【税理士が警告】「事業主貸」が増えすぎると超危険!税務調査と銀行融資で詰む、個人事業主が見落とす最大の罠

確定申告・税務調査

「確定申告の時、会計ソフトでよく見る『事業主貸』って、一体何のこと?」
「プライベートの支出を事業用口座から払ってるけど、何か問題あるの?」
「残高が増えてるけど、経費じゃないなら関係ないでしょ?」

個人事業主やフリーランスとして確定申告をされている方なら、一度は 「事業主貸(じぎょうぬしかし)」「事業主借(じぎょうぬしかり)」 という勘定科目を目にしたことがあるでしょう。

多くの方は、これらを「単なる残高合わせのための、よく分からない項目」として、あまり気にせず処理しているかもしれません。確かに、少額であれば、それほど神経質になる必要はありません。

しかし、もし、あなたの決算書で 「事業主貸」の残高が不自然に膨れ上がっているとしたら…?
それは、あなたの事業の健全性を蝕み、将来の銀行融資を絶望的にし、税務調査で脱税を疑われる、非常に危険なサインかもしれません。

この記事では、多くの個人事業主が見落としがちな「事業主貸」という勘定科目に潜む、重大なリスクについて徹底的に解説します。その正体から、なぜ残高が増えすぎると危険なのか、そしてその対策まで。特に、これから法人成りを目指す方にとっては、知らなかったでは済まされない、致命的な問題に直結する可能性があります。

第1章:「事業主貸」「事業主借」とは何か?その正体を理解する

まず、この不思議な勘定科目が何なのか、その定義と役割を正確に理解することから始めましょう。これらは、個人事業主にしか存在しない、特別な勘定科目です。

法人の場合、会社のお金と社長個人のお金は、法律上、明確に別人格として区別されます。しかし、個人事業主の場合、事業用の財布とプライベートの財布の境界線が曖昧になりがちです。

この「事業」と「プライベート」の間のお金の行き来を、帳簿上で整理するために使われるのが、「事業主貸」と「事業主借」なのです。

「事業主貸」とは?

事業主貸とは、 「事業用のお金を、プライベートな目的のために使った」 場合に使われる勘定科目です。

帳簿上は、「事業主(=事業)が、プライベートな自分(=個人)にお金を貸した」という形で記録されます。もちろん、実際に返済する必要はありませんが、帳簿上の整理としてこのように扱います。

【事業主貸が発生する主なケース】

  1. 生活費の引き出し:
    事業で稼いだお金を、生活費として事業用口座からプライベート口座に移したり、現金で引き出したりした場合。個人事業主には「給与」という概念がないため、この生活費の引き出しが「事業主貸」の最も一般的な発生原因です。
  2. 所得控除の対象となる支出を事業用口座から支払った場合:
    国民年金保険料、国民健康保険料、生命保険料、iDeCoの掛金、小規模企業共済の掛金など。これらは事業の「経費」にはなりませんが、個人の所得から控除できるものです。これらを事業用口座から支払うと「事業主貸」となります。
  3. 家事按分による経費の自己否認分:
    自宅兼事務所の家賃や光熱費などを、事業用とプライベート用で按分(家事按分)している場合、プライベート利用分として経費から除外した金額が「事業主貸」として計上されます。

「事業主借」とは?

一方、事業主借とは、その逆で 「プライベートなお金を、事業の経費支払いのために使った(立て替えた)」 場合に使われる勘定科目です。

帳簿上は、「事業主(=事業)が、プライベートな自分(=個人)からお金を借りた」という形で記録されます。

【事業主借が発生する主なケース】

  1. プライベートのクレジットカードで経費を支払った場合:
    事業用の備品などを、プライベート用のクレジットカードで決済した場合。
  2. 事業用口座の預金利息:
    事業用口座に付いた預金利息は、事業の売上ではなく、個人の「利子所得」となるため、「事業主借」で処理します。
  3. 事業用車両の売却収入など:
    事業で使っていた車を売却した収入は、事業所得ではなく「譲渡所得」という別の所得区分になるため、売上には計上せず「事業主借」で処理します。

このように、これらはあくまで「事業」と「個人」の間の資金移動を記録するための、経費にも売上にもならない、帳簿の辻褄を合わせるための仮の勘定科目なのです。

第2章:残高が増えすぎるとヤバい理由①|銀行融資で「債務超過」と見なされる

「経費じゃないなら、残高がいくら増えても関係ないのでは?」
そう考えるのは、大きな間違いです。特に 「事業主貸」の残高が多額になっている場合、銀行融-資の審査において、致命的なマイナス評価 を受けることになります。

その理由を理解するために、個人事業主の決算書である「貸借対照表(バランスシート)」の構造を見てみましょう。

貸借対照表は、会社の財政状態を示す表で、左側に「資産」、右側に「負債」と「純資産」が記載されます。
純資産 = 資産 - 負債
であり、この純資産がプラスであれば「資産超過(健全な状態)」、マイナスであれば「債務超過(危険な状態)」となります。

個人事業主の貸借対照表では、この「純資産」に相当する部分が、「元入金」と「事業主勘定(事業主貸・事業主借)」、そして 「その年の所得」 で構成されています。

そして、会計ソフトは年度末の決算処理で、これらの項目を自動的に相殺し、翌年度の「元入金」を算出します。その計算式は以下の通りです。

翌年の元入金 = 今年の元入金 + 事業主借 + 今年の所得 - 事業主貸

ここで、注目すべきは 「事業主貸」が、元入金(=純資産)からマイナスされるという点です。
つまり、
「事業主貸」は、実質的にあなたの事業の資本を食い潰している のです。

「事業主貸」が招く「実質的債務超過」の恐怖

もし、あなたが事業で稼いだ利益以上に、生活費としてお金を引き出し続け、事業主貸の残高が数千万円単位で膨れ上がっていたら、どうなるでしょうか。

上記の計算式により、翌年の元入金は大幅なマイナスになってしまいます。
元入金がマイナス = 純資産がマイナス = 債務超過

銀行は、融資審査において、この貸借対照表の健全性を極めて重視します。単年度の利益が黒字であっても、貸借対照表が「債務超過」の状態であれば、「この事業は、資産をすべて売り払っても借金を返せない、実質的に破綻している状態だ」と判断します。

そのような危険な状態の事業に、銀行が新たにお金を貸してくれるはずがありません。
「事業主貸が多い」ということは、銀行の目には 「経営者が、事業の稼ぎ以上に贅沢な暮らしをして、会社の資本を私的に食い潰している。経営管理が杜撰で、公私混同が激しい」 と映るのです。

いくら確定申告で利益が出ていても、事業主貸の残高が多いというだけで、融資の道は限りなく閉ざされてしまう。これが、事業主貸が増えすぎることの、第一の恐怖です。

第3章:残高が増えすぎるとヤバい理由②|税務調査で「売上除外」を疑われる

次に、 「事業主借」 の残高が不自然に多い場合のリスクです。こちらは銀行融資よりも、税務調査で問題視される可能性が高くなります。

「事業主借」は、「プライベートなお金を事業に入れた」記録です。
これが多額にのぼっていると、税務調査官はこう考えます。

「本当にこれは、経営者個人のプライベートな資金なのだろうか?」
「実は、取引先から現金で受け取った売上を、帳簿に記載せずに事業資金として補填している(=売上を除外している)のではないか?」

帳簿上の利益は少ないのに、なぜか事業を継続できている。そのカラクリは、本来売上として計上すべきお金を「事業主借」という勘定科目を使ってごまかし、利益を圧縮しているからではないか、と疑われるのです。

もちろん、開業資金として最初に自己資金を投入した場合や、事業が赤字で、プライベート資金で運転資金を補填した場合には、事業主借が発生するのは自然なことです。

しかし、毎年黒字が出ているにもかかわらず、事業主借の残高が増え続けているような場合は、その資金源について、税務調査で厳しい追及を受ける可能性があります。明確な説明ができなければ、売上除外という「脱税」行為を認定され、重いペナルティを課されるリスクがあるのです。

第4章:【法人成りで悲劇】個人の負債が、新会社のスタートを破壊する

ここまで見てきたリスクは、個人事業主である期間だけの問題ではありません。
実は、「事業主貸」によって債務超過に陥った状態で法人成りを行うと、その負債は設立した新会社に引き継がれ、スタート直後から最悪の財務状況で経営を始めることになります。

法人成りをする際、多くの場合は、個人事業の資産と負債を、そのまま新会社に引き継ぎます。(これを「現物出資」などと呼びます)

もし、個人事業の貸借対照表が、多額の事業主貸によって「元入金マイナス(債務超過)」の状態だったとしましょう。
その状態で法人成りを行うと、設立された新会社の貸借対照表は、 スタート時点からいきなり「債務超過」 となってしまうのです。

生まれたばかりの会社が、いきなり債務超過。
これでは、創業融資を受けようにも、銀行から「この会社は設立時点で既に実質破綻している」と見なされ、門前払いされる可能性が極めて高くなります。

個人事業主時代の「どんぶり勘定」が、法人としての輝かしいスタートを、根底から破壊してしまうのです。法人化を視野に入れている経営者ほど、「事業主貸」の管理には細心の注意を払わなければなりません。

第5章:今すぐできる!危険な「事業主貸」を増やさないための鉄壁対策

では、この危険な「事業主貸」の残高を増やさない、あるいは減らしていくためには、具体的にどうすればよいのでしょうか。対策は非常にシンプルですが、徹底することが重要です。

対策1:事業用とプライベート用の口座・クレカを完全に分離する

これが最も根本的で、最も効果的な対策です。

  • 事業用の銀行口座を作る:
    事業の売上入金や経費の支払いは、すべてこの口座で行う。
  • 事業用のクレジットカードを作る:
    経費の支払いは、できる限りこのカードに集約する。
  • プライベート用の銀行口座を作る:
    生活費や、国民年金、生命保険料などの個人的な支出は、すべてこの口座から引き落とす。

そして、事業用口座からプライベート口座へは、毎月決まった日に、決まった額(例えば「生活費として30万円」など)だけを移動させるルールを徹底します。

こうすることで、事業とプライベートの資金の流れが明確に分離され、不要な「事業主貸」の発生を最小限に抑えることができます。これは、健全な経営の第一歩です。

対策2:「事業主貸」と「事業主借」を意図的に相殺する

もし、事業用口座からプライベートな支出(例:小規模企業共済の掛金3万円)を支払ってしまい、「事業主貸 3万円」が発生したとします。

その場合、後日、プライベート口座から事業用口座へ、同額の3万円を「事業資金の補填」として入金します。これにより、「事業主借 3万円」が発生し、「事業主貸」と相殺され、残高への影響をなくすことができます。

少し手間はかかりますが、事業用口座から支払わざるを得なかった個人的な支出については、このように後から補填することで、事業主貸が膨らむのを防ぐことができます。

対策3:自分の「給料」の範囲内で生活する意識を持つ

根本的な話になりますが、「事業で得た利益」の範囲内で生活するという、経営者としての規律を持つことが何よりも重要です。

事業主貸が膨らむ最大の原因は、「稼ぎ以上に、生活費としてお金を引き出してしまう」ことです。
定期的に事業の損益を把握し、「今月はこれだけ利益が出たから、生活費として引き出せるのは〇〇円までだ」という意識を持つこと。

この「どんぶり勘定」からの脱却こそが、あなたの事業を債務超過から守り、健全な成長へと導く鍵なのです。

まとめ:事業主貸は、あなたの「経営規律」を映す鏡である

「事業主貸」と「事業主借」。
これらは単なる会計上の勘定科目ではありません。
それは、 経営者であるあなたの、事業資金と個人資金に対する管理能力、そして公私混同の度合いを、如実に映し出す「鏡」 なのです。

  • 「事業主貸」の増加は、実質的な資本のマイナスであり、銀行評価を著しく悪化させる。
  • 債務超過の状態で法人成りをすれば、新会社は設立と同時に破綻状態となる。
  • 対策の基本は、事業とプライベートの財布を完全に分け、経営者としての資金規律を持つこと。

もし、あなたの決算書で「事業主貸」の残高が気になっているなら、それは事業の危険信号です。放置すれば、いざという時に融資が受けられず、事業継続の危機に陥るかもしれません。

今すぐ、ご自身の決算書を確認し、事業とプライ”ートの資金の流れを見直してみてください。健全な貸借対照表は、会社の信用力の源泉であり、未来の成長を支える最も重要な土台なのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。