【徹底比較】個人事業主?マイクロ法人?普通の法人?最適な選択で賢く節税!

法人設立

「起業するなら、個人事業主と法人、どっちがいいの?」「売上1000万円以上なら法人の方が得って本当?」

ビジネスの税金に関する情報は世の中に溢れており、これから起業する方や、すでに個人事業主として活動されている方にとって、どの形態が最適なのか悩ましい問題ですよね。特に「マイクロ法人」という言葉を耳にする機会も増え、その実態やメリット・デメリットについて知りたい方も多いのではないでしょうか。

今回は、個人事業主、マイクロ法人、そして一般的な法人の3つの形態を徹底的に比較し、皆さんの状況に合わせた最適な選択肢を見つけるための情報をお届けします。

売上1000万円以上なら法人?税金に関する「都市伝説」の真実

まず、よく聞かれる「売上1000万円以上なら法人の方がいい」という話。実はこれは間違いです。

税金は、売上に対してかかるものではなく、売上から経費を差し引いた「利益」に対して課税されます。そのため、売上が同じ1000万円でも、経費が多ければ利益は少なくなり、経費が少なければ利益は多くなります。当然、利益が少なければ税金も少なくなり、利益が多ければ税金も多くなる、というシンプルな構図です。

したがって、「売上がいくらだから法人の方がいい」という一律の基準はなく、皆さんの事業の規模や利益の見込みによって、最適な形態は変わってきます。まさに「ケースバイケース」であり、個々の事情によって最適な答えは異なります。

本記事では、この3つの形態について、税金、融資、経理業務、社会保険、事業承継、節税対策、税務調査といった様々な観点から徹底的に比較し、数字を用いたシミュレーションも交えながら、皆さんに合った選択肢を見つけるお手伝いをします。

個人事業主 vs 法人:徹底比較!

まずは、個人事業主と法人の基本的な違いを比較してみましょう。

項目個人事業主法人(株式会社・合同会社など)
事業形態個人名または屋号で活動会社名で活動
かかる税金所得税、住民税、事業税など法人税、法人住民税、法人事業税など
税率約15%~60%(累進課税)約23%~32%(利益額により変動)
融資やや弱い(帳簿の質にもよる)比較的強い(事業内容による)
経理業務比較的簡易(白色・青色申告)複雑(専門知識が必要、税理士への依頼が一般的)
社会保険一定の場合を除き任意加入(国民健康保険など)強制加入(健康保険、厚生年金)
事業承継個人財産の名義変更が必要株式譲渡でシンプルに承継可能
節税対策種類が少ない多種多様な節税対策が可能
税務調査入られる確率は低い個人に比べて入られる確率は高い

税率の違い:稼げば稼ぐほど個人は不利?

税率に関しては、個人事業主と法人で大きく異なります。

個人事業主の場合、所得税と住民税を合わせた税率は約15%から始まり、課税所得が増えるにつれて税率も上昇していく「累進課税」が適用されます。最高税率は55%(所得税50%+住民税5%)にも及び、稼げば稼ぐほど税負担が重くなるのが特徴です。

例えば、課税所得195万円までの部分には15%が、195万円を超え330万円までの部分には20%が適用されるといった形で、段階的に税率が上がっていきます。これは「稼ぎが900万円を超えると税率が43%に跳ね上がるから、それ以上稼がない方がいい」といった都市伝説の元にもなっていますが、実際には900万円を超えた部分にのみ43%が適用されるため、安心してください。しかし、それでも稼ぎが大きくなるにつれて税率が55%にも達するのは大きな負担です。

一方、法人の場合、法人税率は中小企業であればおおよそ23%〜32%程度で推移します。課税所得400万円までであれば約23%、400万円を超え800万円までであれば約25%、それ以上になると30%〜32%程度と、個人事業主の累進課税に比べて税率の上昇が緩やかです。

これらの税率を比較すると、課税所得が低い段階では個人事業主の方が税負担は低い傾向にあります。しかし、課税所得が900万円を超えるあたりから、個人の税率が急上昇するため、法人の方が税制面で有利になる可能性が出てきます。

融資と信用力:事業拡大を目指すなら法人?

事業を運営していく上で、資金調達は非常に重要です。

個人事業主でも融資を受けることは可能ですが、簡易な帳簿(白色申告や簡易な青色申告)だと、審査で多少不利になることがあります。

一方、法人は個人事業主と比べて社会的な信用度が高く、一般的に融資審査では有利になる傾向があります。特に、大口の取引先が法人との取引を前提としている場合など、法人の信用力がビジネスチャンスを広げることも少なくありません。

経理業務:個人事業主は簡易、法人は複雑

経理業務の複雑さは、個人事業主と法人で大きく異なります。

個人事業主の確定申告は、頑張れば自分で行うことも可能です。会計ソフトを活用すれば、比較的容易に日々の取引を入力し、確定申告書を作成することができます。

対して、法人の経理業務はより複雑です。日々の取引入力はもちろんのこと、申告書の作成には専門的な知識が必要となるため、多くの法人が税理士に依頼しています。

しかし、最近ではクラウド会計ソフトの進化により、法人の経理業務も以前に比べて格段に効率化されています。銀行口座やクレジットカードとの連携により、入出金データを自動で取得し、AIが勘定科目を提案してくれるため、手入力の手間を大幅に削減できます。

(例:マネーフォワード クラウド会計のようなサービスは、税理士もおすすめするほど使いやすく、請求書作成や給与計算、年末調整といったバックオフィス業務全体をカバーできるため、複数のソフトを使う手間を省き、業務効率を大幅に向上させることが可能です。)

社会保険:法人化で強制加入

社会保険の加入義務も、個人事業主と法人で大きく異なります。

個人事業主は、一定の場合を除いて社会保険への加入は任意であり、国民健康保険や国民年金に加入することが一般的です。

しかし、法人を設立すると、たとえ一人社長であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への強制加入が義務付けられます。役員報酬を設定すれば、その報酬額に応じて社会保険料を支払う必要があります。

ただし、個人事業主に対する社会保険の強制加入対象も徐々に拡大されており、将来的に個人と法人の社会保険制度の差は縮まっていく可能性もあります。

事業承継:法人はシンプル

事業承継の面では、法人が有利です。

個人事業主の場合、事業に関する財産(設備、不動産など)は個人の名義であるため、事業承継の際にはこれらの名義変更が必要となり、手続きが複雑になりがちです。

一方、法人は「株」という形で事業の所有権が明確化されているため、株を次世代に譲渡するだけで、シンプルに事業承継を行うことができます。

節税対策と税務調査:法人にメリットが多いが、調査リスクも

個人事業主の節税対策は、事業規模が小さいこともあり、種類が限られています。また、税務調査が入る確率は法人に比べて低い傾向にあります。

法人は、事業規模が大きい分、多種多様な節税対策を講じることが可能です。しかし、個人事業主と比べて税務調査が入る確率は高くなるため、日々の経理処理を適切に行うことがより一層重要になります。

マイクロ法人とは?社会保険料削減スキームの功罪

最近よく耳にする「マイクロ法人」。これは正式な法律用語ではなく、一般的に「社会保険料削減」を目的として設立される小規模な法人を指します。

マイクロ法人の特徴

  • 社会保険料削減スキーム: 個人事業主として事業を続けながら、別で法人(株式会社や合同会社)を設立し、その法人で社会保険に加入します。この際、法人からの役員報酬を非常に低額に設定することで、社会保険料の負担を抑えることを目的とします。
  • 二刀流の経理: 個人事業主としての確定申告と、法人としての確定申告の2つを行う必要があります。
  • 融資・信用力の弱さ: 非常に小規模で、実態が薄いと見なされやすいため、融資審査では不利になりやすく、信用力も低くなりがちです。
  • 節税メリットの限界: 社会保険料削減以外の節税メリットは限定的です。
  • 税務リスクと制度改正の可能性: 法的には違法行為ではありませんが、年金事務所なども注目している「グレー」なスキームとされています。事業の実態がなければ税務調査で否認されるリスクもあります。また、政府は社会保険料の対象拡大を進めており、将来的にはマイクロ法人の社会保険料削減スキームも改正される可能性があります。
  • 将来のデメリット: 役員報酬を低額に設定しているため、傷病手当(病気や怪我で働けなくなった時の手当)や将来受け取れる退職金が少なくなる可能性があります。特に退職金は、退職時の月給を元に計算されることが多いため、低額な役員報酬を続けていると、十分な退職金を受け取れない事態も起こりえます。

マイクロ法人は、事業拡大を目指すというよりは、社会保険料の削減に特化したスキームと言えます。私も、事業の成長を考えれば、あまり積極的におすすめはしていません。

3パターン徹底比較:具体的な数字で見る税負担

では、実際に数字を使って、個人事業主、法人(役員報酬900万円)、そしてマイクロ法人の3パターンで税負担がどのように変わるかを見てみましょう。

モデルケース: 売上1500万円、経費600万円、利益900万円の個人事業主

1. 個人事業主の場合

利益900万円から各種控除(社会保険料、基礎控除など)を差し引くと、課税所得は715万円程度になります。

  • 国民健康保険料: 約100万円以上
  • 国民年金: 約20万円
  • 所得税: 約100万円以上
  • 住民税: 約70万円以上
  • 事業税: 約30万円以上

合計税負担額:約336万円

利益900万円に対して約3分の1以上が税金と社会保険料で消えてしまう形です。

2. 法人化した場合(役員報酬900万円)

個人事業で得た利益900万円をそのまま役員報酬として全額受け取ったと仮定します。

  • 法人: 利益0円(役員報酬として全額支給のため)。法人税はかからないが、法人住民税の均等割(約7万円)は発生。
  • 個人(役員報酬900万円):
    • 所得税: 約60万円
    • 住民税: 約50万円
    • 社会保険料(個人負担分): 約125万円
    • 社会保険料(会社負担分): 約125万円(経費計上可能)

合計税負担額:約240万円(個人負担分)+7万円(法人均等割)
会社全体の負担額(税金+社会保険料):約377万円

個人事業主と比較すると、個人にかかる所得税や住民税は給与所得控除(このケースでは約195万円)が適用されるため圧縮されます。また、個人事業主にかかる事業税も法人では発生しません。しかし、社会保険料の負担が非常に大きくなります。会社負担分も最終的には会社オーナーが負担する形になるため、税金と社会保険料を合わせた全体的な負担は、個人事業主と大きく変わらない、または少し高くなる場合もあります。

ただし、これは900万円を全て役員報酬として受け取った場合のシミュレーションです。法人化することで、KFSG共済や出張旅費規程、社宅制度、企業型DC(確定拠出年金)など、個人事業主では利用できない様々な節税対策を活用できるようになります。これらの制度を駆使して役員報酬を下げるなどすれば、個人の税負担を抑えつつ、会社全体での税負担も最適化することが可能です。

3. マイクロ法人の場合

個人事業主の事業はそのまま残し、別の法人を設立して、その法人で社会保険に加入し、役員報酬を例えば月5万円(年60万円)に設定した場合。

  • 個人事業: 利益900万円に対して、先ほどの個人事業主と同様の税金負担が発生。
  • マイクロ法人: 利益はほぼなく、法人住民税の均等割(約7万円)と、役員報酬60万円に対する社会保険料(健康保険・厚生年金)が主な負担となる。

この場合、個人の事業から得られる利益に対する税金は大きく変わらず、マイクロ法人側で社会保険料を削減できることが最大のメリットとなります。しかし、2つの事業形態を維持するため、経理業務が複雑になり、税理士報酬も二重にかかる可能性があります。また、融資の面では弱く、事業拡大には向かないスキームであることに注意が必要です。

自分に合っているのはどれ?選び方の基準

では、皆さんの状況に合った最適な形態はどれなのでしょうか? いくつかのパターンに分けて、選び方の目安をご紹介します。

1. 売上1000万円以上だから法人化すべき?

いいえ、売上額ではなく「利益額(課税所得)」が重要です。売上1000万円で利益が100万円であれば個人事業主のままでも良いかもしれません。しかし、売上1000万円で利益が800万円出ているなら、税制面で法人の方が有利になる可能性が高いです。上記の税率表を参考に、ご自身の利益額で判断しましょう。

2. 所得900万円を超えたら絶対に法人化すべき?

これも一概には言えません。法人化後にどのような節税対策を講じるかによって、税負担は大きく変わります。ただ役員報酬として全額受け取ってしまうと、社会保険料の負担が増え、個人事業主と税負担が変わらない可能性もあります。しかし、法人ならではの多様な節税対策を活用すれば、税負担を大きく軽減できる可能性があります。

3. 節税の必要性も、取引先からの法人化要望もない

無理に法人化する必要はありません。現状で特に不満がなければ、個人事業主のままで問題ないでしょう。

4. 国民健康保険料の負担が大きくて困っている

まずは、ご自身の業種で加入できる「国民健康保険組合」がないか確認しましょう。組合によっては、国民健康保険料の負担が軽減される場合があります。それでも負担が大きい場合は、マイクロ法人の活用も選択肢の一つにはなりますが、デメリットも理解しておく必要があります。

5. 国民健康保険料だけでなく、節税もしたい(そこそこ儲かっている)

法人化を検討するのが良いでしょう。KFSG共済や社宅、出張旅費規程など、法人ならではの節税対策を積極的に活用することで、税負担を最適化できます。

6. 適度に節税しつつ、一人で細々と事業を続けたい

利益が100万円~200万円程度であれば個人事業主のままでも良いですが、それ以上の利益が出ている場合は、法人化した方が節税の選択肢が広がります。法人化したからといって、大規模な事業展開をしなければならないわけではありません。一人で細々と法人を運営することも十分に可能です。

7. 適度に節税したいが、個人とマイクロ法人の「二刀流」は面倒

この場合は、通常の法人経営をおすすめします。二つの形態を管理する手間や税理士報酬の二重払いを考慮すると、一般的な法人として一本化する方が効率的です。

8. 社員も増やして、事業をガンガン拡大したい

この場合は、迷わず法人化すべきです。法人は社会的な信用力が高く、融資も受けやすいため、事業拡大には最適な形態と言えます。節税対策は重要ですが、まずは事業に必要な投資を行い、その結果として節税効果が得られるという考え方が良いでしょう。

まとめ:事業の成長ステージに合わせて柔軟に選択を

今回は、個人事業主、マイクロ法人、一般的な法人の3つの形態を徹底的に比較しました。

どの形態を選ぶかは、皆さんの事業の成長ステージや目的によって変わってきます。決して「これを選ばなければならない」という絶対的な答えがあるわけではありません。

例えば、

  1. 事業をスタートしたばかりで、まずは様子を見たい
    最初は個人事業主としてスタートし、事業の状況や利益を見ながら将来の形態を検討する。
  2. 社会保険料の負担を抑えつつ、節税も視野に入れたい
    マイクロ法人を検討することも可能ですが、将来的な事業拡大や退職金などを考慮すると、長期的な視点での検討が必要です。
  3. 利益が安定し、本格的な節税対策や事業拡大を目指したい
    通常の法人への移行を検討しましょう。法人化することで、信用力向上、多様な節税対策の活用、事業承継の簡素化といった多くのメリットを享受できます。

事業の成長に合わせて、個人事業主からマイクロ法人、そして一般的な法人へと、柔軟に事業形態をチェンジしていくことも可能です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身のビジネスに最適な選択をしてください。