「個人事業主として、売上が順調に伸びてきた。そろそろ法人化を考えるべきだろうか?」
「法人化すれば、税金が安くなるって聞いたけど、本当?」
「法人成りで失敗したくない。メリットとデメリットを、正直に教えてほしい」
個人事業主として事業が軌道に乗り、利益が増えてくると、多くの人が次のステップとして 「法人化(法人成り)」 を意識し始めます。株式会社や合同会社といった「法人」を設立し、個人事業から法人へと事業形態を変更することです。
「社長」という響きへの憧れ、社会的信用の向上、そして何より 「節税」 への期待。法人化には、確かに多くの魅力があります。
しかし、その一方で、安易な法人化は、 あなたの手取り収入を激減させ、会社の資金繰りを一気に悪化させる、恐ろしい「罠」 にもなり得ることを、ご存知でしょうか。
この記事では、数多くの企業の法人化をサポートしてきた専門家の視点から、
- 多くの人が見落としている、法人化がもたらす最大のデメリット「社会保険料の壁」
- 法人化で失敗しないための、具体的な対策とリスクヘッジの方法
- 法人と個人の「良いとこ取り」を実現する、最強の節税スキーム「マイクロ法人」の活用術
- 法人ならではの、経費計上の絶大なメリット(家賃8割経費など)
- あなたの事業にとって、本当に法人化すべき「最適なタイミング」の見極め方
について、徹底的に、そして包み隠さず解説します。
この記事は、単なる法人化のメリット紹介ではありません。その光と影の両面を正しく理解し、あなたの事業と資産を最大化するための、「失敗しない法人化」の完全ガイドです。この記事が、あなたの重要な経営判断の一助となれば幸いです。
なぜ、人は法人化を目指すのか?その「光」の部分
まず、なぜ多くの個人事業主が法人化を目指すのか、そのメリット(光の部分)から見ていきましょう。
メリット①:税率の構造的な違いによる「節税」
個人事業主にかかる「所得税」は、所得が高くなればなるほど税率も上がる 「累進課税」(最大45%)です。一方、「法人税」は、所得が800万円を超えると、ほぼ一定の税率 (約23%~33%)となります。
そのため、個人事業主として所得が増え続け、所得税率が法人税率を上回るライン(一般的に、課税所得が800万~900万円あたり)に達すると、法人化した方が、支払う税金の総額が安くなる、という逆転現象が起こります。これが、法人化による節税の最も基本的な考え方です。
メリット②:経費として認められる範囲が広がる
法人化すると、個人事業主では認められなかったような支出も、会社の 「経費(損金)」 として計上できるようになり、節税の選択肢が大きく広がります。
- 社長自身への給与(役員報酬):個人事業主は自分に給料を払えませんが、法人は社長に役員報酬を支払うことができ、それは会社の経費になります。
- 社長への退職金:将来、社長が退職する際に、高額な退職金を支払うことができ、それも会社の経費となります。退職金は、税制上非常に優遇されています。
- 生命保険料:社長を被保険者とする生命保険の保険料の一部または全額を、会社の経費にすることができます。
- 社宅制度の活用:自宅を法人名義で借り上げ、「社宅」として社長に貸し出すことで、 家賃の大部分(8割~9割程度) を会社の経費にすることが可能です。
これらの強力な経費化スキームは、法人だけに許された特権です。
メリット③:社会的信用の向上
そして、何より「株式会社」という看板は、社会的な信用力を大きく高めます。
- 取引の拡大:大企業の中には、「法人でなければ取引しない」という方針の会社も少なくありません。法人化することで、ビジネスチャンスが広がります。
- 資金調達:一般的に、個人事業主よりも法人の方が、銀行からの融資を受けやすい傾向にあります。
- 人材採用:求人を行う際にも、「個人商店」よりも「株式会社」の方が、応募者が集まりやすいでしょう。
法人化の最大の罠:「社会保険料」の負担が激増する!
ここまで聞くと、法人化は良いことずくめのように思えるかもしれません。しかし、ここからが本題です。これらのメリットを、一瞬で吹き飛ばしてしまうほどの、強烈なデメリットが存在します。
それが、「社会保険(健康保険・厚生年金)」への強制加入です。
個人事業主の場合、従業員が5人未満であれば、社会保険への加入は任意です。多くの方は、国民健康保険と国民年金に加入しているでしょう。
しかし、法人を設立すると、たとえ社長一人だけの会社であっても、社会保険への加入が法律で義務付けられます。そして、その保険料は、社長に支払われる「役員報酬」の額に応じて決定されます。
問題なのは、この社会保険料が、非常に高額であるということです。
保険料は、会社と個人が折半で負担しますが、その合計額は、役員報酬のおおよそ 30% にも及びます。
例えば、月額50万円の役員報酬を設定した場合、
- 社長個人の負担:約7.5万円
- 会社の負担:約7.5万円
- 合計:月々約15万円、年間で180万円もの金額が、社会保険料として徴収されることになるのです。
個人事業主時代の国民健康保険・国民年金の負担額と比較すると、その差は歴然です。
多くの人が、「節税」というメリットにばかり目を奪われ、この 「社会保険料の激増」という最大のデメリットを見落としたまま法人化し、結果として「税金は安くなったけど、社会保険料の負担が重すぎて、手取りが個人事業主時代より減ってしまった…」 という、悲劇的な事態に陥ってしまうのです。
失敗しない法人化のための最強戦略:「マイクロ法人」の活用
では、この「社会保険料の壁」という最大の罠を回避しながら、法人ならではのメリットを享受する方法はないのでしょうか。
その答えが、一部の賢い経営者が実践している、 「マイクロ法人」 というスキームです。
マイクロ法人とは、その名の通り、社長一人(あるいは家族のみ)で運営する、ごく小規模な会社のことです。このマイクロ法人と、既存の個人事業を 「併用」 することで、法人と個人の「良いとこ取り」を実現するのです。
「個人事業+マイクロ法人」二刀流の仕組み
- メインの事業は、これまで通り「個人事業主」として継続します。
→ 事業の利益の大部分は、個人事業で上げるようにします。個人事業の所得には、社会保険料(厚生年金・健康保険)はかかりません。 - 節税・社会保険料対策のためだけに、「マイクロ法人」を設立します。
→ この法人では、大きな売上や利益を上げる必要はありません。 - マイクロ法人から、自分自身に対して、社会保険料が最低ランクになる、ごく少額の「役員報酬」を支払います。
→ 例えば、月額6万円程度の役員報酬を設定します。これにより、あなたは、このマイクロ法人で社会保険に加入することができます。月6万円の報酬に対する社会保険料は、会社負担と個人負担を合わせても、月々2万円程度と、非常に安価です。 - 法人ならではの節税メリットは、このマイクロ法人側で活用します。
→ 自宅をマイクロ法人で借り上げて「社宅」にしたり、「出張旅費規程」を設けたり、倒産防止共済に加入したり…。これらの節税メリットは、すべてマイクロ法人で享受します。
【このスキームのポイント】
- 収入の大部分 → 個人事業で得る(社会保険料がかからない)
- 社会保険への加入 → マイクロ法人の低い役員報酬で行う(保険料を最小化)
- 法人ならではの節税 → マイクロ法人でフル活用する
このように、法人と個人の役割を明確に使い分けることで、税金と社会保険料、両方の負担を、合法的に、かつ劇的に最適化することが可能になるのです。
法人化の手続きと、注意すべきポイント
「マイクロ法人」という選択肢も含め、法人化を検討する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。
1. 法人設立の手続き
株式会社や合同会社を設立するためには、定款の作成・認証や、法務局への登記申請など、様々な手続きが必要です。自分で行うことも可能ですが、時間と手間がかかるため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。
2. 運営コストの発生
法人を維持するためには、たとえ赤字であっても、最低限支払わなければならない税金(法人住民税の均等割、年間7万円程度)や、決算申告を税理士に依頼するための費用など、個人事業主時代にはなかった運営コストが発生します。
3. 「いきなり完全法人化」は危険
個人事業主から、いきなりすべての事業を法人に移管する「完全な法人化」は、リスクが伴います。特に、設立1年目は、売上が不安定になりがちで、かつ法人設立の初期費用もかさむため、資金繰りが厳しくなるケースが多いからです。
まずは、個人事業とマイクロ法人を併用する「二刀流」からスタートし、事業が安定・成長していく中で、徐々に法人への事業移管を進めていく、といった段階的なアプローチが、失敗のリスクを抑える上で非常に有効です。
まとめ:法人化は「目的」ではなく、事業を成長させるための「手段」である
今回は、個人事業主が法人化を検討する際の、メリットと、そして多くの人が見落としがちな「社会保険料」という大きなデメリットについて、具体的な対策とともに解説しました。
- 法人化のメリットは、「税率の有利性」「経費範囲の拡大」「社会的信用の向上」にあります。
- しかし、最大のデメリットは「社会保険料の負担激増」です。節税額以上に社会保険料が増え、手取りが減ってしまう「法人成り貧乏」のリスクを、正しく理解する必要があります。
- このリスクを回避し、法人と個人の「良いとこ取り」を実現する最強の戦略が、「個人事業+マイクロ法人」という二刀流です。
- 「二刀流」スキームでは、収入の大部分は個人事業で得て、社会保険への加入と法人ならではの節税は、役員報酬を低く設定したマイクロ法人で行います。
- 法人化は、ゴールではありません。それは、あなたの事業を次のステージへと進めるための、数ある「手段」の一つに過ぎません。
「節税できるから」という、ただ一つの理由だけで、安易に法人化に飛びつくべきではありません。
それは、あなたの事業の現状、将来のビジョン、そしてあなた自身のライフプランを総合的に考慮した上で、慎重に判断すべき、極めて重要な経営判断です。
そして、その判断に迷った時、あなたのビジネスに合った最適なアドバイスをくれるのが、税理士という専門家の存在です。法人化のメリット・デメリットをシミュレーションし、あなたにとって最適なタイミングと方法を、共に考えてくれるでしょう。
ぜひ、この記事を参考に、あなた自身の「法人化戦略」を、じっくりと検討してみてください。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。