【2024年1月~義務化】電子帳簿保存法を徹底解説!請求書・領収書のデータ保存、知らないと青色申告が取り消される?

電子帳簿保存法・インボイス

「インボイス制度で手一杯なのに、今度は電子帳簿保存法?」
「メールで受け取った請求書を、印刷して保存するのはもうダメって本当?」
「一体、何をどうやって保存すればいいのか、さっぱり分からない…」

2023年10月のインボイス制度開始に続き、多くの事業者、特に経理のデジタル化に不慣れな中小企業や個人事業主を悩ませているのが、2024年1月1日から本格的に義務化される「電子帳簿保存法」の電子取引データ保存です。

この法律は、これまで多くの企業で行われてきた「電子データで受け取った請求書や領収書を、印刷して紙で保存する」という運用を、原則として認めないという、経理実務を根底から揺るがす大きな変更を含んでいます。

この記事では、複雑で分かりにくいと言われる電子帳簿保存法について、その基本的な考え方から、何が義務で何が任意なのか、そして最も重要な「電子取引データ」をどのように保存すれば良いのか、具体的な対策や注意点、さらには税務調査への影響まで、分かりやすく徹底的に解説していきます。

電子帳簿保存法とは?3つの区分を理解する

まず、電子帳簿保存法がどのような法律なのか、その全体像を掴むことが重要です。この法律は、国税関係の帳簿や書類を、電子データで保存するためのルールを定めたものであり、大きく分けて以下の3つの区分で構成されています。

1. 電子帳簿等保存(任意)

  • 対象: 自社が会計ソフトなどで作成した国税関係帳簿(総勘定元帳、仕訳帳など)や、決算関係書類(貸借対照表、損益計算書など)。
  • 内容: これらの帳簿・書類を、一貫してパソコンで作成している場合、紙に印刷して保存するのではなく、 電子データのまま保存することが「できる」 という制度です。
  • 位置づけ: あくまでも 「任意」 です。これまで通り、紙に印刷して保存し続けることも認められています。

2. スキャナ保存(任意)

  • 対象: 取引先から受け取った紙の請求書や領収書など。
  • 内容: これらの紙の書類を、スキャナで読み取ったり、スマートフォンで撮影したりして、 画像データとして保存することが「できる」 という制度です。
  • 位置づけ: これも 「任意」 です。スキャナ保存を行うためには、タイムスタンプの付与や、解像度の確保など、厳格な要件を満たす必要があります。多くの企業にとっては、従来通り紙のままファイリングして保存する方が、手間は少ないかもしれません。

3. 電子取引データの保存(★2024年1月1日から義務化★)

  • 対象: 取引先と電子データでやり取りした取引情報(請求書、領収書、見積書、注文書、契約書など)。
  • 内容: これらの電子データを、紙に印刷して保存することは認められず、必ず電子データのまま保存しなければならないという制度です。
  • 位置づけ: これが、今回の法改正で全ての事業者(法人・個人事業主問わず)に義務付けられた、最も重要なポイントです。

つまり、「電子取引」に該当するデータの保存方法が、今回の法改正の核心部分となります。

【最重要】義務化される「電子取引データ」とは?具体的な範囲

では、具体的にどのようなものが「電子取引データ」に該当し、電子保存が義務付けられるのでしょうか。

国税庁は、以下のような例を挙げています。

  • 電子メールで受け取った請求書や領収書のPDFファイル
  • インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書のデータ
    • 例:Amazonや楽天市場などのECサイトの購入履歴画面、クラウドサービスの利用明細など
  • クレジットカードの利用明細データ
  • 交通系ICカード(Suica、PASMOなど)による支払いデータ
  • スマートフォンアプリによる決済データ
  • EDI取引(企業間の専用回線による電子データ交換)の取引情報
  • クラウドサービスを介してやり取りした請求書や契約書

このように、私たちが日常的に利用している多くの取引が、「電子取引」に該当します。これらのデータを、今後は紙に印刷して保存するだけでは、法律上の保存要件を満たしたことにはならないのです。

電子取引データをどうやって保存する?満たすべき4つの要件

電子取引データを保存する際には、ただパソコンのフォルダに放り込んでおくだけでは不十分です。原則として、データの 「真実性」「可視性」 を確保するための、以下の要件を満たす必要があります。

1. 真実性の確保(データの改ざんを防ぐための措置)

以下のいずれかの措置を行う必要があります。

  • (a) タイムスタンプが付与された後の授受: 取引先から受け取るデータに、あらかじめタイムスタンプが付与されている。
  • (b) 速やかなタイムスタンプの付与: データを受け取った後、速やかに(概ね7営業日以内)自社でタイムスタンプを付与する。
  • (c) 訂正・削除が記録される、または禁止されたシステムでの授受・保存: データの訂正や削除の履歴が残る、あるいはそもそも訂正・削除ができないクラウドサービスなどを利用する。
  • (d) 訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け: これが中小企業や個人事業主にとって最も現実的な方法です。「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」という雛形を国税庁のサイトからダウンロードし、それに従って社内ルールを定め、運用します。この規程を整備しておけば、高価なタイムスタンプシステムの導入は不要です。

2. 関係書類の備付け(システムの概要書など)

  • 電子取引データの保存に使用しているシステム(会計ソフト、クラウドストレージなど)の概要を記載した書類を備え付け、いつでも確認できるようにしておく必要があります。

3. 見読可能性の確保(ディスプレイ・プリンタの備付け)

  • 保存した電子データを、税務調査などの際に、明瞭な状態で速やかに出力(ディスプレイに表示、または紙に印刷)できるように、パソコン、ディスプレイ、プリンタなどを備え付けておく必要があります。

4. 検索機能の確保

  • 税務調査官から「〇月〇日の、A社に対する請求書を見せてください」といった要求があった際に、速やかに該当のデータを検索・表示できるようにしておく必要があります。
  • 原則的な要件: 以下の3つの項目で検索できることが求められます。
    1. 取引年月日
    2. 取引金額
    3. 取引先
  • ファイル名の工夫による対応:
    • 例えば、「20241225_株式会社〇〇_110000.pdf」といったように、「日付_取引先名_金額」のルールでファイル名を統一することで、この検索要件に対応できます。
  • 索引簿の作成による対応:
    • Excelなどで、「日付」「取引先名」「金額」「ファイル名」などを一覧にした索引簿を作成し、それとデータを紐付けて管理する方法もあります。

中小企業・個人事業主のための「緩和措置」

「こんな面倒なこと、うちでは対応できない…」と感じた方も多いでしょう。そこで国は、事業者の負担を軽減するため、いくつかの緩和措置を設けています。

緩和措置①:検索要件の緩和

  • 対象者: 判定期間(2年前/2期前)の売上高が5,000万円以下の事業者。
  • 内容:
    • 税務調査の際に、税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしておけば、上記の検索機能の確保要件(日付・金額・取引先での検索)が不要になります。
    • つまり、ファイル名を細かく設定したり、索引簿を作成したりしなくても、単純にデータをフォルダにまとめて保存しておき、調査官に言われたらそのデータを提示できれば良い、ということになります。
  • もう一つの緩和:
    • 売上高にかかわらず、税務調査の際に、日付と取引先でデータを整理した書面(紙)を提示し、職員のダウンロードの求めに応じることができれば、検索要件は不要となります。

緩和措置②:猶予措置(「相当の理由」がある場合)

  • 「システム導入が間に合わない」「資金繰りが厳しくて対応できない」といった 「相当の理由」 があると税務署長が認めた場合には、当面の間、電子データを紙に出力して保存し、調査時に提示・提出できるようにしておけば、電子データの保存は不要とする猶予措置が設けられています。
  • 注意点:
    • これは、あくまで「やむを得ない事情」がある場合の時限的な措置です。
    • 「法律を知らなかった」という理由は、原則として認められません。
    • いつまでこの猶予が続くかは不透明であり、将来的には全ての事業者が電子保存に対応する必要があります。

電子帳簿保存法とインボイス制度がもたらす、経理実務の混乱

2024年1月から、事業者は、インボイス制度と電子帳簿保存法の両方に対応しなければなりません。これにより、経理の実務はさらに複雑化します。

  • 紙とデータの二重管理:
    • 取引先からは、紙のインボイスと、電子データのインボイスが混在して送られてきます。
    • 経理担当者は、紙は紙でファイリングし、データはデータで保存要件を満たして保存するという、二重の管理が必要になります。
  • インボイス番号の確認作業:
    • 受け取った請求書や領収書が、インボイスの要件を満たしているか、記載された登録番号が正しいかを、一件一件確認する必要があります。
  • 消費税率の確認:
    • 軽減税率(8%)と標準税率(10%)が混在している場合、その区分が正しいかを確認する手間も増えます。

これらの業務負担の増加は、特に経理担当者が少ない中小企業にとっては、深刻な問題となり得ます。

電子データ保存の具体的な対策と、起こりうるリスク

では、事業者は具体的にどのように対策すれば良いのでしょうか。

1. 保存方法のルール化

  • 保存場所の決定:
    • 社内のファイルサーバーに保存するのか、あるいはGoogle DriveやDropboxといったクラウドストレージを利用するのか、保存場所を明確に決めます。
    • 推奨はクラウドストレージです。パソコン本体に保存すると、パソコンの故障や買い替え、盗難などでデータが消失するリスクがありますが、クラウド上に保存しておけば、そのリスクを回避できます。
  • ファイル名の命名規則の統一:
    • 前述の通り、「日付_取引先名_金額」といった、後から検索しやすいファイル名のルールを社内で統一します。
  • フォルダ分けのルール化:
    • 「2024年」「12月」「請求書」「領収書」といったように、階層的にフォルダを作成し、データを整理して保存するルールを決めましょう。

2. 「事務処理規程」の整備と備付け

  • 高価なタイムスタンプシステムを導入しない場合は、国税庁が提供している 「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」の雛形 をダウンロードし、自社の状況に合わせて会社名などを修正し、これを社内に備え付けておきましょう。

3. データ保存を怠った場合のリスク

  • 電子取引データを適切に保存していないことが税務調査で発覚した場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
  • 青色申告が取り消されると、青色申告特別控除(最大65万円)や、欠損金の繰越控除、少額減価償却資産の特例といった、多くの税制上のメリットが受けられなくなり、税負担が大幅に増加する可能性があります。
  • また、保存されていないデータにかかる経費については、その支出の事実を証明できないとして、経費として否認されるリスクもあります。

税務調査への影響:調査官のペースに巻き込まれるな!

電子データでの保存が主流になると、税務調査のあり方も変わってくると予測されます。

  • 調査の効率化(調査官側):
    • 調査官は、経理担当者にパソコンを操作させ、必要なデータを検索・表示させることで、短時間で大量の情報を確認できるようになります。
  • 経営者が議論に参加しにくくなるリスク:
    • 調査が、パソコン画面を前にした調査官と経理担当者の間のやり取りが中心となり、経営者がその内容を十分に把握できないまま、調査が進んでしまう可能性があります。
    • その結果、調査官のペースで話が進み、本来であれば反論できるはずの指摘事項についても、不利な認定をされてしまうリスクが高まります。
  • 対策:
    • このリスクを避けるためにも、当面の間は、調査官の求めに応じてデータを紙に印刷して提示するという、従来ながらの調査スタイルを維持する方が、経営者にとっては有利に働くかもしれません。
    • 安易なペーパーレス化は、税務調査においては必ずしもメリットばかりではない、ということも理解しておく必要があります。

まとめ:電子帳簿保存法は「待ったなし」。早期の対策で、リスクを回避しよう!

2024年1月からの電子取引データの保存義務化は、全ての事業者にとって避けては通れない、大きな制度変更です。

今すぐ取り組むべき対策

  1. 自社の「電子取引」を洗い出す: どのような取引を電子データでやり取りしているか、その範囲を正確に把握する。
  2. 保存方法の社内ルールを決定する:
    • 保存場所: パソコン本体ではなく、クラウドストレージの活用を推奨。
    • ファイル名の命名規則: 「日付_取引先名_金額」など、検索しやすいルールを統一する。
    • フォルダ構成: 月別・取引種類別などで整理する。
  3. 「事務処理規程」を整備・備え付ける: タイムスタンプの代替として、国税庁の雛形を活用する。
  4. データの定期的なダウンロードと保存を徹底する: 取引サイトによっては、過去のデータの閲覧・ダウンロードに期限があるため、取引が発生する都度、速やかにデータを保存する習慣をつける。
  5. 緩和措置を理解し、活用する: 売上高5,000万円以下の事業者は、検索要件が免除されることを覚えておく。

インボイス制度と電子帳簿保存法。この2つの大きな制度変更は、中小企業の経理業務に大きな変革を迫るものです。面倒で複雑に感じるかもしれませんが、これに対応できない場合のリスク(青色申告の取り消しなど)は非常に大きいと言わざるを得ません。

「まだ先のこと」と後回しにせず、今のうちから自社の業務フローを見直し、必要な準備を進めていきましょう。もし、自社だけでの対応が難しいと感じる場合は、ITに詳しい税理士などの専門家に相談し、最適な保存システムの構築や、社内ルールの整備について、具体的なアドバイスを受けることをお勧めします。この記事が、その第一歩となれば幸いです。