マイクロ法人は、法人銀行口座が開設できない!?原因と対策を徹底解説

法人設立

「せっかく法人作ったのに、銀行口座が作れない…どうすればいい?」

最近、このような悩みを抱える法人事業者や、これから起業を予定している方が増えています。一人社長の「一人会社」や、社会保険料削減を目的とした「マイクロ法人」など、様々な形態で法人を設立するケースが増える中、法人名義の銀行口座開設は以前にも増して難しくなっています。

なぜ法人銀行口座の開設はこれほど厳しくなっているのでしょうか? その原因と、開設できない場合の対策について詳しく解説します。

法人名義の銀行口座がない場合のデメリットとリスク

法人名義の銀行口座がない場合、事業運営において様々なデメリットやリスクが発生します。

1. 企業との取引ができない可能性

BtoB(事業者間)のビジネス、例えば卸売業、製造業、建設業などを営む場合、取引先から「法人口座でなければ入金できません」と言われることがあります。法人として事業を行う以上、法人名義の口座を持つことは、ビジネス上の信頼を確立するために不可欠です。法人口座がないというだけで、ビジネスチャンスを失ってしまう可能性があります。

2. 脱税を疑われるリスク

法人を設立したにもかかわらず法人口座がない場合、事業で得た売上金を個人の銀行口座に入れざるを得ません。もちろん、個人の口座に入金された売上を適切に会計処理し、法人として申告していれば、直ちに問題となるわけではありません。

しかし、多額の事業資金が継続的に個人の口座に入金されている状況は、税務署から「本来法人の売上として計上すべきものを除外しているのではないか」と疑われる可能性があります。脱税の意図がなくても、あらぬ疑いをかけられることは、税務調査のリスクを高めることにつながりかねません。

これらの問題をスムーズにクリアするためにも、法人名義の銀行口座は、法人設立後速やかに開設することが不可欠です。

なぜ、法人名義の銀行口座が作りにくくなったのか?

法人銀行口座の開設が厳しくなった背景には、いくつかの理由が考えられます。

根本原因:「犯罪による収益の移転防止に関する法律」

最も大きな原因は、2007年頃から本格的に施行された「犯罪による収益の移転防止に関する法律」です。近年、特殊詐欺事件や不法な取引が増加し、金融機関の口座が犯罪に悪用されるケースが多発しています。

この法律により、各金融機関は犯罪対策の一環として、口座開設時など取引時の確認をより慎重に行うことが義務付けられました。このため、金融機関は顧客の本人確認や事業実態の確認に厳格な姿勢で臨むようになっています。

口座開設が難しいとされる主な理由

上記の法律以外にも、以下のようなケースでは、金融機関が口座開設を渋る傾向にあります。

  • 代表者自身が過去にブラックリスト入りしている
    代表者個人が過去に自己破産などの経験がある場合、本来法人と個人は別人格ですが、大手のお堅い銀行では口座開設を敬遠する傾向があります。
  • 資本金が小さい
    2006年の会社法改正により、資本金1円から株式会社を設立できるようになりました。これは起業を促進する一方で、資本金があまりにも小さい会社は「倒産しやすい」「財務体質が不安定」「ダミー会社ではないか」といった懸念を抱かれやすく、法人口座開設が難しくなる原因となっています。
  • 事業内容が不明瞭、または事業目的が多すぎる
    • 何を事業として行っているのかが不明瞭:特にYouTubeによる広告収益、アフィリエイト、IT関連ビジネスなど、比較的新しい業態の場合、金融機関がその収益モデルや事業実態を理解しにくいことがあります。事業内容が金融機関に正確に伝わらないと、口座開設を断られるケースがあります。
    • 履歴事項全部証明書の事業目的が多すぎる:法人設立時に定める「事業目的」の項目があまりに多いと、「一体何をメインでやっている会社なのかわからない」と判断され、敬遠される傾向にあります。投資業のみを目的としている会社も、口座開設が難しい場合があります。
  • 許認可が必要な事業なのに許認可を取得していない
    特定の事業を行うには、許認可が必要です。許認可が下りていない段階での口座開設は、金融機関からすると実態のない事業と判断されやすいため、拒否される原因になります。
  • 本店所在地がバーチャルオフィス
    バーチャルオフィスは、低コストで会社の住所を借りられる便利なサービスですが、実態のない会社ではないかと疑われやすく、口座開設が難しいと言われることがあります。ただし、これは後述する対策でカバーできる場合もあります。

近年では、個人事業主から法人成りした方や、創業間もない法人に対して、複数の金融機関が口座開設を断る事例も増えています。上記に当てはまる点がないか、ご自身の状況を再度ご確認ください。

口座開設のために必要な書類

口座開設を申し込む際には、多くの金融機関で以下の書類が必要となります。早めに準備しておきましょう。

必須とされることが多い書類

  • 法人の印鑑証明書
  • 履歴事項全部証明書(法人登記簿謄本)
  • 代表者本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど

金融機関によっては追加で必要とされる書類

  • 法人の定款
  • 税務署への届出書控え:法人設立届出書、青色申告の承認申請書など(事業の実態を証明するために必要とされることが多い)
  • 株主名簿
  • 事業計画書や会社の実態がわかる資料:事業内容、収益見込み、顧客情報などが具体的にわかるもの
  • 本店所在地の建物の登記簿謄本または賃貸借契約書の写し:バーチャルオフィスでないことを証明するため、またはバーチャルオフィスの契約内容を確認するため

【注意点】
履歴事項全部証明書は、法人の設立登記が完了した後でなければ発行されません。したがって、法人設立登記が終わるまでは、銀行口座の開設はできません。

口座開設ができない場合の対策とは?

「いくつもの銀行に断られてしまった…」と諦める前に、以下の対策を試してみてください。

1. 今すでに個人口座を持っている銀行に相談する

最も手軽なのは、皆さんがすでに個人口座を持っており、長年の取引実績がある銀行に相談することです。既存顧客として信頼関係があるため、話を聞いてもらいやすい傾向があります。

2. 信頼できる得意先・仕入れ先・顧問税理士から紹介してもらう

すでにその金融機関と取引がある得意先や仕入れ先、あるいは顧問税理士から紹介してもらうのも有効な手段です。紹介者がいることで、金融機関も新規顧客として信頼性を判断しやすくなります。

3. 規模の小さい金融機関やネットバンク系金融機関にシフトする

大手メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行など)は、一般的に審査が厳しく、口座開設が難しい傾向にあります。
そのため、以下の金融機関を検討してみましょう。

  • 地方銀行:地域に根差した銀行で、メガバンクよりは審査が柔軟な場合があります。
  • 信用金庫・信用組合:地域密着型の小規模金融機関で、中小企業や個人事業主に対する支援が手厚い傾向にあります。事業内容をしっかり説明できれば、口座開設の可能性は高まります。ただし、メガバンクに比べて利便性が劣る場合があります。
  • ネットバンク:実店舗を持たず、インターネット取引に特化した金融機関です(住信SBIネット銀行、GMOあおぞらネット銀行、楽天銀行など)。近年、法人向けのサービスが充実しており、比較的柔軟な審査を行う傾向があります。利便性も高く、多くの法人事業者が利用しています。

実際に、私の知人が法人成りした際、複数のメガバンクで断られたものの、ネットバンクである住信SBIネット銀行とGMOあおぞらネット銀行では無事に口座開設ができたという事例もあります。

4. バーチャルオフィスを利用している場合の対策

バーチャルオフィスを本店所在地としている場合、口座開設が難しいと言われることがありますが、対策はあります。

  • 金融機関紹介サービスのあるバーチャルオフィスを利用する
    バーチャルオフィスの中には、提携している金融機関を紹介してくれるサービスを提供しているところもあります。例えば、DMMバーチャルオフィスでは、みずほ銀行や住信SBIネット銀行を紹介してくれるサービスがあります。紹介があったからといって必ず開設できるわけではありませんが、金融機関側もバーチャルオフィスの利用を一定程度理解しているため、口座開設のハードルが下がる可能性があります。
  • 事業実態を明確に説明できる資料を準備する
    バーチャルオフィスを利用していても、事業計画書や顧客との契約書など、事業の実態がわかる資料をしっかりと準備し、金融機関に説明できれば、口座開設が可能な場合もあります。

まとめ:諦めずに様々な選択肢を検討しよう

法人名義の銀行口座開設は、以前にも増して厳しくなっています。しかし、法人として事業を行う以上、法人口座は不可欠です。

  • 法人名義の銀行口座がないと、ビジネスチャンスを逃し、税務上のリスクも高まる
  • 口座開設が難しい原因は、法規制の強化や、会社の資本金、事業内容、所在地などに起因することが多い
  • 必要な書類を早めに準備し、複数の金融機関にアプローチすることが重要
  • 既存の取引銀行、紹介、規模の小さい金融機関、ネットバンクなど、様々な選択肢を検討する

決して諦めずに、ご紹介した対策を実践してみてください。皆さんの事業活動がスムーズに進むよう、法人銀行口座の開設を成功させましょう。