「突然、税務署から『予定納税のお知らせ』という通知が届いたけど、これって何?」
「まだ利益も確定していないのに、なぜ税金を前払いしなければならないの?」
「予定納税のせいで、会社の資金繰りが急に苦しくなった…何か良い対策はないだろうか?」
会社の経営者や個人事業主として、ようやく確定申告を終え、一息ついたのも束の間。ある日突然、税務署から送られてくる 「予定納税」 の通知書。その金額の大きさに、思わず目を見張り、頭を抱えてしまった経験はありませんか?
予定納税とは、その名の通り、前年の納税実績に基づいて、今年の税金を「前払い」するという制度です。これは、法人税、所得税、そして消費税という、事業における3大税金に適用される、避けては通れないルールです。
この制度を知らずにいると、予期せぬタイミングで、まとまった額の納税が発生し、会社の資金繰りを一気に圧迫する、極めて大きなリスクとなり得ます。
この記事では、
- そもそも、なぜ国は「予定納税」という、税金の前払い制度を設けているのか?
- 法人税、所得税、消費税、それぞれの予定納税が発生する「条件」と「計算方法」、「納付時期」
- あなたの会社の資金繰りを守るための、具体的な「予定納税対策」(仮決算、減額申請)
- そして、納税そのものを少しでも「お得」にする、クレジットカード納税などの賢いテクニック
について、徹底的に、そして分かりやすく解説します。
この記事は、あなたの会社の「お金の流れ」を、予期せぬ納税から守るための 「資金繰り防衛マニュアル」 です。この記事を最後までお読みいただき、予定納税の仕組みを完全にマスターし、計画的で、安定した会社経営を実現してください。
なぜ「税金の前払い」が必要?予定納税の基本概念
まず、なぜ、私たちはまだ確定していない税金を、前払いしなければならないのでしょうか。この「予定納税」という制度には、国側と納税者側、双方にとっての目的があります。
- 国側の目的:税収の早期確保と平準化
国としては、税金をできるだけ早く、そして安定的に確保したい、という思惑があります。年に一度の確定申告時期に、すべての税収が集中するのを避け、年間を通じて、税収を平準化させるために、この前払い制度を設けているのです。 - 納税者側の(意図せぬ)メリット:納税負担の分散
一方、納税者側から見ても、年に一度、ドカンと大きな税金を支払うよりも、複数回に分けて支払う方が、一回あたりの負担が軽くなり、資金計画が立てやすい、というメリットがあります。国は、そうした「納税者の負担軽減」という側面も、建前として挙げています。
この予定納税の対象となるのは、 「法人税」「所得税」「消費税」の3つです。そして、その計算の基本は、「前年の納税額の、おおよそ半分を、中間時点で前払いする」 という考え方に基づいています。
それでは、それぞれの税金ごとに、具体的なルールを見ていきましょう。
① 法人税の予定納税:利益800万円の壁を意識せよ
まず、法人が支払う「法人税」の予定納税です。
予定納税が必要になる条件
前事業年度の法人税額が、年間で20万円を超えた場合に、予定納税の義務が発生します。
「法人税20万円」と聞いても、ピンとこないかもしれません。
法人税の税率は、会社の利益(所得)によって変わります。
- 年間利益800万円以下の部分:税率は約25%(軽減税率などを含む実効税率)
- 年間利益800万円超の部分:税率は約37%(同上)
この低い方の税率(約25%)で逆算すると、法人税20万円は、おおよそ年間134万円以上の利益を出した場合に発生します。つまり、年間134万円以上の利益を出した会社は、翌年に予定納税が必要になる、と覚えておきましょう。
(※ここでいう法人税額には、地方税である法人事業税や法人住民税、そして赤字でも発生する均等割は含まれません。)
納付時期と計算方法
- 納付時期:原則として、事業年度開始の日から6ヶ月を経過した日から、2ヶ月以内。
(例:3月決算の法人の場合 → 4月1日からスタートし、6ヶ月後の9月末から2ヶ月以内なので、11月末が納付期限) - 計算方法: 前事業年度の法人税額の、1/2(半分) を納付します。
半年に一度、前期の税金の半分を支払う、というイメージです。この支払いスケジュールを、あらかじめ資金繰り計画に組み込んでおくことが、非常に重要です。
② 所得税の予定納税:個人事業主と経営者のための知識
次に、個人事業主や、役員報酬を受け取っている経営者など、「個人」にかかる「所得税」の予定納税です。
予定納税が必要になる条件
前年分の所得税額が、15万円以上であった場合に、予定納税の義務が発生します。
納付時期と計算方法
- 納付時期: 毎年7月(第1期分)と11月(第2期分) の、年2回です。
覚え方として、「セブン-イレブン、いい気分」というフレーズが、よく使われます。 - 計算方法:前年分の所得税額の、1/3ずつを、2回に分けて納付します。
(例:前年の所得税が150万円だった場合 → 7月に50万円、11月に50万円を納付)
そして、年が明けて、翌年の確定申告の際に、その年の正しい所得税額を計算し、すでに支払った予定納税額(この例では100万円)との差額を精算します。
- もし、年間の税額が120万円だったら → 差額の20万円を追加で納付。
- もし、年間の税額が90万円だったら → 払い過ぎていた10万円が還付される。
【注意!】住民税に、予定納税はない
個人の税金には、所得税のほかに「住民税」がありますが、 住民税には、予定納税の制度はありません。 住民税は、前年の所得に基づいて計算され、確定した税額を、翌年の6月以降に、一括または4期に分けて納付することになります。
③ 消費税の予定納税:売上規模で変わる、複雑な納付回数
最後に、事業者にとって、法人税・所得税と同じくらいインパクトの大きい「消費税」の予定納税です。
消費税の予定納税は、前年の納税額の大きさによって、年間の納付回すうが、年1回、3回、11回と、段階的に増えていく、非常に複雑な仕組みになっています。
予定納税が必要になる条件と納付回数
前年の消費税の年間納税額 | 年間の予定納税回数 |
62万円超、513万円以下 | 年1回 |
513万円超、6,154万円以下 | 年3回 |
6,154万円超 | 年11回 |
(※国税のみの金額。地方消費税を含めると、それぞれ48万円、400万円、4,800万円が基準となります。)
納付時期と計算方法
- 年1回の場合:法人税と同じく、事業年度開始から8ヶ月後に、前年の納税額の半分を納付。
- 年3回の場合:3ヶ月ごとに期間を区切り、その2ヶ月後に、前年の納税額の1/4ずつを納付。
- 年11回の場合:毎月、前年の納税額の1/12ずつを納付。
特に、「年3回」のケースは、注意が必要です。
例えば、前年の納税額が520万円だった場合、1回の予定納税額は、その1/4である130万円にもなります。これが、3ヶ月に一度、やってくるのです。
このキャッシュアウトは、資金繰りに非常に大きな影響を与えるため、顧問税理士などと連携し、納税スケジュールを、事前に、かつ正確に把握しておくことが、絶対に不可欠です。
資金繰りを守る!予定納税への具体的な対策
では、この「税金の前払い」という、資金繰りを圧迫する制度に対して、私たちは、どのような対策を講じることができるのでしょうか。
対策①:【法人向け】仮決算による、納税額の見直し
「今年は、前期に比べて、業績が大幅に悪化しそうだ…」
そんな時に、法人だけが使える強力な対策が、 「仮決算」 です。
これは、事業年度開始から6ヶ月の時点で、仮の決算を行い、その実績に基づいて、予定納税額を再計算する、という手続きです。
例えば、
- 前期の法人税額:100万円 → 通常の予定納税額:50万円
- しかし、今期の上半期は、大きな赤字となってしまった。
この場合、仮決算を行えば、上半期の利益はゼロ(またはマイナス)なので、 予定納税額も「0円」 にすることができるのです。
ただし、仮決算を行うには、通常の決算と同じように、帳簿を締め、申告書を作成する必要があるため、税理士に依頼するコストが発生します。
「仮決算にかかるコスト」と、「それによって削減できる予定納税額」 を天秤にかけ、メリットが大きい場合にのみ、実行を検討するのが賢明です。
対策②:【個人向け】減額承認申請
個人の所得税にも、法人と同じように、納税額を減額してもらうための手続きがあります。
それが、 「予定納税額の減額承認申請」 です。
その年の所得が、前年に比べて、大幅に減少する見込みである場合(廃業、業績不振、災害など)、税務署に申請書を提出し、承認されれば、予定納税額を、実態に見合った金額に減額してもらうことができます。
申請の期限は、第1期分が7月1日から15日までと、非常に短いため、注意が必要です。
対策③:納税資金の計画的な積み立て
最も基本的で、そして最も重要な対策が、 日頃からの「納税資金の積み立て」 です。
予定納税の通知が来てから、慌てて資金を準備するのではなく、
「うちの会社は、毎月〇万円を、納税準備預金として、別の口座に積み立てておく」
というように、計画的に、そして強制的に、納税のための資金を確保しておく習慣をつけるのです。
この地道な努力が、いざという時の、資金繰りの安定に繋がります。
対策④:「クレジットカード納税」などの、賢い納税方法の活用
最後に、納税そのものを、少しでも「お得」にするテクニックです。
国税は、 「クレジットカード」 で納付することが可能です。
【クレジットカード納税のメリット】
- ポイント還元:納税額に応じて、クレジットカードのポイントが貯まります。納税額が大きければ、その還元額も、決して無視できません。
- 支払いの先延ばし:実際の口座からの引き落としは、翌月以降になるため、一時的に、資金繰りの猶予期間を作ることができます。
ただし、クレジットカード納税には、 決済手数料(納税額の約0.8%程度) がかかります。
この手数料を上回るポイント還元率のカードを利用する、といった工夫が必要です。
その他、スマホ決済(Amazon Payなど)による納税も可能になってきており、納税の方法も、多様化しています。自社にとって、最もメリットの大きい方法を選択しましょう。
まとめ:予定納税を制する者が、資金繰りを制す
今回は、多くの経営者が悩む「予定納税」について、その仕組みから、具体的な対策までを、網羅的に解説しました。
- 予定納税は、法人税・所得税・消費税に適用される「税金の前払い制度」です。前年の納税実績が、一定額を超えると、義務が発生します。
- 法人税は「年20万円超」、所得税は「年15万円以上」が、予定納税の基準です。消費税は、納税額に応じて、年1回、3回、11回と、納付回数が増えていきます。
- 業績が悪化している場合、法人は「仮決算」、個人は「減額承認申請」を行うことで、予定納税額を減額・免除することが可能です。
- 日頃から、計画的に納税資金を積み立てておくとともに、クレジットカード納税などを活用し、少しでも有利な形で納税することも、賢い資金繰り戦略の一つです。
予定納税は、知らずにいると、会社の資金繰りに、突然、大きな打撃を与える、恐ろしい存在です。
しかし、その仕組みを正しく理解し、自社の業績を常に把握し、適切な対策を講じることができれば、それは、もはや「脅威」ではありません。それは、年間の納税負担を平準化し、計画的な会社経営を実現するための、 予測可能な「管理すべきコスト」 へと変わるのです。
ぜひ、この記事を参考に、あなたの会社の納税スケジュールを、今一度、見直してみてください。その計画性こそが、あなたの会社を、資金繰りの不安から解放し、持続的な成長へと導く、何よりの力となるはずです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。