法人から個人事業主に戻す方法と、そのメリット・デメリット

法人設立

「戻したい」と思う法人経営者が急増中?

法人化は、個人事業主よりも節税・信用・スケーラビリティの観点で有利とされ、多くの方が一度は通るステップです。しかし、実際に法人を設立して運営する中で、

  • 「思ったよりコストがかかる…」
  • 「業務が複雑で管理が大変」
  • 「利益がそこまで出ないのに固定費が重い」
  • 「個人のほうが柔軟に動けるのでは…?」

という悩みを持つ人が増えています。

実際に「法人をたたんで、個人事業に戻す」ケースは2020年以降特に増えており、2023年の東京商工リサーチの調査でも、年間で約7万社以上が法人解散を行っているとの報告もあります。

そこで今回は、「法人 → 個人事業主」へ戻すための方法と、そこに伴うメリット・デメリットを徹底的に解説していきます。

1. 法人から個人事業主へ戻す方法(実務)

法人を閉じて個人に戻るには、会社の「解散」と「清算」という手続きが必要になります。

1-1. 法人の解散手続きとは?

法人をやめるには、まず以下のフローを踏む必要があります。

ステップ①:株主総会で解散を決議(合同会社でも同様の意思決定)

法人を閉じるためには、「解散の決議」を取ります。合同会社であれば、社員の合意、株式会社であれば株主総会での特別決議(議決権の3分の2以上)が必要です。

ステップ②:解散登記を法務局で行う

解散日から2週間以内に「解散登記」を法務局へ提出。登録免許税は3万円です。

ステップ③:清算人の選任・登記

通常は代表取締役(社長)がそのまま清算人になります。登記が必要。

ステップ④:官報公告・債権者保護手続き

「清算するから、債権者は申し出てください」という内容を官報に公告します(最低2か月間)。

1-2. 清算手続きとは?

会社の資産・債務・経費などをすべて清算してから、法人格が消滅します。

ステップ⑤:資産・負債の整理

預金・売掛金・備品などをすべて金銭換算し、負債(借入・買掛金・未払費用など)と差し引きます。

ステップ⑥:税務署等への解散届・清算確定申告

  • 解散届出書(法人税・消費税)
  • 解散時・清算確定申告(最後の決算)

ステップ⑦:残余財産の分配 → 解散完了

最終的に残った資産(キャッシュや機材など)は株主に分配されます。これが「みなし配当」として個人所得税の対象になります。

2. 法人→個人に戻すメリット

2-1. 固定費の大幅削減

法人を維持するには、たとえ売上ゼロでも毎年必ず以下の費用が発生します。

費用項目年間目安
法人住民税(均等割)約7万円
社会保険(役員報酬に連動)月8万円で年25万円前後
税理士費用(法人決算)15万円〜40万円
法人登記維持・更新費数万円
官報公告(清算時も必要)3万円程度

→ 最低でも 年間40万円〜80万円 の負担があると言われています。

個人事業主であれば、住民税(個人)、国民健康保険、国民年金の支払いのみとなり、法人特有の負担はなくなります。

2-2. 手続きの簡素化・自由度の回復

法人では役員報酬の設定、決算報告書作成、商業登記、税理士とのやりとりなど事務的負担が多くありますが、個人事業主に戻すことでこれらから解放されます。

具体的には:

  • 決算:青色申告で簡易帳簿でもOK
  • 税理士不要(ソフトで申告可能)
  • 法務局での手続きが不要
  • 役員報酬の制限がなく、所得全体を自分の裁量で調整可能

2-3. 赤字でも“生きやすい”事業形態

個人事業主は、たとえ赤字であっても事業継続が自由です。法人は赤字でも税金(均等割)・登記義務が残るため、収益が不安定な人にとっては、個人形態のほうがリスクが低くなります。

3. 法人→個人に戻すデメリット

3-1. 信用力の低下

法人格があると、以下のようなメリットがあります。

  • 法人口座開設しやすい
  • 融資や補助金申請に強い
  • 契約時に「会社名義」で対応可能
  • 企業とのBtoB取引に有利

個人事業に戻ると、法人名義が消滅するため、これらの信用力が失われます。

3-2. 節税メリットの消滅

一定以上の所得(例:900万円超)があると、個人事業主の所得税率は法人税率を超えていきます。

所得額個人の税率(所得税+住民税)
900万円約33%
1,000万円約43%
2,000万円以上約50%

法人では、利益800万円以下で15%、それ以上で23.2%程度の法人税率に抑えられるため、所得が高い人ほど法人化の恩恵は大きくなります。


3-3. 事業承継・資産管理の制約

法人は代表交代による事業承継や、資産(不動産・著作権など)の法人所有が可能です。個人だとそれが難しく、家族に引き継ぎたい場合は再び法人化する必要が生じる可能性があります。

まとめ

個人に戻る前には、必ず清算処理・税務処理・債務確認を済ませておくこと。そして、将来再び法人化したい場合のために、過去の法人名や会計データをしっかり保管しておくことをおすすめします。

「今の事業フェーズに合った形で働くこと」が、あなたのビジネスを最も健全に成長させる鍵です。法人か個人か迷ったら、税理士や行政書士などの専門家に早めに相談するのが成功の近道です。