「会社を設立したいけれど、株式会社と合同会社、どちらが良いのだろう?」
「合同会社は設立費用が安いと聞くけど、デメリットはないの?」
近年、Apple JapanやGoogle、アマゾンジャパンといった有名企業も採用している「合同会社(LLC:Limited Liability Company)」という会社形態が注目を集めています。株式会社と比較して設立手続きが簡便で費用も抑えられることから、特に小規模な事業を始める方や、個人事業主からの法人成りを目指す方にとって、魅力的な選択肢の一つとなっています。
しかし、合同会社には株式会社とは異なる特徴があり、メリットだけでなくデメリットも存在します。安易に選択すると、後々思わぬ問題に直面する可能性も否定できません。
この記事では、合同会社の基本的な仕組みから、株式会社と比較した場合のメリット・デメリット、設立手続きの流れ、そしてどのようなケースで合同会社が適しているのかまで、網羅的かつ分かりやすく解説していきます。あなたの事業に最適な会社形態を見つけるための一助となれば幸いです。
合同会社(LLC)とは?その基本的な特徴と株式会社との違い
まず、合同会社とはどのような会社形態なのか、その基本的な特徴と、最も一般的な会社形態である株式会社との違いを整理しておきましょう。
合同会社(LLC)の基本的な特徴
- 2006年の会社法施行により導入された新しい会社形態: 比較的新しい形態ですが、その柔軟性と設立の容易さから、近年設立件数が増加しています。
- 出資者=経営者(原則): 合同会社の出資者(社員と呼びます)は、原則として会社の経営も行います。株式会社のように「所有(株主)と経営(取締役)の分離」という概念は基本的にありません。
- 有限責任: 出資者は、株式会社の株主と同様に、会社が倒産した場合でも、自身が出資した金額の範囲内でのみ責任を負います(有限責任)。個人事業主のように無限責任を負うことはありません。
- 定款自治の範囲が広い: 会社の運営ルールなどを定める「定款」の内容を、法律の範囲内で比較的自由に設計できます。利益配分や権限なども、出資額の割合によらず、社員間で柔軟に決定することが可能です。
株式会社との主な違い
項目 | 合同会社(LLC) | 株式会社(Kabushiki Kaisha, KK) |
最高意思決定機関 | 社員総会 | 株主総会 |
業務執行機関 | 業務執行社員(原則として全社員) | 取締役(または取締役会) |
出資者の名称 | 社員 | 株主 |
責任の範囲 | 有限責任 | 有限責任 |
設立費用(概算) | 約6万円~(登録免許税のみの場合) | 約20万円~(登録免許税、定款認証手数料など) |
定款認証 | 不要 | 必要(公証役場での認証) |
役員の任期 | なし(定款で定めることは可能) | あり(原則2年、最長10年、任期ごとに登記が必要) |
利益配分 | 定款で自由に決定可能(出資額によらない配分も可) | 原則として出資額(株式数)に応じて配当 |
決算公告義務 | なし | あり(官報、日刊新聞紙、電子公告のいずれか) |
資金調達 | 主に社員からの出資、金融機関からの借入 | 社員からの出資、金融機関からの借入、株式発行による資金調達 |
上場(株式公開) | 不可 | 可能 |
社会的信用度 | 株式会社に比べてやや低いと見なされる場合がある | 一般的に高い |
意思決定 | 原則として社員全員の一致(定款で別段の定めも可) | 多数決(株主総会、取締役会) |
これらの違いを理解した上で、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
合同会社のメリット:なぜ選ばれるのか?その魅力とは
合同会社が選ばれる主な理由、つまりメリットは以下の通りです。
1. 設立費用が安い
- 株式会社との比較: 株式会社を設立する場合、定款認証手数料(約3~5万円)と登録免許税(最低15万円)などで、合計約20万円以上の費用がかかります(電子定款を利用しない場合はさらに印紙代4万円が必要)。
- 合同会社の場合: 合同会社は定款認証が不要で、登録免許税も最低6万円からとなっています。したがって、株式会社と比較して設立費用を大幅に抑えることができます。 これは、初期投資をできるだけ少なくしたいスモールスタートの起業家にとって大きな魅力です。
2. 設立手続きが比較的簡単でスピーディー
- 定款認証が不要: 株式会社で必要な公証役場での定款認証手続きが不要なため、その分の手間と時間を削減できます。
- 必要書類の簡略化: 設立時に必要な書類も、株式会社と比較して少ない傾向にあります。
- これにより、専門家に依頼せずに自身で設立手続きを行うハードルも比較的低いと言えます。
3. 役員の任期がない(更新手続き・費用が不要)
- 株式会社の取締役には任期があり(原則2年、非公開会社の場合は定款で最長10年まで伸長可能)、任期が満了するたびに役員変更(重任)の登記手続きと登録免許税(1万円または3万円)が必要となります。
- 一方、合同会社の社員(役員に相当)には、法律上の任期はありません。 もちろん、定款で任期を定めることは可能ですが、定めなければ役員変更登記の手間や費用を気にする必要がありません。これは、特に役員が長期間変わらない小規模な会社にとっては、運営上の負担軽減に繋がります。
4. 利益配分や権限の自由度が高い(定款自治)
- 株式会社では、利益の配当は原則として出資額(保有株式数)に応じて行われます。
- 合同会社では、定款で定めることにより、利益配分を出資額の割合によらず、社員の貢献度や役割などに応じて柔軟に決定することができます。 例えば、出資額は少ないが、事業の中心的な役割を担う社員に多くの利益を配分するといったことも可能です。
- 同様に、業務執行の権限についても、社員間で自由に定めることができます。
5. 決算公告の義務がない
- 株式会社は、毎事業年度終了後、貸借対照表などの決算内容を公告する義務があります(官報、日刊新聞紙、または自社ホームページなどでの電子公告)。これには費用と手間がかかります。
- 合同会社には、この決算公告の義務がありません。 これにより、公告費用を削減できるだけでなく、会社の財務状況を外部に公開する必要がないというメリットもあります(ただし、債権者など利害関係者からの請求があれば開示義務はあります)。
6. 意思決定の迅速化(社員数が少ない場合)
- 株式会社では、重要な意思決定は株主総会や取締役会といった会議体での決議が必要となり、手続きに時間がかかる場合があります。
- 合同会社では、原則として社員全員の同意によって意思決定が行われます。社員数が少ない場合は、迅速かつ柔軟な意思決定が可能となります。
合同会社のデメリット:注意すべき点と株式会社との比較
魅力的なメリットが多い合同会社ですが、以下のようなデメリットや注意点も存在します。
1. 社会的信用度が株式会社に比べて低い場合がある
- 合同会社は比較的新しい会社形態であり、まだ一般的に「株式会社」ほどの知名度や信頼感がないと見なされる場合があります。
- 取引先や金融機関によっては、合同会社であることを理由に取引条件が厳しくなったり、融資審査で不利になったりする可能性もゼロではありません。 ただし、近年は有名企業も合同会社の形態を取るケースが増えており、このデメリットは徐々に薄れつつあります。
- 人材採用においても、求職者が「合同会社」という形態に馴染みがなく、不安を感じる可能性も考えられます。
2. 資金調達の方法が限定される(株式発行による増資ができない)
- 株式会社は、株式を発行することで、広く一般の投資家から出資を募ることができます(上場企業など)。
- 合同会社は、株式を発行するという概念がないため、外部からの大規模な出資を受けることには不向きです。 資金調達は、主に社員からの追加出資、金融機関からの借入、あるいは新たな社員の加入による出資に頼ることになります。
- 将来的に事業を大きく拡大し、多額の資金調達が必要となる可能性がある場合は、株式会社の方が適していると言えます。
3. 上場(株式公開)ができない
- 会社の成長戦略として、将来的に株式市場への上場(IPO)を目指しているのであれば、合同会社は選択できません。上場できるのは株式会社のみです。
- もし、設立当初は合同会社でスタートし、将来的に上場を目指すことになった場合は、途中で株式会社へ組織変更する手続きが必要となります。
4. 社員の意見が対立した場合、意思決定が困難になるリスク
- 合同会社の意思決定は、原則として社員全員の同意が必要です(定款で別段の定めも可能)。
- 社員数が少ないうちは迅速な意思決定が可能ですが、社員数が増えたり、社員間で意見が対立したりすると、意思決定が滞り、経営が停滞するリスクがあります。
- 株式会社であれば、多数決の原理(株主総会や取締役会)によって意思決定を進めることができますが、合同会社では社員間の合意形成がより重要となります。
5. 社員の退社・持分の譲渡が複雑になる場合がある
- 社員の退社: 合同会社の社員が退社する場合、原則として持分の払い戻し請求権が発生します。会社の財産状況によっては、この払い戻しが経営を圧迫する可能性があります。
- 持分の譲渡: 社員がその持分を第三者に譲渡するには、原則として他の社員全員の同意が必要です。株式会社の株式のように自由に売買することはできません。これにより、出資の回収が難しくなる場合があります。
6. 利益相反取引の規制が緩い(経営者の規律が求められる)
- 株式会社では、取締役が会社と個人的な取引(利益相反取引)を行う場合、株主総会や取締役会の承認が必要など、厳格な規制があります。
- 合同会社では、このような利益相反取引に関する規制が株式会社ほど厳しくありません。これは、経営の自由度が高い反面、経営者(業務執行社員)のモラルや規律がより強く求められることを意味します。経営者が会社の利益よりも個人の利益を優先するような行為を防ぐための内部統制が重要となります。
7. 代表者の肩書きが一般的でない場合がある
- 株式会社の代表者は「代表取締役」という肩書きが一般的です。
- 合同会社の業務執行社員の代表者は、定款で定めることにより「代表社員」や「社長」「CEO」といった肩書きを名乗ることができますが、「代表取締役」を名乗ることはできません。
- 対外的に「社長」と名乗ることは可能ですが、登記上の正式な肩書きが「代表社員」であることに、取引先が馴染みがないと感じる可能性も考慮しておく必要があります。
合同会社の設立手続きの流れ(概要)
合同会社の設立手続きは、株式会社と比較して簡便ですが、基本的な流れは以下の通りです。
- 会社概要の決定: 商号、本店所在地、事業目的、資本金の額、社員構成、業務執行社員、代表社員などを決定します。
- 定款の作成: 決定した会社概要に基づき、定款を作成します。合同会社の定款は、株式会社と異なり、公証役場での認証は不要です。
- 資本金の払込み: 社員となる者が、出資金を払い込みます(通常は代表社員となる人の個人口座に振り込む)。
- 登記申請書類の作成: 法務局に提出するための設立登記申請書や、その他添付書類を作成します。
- 設立登記の申請: 管轄の法務局に登記申請を行います。この申請日が会社設立日となります。登録免許税(最低6万円)を納付します。
- 設立後の手続き: 登記完了後、登記事項証明書や印鑑証明書を取得し、税務署や都道府県税事務所、市町村役場などへの各種届出、銀行口座の開設などを行います。
自身で手続きを行うことも可能ですが、手間や時間を考慮すると、司法書士や行政書士などの専門家に依頼することも有効な選択肢です。
どんな場合に合同会社が適しているのか?
では、どのようなケースで合同会社を選択するのが適しているのでしょうか。
合同会社が適していると考えられるケース
- 設立費用やランニングコストを抑えたい場合: 特にスモールスタートの個人事業主やフリーランスが法人成りする場合。
- 迅速な意思決定が求められる小規模な事業: 社員数が少ない、あるいは一人で経営する場合。
- 出資額によらない柔軟な利益配分をしたい場合: 特定の社員の貢献度を高く評価したい場合など。
- 役員の任期を気にせず、長期的な経営をしたい場合。
- 決算公告の義務を避けたい場合。
- 上場(株式公開)を現時点では考えていない場合。
- BtoCビジネスなど、会社の形態よりも商品やサービスの魅力が重視される事業: 例えば、飲食店、美容室、小売店、クリエイターなど。
- 許認可事業で、法人格が必要だが株式会社である必要はない場合。
- 資産管理会社として: 個人の資産管理を目的として設立する場合、運営の自由度が高い合同会社が適していることがあります。
一方で、以下のような場合は、株式会社の方が適している可能性が高いと言えます。
- 将来的に大規模な資金調達(株式発行による増資)を考えている場合。
- 株式市場への上場(IPO)を目指している場合。
- 社会的信用度や知名度をより重視する場合(特にBtoB取引が多い事業など)。
- 多数の出資者や従業員を抱え、組織的な経営体制が必要な場合。
合同会社から株式会社への組織変更は可能か?
「最初は合同会社でスタートし、事業が軌道に乗ったら株式会社に変更したい」と考える方もいるでしょう。合同会社から株式会社への組織変更は、法律上可能です。
ただし、組織変更には、社員全員の同意、債権者保護手続き、新たな定款の作成、登記申請など、一定の手続きと費用、時間がかかります。設立当初から将来的な株式会社化を視野に入れているのであれば、最初から株式会社を選択する方が効率的な場合もあります。
まとめ:自社のビジョンと戦略に最適な会社形態を選ぼう!
合同会社は、設立費用や運営コストを抑えられ、経営の自由度も高いという点で、特に小規模な事業やスモールスタートを目指す方にとって魅力的な会社形態です。しかし、社会的信用度や資金調達の面では、株式会社に劣る可能性があるというデメリットも理解しておく必要があります。
合同会社設立のメリット・デメリット再確認
- メリット:
- 設立費用が安い
- 設立手続きが比較的簡単
- 役員の任期がない
- 利益配分や権限の自由度が高い
- 決算公告の義務がない
- デメリット:
- 社会的信用度が株式会社に比べて低い場合がある
- 資金調達の方法が限定される(株式発行不可)
- 上場できない
- 社員間の意見対立で意思決定が困難になるリスク
- 社員の退社・持分譲渡が複雑な場合がある
どちらの会社形態が「良い」「悪い」ということではなく、自社の事業内容、規模、将来の展望、経営者の価値観など、様々な要素を総合的に考慮し、最も適した形態を選択することが重要です。
会社設立は、事業を大きく飛躍させるための重要なステップです。安易な判断で後悔することのないよう、本記事で解説した内容を参考に、必要であれば税理士や司法書士といった専門家のアドバイスも受けながら、慎重に検討を進めてください。あなたの事業が、最適な会社形態のもとで力強く発展していくことを心より願っております。