【税務調査はいつ来る?】もう怯えない!税務署の年間スケジュールから読み解く「狙われやすい時期」と、経営者のための完全対策マニュアル

確定申告・税務調査

「うちの会社にも、いつか税務調査が来るのだろうか…」
「税務調査って、一体どの時期に来ることが多いの?」

事業を運営する上で、多くの経営者や個人事業主が抱く、この漠然とした不安。いつ来るか分からない、何を調べられるか分からないという不透明さが、その不安を一層掻き立てます。

しかし、実は税務調査が行われる時期には、税務署側の内部事情や業務サイクルに起因する、一定の傾向が存在します。この「調査が集中する時期」を事前に知っておくことは、心の準備ができるだけでなく、より効果的な対策を講じる上で非常に重要です。

この記事では、税務署の事業年度や業務サイクルといった内部事情を紐解きながら、法人の決算月や個人の申告時期に応じて、税務調査が入りやすい具体的な時期とその理由を徹底解説します。さらに、どのような企業や個人が調査対象として選ばれやすいのか、その特徴についても深掘りしていきます。

税務調査のタイミングは「税務署の都合」で決まる!

まず理解しておくべき最も重要なポイントは、税務調査のタイミングは、納税者側の都合ではなく、基本的には「税務署側の都合」で決まるということです。税務署も一つの組織であり、年間の業務計画や、調査官一人ひとりに課せられたノルマに基づいて、計画的に調査を行っています。

この税務署の「内部カレンダー」を理解することが、調査時期を予測するための第一歩となります。

税務署の事業年度と業務サイクル

  • 事業年度: 一般的な企業とは異なり、国税組織の事業年度は「7月1日から翌年6月30日まで」となっています。
  • 人事異動: この事業年度に合わせて、毎年7月に大規模な人事異動が行われます。調査官も転勤などで担当地域や部署が変わります。
  • 上期・下期の区分:
    • 上期(かみき):7月~12月
    • 下期(しもき):1月~6月
      (※一般企業の感覚とは逆ですが、税務署内ではこのように呼ばれています。)
  • 調査件数のノルマ: 調査官一人ひとりには、年間に実施すべき調査件数の目安(ノルマ)があると言われています。一般的には、年間で30件程度が一つの目安とされており、このノルマは、上期と下期で割り振られています。
    • 上期(7月~12月): 比較的多くの件数(例:15~20件)が割り当てられます。
    • 下期(1月~6月): 上期よりも少ない件数(例:8~12件)が割り当てられます。

この「7月始まりの事業年度」「人事異動」「上期・下期の業務量」という3つの要素が、これから解説する調査時期の傾向に大きく関わってくるのです。

【法人編】税務調査が入りやすい時期は「決算月」で決まる!

法人の場合、税務調査が行われる時期は、その会社の「決算月」によって、ある程度の傾向を予測することができます。税務署は、法人の決算・申告が完了した後に、その申告内容をチェックし、調査対象を選定するためです。

一般的に、法人は以下のような2つのグループに大別され、それぞれ調査が集中する時期が異なります。

1. 2月~5月決算の法人が調査されやすい時期 → 8月~12月(税務署の上期)

  • なぜこの時期か?
    • 2月~5月に決算を迎える法人は、申告期限が4月~7月となります。
    • 税務署では、7月の人事異動が落ち着き、新たな体制で業務が本格化する8月頃から、これらの法人の申告書を検討し始め、調査対象を選定します。
    • そのため、調査の連絡が入り、実際に調査が行われるのは、8月から12月にかけての期間に集中する傾向があります。
  • 調査件数の多さ: 税務署の上期は、後述する個人の確定申告シーズンとも重ならないため、調査に集中できる期間です。そのため、年間の調査ノルマの中でも多くの件数がこの時期に割り当てられます。

2. 6月~1月決算の法人が調査されやすい時期 → 3月下旬~5月(税務署の下期)

  • なぜこの時期か?
    • 6月~1月に決算を迎える法人は、申告期限が8月~3月となります。
    • 税務署の下期(1月~6月)の中でも、1月下旬から3月中旬までは、個人の確定申告業務で税務署全体が最も繁忙を極める時期です。この期間、法人への本格的な税務調査は、ほぼストップします。
    • そのため、確定申告シーズンが落ち着いた3月下旬から、人事異動前の5月~6月上旬にかけて、下期分の調査が集中して行われる傾向があります。
  • 調査件数の少なさ: 確定申告という大きな業務があるため、下期に割り当てられる法人の調査件数は、上期よりも少ないのが一般的です。

どちらの決算月が調査されやすいか?

日本の法人は、3月決算が圧倒的に多いため、2月~5月決算の法人数が、6月~1月決算の法人数よりも多くなります。しかし、調査官一人あたりのノルマを考慮すると、確率論的には、6月~1月決算の法人の方が、2月~5月決算の法人よりも、若干調査対象となる確率は低いと言えるかもしれません。(ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、個別の会社の状況によって大きく異なります。)
(注:どの決算月が有利かという議論には、消費税の免税期間など、他の論点も絡むため、一概には言えません。あくまで税務調査の時期という観点からの傾向です。)

【個人事業主編】税務調査が集中するのは「夏から秋」

個人事業主の確定申告は、全ての人が、同じ時期(原則として翌年3月15日まで)に行います。そのため、税務調査の時期も、法人のように決算月で分かれることはなく、特定のシーズンに集中します。

  • 調査対象選定時期:4月~7月頃
    • 3月15日の確定申告シーズンが終わると、税務署は提出された膨大な数の申告書の内容を精査し、調査対象者の選定(いわゆる「当たりをつける」作業)を開始します。
  • 調査が集中する時期:8月~11月頃
    • 7月の人事異動が落ち着き、調査対象者がリストアップされた後、夏から秋にかけて(具体的には8月頃から11月頃まで)、個人事業主への税務調査が最も活発に行われます。
    • 調査官は、この時期に個人の調査を集中的に行い、12月以降は法人の調査や、翌年の確定申告の準備へとシフトしていきます。

したがって、個人事業主の方は、「夏から秋にかけて、税務署から連絡が来るかもしれない」と、心づもりをしておくと良いでしょう。

税務調査の期間と「年度またぎ」の考え方

  • 実地調査の日数: 税務調査官が実際に会社や事務所を訪問する「実地調査」は、個人事業主で1日、法人で2~3日程度が一般的です。
  • 調査全体の期間: しかし、調査はそれで終わりではありません。実地調査後も、調査官は税務署内で資料を精査し、税理士との間で質疑応答や交渉を続けます。連絡があってから最終的な結論が出るまで、通常1ヶ月~3ヶ月程度かかることが多いです。
  • 年度またぎの有無:
    • 税務署は、上期(7月~12月)に開始した調査は、できるだけ12月末までに終えたいと考えています。同様に、下期(1月~6月)に開始した調査は、6月末までに終えたいと考えています。
    • 特に、下期の調査が人事異動のある6月末をまたぐことは、調査官の引き継ぎが発生するため、ほとんどありません。
    • 一方で、上期の調査が12月までに終わらず、下期にずれ込むことはあり得ます。

イレギュラーな時期の調査は「危険信号」?

上記はあくまで一般的な傾向です。もし、このセオリーから外れた時期に調査の連絡があった場合は、少し注意が必要かもしれません。
例えば、一般的に調査が少ないとされる秋口に2月~5月決算の法人が調査対象となったり、確定申告シーズン真っ只中の2月に法人の調査が入ったりする場合です。

このようなケースでは、税務署が通常の選定プロセスとは別に、何らかの具体的な情報(例えば、取引先からの資料せんとの不一致、元従業員などからの内部告発など)を掴んでおり、「ほぼクロ」という確信を持って調査に臨んでいる可能性があります。

税務調査の回避・延期は可能か?

税務調査の連絡が来た際に、「今は忙しいから」と断り続けることはできるのでしょうか。

  • 日程の延期は可能:
    税務調査は、原則として納税者の協力のもとで行われる「任意調査」です。そのため、業務の繁忙期や、経営者・経理担当者の病気、顧問税理士の都合など、正当な理由があれば、調査日程の変更を申し出ることは可能です。
  • 無期限の拒否は不可能:
    しかし、納税者には調査に協力する「受忍義務」があります。正当な理由なく、無期限に調査を拒否し続けたり、連絡を無視したりすると、調査官の心証を著しく損ない、より厳しい調査が行われたり、最悪の場合、事前通知なしの「強制調査」に切り替えられたりするリスクがあります。
  • 適切な落としどころ:
    調査の連絡があった場合は、その調査期間(上期か下期か)の中で、できるだけ早く日程を確定させ、誠実に対応することが賢明です。

どのような企業・個人が調査対象として狙われやすいか?

税務署は、限られた人員で効率的に調査を行うため、「不正や誤りが疑われる」「追徴税額が多く見込める」といった納税者を優先的に選定します。

  • 業績が急激に伸びている: 売上や利益が急増していると、計上ミスや不正が起こりやすいと見なされます。
  • 長期間調査がない: 一般的に3~5年以上調査がないと、対象となる確率が上がります。
  • 現金商売の業種: 売上の管理が難しく、不正が行われやすいと見なされます。
  • 海外取引が多い: 税務処理が複雑なため、誤りが起こりやすいと見なされます。
  • 同業他社と比較して利益率が異常に低い: 売上除外や架空経費の計上が疑われます。
  • 消費税の還付申告をしている: 還付の妥当性を確認するため、調査対象となりやすいです。
  • 税理士の署名がない申告書: 専門家のチェックが入っていない申告書は、誤りが多いと見なされる傾向があります。

クリーンな申告でも調査は来る!

重要なのは、たとえ完璧にクリーンな申告を行っていたとしても、税務調査の対象となる可能性はゼロではないということです。税務署は、定期的な牽制や、業種ごとのランダムサンプリングなども行っています。

したがって、全ての事業者は、「いつ調査が来ても慌てない」ための準備をしておくことが不可欠です。

税務調査への最大の対策は「日頃の備え」と「専門家との連携」

税務調査の時期を予測することも重要ですが、それ以上に大切なのは、日頃からの備えです。

  1. 正確な会計処理と帳簿の作成:
    全ての取引を、証拠書類に基づいて正確に記帳しましょう。
  2. 証拠書類の整理・保管:
    領収書、請求書、契約書などを、税法で定められた期間(原則7年間)、いつでも提示できるように整理・保管しておきましょう。
  3. 信頼できる税理士との連携:
    • 日頃からの相談: 経理処理や節税策について、日頃から顧問税理士に相談し、適切なアドバイスを受けることが、問題の未然防止に繋がります。
    • 調査の立ち会い: 税務調査の際には、必ず税理士に立ち会ってもらいましょう。税理士は、調査官との専門的なやり取りを代行し、納税者の権利を守ってくれます。
    • 税理士が作成した申告書: 税理士が作成し、署名・押印した申告書は、税務署からの信頼性が高く、調査対象となる確率を若干下げる効果があるとも言われています。

まとめ:敵を知り、己を知れば百戦殆うからず。調査時期を予測し、万全の態勢で臨もう。

税務調査の時期には、税務署側の内部事情に起因する、明確な傾向が存在します。

税務調査の時期まとめ

  • 国税の事業年度: 7月~6月(7月は人事異動で調査が少ない)
  • 法人の場合:
    • 2月~5月決算: 上期(特に8月~12月)に調査が集中。
    • 6月~1月決算: 下期(特に3月下旬~5月)に調査が集中。
  • 個人事業主の場合:
    • 夏から秋(特に8月~11月)に調査が集中。
  • 例外:
    • 不正の疑いが濃厚な場合は、時期に関わらず調査が行われる可能性あり。

この「調査が行われやすい時期」を事前に知っておくことで、

  • 心の準備ができる: 突然の連絡にも、慌てず冷静に対応できます。
  • 事前の対策を講じられる: 調査時期が近づいてきたら、改めて帳簿書類を見直し、整理しておくことができます。
  • 税理士との連携を強化できる: 調査が予想される時期に、顧問税理士と事前に打ち合わせを行い、想定される論点などを確認しておくことができます。

そして、最も重要なのは、いつ税務調査が来ても問題ないように、日頃から法令を遵守し、正確な会計処理と、証拠書類の適切な管理を徹底しておくことです。クリーンな経営を心がけていれば、税務調査は単なる「確認作業」であり、何も恐れることはありません。

税理士のサポートがない状態で税務調査に臨むのは、武器を持たずに戦場に行くようなものです。調査の連絡が来たら、あるいはその可能性を意識したら、必ず信頼できる税理士を味方につけ、専門家の力を借りて対応することを強くお勧めします。

この記事が、税務調査に対する皆様の漠然とした不安を解消し、適切な準備と対応を行うための一助となれば幸いです。