計算式】
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)

この計算式で算出した金額以下の財産であれば、相続税は一切かかりません。

例えば、亡くなった方に配偶者と子供が1人いた場合を考えてみましょう。

  • 法定相続人の数:配偶者と子の2人
  • 基礎控除額:3,000万円 +(600万円 × 2人) = 4,200万円

この場合、亡くなった方の遺産(預貯金、不動産、有価証券など)から借金などを差し引いた正味の財産が4,200万円以下であれば、相続税の申告も納税も不要です。

しかし、問題なのは、一般の方が故人の財産を正確に把握し、この基礎控除額を超えているかどうかを正しく判断するのは非常に難しい、ということです。この「よくわからないから、何もしない」という状態が、意図せぬ申告漏れ、つまり「脱税」に繋がる危険性をはらんでいるのです。

税務署はなぜ「申告漏れ」を察知できるのか?

「申告しなければバレないのでは?」と思うかもしれませんが、それは大きな間違いです。税務署は、あなたが相続税の申告をする前から、あなたの家族の資産状況をある程度把握しています。

人が亡くなると、市区町村役場から税務署へ死亡届の情報が連携されます。それを受け取った税務署は、 「KSK(国税総合管理)システム」 という、国税庁が持つ巨大なデータベースを駆使して、亡くなった方の過去の所得税の確定申告書や、不動産の登記情報、保険金の支払い記録などを照会します。

そして、これらの情報から「この人には、基礎控除を超える財産がある可能性が高い」と判断した場合、相続人に対して 「相続税についてのお尋ね」 という書類を送付します。

もし、この「お尋ね」が届いたにもかかわらず、「うちは財産なんてないから」と無視してしまうのは非常に危険です。税務署は、あなたが知らない 「隠し財産」 (例:昔に購入した株や、へそくりで作った別名義の預金など)の存在を、ある程度掴んだ上で書類を送ってきている可能性が高いのです。

この「お尋ね」が、AI導入以前の、いわばアナログな調査対象選定の仕組みでした。そして、これからはこのプロセスに、AIという強力な頭脳が加わるのです。

AI調査とは何か?「スコアリング」で調査対象を絞り込む

では、相続税の税務調査にAIが導入されると、具体的に何が変わるのでしょうか。
その最大の変化は、調査対象を選定する精度の飛躍的な向上です。

AIは、全国から提出された過去膨大な数の相続税申告書データと、その後の税務調査で申告漏れが見つかった「不正還付」のデータを学習します。これにより、AIは 「申告漏れが起こりやすい申告書の“パターン”や“傾向”」 を自動で発見できるようになります。

そして、新たに提出された相続税申告書をAIが読み込み、

  • 過去の不正還付パターンとの類似度
  • 故人の生前の所得状況と、申告された財産額の乖離
  • 家族名義の口座への不自然な資金移動
  • 申告された財産の評価額の妥当性

といった、無数の項目を瞬時に分析。その申告書がどれだけ「怪しいか」を 点数化(スコアリング) します。そして、このスコアが高い案件から優先的に、人間の調査官による詳細な調査が行われることになるのです。

これは、所得税の分野ではすでに導入されており、その効果は絶大です。AI導入後、税務調査の件数自体は減っているにもかかわらず、追徴税額は30億円以上も増加したという実績があります。これは、AIが「より多くの税金が取れる、確度の高い案件」を効率的に選び出していることの証拠です。

この成功体験を元に、今後は相続税、そして法人税へと、AI調査の適用範囲が拡大していくのは確実な流れなのです。

AI調査で暴かれる!特に狙われやすい3つのポイント

AIの導入によって、これまで以上に厳しくチェックされ、申告漏れが発覚しやすくなるのは、どのようなポイントなのでしょうか。

ポイント①:家族名義の預金(名義預金)

最も狙われやすいのが、 「名義預金」 です。

これは、亡くなった方が、生前に妻や子供、孫の名義で作った預金口座のことです。口座の名義は家族のものであっても、そのお金の原資が亡くなった方自身のものであり、実質的にその方が管理していたと判断されれば、それは故人の財産、つまり 「相続財産」 として扱われます。

AIは、家族全員の金融情報を横断的に分析します。

「この子供は、アルバイト収入しかないはずなのに、なぜ数百万円もの預金残高があるのか?」
「この専業主婦の口座に、毎年夫から100万円ずつ送金されている履歴があるのはなぜか?」

このように、家族全体の資産状況と収入のバランスを比較し、不自然な資金の蓄積を発見します。そして、それは亡くなった方からの生前贈与、あるいは名義預金である可能性が高い、とAIは判断するのです。

これまでは見過ごされがちだった家族内での資金移動も、AIの分析能力の前では、もはや隠し通すことはできません。

ポイント②:生前贈与の申告漏れ

相続税対策として、生前に少しずつ財産を贈与していく「生前贈与」は有効な手段です。しかし、これにも厳格なルールがあります。

年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりませんが(暦年贈与)、それを超える贈与には贈与税の申告と納税が必要です。また、亡くなる前の一定期間内に行われた贈与は、相続財産に持ち戻して計算しなければならない、というルールもあります(生前贈与加算)。

これらの贈与に関するルールを正しく理解せずに行った資金移動は、AIによって簡単に検知されます。親子間の数百万単位の預金の移動があれば、AIは即座に「贈与の可能性あり」とフラグを立て、贈与税の申告状況と照合します。申告がなければ、それは申告漏れとして指摘されることになるでしょう。

相続税と贈与税は、一体の税金として捉えられています。相続税から逃れるために安易な生前贈与を行うことは、かえって大きなリスクを招くのです。

ポイント③:不正な節税スキームのパターン学習

脱税や過度な節税を考える人が用いる手口は、いつの時代も似通っています。AIは、過去の不正事例を大量に学習することで、「脱税者が考えそうなこと」のパターンを熟知しています。

「このタイプの申告書は、過去の事例から見て、〇〇という財産が漏れている可能性が高い」
「この土地の評価額は、周辺の相場や過去の評価事例と比較して、不当に低く見積もられている疑いがある」

このように、人間が見逃してしまうような巧妙な手口や、わずかな違和感をも、AIはその膨大なデータの中から発見し、調査官にアラートを上げます。

もはや、素人考えの節税策や財産隠しが通用する時代ではない、ということを肝に銘じる必要があります。

【結論】AI時代の相続税対策は「専門家への相談」一択

では、この高度に進化したAI調査の時代に、私たちはどうすればいいのでしょうか。その結論は、非常にシンプルです。

「相続に強い、信頼できる税理士に相談する」

これ以外に、確実な対策はありません。

相続税の申告は、財産の評価方法や特例の適用など、極めて専門的で複雑です。自分自身で勉強して対応するには、限界があります。中途半端な知識で申告書を作成すれば、意図せずして申告漏れを犯してしまうリスクが非常に高いのです。

なぜ「相続に強い」税理士でなければならないのか?

ここで重要なのは、どの税理士でもいいわけではない、ということです。「税理士」と一括りに言っても、その専門分野は様々です。法人税務は得意でも、相続税はほとんど扱ったことがない、という税理士は少なくありません。

日本の税理士の数は約8万人ですが、年間の相続税の申告件数は約15万件。単純計算で、税理士1人あたりの年間の相続税申告件数は2件にも満たないのが実情です。

年間数件しか扱わない業務のプロフェッショナルと言えるでしょうか。相続税申告は、経験豊富な「相続専門」の税理士に依頼することが、あなたの財産と家族を守るための絶対条件です。

【相続に強い税理士の見つけ方】

  • 実績の確認:ホームページなどで、年間の相続税申告件数を明記しているかを確認する。(最低でも年間10件以上が目安)
  • 初回相談の活用:初回の相談で、あなたの家の状況を親身にヒアリングし、具体的なリスクや対策を分かりやすく説明してくれるかを見極める。
  • 信頼できるルートからの紹介:経営者仲間や、信頼できるコンサルタントなどから、実績のある税理士を紹介してもらう。

決して、ネット上の「相続専門」という言葉だけを鵜呑みにしてはいけません。経験が乏しいにもかかわらず、専門を謳っているケースもあるため、慎重な見極めが必要です。

また、税理士資格を持たない「なんちゃってコンサルタント」の甘い言葉にも、絶対に耳を貸してはいけません。彼らの提案する違法な節税策に乗ってしまえば、最終的に責任を問われるのは、あなた自身なのです。

まとめ:AI時代の到来は、正直者が報われる時代の始まり

今回は、相続税の税務調査にAIが導入されるという大きな変化と、それに対する私たちの備えについて、詳しく解説しました。

  • AI調査の本格化:2024年7月から、相続税の税務調査にAIが導入され、調査の精度と網羅性が飛躍的に向上します。
  • 狙われるポイント:AIは、家族名義の預金、生前贈与、過去の不正パターンなどを瞬時に分析し、申告漏れの疑いがある案件をスコアリングします。
  • もはや隠し通せない:家族間の資金移動や、素人考えの財産隠しは、AIの分析能力の前では通用しません。
  • 唯一の対策:AI時代の確実な相続税対策は、経験豊富な「相続に強い税理士」に相談し、適正な申告を行うことです。

AI調査の導入は、脱税や不当な節税を試みる人々にとっては脅威となるでしょう。しかし、見方を変えれば、これは 「ルールを守り、誠実に納税しようとする正直者が、きちんと報われる時代の始まり」 とも言えます。

不確かな情報に惑わされたり、グレーな節税策に手を出したりするのではなく、専門家の力を借りて、正々堂々と、そして合法的に、あなたの大切な財産を次の世代へと引き継いでいく。

これこそが、AI時代における、最も賢明で、そして最も確実な相続対策なのです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。