会社は「大規模」を目指すべきか、「小規模」を維持すべきか?経営のプロが教える答えの見つけ方

法人設立

「うちの会社は、これからどんどん規模を拡大していくべきなのだろうか?」
「今の小規模な状態を維持する方が、実は幸せなのではないだろうか?」
「大企業と中小企業、それぞれのメリット・デメリットを正しく理解して、自社の進むべき方向性を決めたい」

会社の経営者であれば、一度は 「自社の規模をどうするか」 という、経営の根幹に関わる大きな問いに直面するのではないでしょうか。世の中には、果敢に規模の拡大を目指し続ける会社もあれば、あえて小規模な状態を維持し、独自の価値を提供し続ける会社もあります。

果たして、どちらが「正しい」のでしょうか?

結論から言うと、この問いに 唯一絶対の正解はありません。しかし、あなたの会社にとっての「最適な答え」 を見つけるための、明確な考え方は存在します。

この記事では、これまで1万社以上の企業の経営指導に携わってきた専門家の視点から、「大規模な会社」と「小規模な会社」が持つそれぞれのメリットを徹底的に比較分析し、あなたの会社が進むべき道を見極めるための本質的なフレームワークを解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と明確なビジョンを手に入れることができます。

  • 大規模な会社が持つ「採用力」と「俗人性の低下」という2大メリットを深く理解できます。
  • 小規模な会社が持つ「スピード感」と「固定費の抑制」という強みを再認識できます。
  • 会社の進むべき規模が、経営者の「ゴール設定」によって決まるという、経営の本質に気づくことができます。
  • そして、大規模を目指すにせよ、小規模を維持するにせよ、すべての会社が絶対に学ばなければならない「ある重要なスキル」を知ることができます。

もし、あなたが今、自社の未来の姿について少しでも迷いを感じているのであれば、この記事は、その霧を晴らし、進むべき道を照らす灯台となるはずです。

「大規模」を目指すことのメリット:安定と信用の獲得

まず、会社を大きくしていくこと、つまり「大規模化」がもたらすメリットについて見ていきましょう。その恩恵は、主に「人」に関する部分に現れます。

メリット①:採用力が劇的に向上する

会社の規模が大きくなることの、最も分かりやすく、そして強力なメリットが 「採用力」の向上 です。

想像してみてください。あなたが自動車整備士を目指す就職活動中の学生だとしたら、以下の2つの会社のうち、どちらに魅力を感じるでしょうか。

  • A社:従業員1万人を誇る、全国的に有名な大手自動車関連企業。
  • B社:社長が一人で切り盛りしており、入社すれば社長とマンツーマンで働くことになる、町の小さな整備工場。

もちろん、B社のような環境を好む人もいるでしょう。しかし、大多数の求職者は、安定性や知名度、同期の存在などを求めて、A社のような大企業を選択する傾向にあります。

多くの学生が良い大学を目指す理由の一つも、その先にある「大企業への就職」という切符を手に入れるため、という側面が大きいのが現実です。優秀な人材ほど、まずは大企業を志望するため、中小企業は常に採用活動で苦戦を強いられています。

求人媒体にお金を出しても応募が来ない、時給を上げても人が集まらない…そんな人手不足に悩む多くの中小企業にとって、会社の規模を大きくし、知名度や安定性を高めることは、優秀な人材を惹きつけ、採用コストを下げるための極めて有効な戦略となるのです。

メリット②:俗人性が下がり、事業が安定する

大規模化がもたらすもう一つの大きなメリットは、 「俗人性(ぞくじんせい)の低下」 です。

俗人性とは、事業が特定の一個人に依存してしまう度合いのことです。

従業員が5人しかいない会社では、一人の社員が会社の仕事の20%を担っていることになります。もし、そのエース社員が突然辞めてしまったら、会社の売上の20%が失われ、事業の継続そのものが危うくなるかもしれません。このように、小規模な会社は、一人の退職が経営に与えるインパクトが非常に大きくなります。

一方で、従業員が1万人いる大企業ではどうでしょうか。一人の社員が辞めても、その仕事は他の多くの社員でカバーすることが可能です。会社の仕組みとして業務が回っているため、一個人の退職が会社全体の経営を揺るがすことはありません。「自分が辞めたら、この会社は回らない」と考える社員は多いですが、残念ながら、大企業は問題なく回り続けます。

会社の規模を大きくしていくことは、こうした一人への依存度を下げ、特定の誰かがいなくなっても事業が揺らがない、安定した経営基盤を築くことに繋がるのです。

「小規模」を維持することのメリット:スピードと柔軟性の獲得

では次に、あえて規模を拡大せず、「小規模」な状態を維持することのメリットを見ていきましょう。その強みは、大企業にはない 「スピード感」「柔軟性」 にあります。

メリット①:意思決定のスピードが速い

小規模な会社の最大の武器は、意思決定のスピードです。社長の一存で、物事を即座に決断し、実行に移すことができます。

例えば、「明日から、新規事業としてタピオカ屋を始めるぞ!」という突飛なアイデアも、小規模な会社であれば、社長の鶴の一声で実現できてしまいます。

しかし、これが数千、数万人の社員を抱える大企業であればどうでしょうか。新しい事業を始めるためには、数多くの部署の承認を得て、取締役会で稟議を通し、株主への説明責任も果たさなければなりません。たった一つのことを決めるのに、数ヶ月、場合によっては年単位の時間がかかってしまいます。

時代の変化が激しい現代において、この 意思決定のスピードの差は、企業の競争力を大きく左右します。 チャンスの波が来た時に、すぐさま飛び乗れる身軽さこそ、小規模な会社が持つ最大の強みなのです。

メリット②:固定費が上がりづらい

規模が大きくなると、何をするにも莫大なコストがかかるようになります。

  • 福利厚生:全社員に月1,000円の昼食代を補助する、という制度を導入する場合、従業員10人の会社なら月1万円のコストですが、1万人の会社なら月1,000万円ものコストになります。
  • オフィス移転:数人が働くオフィスと、数千人が働くビルとでは、移転にかかる費用は桁違いです。
  • システム導入:新しいITツールを全社導入する際のライセンス費用も、人数に比例して膨れ上がります。

このように、大企業は、その巨体ゆえに、少し動くだけで莫大な固定費が発生します。そのため、新しい挑戦へのハードルが高くなり、変化に対して鈍感になりがちです。

一方で、小規模な会社は、固定費が低く抑えられているため、低コストで新しい試みにチャレンジし、もしうまくいかなくてもすぐに撤退する、といった柔軟な動きが可能です。この「フットワークの軽さ」もまた、小規模ならではの大きなメリットです。

メリット③:社長の目が隅々まで行き届く

一般的に、社長一人が直接マネジメントできる従業員の数は、20人程度が限界と言われています。

小規模な会社であれば、社長が全社員の顔と名前、それぞれの得意なことや課題を把握し、直接コミュニケーションを取りながら経営を進めることができます。

しかし、規模が大きくなり、社長の目が届かなくなると、社長と現場の社員の間に「管理職(マネージャー)」という中間層を置く必要が出てきます。これにより、組織の階層が増え、情報伝達のスピードが落ちたり、社長の意図が正しく伝わらなくなったりと、新たな問題が発生します。

社長がすべてを自分の目で見て、直接コントロールできる範囲内で経営を行えることも、小規模であることのメリットの一つと言えるでしょう。

【結論】目指すべき規模は、あなたの「ゴール設定」によって決まる

ここまで、大規模と小規模、それぞれのメリットを見てきました。では、結局のところ、どちらを目指すべきなのでしょうか。

その答えは、あなたの、そしてあなたの会社の「ゴール」がどこにあるかによって決まります。

「何を成し遂げたいのか?」

すべての判断は、この問いから始まります。

例えば、あなたのゴールが、
「今いる仲間たちと、地域に密着した質の高いサービスを提供し続け、全員が幸せに暮らせる会社を作ること」
なのであれば、無理に規模を拡大する必要は全くありません。むしろ、小規模であることのメリットを最大限に活かし、安定した経営を続けるべきです。

一方で、あなたのゴールが、
「日本のすべてのお年寄りが、ITを使いこなして豊かな生活を送れる社会を実現すること」
という壮大なビジョンなのであれば、数人のチームでそれを成し遂げるのは不可能です。全国に拠点を広げ、多くの人材を巻き込み、会社を大規模にしていく必要があります。

このように、メリット・デメリットで判断するのではなく、まず自らが目指す「ゴール」を明確に設定し、そのゴールを達成するために最適な「規模」はどれくらいなのか、と逆算して考えることが、経営戦略における正しいアプローチなのです。

すべての経営者が絶対に学ぶべき「数字」の力

そして、大規模を目指すにせよ、小規模を維持するにせよ、すべての経営者が、会社の規模に関わらず、絶対に身につけなければならないスキルがあります。

それが、 自社の経営状態を客観的に把握するための「数字を読む力」 です。

  • 自社の売上はいくらか?
  • 利益はどれくらい出ているのか?
  • お金の流れ(キャッシュフロー)はどうなっているのか?

これらの数字を見ずに会社を経営することは、計器を見ずに飛行機を操縦するようなものであり、極めて危険です。なんとなくの「勘」や「勢い」だけで経営している会社は、規模が大きくなればなるほど、内部はぐちゃぐちゃになり、やがては資金繰りに窮して立ち行かなくなります。

数字に強くなるための第一歩

では、数字に強くなるためには、何から始めればよいのでしょうか。

その第一歩は、「簿記」を学ぶことです。簿記は、会社の経済活動を記録・計算・整理するための「言語」です。この言語の基本的な文法が分からなければ、決算書という「会社の物語」を正しく読み解くことはできません。

社長自身が学ぶのが一番ですが、もし苦手なのであれば、 財務に強い右腕(CFO:最高財務責任者) を経営チームに迎え入れるという選択肢もあります。重要なのは、社内に必ず「数字を正しく見て、経営判断に活かせる体制」を築くことです。

【注意点】
「数字のことは、顧問税理士に任せているから大丈夫」と考えるのは、大きな勘違いです。月額数万円の顧問契約で税理士が担っているのは、あくまで「税務申告」に関する業務が中心です。あなたの会社の未来の財務戦略まで踏み込んでアドバイスしてくれるケースは稀だと考えるべきです。税理士にどこまでの役割を期待するのか、契約内容を正しく理解し、過度な期待をしないことが重要です。

まとめ:あなたのゴールが、あなたの会社の未来の姿を決める

今回は、会社を「大規模」にすべきか、「小規模」に維持すべきか、という経営上の大きなテーマについて、その判断軸となる考え方を解説しました。

  • 大規模化のメリットは「採用力向上」と「俗人性低下」による安定性の確保にあります。
  • 小規模維持のメリットは「意思決定のスピード」と「固定費の抑制」による柔軟性の確保にあります。
  • どちらを目指すべきかの答えは、メリット・デメリットの比較ではなく、経営者自身の「ゴール設定」から逆算して導き出すべきです。
  • そして、どんな規模の会社であっても、経営を成功させるためには「数字を読む力」が絶対に不可欠です。

会社の規模は、単なる大きさの問題ではありません。それは、「経営者が何を成し遂げたいのか」という、志の表れです。

ぜひ、この機会に一度立ち止まり、ご自身の、そして会社の「ゴール」とは何かをじっくりと考えてみてください。そのゴールが明確になった時、あなたの会社が進むべき道筋は、自ずと見えてくるはずです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。