2023年10月に導入されたインボイス制度。これを機に「会社設立を検討している」という個人事業主やフリーランスの方も多いのではないでしょうか。しかし、インボイス制度が始まったからといって、必ずしもすべての事業主にとって会社設立が有利になるわけではありません。
本記事では、インボイス制度の影響に関わらず、一人で会社を運営する「マイクロ法人」の設立を考えている方のために、そのメリット・デメリット、株式会社と合同会社の違い、そして会社設立の具体的なステップまでを徹底解説します。さらに、設立時の登録免許税を半額にする裏技もご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 「一人会社」「マイクロ法人」って何?そのメリット・デメリットを徹底比較
「社長一人だけでも会社は作れるの?」という疑問を持つ方もいますが、ご安心ください。社長一人だけでも、株式会社や合同会社を設立し、運営することは十分に可能です。
1.1. 一人会社・マイクロ法人とは
一人会社とは、従業員を雇用せず、社長一人で運営する小規模な会社を指します。特に「マイクロ法人」と呼ばれる場合は、法人と個人事業主の両方を持ち、法人からの役員報酬を少なめに設定することで、社会保険料の負担を軽減するスキームを指すこともあります。
ただし、マイクロ法人スキームは、事業規模が小さい間は活用しにくいことや、役員報酬を下げると将来受け取れる年金額が減るデメリットもあるため、注意が必要です。本記事では、主に「社長一人で運営する会社」に焦点を当てて解説します。
1.2. 一人会社・マイクロ法人のメリット
一人会社には、個人事業主にはない多くのメリットがあります。
- 信用力の向上: 「株式会社」や「合同会社」といった法人格は、個人事業主よりも社会的な信用力が高いとみなされます。これは、金融機関からの融資や、取引先との契約において有利に働くことがあります。
- 節税効果: 個人事業主の所得税と比較して、法人税は節税対策の選択肢が豊富です。特に消費税に関しては、法人設立後、一定の要件を満たせば最長2年間の免税期間を享受できる可能性があります(インボイス制度の影響でこのメリットは薄れる傾向にあります)。
- 給付金・補助金の有利な適用: 過去の持続化給付金や月次支援金のように、法人の方が個人事業主よりも高額な給付金を受け取れるケースが多く見られます。これは、事業の安定性や成長を考える上で大きなメリットとなります。
- 経費計上の幅の拡大: 法人では、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広がる場合があります。
1.3. 一人会社・マイクロ法人のデメリット
一方で、一人会社にはデメリットも存在します。
- 運営コストの発生:
- 法人住民税の均等割: 赤字であっても、法人住民税の均等割として年間最低7万円程度が発生します。
- 税理士費用: 法人の確定申告は個人事業主よりも複雑なため、税理士への依頼が一般的です。その顧問料や決算料が発生します。
- 社会保険料の負担: 一人会社であっても、社会保険(健康保険、厚生年金)への加入が強制となります。役員報酬を高く設定すると、社会保険料の負担も大きくなります。
- 個人情報の公開: 会社の登記簿謄本には、代表者の氏名と住所が記載されます。バーチャルオフィスを利用しても、代表者個人の住所は公開されることになります。
- 経理処理の煩雑化: 個人事業主よりも、経理処理が厳格かつ複雑になります。
2. 株式会社 vs 合同会社:どっちを選ぶべき?
会社設立を考えた際、まず迷うのが「株式会社」と「合同会社」のどちらにするかでしょう。かつて主流だった有限会社は現在では設立できません。両者の違いを比較し、ご自身の事業に合った形態を選びましょう。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
| 所有と経営 | 分離が原則(オーナー企業では実質一体) | 所有者=経営者(出資者=役員) |
| 議決権 | 出資割合に応じる | 原則として1人1票 |
| 代表者の名称 | 代表取締役 | 代表社員 |
| 役員の任期 | 最長10年(10年ごとに登記費用が発生) | 任期なし |
| 株式の公開 | 可能(上場を目指す場合はこちら) | 不可能(株式という概念がない) |
| 社会的信用力 | 高い | やや低い(まだ浸透しきっていない面もある) |
| 決算公告義務 | あり(実質的に行われていないケースが多い) | なし |
2.1. 設立費用を比較する
設立にかかる実費で比較すると、合同会社の方が圧倒的に安価です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
| 定款認証 | 公証人役場で認証が必要(費用: 5万円) | 認証不要(費用: 0円) |
| 登録免許税 | 最低15万円(資本金の0.7%または15万円のいずれか高い方) | 最低6万円(資本金の0.7%または6万円のいずれか高い方) |
| 合計 | 最低20万円 | 最低6万円 |
※電子定款を利用すれば、紙の定款にかかる収入印紙代4万円は不要です。司法書士や行政書士に設立手続きを依頼する場合、別途専門家への報酬(5万円〜20万円程度)が発生します。
結論として
- 費用を抑えたい、手続きをシンプルにしたい、オーナーシップを重視したい → 合同会社
- 将来的に上場を目指したい、社会的信用力を最優先したい → 株式会社
オーナー一人で運営するマイクロ法人の場合、実質的な経営は株式会社と合同会社で大きく変わらないことが多いため、費用を抑えられる合同会社を選択するケースが増えています。しかし、取引先や金融機関によっては、未だ合同会社への理解が十分でない場合もあるため、その点も考慮して選択しましょう。
3. 一人会社・マイクロ法人の作り方:7つのステップ
ここでは、会社設立の具体的な流れを7つのステップで解説します。
ステップ1:事業プランと登記事項の決定
会社設立前に、以下の項目を決定しておく必要があります。
- 商号(会社名): 株式会社〇〇、合同会社〇〇など、前か後ろに法人種別を記載します。既存の会社と同一住所で同一商号は登記できません。
- 事業目的: 将来的に行う可能性のある事業も記載しておくと、後々の変更費用を抑えられます。ただし、あまりにも多岐にわたると、融資審査で不利になる場合もあるため注意が必要です。風俗業や金融業は融資を受けにくい傾向があります。
- 本店所在地:
- 自宅を本店所在地にする場合、登記簿謄本に自宅住所が記載されるため、個人情報が公開されます。
- バーチャルオフィスを利用すれば、一等地の住所を低コストで借りられ、自宅住所の公開を防げます。ただし、登記簿謄本には代表者個人の住所は記載されるため、完全に非公開にすることはできません。
- 資本金の額: あまりに少ない資本金は会社の信用力を損ねます。過去の動画で解説している通り、基本的には1,000万円を超えないように設定するのが一般的です。
- 出資者と株主: オーナー会社の場合、自身が出資者・株主となるのが一般的です。配偶者や子供を役員に含める場合は、最初から記載しておきましょう。
- 役員構成: 誰を役員にするか。一人会社の場合は自身のみですが、配偶者などを非常勤役員として加えるケースもあります。
- 決算期: 会社設立から1年後を目安に設定するのが一般的です。資本金や決算期については、税金と深く関わるため、税理士などの専門家と相談して決定することをお勧めします。
ステップ2:会社用印鑑の作成
会社名が決まったら、以下の印鑑を作成しましょう。
- 会社実印(代表者印)
- 銀行印
- 角印
これらはネットで簡単に注文できます。
ステップ3:定款と登記書類の作成
ステップ1で決定した項目に基づき、会社のルールブックである「定款」と、法務局に提出する「登記書類」を作成します。
ステップ4:定款認証(株式会社の場合のみ)
株式会社の場合、作成した定款を公証人役場で認証してもらう必要があります。合同会社の場合は不要です。
ステップ5:資本金の払い込みと払い込み証明書の作成
この時点では会社の銀行口座はまだ開設できません。個人の銀行口座に資本金として設定した金額を払い込み、その通帳のコピーなどを使って「払い込み証明書」を作成します。資本金は、会社の設立後、事業の運営資金として使用できます。
ステ6:設立登記申請
作成した定款、登記書類、払い込み証明書などを揃え、法務局に設立登記を申請します。
ステ7:登記完了、登記簿謄本と印鑑証明書の取得
登記申請から約1週間程度で登記が完了し、法人の登記簿謄本と印鑑証明書が取得できるようになります。これで無事に会社設立が完了です。
設立手続きは専門家へ依頼がおすすめ
これらの手続きは自分で行うことも可能ですが、定款の作成には細かいルールがあり、不備があると訂正や再作成が必要になります。時間や手間を考えると、司法書士などの専門家に依頼するのが確実です。税金に関するアドバイスも受けたい場合は、税理士を経由して司法書士を紹介してもらうのがベストな方法と言えるでしょう。
4. 設立時の登録免許税を半額にする裏技
会社設立にかかる登録免許税(株式会社:最低15万円、合同会社:最低6万円)を半額にする裏技が存在します。
4.1. 産業競争力強化法に基づく支援制度
これは「産業競争力強化法」に基づき、市区町村が策定し国が認定した「創業支援等事業計画」を利用する制度です。全国の多くの市区町村がこの計画を認定しており、創業支援を受けることで登録免許税の軽減措置が受けられます。
4.2. 軽減内容
- 株式会社: 最低15万円 → 7万5,000円
- 合同会社: 最低6万円 → 3万円
4.3. 制度利用の要件
- 対象者: 創業後5年未満の個人が対象となります。
- 本店所在地: 創業支援等事業計画の認定を受けた市区町村内に本店を構えて会社を設立する必要があります。
- 研修の受講: 認定支援機関(市区町村、商工会議所、金融機関、税理士など)が実施する「特定創業支援等事業」の研修などを最低1ヶ月以上、4回以上受講し、支援証明書の交付を受ける必要があります。
4.4. デメリットと注意点
- スピード起業には不向き: 研修受講に1ヶ月以上の期間を要するため、すぐに会社を設立したい場合には向きません。
- 費用と時間: 研修費用(数千円〜1万円程度)と時間がかかります。
- 市区町村の限定: 研修を受けた市区町村で会社を設立する必要があります。
- 定員・締め切り: 研修には定員や締め切りがある場合があります。
登録免許税を半額にできるのは大きなメリットですが、時間と手間がかかるため、ご自身の状況と照らし合わせて検討しましょう。
5. まとめ:会社設立は慎重な判断を
一人会社やマイクロ法人の設立は、信用力の向上や節税メリットなど、多くの魅力があります。しかし、インボイス制度の導入だけを理由に安易に設立を決めるのではなく、ご自身の事業規模、収益状況、将来の展望、そしてメリットとデメリットを十分に比較検討することが重要です。
- 「社長一人だけでも会社は作れる」
- 「インボイス制度導入だからといって必ずしも会社設立が有利とは限らない」
この2点を念頭に置き、信用力を高めたい、節税メリットを享受したい、給付金などで有利になりたいという方は、ぜひ会社設立を前向きに検討してください。
そして、会社設立の際には、税金や法務に関する専門的な知識が必要となります。信頼できる税理士や司法書士と連携し、最適な形で会社設立を進めることを強くお勧めします。
皆様の事業活動がより一層発展し、豊かな未来を築けるよう、心から応援しています。